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太陽光だけを利用し周囲の空気から飲料水を採水。持ち運び便利な小型装置が開発される

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(著) (編集)

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 大規模な洪水や大雨が起きている一方、地球上では深刻な飲料水の不足も発生している。世界の3分の1の人たちは、雨が降らなかったり、水が汚染されていることで、安心して飲める水が確保できていないという。

 そこで、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームは「金属有機構造体(MOF)」という特殊な次世代素材を内蔵した、飲料水採取装置「ハーベスター」を開発した。

 この装置は、太陽光のみをエネルギー源にして、空気に含まれた水蒸気を吸収し、きれいな飲み水にするという画期的なものだ。

 小型で携帯可能なので、どこにでも持ち運べるため、飲料水不足の地域で、きれいな水を確保するために活躍してくれると期待されている。

深刻な水不足をどう乗り越えるか?

 日本は比較的水が豊富なため、あまり実感できないかもしれないが、世界では水不足がますます深刻なものとなりつつある。

 国連の予測によると、2050年には50億人近くの人々が、1年のかなりの期間で飲料水にこまる状況になるという。

 この世界的な水不足にどう対処するのかは、人類が今直面している大きな課題だ。

 一つのアイデアが、水を吸収する素材によって空気中に含まれた湿気を取り出すという方法だ。たとえば、MITの研究チームは、乾燥剤とオムツを使った低コスト吸収剤を考案している。

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photo by iStock

太陽光で空気中から飲料水を採取する小型装置を開発

 今回、カリフォルニア大学バークレー校の研究チームが開発した携帯用「水ハーベスター」は、「金属有機構造体(MOF)」というものを利用している。

 MOFとは、金属と有機物を組み合わせて作られる次世代材料のこと。金属の丈夫さと生き物のような柔軟性をあわせもつのが特徴だ。

 だが、ここで重要なのはMOFのもう一つの特徴だ。それはナノレベルの極小スケールで見ると、規則的な格子構造をしていることだ。

 それを理解するには、子供の頃に遊んだジャングルジムのような構造を想像してみればいい。ジャングルジムはフレームが規則的につながって、四角い部屋がいくつもあるような感じになっている。

 MOFもまた、そのようなナノレベルの空間が開いている(つまり多孔質なのだ)。そして、ここに空気に含まれている水分を上手に吸収し、蓄えることができる。

 研究チームを指導するオマール・ヤギ教授らの実験によれば、1日でMOF1キロあたり285グラムの水を吸収できることが確認されている。つまりほぼコップ1杯分だ。

 そして、その85~90%を飲み水として取り出せるという。

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太陽光で空気中から飲料水を採取する小型装置「水ハーベスター」 / image credit:Omar Yaghi

持続可能で従来の3倍の採水性能

 またMOF自体も安全なものだ。数年はメンテ要らずで使え、寿命がきたら排出物を一切出さない持続可能な方法で分解し、再利用できるのだという。

 ヤギ教授らは以前にも同じような水ハーベスターを開発しているが、今回のものは従来よりずっとコンパクトな作りで、バッグに入るくらいの大きさだ。

 それでいて、前バージョンより3倍も性能がアップしているとのこと。

 なお研究チームは今、水ハーベスターのさらなる性能アップや、これを世界中の家庭に普及させる方法などに取り組んでいるが、こうした研究でもAIの機械学習が利用されているそうだ。

 「キッチンやエアコンの横に置いておけば、料理や掃除に使うきれいな水を家庭にもたらすことができます」と、ヤギ教授。その普及にすでに取り組んでいる企業もあるという。

 この研究は『Nature Water』(2023年7月6日付)に掲載された。

References:Hand-held water harvester powered by sunlight could combat water scarcity | CDSS at UC Berkeley / written by hiroching / edited by / parumo

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この記事へのコメント 40件

コメントを書く

  1. 飲料水を求めて暗躍してる国もいるし
    水を作れる技術は多いほうがいい

    • +16
  2. 技術的にはすごいと思うんだけど、これでまた何十億人が空気から水分絞り出したら気候に影響与えないのかなーと心配になってしまう。

    • +16
  3. 1kgあたりコップ1杯分だとまだ実用には遠いだろうけど今後の展開が楽しみだね

    • +6
  4. 凄いけど、殺菌とかせずに飲んで大丈夫なんだろうか。沸かすのが前提なのかな?

    • +4
    1. >>6 >>31
      それでも塩分とか重金属とかは含まれていない分、使いではある

      • +3
  5. 元々含有量少ない乾燥地帯の空気から水を得るのって可成り無理してない?
    海水を真水にするとか材料が豊富な所から調達する方法開発した方が良いのでは

    • 評価
    1. >>8
      海水の淡水化は蒸留方式にしろ、濾過膜方式にしろ
      消費エネルギーと排水(高濃度の塩水)による生態系への影響が大きい

      • +5
      1. >>20
        現状はね
        だからそうじゃない方法を模索しては?と言う話では

        • 評価
  6. 吸収した水を100%取り出せないということは、水の少ない地域で使うと、多くの人が使えば使うほどその地域の水がなくなっていくということでは?

    • +2
    1. >>9
      飲んだあとは口から肌から下からと排出されるし…
      超大量に採水した上で他所の地域へ持ち出したり貯蔵すれば地域的には乾燥が起きるかもしれないが、使えば元通り
      移動が起きるだけで無にはならない

      • +4
      1. >>21
        ちょっと、冷静に。飲み水として使った分がいずれ排出されて環境を循環するなんて当たり前なことは説明されなくてもわかる。

        記事には、

        >1日でMOF1キロあたり285グラムの水を吸収できることが確認されている。
        >そして、その85~90%を飲み水として取り出せるという。

        とあるんだけど、じゃあ残りの15%~10%の「飲み水として取り出せなかった分」はどうなるのって話なんだけど。

        • -4
        1. >>33
          >>じゃあ残りの15%~10%の「飲み水として取り出せなかった分」はどうなるのって

          仕組み的に水蒸気になって空気中に戻るんじゃないかな。

          • +3
          1. >>34

            自然に空気中に蒸散するような素材には水分は吸収できないと思うけど、記事の最後の方で言われてる再利用の時に環境中に水分を戻す方法はあるかもしれないね。

            >>35

            貴方も冷静に。

            > この手の吸収剤は素材の中に残る分があるんだ。

            その残る分の話を最初からしてるので説明してくれなくても大丈夫。そんで、それは死蔵されるのと何が違うのかという話ね。汚染もされないし虚空にも消えなくても、その水分があるのはコップの中ではなく吸収剤の中なわけで、利用可能ではないと思うんだけど。

            • -3
        2. >>33
          まずね、この手の吸収剤は素材の中に残る分があるんだ。雑巾やスポンジみたいには絞れないんだよ
          んで集めた上で9割程取り出せる。1割は吸収剤の中で、次が入ればこの分は押し出されるんだよ。吸収力に対し貯蔵力が十分の一だからドバドバ出る。これがどれだけ凄いことか。
          使えば使うほど1割が虚空に消えていく!!とか猛毒の汚染水になるとかじゃないよ

          • +1
  7. 湿気取になりませんかね? 日本の湿気を…

    • +28
  8. 装置で綺麗になって飲んだ水はずっと体内に留まるわけじゃないんだから
    ちゃんと排出されて空気に戻ると思うんだけど、、、それとも自然破壊される程の水分を取り込むことになるんだろうか?

    • +4
      1. >>28
        日本が輸入している農産物や工業製品、原材料にどれだけの水が使われているか考えたことないだろ。

        • -1
    1. >>12
      水不足になりやすい土地だから溜池作りまくったご先祖様たちよ
      雨が多いことと保水性が高いことは別の問題だし
      いまは溜池埋めまくりの水田もかなりなくなっているので、水不足はどんどん深刻になると思う

      • +7
  9. ダム造れよ、たまに降る雨を無駄にすんなよ

    • -6
  10. 空気中の水分は多いけれど、人間が飲んだり洗ったりするのに使える水が少ない場所……海岸とか熱帯雨林とかで使うにはいいかもしれない。

    砂漠とかでは厳しいけど、手札が多いに越したことはない。

    • +9
  11. すごい技術だと思うけど、きれいな水が不足している発展途上国とかに与えても
    解体して素材を売ってしまいそうな予感しかしない

    • -1
  12. 水ハーベスターって何年も前に見た気がするな
    性能アップしたんか?

    • +1
  13. 日本の夏にみんなで使えば涼しくなるかな。

    • +7
  14. 湿度の高い地域ならすごく便利だね
    夏場都市部で使うことで湿度を抑えて涼しくなりそう

    • +4
  15. 水を得る為と言うより、日本の様な湿度の高い地域で恒久的に使える除湿剤としての方が需要ありそう。
    乾燥地帯でどれだけ水が取れるのかも解らんし

    • +6
  16. 湿気取り…って思ったら同じコメントの人多くて笑った

    • +4
  17. 実用化されたら真っ先に国際宇宙ステーションに配備されるだろうな

    • 評価
  18. フンガトンガの火山爆発でいま大気中に水蒸気が多いらしいよ
    水蒸気は気温を上昇させるんだって、だから今年は暑いんだって

    • +1
  19. 反応で取り出される水は綺麗でも、この構造体がカビとかに汚染されてたら結局浄化が必要になりそうな気はする
    でも低コストで水が取り出せるのは魅力だし、より有用な研究はして欲しいとも思う

    • +3
  20. まだまだ実用化には遠いだろうけど、安全な水が得られない地域とか砂漠なんかには是非とも欲しい技術ですね

    • +2
  21. 汚染水の浄化装置は数年以内に安くなると思うけどね

    • -1
  22. ちょっと前の記事でも思ったけど、乾燥地域で使って動植物や環境に影響がないって確認してから使って欲しい
    日本みたいな多湿の所で部分的に使った方がいいんでは

    • -1
  23. この持ち運び出来るサイズのは実用化にむけての小型模型みたいなものなんだろうけど、
    人間1人あたりの飲み水を賄い切れるMOF10キロくらい使用バージョンだと装置全体でどの位の重さ、大きさになるのかな。
    冷蔵庫位の規模に収まるなら本当に凄いけど。

    • 評価
  24. 比較的安全な水の確保より、電源不要の除湿機としての需要のほうがありそうだね。
    問題はコストと寿命だけど、いくらで市場に出せて何年ぐらい使えるのか。

    • 評価

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