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多くの人の命を救ったソリ犬、バルドをゲノム解析。多様な犬種の血を引く遺伝的適応が明らかに

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(著) (編集)

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 アメリカには伝説となったソリ犬がいる。1925年にアラスカ州ノーム市でジフテリアが発生し、血清を運ぶためにソリ犬が使われた。

 バルドはその中で最後の区間のリーダー犬を担当し、雪嵐の中でも道を見失わずにノーム市に到着し、多くの人々の命を救った。

 このほどカリフォルニア大学サンタクルーズ校をはじめとする研究チームは、バルトの剥製からDNAを採取し、彼が薬を携えて大吹雪という過酷な環境の中を走り続けるという英雄的行為に成功した秘密に迫っている。

 『Science』 (2023年4月28日付)に掲載された最新の研究によれば、シベリアン・ハスキーとされるバルトだが、じつは現代のハスキーとは少々違い、多様な種の祖先の血を引いており、過酷な環境に耐えられる遺伝的な適応が見つかったという。

大勢の人々を救った英雄犬バルト

 1925年、アラスカのノーム市で危険な感染症「ジフテリア」が流行した。当時、アメリカでは1万5000人以上がその感染症によって亡くなっており、アラスカでどれほど被害が広がるのか誰もが戦々恐々としていた。

 そんなとき、吹雪が吹き荒れるアラスカの雪原を500キロ以上も走破し、人々に血清を届けた勇敢な犬ぞり隊がいた。

 その群れのリーダーだったのが、英雄犬と称賛され、今もなお人々から愛されるシベリアン・ハスキー「バルト」だ。

 人々は彼らの英雄的行為を称賛し、ニューヨーク市のセントラルパークには今もなおバルトの姿をかたどった像が置かれている。

 またバルトの死後、その遺体は剥製にされ、現在オハイオ州にあるクリーブランド自然史博物館に所蔵されている。

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クリーブランド自然史博物館に展示されていた英雄犬バルトの剥製 / Credit: Cleveland Museum of Natural History

バルトは多様な犬種の祖先の血を引いていた

 今回の研究では、このバルトの剥製から採取したDNAを解析し、現代の犬やオオカミのゲノムと比較している。

 その結果、バルトは現代のハスキー犬とは違い、多様な祖先を持つことがわかったのである。

 バルトは元々、シベリアから輸入されたそり犬の集団の血をひく犬で、シベリアン・ハスキーとされてきた。

 ところが実際には、バルトとシベリアン・ハスキーに共通する祖先は、ほんの一部だけ。じつのところ、バルトはずっと遺伝的に多様な作業犬であったのだ。

 研究チームによると、バルトは、現在のシベリアン・ハスキーともアラスカのそり犬とも異なるという。

 彼らとの共通の祖先のほか、グリーンランドのそり犬、ベトナム犬、チベタン・マスティフなどとも同じ血が流れていることが確認されている。

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アラスカのそり犬バルトは、現代のアジアや北極圏のイヌの系統と共通の祖先を持っている。オオカミの祖先は確認されていない。 / image credit:Kathleen Morrill

 そして、こうした遺伝的多様性が、吹雪の中、血清を届けるという偉業を達成できた秘密かもしれないという。

 今回の研究によれば、バルトは現代の犬種よりも遺伝的に健全で、極寒に耐えるのに有利と思われる遺伝子変異を持っているのだという。

 研究の中心人物、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のベス・シャピロ教授は、「バルトは、現代の犬種とは異なる、過酷な環境に適応した作業犬の集団から生まれました」と説明する

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ガンナー・カーセンとバルト / image credit:public domain/wikimedia

寒さに強い遺伝的適応

 今回の研究は、カリフォルニア大学サンタクルーズ校ゲノミクス研究所で開発された新しい分析ツールによって可能になったものだ。

 その新開発のゲノムアライメントツールは、数百もの種のゲノムを並べて、それぞれのゲノムの位置を比較することができる。

 同じ遺伝子でも、生物の種によってそれが収められている染色体が違うことがある。新しいツールは、こうした遺伝子の位置の違いを知るのに便利なのだ。

 そして、その分析結果からは、バルトには「体重・協調性・関節・皮膚の厚さ」といった骨・組織形成関連の遺伝子に変異があったことがわかっている。それらは、アラスカのような極寒の地で有利になるような特徴を作り出すという。

 また興味深いことに、バルトはデンプンを消化する能力が優れていたこともわかっている。

 それは現代の犬に比べれば劣るものの、オオカミやグリーンランドのそり犬よりは上手にデンプンを消化できたと考えられるという。

 さらに今回、バルトのゲノムを用いることで、写真では確認できない大きさや毛色など、生前の特徴を復元することにも成功したそうだ。

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ゲノム解析から絶滅しやすい種を予測できる

 今回のような研究は、ゲノムをより詳細に比較することで、どのようなことが可能になるのか示唆してもいるという。

 たとえばシャピロ教授らはまた別の論文で、ゲノム解析の結果から絶滅しやすいと考えられる哺乳類を予測している。

 さらに近親交配の証拠や、危機に瀕している集団の指標なども明らかにできる。

 絶滅の危険性を一番よく知ることができるのは生態学的なデータかもしれないが、ゲノム解析は、特に注意が必要な種を特定する手がかりになるのだという。

 「保全活動では、注意すべき種が多すぎて、研究する時間も資源も足りません。適切なDNAサンプルが1つあるだけで、この種は大丈夫、この種は要注意といった具合に判断できるわけです」と、シャピロ教授は語っている。

References:Genome of famed sled dog Balto reveals genetic adaptations of working dogs / written by hiroching / edited by / parumo

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この記事へのコメント 18件

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  1. 血清を運ぶ犬のお話、子供の頃に本で読んだことがあるような…。たしかアニメにもなっていましたよね。アメリカでは誰もが知っているくらい有名なワンちゃんなのでしょうか
    イメージしてたよりだいぶん小柄で毛のもふもふした子ですね。ハスキーというからには、もっとチョビみたいないかつい姿を想像していた…
    多様なルーツのある遺伝子を持つことで、過酷な環境にも適応しやすい体になっていたのかな

    • +9
    1. >>1
      アニメあったね
      バルトの吹き替えが柴田恭兵だったんじゃなかったかな

      • +3
      1. >>7
        そう
        犬なのにイケメンすぎてちょっと笑ってしまった
        相手の女の子犬も可愛かったな

        • +2
    1. >>2
      元大関のバルト、今はエストニアで国会議員しているとか。ロシアと国境を接する国だからいろいろと大変そうだね。

      犬の方は「シベリアンハスキーです」とこの画像見せられたら首を傾げそう。白地に隈取みたいな模様があるイメージが強すぎるのかもな。

      • +1
  2. 純血種よりもいいとこ取りの雑種が強いのか
    人間や社会も似たようなことあるな

    • +7
  3. ゴールドシップをゲノム解析したら
    コンピューター壊れそう。

    • +2
  4. そり犬バルトの功績を称えて、ニューヨークのセントラルパークにバルトの銅像が建てられています。
    この像には子どもたちが乗って遊ぶため、バルトの背中はいつもピカピカに輝いているとか。

    • +9
  5. もう人間のために動物利用すんのやめて欲しい

    • -13
  6. 特定の外見や能力を強化しようとして
    同じ特徴を持つ個体同士ばかりでブリーディングすると
    それ以外の事が不得意になったり
    遺伝子の中に逆に弱点も集まってしまうからね
    色んな遺伝子入ってた方が
    先天性疾患のリスクは減るからな

    • +7
  7. 個人的にはく製というものがあまり好きではなくて見るとどうしても安らかに眠らせてあげて欲しいと思ってしまうんですが、それでもバルトのはく製は丁寧に作られているのだなというのが伝わってきます
    本当にその姿を惜しんだ人が作ったのかもしれないですね

    • +8
  8. 愛玩犬として生きたなら、ちょっとかしこい雑種という程度でしか認識されなかったかもしれない。
    生きるべき場所で生きた、と言えるだろうか。

    • +8
  9. 見た目からしてハスキーではないじゃん。雑種じゃん。

    • -1
  10. 現代のシベリアン・ハスキーに比べてずんぐりしてて毛並みも分厚い。これはどんな寒さもものとしなそう。リーダー犬ってすごく頭がいいんだよね。写真からも感じられる。いい犬だったんだろうな。

    • +6
  11. キュートな顔に比べて、脚の立派さよ。さすがとしか言いようがないね

    • +6
  12. バルトは最終ランナーで有名だが実際にはトーゴーの方が最難関のずっと長い距離を走ったよ。トーゴーも剥製になっているはずからDNAを調べて欲しいなぁ。トーゴーはバルチック艦隊を破った東郷元帥から付けられた名前。

    • +7

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