古代ローマの埋葬地で遺体がよみがえらないよう配置された曲った釘
 トルコにある古代ローマ時代の墓から、珍しい埋葬習慣の証拠が見つかった。薪の上で遺体を火葬して墓に納めるという通常の形ではなく、焼いた遺骨がレンガのタイルや石灰の層で覆われていた。

 特徴的だったのは、曲げられ、ねじられ、頭を切り取られた釘が数十本、周辺に散らばっていたことだ。

 『Antiquity』誌に発表された最近の論文によると、こうしたやり方は、死者が墓からよみがえって、生者に祟らないようにするための、魔術的な思想があった可能性があるという。
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古代ローマ帝国の埋葬地を発見

 このたびの最新の発見は、ベルギーのルーベン・カトリック大学による、トルコ南西部サガラッソス遺跡での発掘・調査プロジェクトの一環だ。

 7世紀に大地震によって大きな被害を受けたが、紀元前5世紀後半から西暦13世紀半ばまで、この地域には人が住んでいた。

 問題のエリアは、町の中心や住宅街から離れたところにあって、複数の連続したテラス状になっている場所が埋葬地として使われるようになった。

 このローマ帝国時代初期の墓が初めて発見されたのは1990年のことだが、2012年に周辺の調査が再開され、およそ6世紀にわたって、ここで火葬や埋葬が行われていた証拠を発見した。
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レンガが敷かれた火葬墓(右)とその後の2つの墓(左) / image credit:Sagalassos Archaeological Research Project (KU Leuven)

火葬墓から曲がった釘を発見

 墓に散乱していた釘は、長方形の一区画の焼けた土の中から発見され、松の木炭や瘢痕、焼けた人骨など、火葬の残骸が残っていた。

 焼けた骨を骨学的に分析してみると、18歳前後で亡くなった男性のものと判明した。骨は、解剖学的な骨格の配置でほぼそのまま残っていて、火葬中または後に、故意に動かした形跡はない。

 木炭の残骸の一部は布地のようで、衣類または屍衣だと思われた。

 その他にも、2世紀のコイン、1世紀の陶器の容器がいくつか、吹きガラスの壺がふたつ、青銅の蝶番のついた、骨でできた用途不明のアイテムなど、いくつかの人工物も見つかっている。

 これらは、会葬者が少なくともなんらかの伝統的な埋葬儀式に従った証拠ではないかと考えられる。
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発見された曲がった釘、小さなガラスのフラスコの破片、2世紀のコイン / image credit:Sagalassos Archaeological Research Project (KU Leuven)

曲がった釘をまいて魔術的結界を形成した可能性

 ここでの火葬が他と違って際立っているのは、壊れ、曲げられた41本の釘が見つかったことだった。

 25本は90度に曲げられて頭の部分を切り取られ、16本は全体としては完全だったが、やはり曲がりねじれていた。

 これらは、通常無傷で見つかる棺の蓋を打ちつける釘ではないし、火葬用の薪を積み上げるのに使われたものでもない。

つまり、"魔術的な結界"として、折れたり壊れたりした釘を意図的に墓の周辺に散乱させたものと、研究著者は結論づけている。

 病気を追い払ったり(リウィウス、ローマの歴史家)、悪夢から身を守るため(大プリニウス)に釘が使われたと、いくつかの古代文献には書かれている。
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魔術的結界として墓にまかれた可能性のある曲がった釘 / image credit:Sagalassos Archaeological Research Project (KU Leuven)

死者のよみがえりを防ぐための儀式である可能性

 サガラッソスでは、曲がった釘がほかにも3本見つかっているが、このように頭の部分を切り落とした曲がった釘がたくさん出てくる埋葬を記録した考古学的研究はほとんどないという。

 ただし、このような人工物が発掘中に見過ごされたり、記録されなかった可能性はあるが、記録がないということは希少性を示している場合もある。

 これら曲がった釘の目的については、ふたつの仮説がある。

 死者がよみがえり、生者に危害を加えるのを防ぐためというものだ。あるいは死後世界で邪悪なものから故人を守るためかもしれない。

 火葬された骨を覆うレンガタイルの存在を考えると、1番目の仮説の方が信憑性が高いという。

 あの世へ行った者の体を動けなくするために使われた重石ではないかと研究著者たちは指摘している。さらに分厚い石灰の層がある。

「19世紀までは、伝染病で死んだ疑いのある遺体が腐敗して瘴気が漏れ出すのを防ぐために、墓に石灰をまくことが多かった」と著者は書いている。

 死者を拘束するかのような釘とレンガの存在、そして石灰の封印効果の組み合わせは、安住を得られずにさまよう死者への恐怖を強く暗示している。

 こうした遺体の死因が外傷性なのか、まるで謎なのか、伝染病や刑罰のせいなのか、可能性はいろいろあるにもかかわらず、死者が戻ってきて報復されることを、生きている者はかなり恐れていたようだ。

迷信がらみの埋葬の儀式といえば吸血鬼

 他にもこういった迷信がらみの埋葬儀式は存在する。すぐに思い浮かぶのは、世界中の考古学遺跡で時折出現する、いわゆる吸血鬼の埋葬だろう。

 1990年代初頭、コネチカット州で遊んでいた子どもたちが、19世紀の中年男性の遺体に遭遇した。

 棺の真鍮のプレートには「JB55」とだけ記されていたが、その遺骨は、頭蓋骨の下に大腿骨を十字に交差させた、いわゆるドクロマークの形に配置されていた。

 専門家はこの男性が、そのコミュニティで「吸血鬼」だと疑われていた証拠だと結論づけた。その後、このJB55の身元がほぼ判明し、生前の姿も復元された



 さらに昨年、ポーランド、ビドゴシチの17世紀の墓地で、こうした魔除け処理された埋葬を行った珍しい例が発見された。首の部分に鎌が置かれ、左足の親指に南京錠がかけられた、女性の遺骨が発見されたのだ。

References:Bent nails at Roman burial site form “magical barrier” to keep dead from rising | Ars Technica / Roman-era tomb scattered with magical 'dead nails' and sealed off to shield the living from the 'restless dead | Live Science / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2023年04月08日 23:16
  • ID:zBFXggmf0 #

対フリークス用の儀式か、聖別とかされてるのかな

2

2. 匿名処理班

  • 2023年04月09日 03:28
  • ID:eYmDKjnt0 #

日本では、白装束に鼻緒を切った草履を履かせて家の窓から出棺する地方があるね。
別の地方では、屈葬に縄で縛り上げる埋葬方法もある。

露骨に「戻ってくんな」というおくり方やね。

3

3. 匿名処理班

  • 2023年04月09日 09:18
  • ID:53cB9wzV0 #

とある古代の黄泉帰阻止術

4

4. 匿名処理班

  • 2023年04月09日 13:39
  • ID:l.ccOtKC0 #

わざわざ埋葬するくらいに遺族から愛されていても、手をかけて復活を阻止しようとすんだな

5

5. 匿名処理班

  • 2023年04月09日 14:27
  • ID:TamtPigW0 #

むしろ復活を恐れるから丁寧に葬るのでは…?
「こんなに丁寧に送ってあげるのだから、恨まないで。戻ってこないで」みたいな感じで。
どうなんだろう。

6

6. 匿名処理班

  • 2023年04月10日 11:22
  • ID:a8tQvZ5U0 #

14に進め
棺桶の釘の様に

7

7. 匿名処理班

  • 2023年04月10日 12:48
  • ID:P4MQFunr0 #

現世に戻ってこないよう死者に釘を刺したんやな。

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