
とはいえ彼らも危険と隣り合わせの状態で生きている。天敵のシャチと死闘を繰り広げることもあれば、同族と戦うこともあるし、船のスクリューで大怪我を負うこともある。
だがホホジロザメには特殊な能力を持っていることが、画像分析で明らかとなった。例えひどく傷ついたとしても、それを速やかに修復する脅威的な治癒力が備わっているのだ。
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背びれがえぐれるほどの大きな傷が5年でほぼ完治
最近、米マサチューセッツ州沖で「クレセント」と呼ばれるホホジロザメが目撃された。西洋ホオジロザメ保護区のサメを研究しているチームが撮影した、2017年当時のクレセントの画像を見ると、その背びれの真ん中がえぐれて、三日月のようになっている(ちなみにクレセントとは三日月のことだ)。
ところが2022年に目撃されたクレセントの姿を見ると、手術で縫い合わせたかのように背びれが治っているのだ。


ホホジロザメが治癒力を獲得した理由
クレセントが怪我をした原因はわからない。ホホジロザメはシャチや同族とも争うし、船のスクリューに傷つけられることもある。また、交尾しようとするホホジロザメのオスはとても攻撃的で、メスを離すまいと強烈に噛みつくことがよくあるのだそうだ。
ノヴァ・サウスイースタン大学のサメ学者マフムード・シブジ氏は、「ほとんどのサメは鋭い歯を持っていますから、噛まれたメスはひどい怪我をします。そうなったら早く治して、感染症を防がねばなりません」と解説する。
だからメスには素晴らしい治癒力がある。ついでにメスの皮膚はオスの2倍も厚い。これは同種から身を守るための進化である可能性がある。
だがクレセントは腰びれのあたりを見てみると、メスにしがみつく器官(クラスパー/把握器)がある。つまりクレセントはオスなのだ。
それでも素晴らしい治癒力があるのは、メスが身を守るためにとげた進化のおこぼれを頂戴したからかもしれない。
This #WhiteSharkWednesday features the ability of sharks healing. White shark “Crescent” was seen with some serious injuries in 2017 with a split dorsal fin. The research team saw him in 2022 and was able to see that his dorsal fin “zipped” back up! Incredible! pic.twitter.com/oTyRl6GlgI
— Atlantic White Shark Conservancy (@A_WhiteShark) February 8, 2023
ホホジロザメだけではない。サメに備わった強力な治癒力
あるいは祖先から受け継いだ力だとも考えられる。シブジ氏は、強力な治癒力は、現生のサメやエイに広く見られる特徴で、その起源がかなり古いだろうことがうかがえるのだという。その治癒力についての研究はそれほど多くはないが、一例として「カマストガリザメ」はとりわけ治癒力に優れていることが知られている。

カマストガリザメ photo by Albert Kok, Public domain, via Wikimedia Commons
また船との衝突事故が増えている「ジンベエザメ」は、わずか35日で組織の損傷の90%が治るという報告がある。
さらにメジロザメの仲間「オグロメジロザメ」は、ケンカでできた50センチの傷が半年でほぼ完治する。
ちなみにメスのオグロメジロザメの傷もまた、ホホジロザメのように交尾のときのものだ。そのため、傷の治り具合から、いつ交尾が行われたのか推測することができる。

オグロメジロザメ photo by Albert kok, CC BY-SA 3.0, via Wikimedia Commons
このように素晴らしい治癒力をもつサメの皮膚だが、その進化の歴史はよくわかっていない。
2019年に行われたサメのゲノム解析では、体の傷を上手に治せるような遺伝子レベルの適応があったことが明らかになっている。
このような脅威的な治癒力にくわえ、遺伝子のミスによるがん化を防ぐメカニズムも備わっている。だからホホジロザメは70年も生きることがある。
ちなみにジンベエザメの寿命は約130歳で、ニシオンデンザメは400年以上生きるといわれており、512歳に達すると考えられる個体が発見されている。
「彼らの機能と設計は、4億年にわたる緻密な進化によるものなのです」と、シブジ氏は語っている。
追記:(2023/02/23)画像を一部訂正して再送します。
References:Amazing Photos Reveal The Great White Shark's Incredible Ability to Heal : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
人間にもこれ位の再生能力あったら200歳くらい生きられるのかなー?
2. 匿名処理班
>ついでにメスの皮膚はオスの2倍も厚い。これは同種から身を守るための進化である可能性がある
つまり交尾の時にオスに噛み殺されたメスが大量にいたってことよな。
何故そんな物騒な生態を獲得したのかが気になる。
オスからしても自分の子孫を残す上で相当不利になるはずだけど、
それを補うほどのメリットがあるんだろうか。
3. 匿名処理班
詳しいこと知らないから思い込みかもだけど流れがある水の中で治っちゃうのがすごい
人間の傷のイメージで行くと、水をずっと流してると血が流れていく一方でいつまでも傷がふさがらないイメージがある
4. 匿名処理班
サメよりも
しっぽも足も手も再生できるトカゲのほうが凄いだろ
5. 匿名処理班
治癒力が強力って事はそれだけ繁殖力が弱いって事だったり?
個体が長生きできないとあっという間に絶滅しそうだもんな
6. 匿名処理班
>>2
サメはメスの方が大きくてそのままだと交尾が難しいので
噛み付いてでも抑え込んで交尾する、という事なんでしょうかねえ
肉食生物でメスが大きいものでは猛禽でもカマキリでも交尾に苦労するようです
サメのヒレが再生可能、というと商業的な応用を考えたくもなりますが
鰭が再生不十分の時期に餌を捕りにくくなって弱るのは事実でしょうし、
安易にやるべきではないでしょうね
7. 匿名処理班
人間だと傷を濡れた場所のままにすると壊死するけど
魚類だと粘液かなんかで保護されてるので治るのかな
8. 匿名処理班
>>4
サメが凄いのはガン化まで防げるとこやろ
ついでに同じ爬虫類ならワニの方が強い
汚水の中で自己再生、百年無病息災
9. 匿名処理班
ワニも意味わからんレベルの耐久力(腕がもげても感染症にかからない)を持ってたりするので、生きる化石グループの奴らの生存能力は異様。
数億年の歴史を生き残ってきた奴らだ。面構えが違う。
10. 匿名処理班
>>4
手足や目の水晶体が再生するのはイモリ
トカゲの手足は再生しないし尾の一度切れて再生した部分には自切機能がない
11. 匿名処理班
まぁシャチと戦ったら2度目は無いんですけどね
12. 匿名処理班
>>6
フカヒレ食べ放題
13. 匿名処理班
>>6
>>2
生物界では生殖相手を競う方の性の体が大きくなると言うので、
良いオスをメス同士で争って分厚く大きいのが残っていったのかもしれないです…
選ばれる方の性は、そこまで大きくなくて済むと言う。
14. 匿名処理班
>>3
浸透圧から人間は海水中では小さな傷なら血は止まりそうな気がしますが、サメの血はかなりしょっぱいらしいので、浸透圧の話は通用しなさそうで血は止まらなさそうに思います。
とすると、止血できる能力に優れると考えると今度は血栓ができやすそうということで、いい感じのリクツは思いつきませんでした。
15. 匿名処理班
>>14
軟骨魚綱の記事を読んできただけど尿素やらなんやらを体液に混ぜて調節してるらしいぜ
16. 匿名処理班
>>1
きれいに再生できずに「AKIRA」の鉄雄のようになる予感
17. 匿名処理班
ワニとかサメとか、古くからいる系の強度が最近気になる
18. 匿名処理班
歯が何度も生え変わるのも含めてひたすら羨ましい
19. 匿名処理班
彡⌒ ミ
!(´・ω・`) ,,,,,コレダ!
20. アユラ
>>18
脆くて直ぐ欠けたり、簡単にすっぽ抜ける作りだから
無尽蔵に生え変わるけど……一つ一つが弱いんですよ💧
21. 匿名処理班
>>13
オスを巡ってメス同士が争う動物はかなり少数派だけどね。
大抵の動物はメスの方が子育ての負担が大きいので
メスがオスを選ぶ立場であることが多い。
メスが産んだ卵をオスが育てるタイプの動物では
オスがメスを選ぶ(メス同士が争う)ケースがあるようだけど
ホホジロザメは卵胎生だしそういうタイプではない気がする。
22. 匿名処理班
すっごい。欠けた部分が元のヒレの形になっていくのはどこかに記憶があるのだろうか、何度再生しようがヒレの形になる芽のようなものがあるのだろうか。
断面全体から均等に盛り上がっていくのか、はたまた丸い断面のうちでも再生が特に早い部分が? サメ映画の地平は広がり続ける。
23. 匿名処理班
サメはガンにならないとかなんとかで
サメ由来の健康サプリメントがあった気がする
根拠は一応ありそうなんだな
人間にも効くのかはわからないけど
24. 匿名処理班
>>21
面白い求愛したり鮮やかな色で引きつけようとするのは魚虫鳥爬虫類とほぼ例外なくオスだもんね。哺乳類除くとオスの立場は相当弱い
メスから求愛する種はすぐには思いつかないぐらい需要に差がある
25. 匿名処理班
頼りになりそうなサミュエル・L・ジャクソンがまた食われるの?
26. 匿名処理班
水中なら傷が乾くことはないから、粘液や粘膜で覆っておいてからその内側で治癒プロセスが進行する、というのも理論上は可能。海水なら淡水よりも体液との濃度ギャップが小さいから淡水魚よりも有利ではある。
27. 匿名処理班
いくつかサメの画像の種と紹介文が噛み合ってません
カマストガリザメとして紹介している画像は鰭の模様や大きさから同属のツマグロという別種のサメ、オグロメジロザメとして紹介している画像は口の位置や形状からネムリブカという別種のサメと各々判別できますので、修正かけた方が良いと思います