
だが、火星への道のりは長い。従来のロケットエンジンを使用する場合、火星到着まで8ヶ月かかると言われている。
だが、NASAの助成する新型の原子力ロケットなら、1カ月半と大幅にスピードアップするかもしれない。
「核熱推進」と「原子力電気推進」を組み合わせ、さらに特殊な過給機を搭載することで、火星までたった45日で到達できるロケットが実現するという。
原子力ロケットエンジンとは?
原子力ロケットエンジンには主に2つのコンセプトがある。1つは「核熱ロケットエンジン」だ。これは原子炉で液体水素を熱してイオン化(プラズマ)し、これをノズルから放出して推進する。
宇宙開発競争がたけなわだった1950年代以降、米ソが核熱ロケットエンジンの開発を試みたが、現時点で実用化にはいたっていない。
そして、もう1つが「原子力電気ロケットエンジン」だ。
こちらは原子炉で発電した電力でホール型推進機(イオンエンジン)を動かし、電磁場を発生させる。これによってキセノンなどの不活性ガスをイオン化・加速して推進力を得るというシステムだ。
原子力電気ロケットエンジンは、NASAが2003〜2005年に行った「プロメテウス計画」などで開発が試みられた。
どちらのエンジンも、比推力(燃料の質量流量に対する推力を表す)に優れ、エネルギー密度がほぼ無限であるなど、従来の化学ロケットエンジンに比べて大きな利点がある。
例えば、原子力電気ロケットエンジンなら比推力は1万秒以上、つまり3時間近く推力を維持できるという長所がある。その反面、推力は核熱エンジンはおろか、従来のロケットエンジンに比べてもかなり低い。さらに排熱の問題まである。
一方、核熱ロケットエンジンは、速度の変化が大きなミッションにおいて、初期・最終質量分率をどうするかという問題がある。

image credit:NASA
NASAが助成する、新型原子力ロケットエンジン
NASAは”SFの世界を現実”にするべく、毎年応募されてくる数百のアイデアの中から10件ほどを選んで資金や技術を助成する「NASA Innovative Advanced Concepts(NIAC)」というプログラムを行なっている。今回の原子力ロケットエンジンは、2023年度に選出されたものの1つで、提案者は米フロリダ大学のライアン・ゴッセ教授ら研究グループだ。
ゴッセ教授らが提案するのは、双方のいいとこ取りだ。

アメリカが1960年代に進めた核熱ロケット開発計画「NERVA計画」の原子炉をベースに、原子力電気ロケットエンジンの仕組みを取り入れたハイブリッド設計となっている。
さらに脈動型過給機「ウェーブローター」を搭載するのも特徴だ。これは排気管内の圧力が上昇することで生じる圧力波で、吸い込んだ空気(吸気)を圧縮する技術である。
核熱ロケットエンジンのウェーブローターは、原子炉が燃料を加熱することで生じる圧力で反応物質を圧縮する。
これによってNERVA計画のエンジンと同等の推力を得られると同時に、比推力は1400〜2000秒になる。
さらに原子力電気ロケットエンジンを組み合わせることで、比推力は1800〜4000秒にまでアップする。
Transforming Future Space Technology
火星まで片道45日を可能にする
このハイブリッド原子力エンジンならば、理論上、火星まで45日で行けるという。これは宇宙の有人ミッションや太陽系探査に革命を起こす可能性がある。これまでのロケットなら、火星に行くには250日(8ヶ月)かかる。もし現地で1年調査をするのだとすれば、ミッションは3年に及ぶことになる。
だが片道45日(6週間半)で行けるのならば、ミッションは数ヶ月で終えられる。これは放射線や微小重力といった人体へのリスクを考えると、きわめて重要なことだ。
なお2023年度のNIACプログラムでは、原子力エンジンだけでなく、太陽光や風力がいつも利用できるとは限らない場所で電力を供給できる核分裂・核融合ハイブリッド原子炉も選ばれている。
こうした原子力技術の発展によって、いつの日か火星だけでなく、さらに遠くの宇宙を目指す有人ミッションすら可能になるかもしれない。
追記:(2023/01/25)本文を一部訂正して再送します。
References:New NASA Nuclear Rocket Plan Aims to Get to Mars in Just 45 Days : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
「ロケット猿人」w
以降の文章が頭に入らなくなった
2. 匿名処理班
原子炉ということは放射性物質は絶対発生するわけで
そこらへんを解決できない人類にはまだ先の話かもしれない
3. 匿名処理班
これらエンジンが開発できたらモビルスーツや変形合体ロボットも夢じゃないな
4.
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6.
7.
8. 匿名処理班
原子力ロケットエンジン方式の最大の問題は打ち上げ失敗のリスク
今度始まる月開発で月にウラン鉱床があるといいな…と
あるいはそれこそ軌道エレベーターの建設かな?
9. 匿名処理班
原子力ロケットで火星まで45日、と言われて核パルス推進(簡単に言うと「ロケットの尻で原爆ぶっ放してその爆圧でロケット飛ばそうぜ」と言うアレな発送)やる気かと思ってしまった
10. 匿名処理班
地球圏内で事故を起こした場合のリスクを考えたら止めた方が良いと思う、流石に通常のロケットの比じゃない
まぁ多分そんな事言われなくとも研究者には分かっているんでしょうけども
ただ45分は夢のある話だと思う
流石に夢のエネルギーと言われていた5.60年前と違って容器の進歩により噴射中に放射線垂れ流しって事は無いだろうしね
11. 匿名処理班
恒星間航行を実現した宇宙人にとっては、原始力エンジン
12. 匿名処理班
※9
宇宙船は作用反作用で飛ぶしかないんだから
尻でぶっ飛ばす(宇宙を汚す)方式じゃないと原子力のメリット活かせなくないか
13. 匿名処理班
ボイジャーは原子力だからな、出来なくはない
人が乗れるかどうかって話だよね
14. 匿名処理班
そんな超高速で加速してロケット内の人間は耐えられるもんなの?それとも無人の想定なのかな
15. 匿名処理班
>>13
観測機器の電源が原子力電池なだけで、原子力で飛行している訳じゃない。今はスイングバイによる惰性で飛行していて、燃料が尽きれば軌道修正できない。
16. 匿名処理班
打ち上げ時や大気圏での事故のリスクを考えたらやるべきじゃない
誰が責任取るかとか有耶無耶になりそうだし
17. 匿名処理班
とりあえず早く行こうや
18. 匿名処理班
初期の宇宙開拓時代、旧式の原子力エンジンを積んだロケットは、たびたび事故を起こし、多くの人命を失った。だが人類は、この尊い犠牲の上に、現在の宇宙進出を果たしたのであった。
19. 匿名処理班
>>12
記事を読め
20. 匿名処理班
結局は水素やキセノンといった推進剤が必要だから、そのタンク分重量などに制限できんのよなあ。
なんかこうブレイクスルーないもんか。
21. 匿名処理班
慥かに理に適ってるとは思うが現在の打ち上げ失敗率って今どの程度なんだろ
大気圏突破までの事故が本当に無くなってからじゃないと大惨事なんだが
22. じょん・すみす
アイデアは良いし、実際に作られもしたから実現する気になれば
すぐなんだろうけど、落ちてきた時が怖いんだよな。
23. 匿名処理班
>>10
地表で作るのは非効率だから宇宙で作るんじゃないですか?
ところで
放射化した物質から放射能を取り除くのはオーバーテクノロジー過ぎて実現は不可能な気がします
かといって推進に使ったガスを回収してたら勢いを相殺して1mmも動かないし
24. 匿名処理班
実現したら大航海時代に行き来していた日数くらいになるわけで、開発移住が視野に入りそうですね
片道数年単位だと生存して到達するだけでも大変
25. 匿名処理班
>>12
宇宙開発初期にあったアメリカの"オリオン計画"ってのが>>9の言う推進方法だったんです!
なんならばその方式(核爆発させ、その勢いを後部の皿で受けて飛び上がる)で地表からロケットを打上げようぐらいの勢いだったんです!
26.
27. 匿名処理班
宇宙にいることだけでかなりの被爆にさらされ、また宇宙空間からの被爆をいかにおさえるかの研究は日々行なわれてますので、広大な宇宙空間で核エンジンを使用しても影響は無いのでは?
地球環境に影響の無い空域で使用すれば問題無いと思います。
28. 匿名処理班
>>21
2001年から2016年までの「日本、中国、欧州、米国、ロシア」のロケット打ち上げ成功率
902回中866回(約96%)
原子力を世界に納得させるにはまだまだな数値かもね
29. 匿名処理班
原子力なんてむしろ宇宙でバンバン使うべき技術かと
発電所も宇宙ってのが理想です
30. 匿名処理班
見える、大惨事の未来が
31. 匿名処理班
ハヤブサなんかに使われたイオンエンジンとは違うのん?
32. 匿名処理班
>>1
名前はゴリに違いないw
33. 匿名処理班
45日で火星に着いちゃうくらい速度を上げたら、着陸出来る速度まで減速出来るのかな。
まぁ、私が乗る訳じゃないから、乗る人達が上手いことやるんだろうけど…。
45日で火星に着くけど着陸出来るって書いてないから、宇宙船が火星に刺さっちゃうかも?それでも火星に「着く」には変わらない。
なんてね。
34. 匿名処理班
>>2
地球気温の半分は放射性物質崩壊由来であり、人間は放射性物質の存在によって生存を許されていますが・・・
35. 匿名処理班
これ移動中に小さなデブリとかどうするんだろ。
大きいものは事前に回避するとかしてるのかな回避する
36. 匿名処理班
>>33
普通にロケットの向きを前後逆にして、減速すればいいんじゃないんですか?
>>35
・惑星軌道のように星間物質が重力で絡めとられる率が高い場所
・地球軌道のように汚す奴がいる空間
そういった場所以外の宇宙空間でスペースデブリに遭遇する率はかなり低い
それでも大きなデブリが衝突する危険があれば回避するでしょうね
37. 匿名処理班
>>35
ディフレクターアレイでシールド貼るしかないのでは?
38. 匿名処理班
>>13
え!?ヴォイジャーはイントレピッド級で乗員数150人の科学調査艦ですよ。
39. 時の旅人
2024年 ベル暴動
2026年 第三次世界大戦勃発
2053年 終結
2063年 ゼムラムコクレーン(ボスマン モンタナ州アメリカ合衆国 物理学者)による人類初のワープ航行
スタートレックって1996の優生戦争以外妙に現実とシンクロしている件w
40. 匿名処理班
>>20 反物質
41. 匿名処理班
一見原子力エンジンといえば、僅かなウラン燃料で長時間運転可能といういい話しか表に出ないが、放射性廃棄物の取り扱いが大きなリスクとしてあり、その対応策を同時に示して欲しい
42. 匿名処理班
>>16
責任云々っていう考えは日本だけ
そんなんだからいまだに有人宇宙機が一生出来ないのよ