
都市閉鎖と野生動物と人間の複雑な関係 / Pixabay
新型コロナの影響による都市封鎖のために人間が街から消えてしまったことで、野生生物が戻ってきたというニュースが世界各地で伝えられている。だが、最近アメリカのある動物保護団体から、餌を食べられずに痩せてしまったアカトビ(タカ科トビ属の猛禽類)を発見したという報告があった。
もしかしたら、最近行われている人間の活動自粛は、アカトビにとっては好ましいことではない可能性もある。
都市閉鎖は必ずしも全ての野生で暮らす動物たちにとって朗報ではないようだ。我々は、都市封鎖が野生生物に与える影響についてのメリットとデメリットを、考える必要があるようだ。
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人間の活動自粛が招いた餌不足
ヨーロッパ、北アフリカ、中近東に生息するアカトビは、かつて害鳥として狩られ、また農薬や近親交配の影響もあり、大きく数を減らしていたことがある。しかし1990年代に入って実施された保全政策のおかげで、今では順調に生息数を回復しつつある。人間が消えた地域に野生生物が戻ってきたというニュースは、人々の関心を大いに引いており、SNSなどには街中に出現した動物たちの画像がたくさん投稿されている。
こうした生態系の帰還を見て、新型コロナは自然の復讐だと考える人たちもいる。
しかし、そうした評価は、痩せこけたアカトビには当てはまらないようだ。彼らにとって、人間の消失は自然の勝利などではなく、餌不足というのっぴきならない状況を作り出してしまっている。

アカトビ/ Pixabay
人間は自然から切り離された存在か?
帰還や復讐といった表現は、自然があたかも人間の生活空間の外部にあるかのように思わせる。しかし、いくつもの学術的な研究が、動物はこれまでも、今も、すぐそこにいることを示している。インドの都市部では、サルが新しく街中に縄張りを作っている。希少種のハナアブは、ロンドン市内の公園や墓地に生息している。ハヤブサは図らずも、あるいは設計者の狙い通りに、人間の建造物で暮らしている。
自然が”こちらの社会”とは切り離された”あちらの領域”にあるという考えは、少なくとも西洋文明では、人々の世界観の特徴だった。
遠く離れたところにある野生やそこで暮らすさまざまな種をやたらと称賛するのも、そうした見方の現れだ。
だが、飢えたアカトビはそれとは違う現実を示している。人間もゴミあさりをする猛禽類もウイルスも、同じ場所でひしめいて暮らしているという現実だ。
このことから、私たちと他の生き物との関係や、彼らに対する責務について重要な疑問が浮かんでくる。現代が人為的な環境危機の時代であることを考えれば、なおのことだ。

Pixabay
人間がいないと困る動物たちも存在する
かつてアカトビは人間のせいで大きく数を減らし、そして人間によって回復した。だがそれは、人間との暮らしにうまく適応した多くの動物と同じように、アカトビもまた今はたまたま人間を利用すると都合がいいというだけのことに過ぎない。利用価値ある人間が消えてしまったとしても、彼らは繁栄することができる。それは皮肉でもなんでもなく、私たちがいないという理由によってだ。
だが、動物たちへの人間の不在によって生じた利益の分配は、偏ったものだ。
たとえばトルコでは、政府が予算を割いて都市の地域猫や犬に餌を与えてきたが、都市封鎖のおかげで彼らは飢えることになった。現在トルコ政府は、彼らが飢えることのないよう、更なる対策を講じている。
日本でも同様のことが起きている。宮崎県宮崎市の商店街では、不妊・去勢手術をし、地域猫として、地元住民たちが餌をやっていた猫、約200匹が、ふだん餌をくれる飲食業者らが出勤しなくなったことで、飢えた状態で店の前で待ち続けている状態だという。

人間と共生する地域猫 / Pixabay
もつれあう人間と野生生物たちの運命
人間と動物のもつれあう運命は、都市にとどまることなく、生物多様性や、生態系を回復させようという保全努力が行われている場所にまで広がっている。各地の自然保護区から人間が撤退してしまえば、極めて重要な生息地が外来種(私たちが持ち込んだものだ)によって乗っ取られてしまう恐れや、不法投棄や密猟といった破壊的行為を取り締まる能力が損なわれる恐れがある。
同様に、ケニアの絶滅危惧種の密猟を取り締まる人間がいなくなれば、目も当てられない事態になることだろう。多くの自然保護区は観光客の減少の影響を受けるだろうが、それは最終的には保全活動にも影響を与える。
今のような状況に直面すれば、自然の”帰還”に関するストーリーが風刺的になりがちなのは分からないでもない。
しかし現実には、人間とそれ以外の種との関係は、ずっと複雑で、緊張をはらんでいる。アカトビの話は、そのことを多少なりとも思い出させてくれるだろう。つまり、私たちも動物も、みな現状の当事者なのだということを。
References:Lockdown isn’t good news for all wildlife – many animals rely on humans for survival/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
>宮崎県宮崎市の商店街では、不妊・去勢手術をし、地域猫として、地元住民たちが餌をやっていた猫、約200匹が、ふだん餌をくれる飲食業者らが出勤しなくなったことで、飢えた状態で店の前で待ち続けている状態だという。
これは見過ごせませんね…
この近所の猫好きの方々に近所猫への理解を経て可及的な対応をお願いしたい案件。
2. 匿名処理班
というか、当番制でエサを与えろよ。
金が無くてエサが買ずに動物が死ぬのを、外野はとやかく言う権利はない。
言うのなら、エサ(代)を寄付しろというだけの話。
3. 匿名処理班
かつてトキが絶滅した時も、日本のトキにのみ共生していたトキウモウダニが絶滅した
やはり共生ではなく共存か
4. 匿名処理班
近所の猫の場合餌あげないように言われてるので
人が少なくなっても勝手にえさを取って生きてる
あのしぶとい根性を宮崎の猫らに教えたい
5. 匿名処理班
スズメなんかも人間がいなくなると一緒に消えるらしいね。
実は今でも人間も自然の一部ではあるんだよなぁ
6. 匿名処理班
猫も新型コロナに感染して人に媒介する可能性あるから気をつけろ
7. 匿名処理班
半野生半ペットみたいな感じで生きてきた動物たちが一番苦しいよね。
奈良の鹿とかもどうなんだろう。
8.
9. 匿名処理班
※6
今のところ過度に恐れることはないようです。よほど感染者が猫とじかに接触した直後にその猫に濃厚に触れるなど、特別な条件が重ならない限りは。
別の記事へのコメントにも書きましたが、以下の記事によれば、現時点では新型コロナウイルスの、ペットから人への感染は確認されていない。飼い主から猫への感染は世界中で3例のみ、犬ではわずか2例にとどまる。ペットが重大な媒介動物ならばそのような例が世界各地ですでに見られているはず。
ナショナルジオグラフィックNews
ttps://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/20/042800262/
厚労省HP
動物を飼育する方向けQ&A
ttps://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/doubutsu_qa__00001.html#Q3
感染予防のため接触したら手洗いや消毒の励行。これはいつなんどきでも同じですね。
10. 匿名処理班
最近カラスも近くまで来るのをよく見るけど食糧難なのかな
11. 匿名処理班
当たり前だけど人間も自然の一部だって実感する記事。人間は自然の支配者なんかじゃないね。
12. 匿名処理班
人間を利用出来るか如何かが分れ目なのかもね
13. 匿名処理班
※7
奈良公園の鹿は普段からエサを貰っていて、おやつの鹿せんべいが貰えないから市街地に出没している。
普段エサを貰って”一番苦しい”と言えるかね?腹を減らしても餓死するわけでもあるまいて。
14. 匿名処理班
※1
記事中に関係記事へのリンクがありますのでどうぞ
その記事中の団体名称でたどりつけば
「街中の猫の為のフード支援のお願い」が見つけられると思います
「 フードの銘柄の指定はございません。/できれば尿路ケアのフードだと/猫たちのためにありがたいです。 」など書かれていますね
と同時に各々お住まい地域の団体やシェルターでも同様のお願いが成されていることもあろうかと思いますので検索力が望まれる事態でもあるようです
15. 匿名処理班
人のせいで減った!自然破壊!と騒ぐくせに、人のせいで増えて食物連鎖を狂わせてる生物も同じ扱いなのはどうなの?
人がいなきゃ減るんだったら人が戻ったらまた増えるから問題ないだろ。
16. 匿名処理班
でも、アカトビを絶滅寸前まで追い込んだのも人間でしょ?
野良猫が増えたのも人間のせいでしょ?
17. 匿名処理班
※9
今回の話は地域猫でしょう?
猫の世界に流行らせないように気をつける必要はあるんじゃない?
18. 匿名処理班
手っ取り早く不可逆的な解決を求めるなら、保健所に野良猫を引き取ってもらうという手もある。
野良犬駆除は正義で野良猫駆除が悪とされるのは不平等に感じる。
犬は狂犬病対策っての分からなくもないけど、野良猫が多すぎる。
飼ってた鳥を狩られた恨みがないとも言えないけどね。
19. 匿名処理班
※17
9です。※6の、猫から人への媒介の危険性に関して指摘しました。
猫から猫へ広範囲に感染しているという状況には、今のところなっていないようです。人間に対してこれだけの感染力がありながら、猫や犬の間では伝播が見られないということは、その間での感染力が強くなるような変異は現状ではない、と見てよさそうです(注)。
もちろん将来的にどうなるかは不明なので、ペットや地域猫に対し、予防の意味での「適度な距離を取る」という一般的な対応は必要だと感じます。身近な動物たちも人間も互いに健康であるために。
(注)当然ながら野生動物や、本来の宿主といわれているコウモリに関しては話は別です。このウィルスと動物、人間との関係について以下の報道が参考になります。
4/28 WIRED
新型コロナウイルスの「中間宿主」はセンザンコウ? 人間への感染経路は解き明かせるか
ttps://wired.jp/2020/04/28/coronavirus-bats-snakes-pangolins/
20. 匿名処理班
今年もツバメがやってきました。ちょっと人の出入りが少なくなったけど、来年もまた来てくれるとうれしいな。
21. 匿名処理班
※20
今年もハトがウチの庭のキウイの棚に巣作りの下見に来ていた。
もうじきハトの鳴き声で起こされる日々が始まる。
ウチは住宅地のど真ん中だけど、スズメやヒヨやコウモリを沢山見かける。
街中でも自然が息づいているのを感じる。
22. 匿名処理班
「人間がいない自然」を美しいと思うその価値観が不思議だよねぇ
自分たちは好き勝手に生活しながら、人間の存在自体が害悪であるとも暗に認めていることになる
ところでアカトビはゴミ漁りで餌を得ていたのかな?
それとも餌付けされていたんだろうか?
後者のように人間が自ずから関与して共存していたならば(地域猫や奈良の鹿、タイのゾウや猿なども)、人間が責任持って世話してやらなければならないと思う
23. 匿名処理班
アカトビは飲食店や公園のゴミに集まるネズミとか狩ってたのかもなあ
24. 匿名処理班
奈良の鹿(宮島も)は普段から人間のやる餌に頼って生きてるのではなく、そこらの芝や野に生える草葉を食べて生きてるから全くの平気
いつも人間の街中にいるように見えて適宜山野に帰ってるし、鹿にとっての鹿せんべいは嗜好品であって生きるための必需品ではない
むしろ観光客のゴミや有害な人間の食べ物の餌付けが激減して健康状態が良くなったり、ウザがらみする人も少なくなったからいつもよりのんびり過ごしてるのではという見方もある
動物が困ってて可哀想アピールは、実は動物は人間がいなくても困っておらず人間が困ってるだけや勝手な同情してるだけの場合もあるのでそこは混同しないように注意しないと
25. 匿名処理班
『人間は自然から切り離された存在』という考え方自体、人間の驕りだと思うが。
26. 匿名処理班
※15
地域猫は一度捕獲して去勢するので基本的には増えない。
去勢せずに餌遣りすれば季節を無視して産み続けるんだよ、多頭飼い飼育崩壊ほどに爆発的に増えないのは冬生まれの子猫がほぼ全滅してるから(必要以上に栄養を蓄えたせいで、繁殖期意外に繁殖をしてしまうのが原因。だから野良猫に餌遣りをしてはいけないと言われる)。
誰かが猫を捨てにきて繁殖することはある