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重要な任務を帯びて、4頭のタイリクオオカミ(Canis lupus)がカナダから、アメリカ・ミシガン州にあるアイル・ロイヤル国立公園に降下した。ヘリコプターで舞い降りたカナダ出身の4頭組のミッションは、スペリオル湖最大の島に生息するヘラジカの群れを監視することだ。
ここでは肉食獣がいないために、ヘラジカの個体数の爆発が問題となっている。
同時にオオカミたちはもう1つの任務も負っている。それは、島のオオカミの個体数を増やし、「再野生化」することだ。
昨年9月にすでにオオカミのペアが導入されていたが、今回のオス1頭、メス3頭の4人組はそこに新しい仲間として加わることになる。
天然資源省の計画では、今後3、4年で14〜24頭のオオカミを導入することを見込んでいる。
Wolf released on Isle Royale! Feb, 2019
気候変動の影響でオオカミが激減
かつてアイル・ロイヤル国立公園は、年に50日間ほど氷の橋で本土と地続きになるのが常だった。野生のオオカミはこれを渡って、島に渡ることができた。しかし温暖化の影響で、この氷の橋が現れなくなってしまった。その結果、1980年には50頭いたオオカミが、2016年にはわずか2頭にまで減ってしまったのである。
これが島のヘラジカに影響した。オオカミが減少した一方で、これ幸いとばかりにヘラジカは激増。エサとなる植物をめぐる争いが激化するようになり、数千頭が飢え死にするという事態まで生じてしまった。
今回のミッションは、こうした状況を改善することが目的なのである。

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意外にも難しいオオカミの適任者選び
しかし、このミッションをきちんと遂行できるオオカミを探すことは予想以上に難しかった。「罠にかかってしまうようなオオカミではダメなんです。そうしたオオカミは高齢か幼いか、それか怪我をしていますから」とプロジェクトの中心人物であるミシガン工科大学のジョン・ブセティッチ氏は話す。
また派遣される動物へのストレスも考えねばならなかった。オオカミはまったく見知らぬ仲間と一緒に、見知らぬ土地へ送り込まれるのだ。
「オオカミは群れで生きています。イヌが行ったこともない土地に放り込まれるようなものです。それに初対面の相手にはとにかく警戒する生き物ですし、初めての土地でエサを見つけるのだって大変でしょう。ストレスだらけですよ。」

オオカミ保護の見直しを進める米政府
アイル・ロイヤルへのオオカミの再導入が進む一方、米政府は絶滅危惧種法による保護の見直しを行なっている。報告によると、オオカミは農家に駆除され個体数を減らしたために1970年代に保護リストに登録されたが、現在、米魚類野生生物局は保護対象から除外することを検討しているという。
ワイオミング州ではすでに除外。五大湖西部でも2011年に一時的に除外され、2014年に再登録された。
魚類野生生物局はこうした対応について「保全政策の成功事例」と主張しているが、「国中のオオカミに死刑宣告をするもの」という批判もある。

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たくましく生きるオオカミたち
なお、アイル・ロイヤル国立公園のオオカミについては、万事順調なようだ。「捕獲や島に放って数時間のうちに見せるオオカミたちの適応力の高さには舌を巻きます。すぐに群れの仲間を追い始めるんですからね」とアイル・ロイヤル国立公園のマーク・ロマンスキさんは話す。
「オスは体重40キロもありますが、ヘラジカを見つけたとき、何をするべきか間違いなく心得ていますよ。」
References:nplsf / iflscience/ written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
オオカミはカッコいいし、冬場だとモフモフしてて抱き心地よさそう。
2. 通りすがり
ヘラジカの個体数が増加してる事を止めるなら狼の役割は監視では無くてハンティングだと思うが
最も体重が大きいと見られるオスが40キロでそれより小さなメスが3匹
これは400キロ前後と見られる大人のヘラジカを確実に食べ残すと見られるチームだが
それは置いといてまず逃げなければならない
角で攻撃されたらオモチャのように放り上げられるだろうと思う
オスが一匹ではソイツが潰された時点で繁殖は失敗
繁殖するまでかなり大きなリスクがあるがもっと数を集める事は出来なかっただろうか?
3. 匿名処理班
マングースの二の舞いに成りませぬように
4. 匿名処理班
人間が壊した自然界のバランスは
また人間が手を加えて戻すべき
みたいな意見をTVで観たことがあるけど、
全くもってその通りなのだが、
人間の都合で振り回される動物たちは気の毒だなとも思ってしまう。
5. 匿名処理班
この狼達がどう島の生活に慣れてくのか
ドキュメント番組作ったらおもしろそうやね
6. 匿名処理班
この記事に相応しくないかもしれないけど
保護したり駆除したり
結局人間が生態系をコントロールしてるじゃんよって思っちゃうんだよね
7. 匿名処理班
北米でヘラジカって言ったら、轢いた車がスクラップになるあの巨大怪獣だよね?
群れてるとはいえ、3~40kgの体でそれを仕留めるオオカミを自分は尊敬する。
8. 匿名処理班
オス1頭、メス3頭
なんてパラダイス
9. 匿名処理班
自然の力で現状がある以上は、人間が手を出すことじゃないと思う。
10. 匿名処理班
四国犬に似てる。。。
11. 匿名処理班
ヘラジカじゃなくてもっと狩りやすい動物を狙うかもね。結局ヘラジカは減らない。
12. 匿名処理班
多分当座は監視でいいんすよ…元々島にいた狼たちと昨年投入の狼(一部死亡したらしい)と今回の狼は遺伝子的にも十分遠いものが選ばれているみたいで、今後投入の狼たちも多様性を考慮した捕獲→引っ越しがなされるようですのでまずは繁殖していただいて数と質の安定を望みたいんでしょうね。
ムース狩れるなら弱った個体でも狩っていただいていいのでしょうが、小動物でつないでいってもらっても別によいでしょうし。isleroyalewolf.orgの公式にあるムース追いの写真でのパックは7頭くらい、大きなパックなら14頭ほどで仕留めているようですからまずはそこまで成長したパックが複数編成されて欲しいのでしょうか。
つーか公式のAbout The Project: Overviewをちらっと読むだけでもムースとオオカミの安定の難しさに唸ります。ヒト原因のイヌパルポウィルスで狼絶滅寸前までいってみたり、ムースはムースで狩られずに増えすぎが由来の飢餓に気候の複数パンチで激減とかどんだけ変動しやすいのっていう…。
投入された子たちにはきちんと生き抜いていただきたいです。
13. 匿名処理班
同じ群れの個体群を放すのではなくそれぞれ出身が異なる個体を放して上手くやっていけるんだろうか… 元からいる2頭は縄張りを守るために後からくるオオカミと戦う羽目にならないかな
14. 匿名処理班
(オオカミを擬人化してみると)
一枚目の写真がギャング映画の一コマみたいでカッコイイねw
15. 匿名処理班
増やしたり減らしたり人間様は大変だね〜
神にでもなったつもりかよ(笑)
16. 匿名処理班
※12
関係者の苦心には本当に頭が下がります。
人為的な再導入には賛否両論あり、生態系に介入すべきではないという主張もありますが、それは全くもってその通りですが、むしろ、「人類は生態系をコントロールする責務がある」と思います。
これはなにも「人間至上主義」の発想ではなく、生態系の多様さが失われた先に起こる事態が、おぼろげながら見えてきた以上、人類が得た知恵を使って、何らかのアクションをおこすべき責任があると。
その方法は明確な答えがあるわけではないので、※12のコメントの通り手探り状態だとは思いますが、座して事態を悪化させることを良しとしない人たちの行動は、尊敬に値すると思います。
じゃ自分はなんかやってるのか、と問われれば窮しますが。
17. 匿名処理班
既存のバランスが崩れると俺たちも対応を余儀なくされるし被害が出る
自然に干渉するなとか人類の発展に犠牲はつきものだとか言うけど
保護はある程度は自分たちのためなんだよ
18. 匿名処理班
4頭の狼かっこよすぎ
19. 匿名処理班
結局 ヘラジカは減らじ、か…
20. 匿名処理班
神「人間増えすぎたし、ちょっとウイルス投入して調整するかな」
21. 匿名処理班
雄1匹雌3匹ということだけども、オスの遺伝子情報って大事だと読んだことがある。
つまりY遺伝子の多様性は疫病や環境の変化での生き残りに必要だと。
(一つのY遺伝子が寒さに弱くても、残り2つが生き残る的な。X遺伝子は毎回ミックスされて新しく作られるので丈夫)
せめて雄3匹、雌6匹っくらいが適切では・・でも難しいんだろうな。
22. 匿名処理班
でも自分だったらいきなり知らない土地に異性数人と連れられてもしんどいだろうな
気の毒
23. 匿名処理班
日本にも小型のオオカミを導入すれば
鹿とかイノシシの獣害が減るのにね
人間が襲われるかもしれないデメリットはあるけど
農家さんのメリットも大きい
24. 匿名処理班
※8
ちゃんと養う義務もあるんですが。
25. 匿名処理班
逃走中のハンター思い出した
26. 匿名処理班
>>19
何か言った?
27. 匿名処理班
選ばれた精鋭、狼の特殊部隊みたい
28. 匿名処理班
>>2
最近のコメント欄は机上論が多いように思えるねぇ・・・
なぜ堂々と否定に走るのかが不思議でならない
29. 匿名処理班
確かに神は動物を管理する権限を人間に与えた
じゃ、神は人間の数をどう管理するか
人間の理性化→出生率の低下、という自己抑制機能なのかな
中国が一人っこ政策を止めたのに出生率低下が止まらないらしい。神の意志を感じる
30. 匿名処理班
>>28
何が怖いって机上論のくせにいっぱしに否定するからね。
否定して何になるんだろうとはいつも思うけど…
31. 匿名処理班
戦場の狼…!
32. 匿名処理班
>>2
なんで狼が大人のヘラジカを狙う前提なん?子どもや弱った個体がまず標的になるでしょ。狼はそこまでバカじゃない
33. 匿名処理班
増えて餓死するまでに至ったから喰われて死ぬように調整するのか…
農作物被害対策とかではなく
34. 匿名処理班
>>3
マングースと今回の狼の事例は似て非なるものやで
ちゃんと調べたら勉強になるで
35. 匿名処理班
アイル・ロイヤル国立公園「おお、カミよ。彼らに神の祝福があらんことを」
36. 匿名処理班
空中からパラシュートで狼を投下したと勘違いされて話題になったそうな
37. 通りすがり
>>32
子供が居ればすぐ近くに親が居ると思うが
体重差ありすぎて一回直撃しただけで致命傷を受けるリスクがある
オスを一匹しか用意してなかった為にそれで繁殖計画が失敗する予測は立つよ
標的にするべきサイズの生き物が十分に居るのだろうか?
集団でハンティングする狼だとウサギのような小型の生き物ではやりにくい
38. 通りすがり
>>15
0から作る事が出来ないからやってるのだと思うよ
39. 匿名処理班
家畜を襲うからと言って駆逐されて
増えた草食動物が作物を荒らすと言って繁殖させられて...
不憫な動物だなあ
40. 匿名処理班
ヘラジカさんもモンスターやからなぁ
しかし数千頭が餓死ってやばいな。死肉だけ食っていけそうな気がする
41. 匿名処理班
※28
はっきりした根拠を示してくれればイイんですが。
承認制コメント欄とはいえ、管理人さんが、言論の場としてどちらも拒否せず公開している以上、建設的な議論を目指すべきですね。
42. 匿名処理班
人間が偉そうにすべての命をコントロールする感がうぜー
43. 匿名処理班
>>8
でも一夫一婦制やで
44. 匿名処理班
※36
群狼空挺隊とかいう謎ワードが閃いた
我が厨二病、未だ健在なりorz
45. 匿名処理班
※5
ナショジオかディスカバリーあたりに期待したい
46. 匿名処理班
>>23
和犬を野生化させたら良くね❓
47. 匿名処理班
>>36
自分も一瞬そう思ったけど
狼さん🐺達が安全に着地出来るとは限らないし
自分でパラシュート外したり出来ない筈だから
違うよな、と思った
48. 匿名処理班
>>37
ムツゴロウじゃないんだからさ。
そもそもキミ、オオカミに会ったこともないでしょ。
49. 匿名処理班
※46 米でコヨーテと犬のミックスが育っていて、
コヨーテほど人間を恐れないのでマズイ事に
って過去記事読んだ気がするよ。
スペリオル湖に結構な大きさの島が複数ある
ことにオドロイタ。キャナダ広大なり。
50. 匿名処理班
※46
だいぶ前は野犬の集団が廃墟とかに居て集団で来るから怖かったよ。
最近見ないけど、今も野犬掃討してるとこもあるので検索してみてください。
51. 匿名処理班
一方イエローストーンでは、926Fと名付けられた伝説の雌狼がハンターに射殺された。
彼女が生まれた翌年、母親も同じく射殺され、その後必死で子育てをして7年半。
今、狼の大虐殺が進行してます。人間の都合で減らしては増やし、また減らす。
報いあれ。
52. 匿名処理班
外国産トキを繁殖させてる日本があれこれ言える立場じゃないわな
53. 匿名処理班
>>23
鹿やイノシシを狩れる動物って農家にも脅威だよ。ヒグマくらい戦闘能力あるのがウロウロするわけだから。
でも、猿の対策に犬を放し飼いしてるところはある。鹿やイノシシより猿の方が対策は難しい。犬の効果は抜群らしいです。
54. 匿名処理班
※2
すでにいるオオカミに追加で入れられたんだから大丈夫なのかもよ?