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image credit:nasa
 宇宙も神秘だが、深海もまた神秘である。

 宇宙の謎に迫るNASAは深海の謎にも迫っている。

 40億年以上前、混沌とした地球において新しい生命の火花がひらめいた。

 これがどのようにして起きたのか、確かなことは明らかになっていないが、証拠からは、それが起きたのは太陽の光が届かない暗い海の底だったことが示唆されている。

 地球で生命が誕生したメカニズムを知ることができれば、宇宙のどこかにいるかもしれない生命を探索するうえで、大きな手がかりになることだろう。

 そして今、NASAの研究者は、生命の火花がひらめいたであろう海底環境を再現することに成功した。
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生命はどこで誕生したのか?

 生命の起源に関する仮説の1つによれば、海底にある熱水噴出孔が関係しているという。ここは、しばしば火山活動が活発な場所で、地球内部からの熱が逃げてくるところである。

 原始の地球には、有害な太陽からの紫外線が大量に降り注いでいた。このために、最初の生命が誕生したのは、そうした紫外線が届かない海の底だったのではと推測されている。

 幸いにも熱水噴出孔の周辺では、光合成という地上のほとんどの生命にとっては必要不可欠なプロセスを行う必要がない。

 かわりに、そこにいる生物が利用するのは「化学合成」というやり方だ。

 熱水噴出孔の近くで生きるバクテリアは、そこから噴出してくる硫化水素と海水に含まれる酸素の反応といった、化学エネルギーを利用して糖分子を作り出す――これが食料となる。

 こうしたバクテリアさえ登場してくれれば、ほかの生物はこれを食べ、彼らが作った栄養を摂取することができる。こうして暗闇の中で食物連鎖が形成されるのである。
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image credit:NASA/JPL-Caltech

地球以外にも存在する可能性がある熱水噴出孔

 NASAの研究者がこの現象に注目するのは、木星のエウロパや土星のエンケラドゥスといった太陽系内の凍てついた衛星の中には、氷の下にたたえられている海に熱水噴出孔を隠し持っているものがあるかもしれないからだ。

 生命誕生の条件を探っているNASAジェット推進研究所の宇宙生物学者ローリー・バージ(Laurie Barge)らは、化石記録を参考に、ビーカーの中にミニチュアの海底を作り、原始の海の状態を再現してみた。

 彼らが期待していたのは、これが苗床となり、タンパク質の構成要素であるアミノ酸が成長してくれることだ。

 「実際の細胞が登場するために、どのくらいの有機物やミネラルが必要になるのか理解することは、生命が誕生する環境を把握するうえでとても重要です」とバージ氏は説明する。

 噴出口の中の大気、海、ミネラルといったものが、このことにどう影響するのか分かれば、ほかの惑星でこうした環境が生じうるのかどうかを知るヒントになるのだという。
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image credit:NASA/JPL-Caltech

原始の海の状況を再現

 バージ氏らが再現した原始の海水は、水とミネラル、それから熱水噴出孔で形成されるピルビン酸塩とアンモニアの2つの分子(アミノ酸の形成に重要)を混ぜたものだ。

 また原始の地球にあった無酸素の海に近づけるために、水から酸素を取り除き、pHをアルカリ性に調整。さらに初期の地球に豊富にあった緑青――すなわち水酸化鉄を加え、熱水噴出孔周辺の温度に近い70度に加熱した。

 この水に少量の酸素を注入したところ、アラニンというアミノ酸が形成された。

 さらにアミノ酸反応の副産物であり、複雑な有機分子と結合して生命を誕生させる可能性があるαヒドロキシ酸までも確認された。

 「初期の地球に似せた地質学的条件では、海底に実際にあると思われる穏やかな条件下のシンプルな反応から、アミノ酸とαヒドロキシ酸が形成されることを証明しました。これは、おそらくほかの惑星でも言えることでしょう。」

 今回のことは、熱水噴出孔が作り出すエネルギーやそこに現れる素材についての9年越しの研究の成果なのだそうで、ようやく初めて有機反応が観察された形だ。
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image credit:NASA/JPL-Caltech

氷の衛星での生命発見の期待は高まるばかり

 太陽系に地球以外にも生命が存在するのだとすれば、その最有力候補は、先ほど述べた氷の衛星である。

 そして、今回のような熱水噴出孔の研究によって、そうした衛星が探すべき場所であるとますます強く示唆されている。

 事実、昨年には、エンケラドゥスから噴出する塩水のプルームの中に複雑な有機分子が発見されているのである。

 「地球以外にも生命が存在するという具体的な証拠はまだ見つかっていませんが、その起源に必要となる条件を理解すれば、探すべき場所をいっそう絞り込めます」とバージ氏は話す。

 今、NASAはエウロパとエンケラドゥスの探査ミッションを検討している。

 この研究は『PNAS』に掲載された。

References:NASA Astrobiologists Have Recreated The Deep-Sea Origins of Life in The Lab/ written by hiroching / edited by parumo

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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 10:03
  • ID:5uBNJ1RI0 #

すごくわくわくする。
地球外で生物が生じてるなら知りたいけど、観測することで干渉することになってはならないとも感じるのでとても歯がゆい。

2

2. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 10:17
  • ID:d7WWPYCO0 #

緑青って、酸化銅では?

3

3. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 12:20
  • ID:fRMVpztI0 #

ちょっと待て。酸素を利用する生命はシアノバクテリアが出る以前にいたのか?シアノバクテリア登場以前は利用できるほど酸素は無かったと言われてるんだが。

4

4. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 14:44
  • ID:MDz1YNoF0 #

HAL9000「但し、エウロパを除く・・・」(2010年宇宙の旅)

5

5. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 14:54
  • ID:JQJ.8Pet0 #

氷の下に液体があり、そこに高度な文明が栄えてる天体もあるかもしれないな
むしろ大気におおわれてる天体よりも液体におおわれてる天体のほうが安全で文明が栄えるには都合がいいかもしれない

6

6. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 16:56
  • ID:U0Yzylm60 #

※5
ただ、水圧というモノがあるので熱源とその流れを確保しつつ、多様な生命を育めるようなそれなりの大きさの水惑星、となると海老カニタコ的な生き物になるのかな。
タコは知能高いと言うし、有り得なくはないね

7

7. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 17:01
  • ID:1IFyAqI80 #

惑星の海の中で生命が発生するのは、必然の事なのかな。さらにそこから知的生命体に進化してゆくのも必然なのかな。さらに宇宙へ進出してゆくのも他惑星に植民して生命圏を広げてゆくのも必然なのかな。さらにさらにブラックホールを操作して他の宇宙へ向かうのも必然なのかな。そして自ら宇宙を創造して、神への道を歩み始めるのかな。果てしないループだな。

8

8. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 18:13
  • ID:2ZLRG1UP0 #

※7
人類は宇宙へ進出できないし、他惑星に植民して生命圏を広げてゆくこともできない。
人類は地球でしか生存できないのが必然で、やがて滅びるのも必然

9

9. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 19:18
  • ID:QH..KFUf0 #

60年以上を経て、ふたたびミラーの実験に戻ってきたのか。感慨深いね。

10

10. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 19:25
  • ID:G8CBdaEO0 #

地球は生命が誕生したときとは
かなり環境が変わっちゃってると
思うけどなあ

11

11. 匿名処理班

  • 2019年03月04日 20:08
  • ID:5jrhWS.i0 #

※8
知的生命体への進化が必然なら、
サイボーグ化やロボットへの移行も進化の過程なのかもしれない。
彼らが宇宙へ版図を広げる日が来るなら、
子供の自立を祝うべきなのかもね。

12

12. 匿名処理班

  • 2019年03月05日 01:04
  • ID:o4.RK8UW0 #

ジーンダイバーで見たわ
有機体が無機物を取り入れて骨格にしていくのな

13

13. 通りすがり

  • 2019年03月05日 09:11
  • ID:l5oRUfbh0 #

アミノ酸が出来るまで9年かけた努力は凄いです

実際に生物を発生させるには?と
考えると地球の規模でも38億年で4種類の塩基を配置した二重螺旋の遺伝子を持った1パターンしか無い事からほぼ絶望的に感じます

生物が誕生したのに生物と呼べる物は1度しか発生してない極めて例外的な現象です

人間の観測出来る範囲に居るのだろうか?

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