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催涙ガスを使うとなぜ涙が止まらなくなるのか?その仕組みと安全性(米研究者)

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(著) (編集)

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image credit:spaceflattenerFlickr
 催涙ガスは燃える。これが目や皮膚、肺や口など、ガスが触れた場所ならどこにでも焼け付くような痛みを与える。

 それはとてもじゃないが目を開けていられなくなるほどの痛みだ。それから咳が止まらなくなり、嘔吐までするようになる。

 人体にこれほどの影響を与えるガスとは一体どのようなものなのだろうか?

 10年以上、催涙ガスについて研究しているアメリカ・デューク大学のスベン・エリック・ヨルト氏は、催涙ガスがぴったりな名称だとは考えていない。厳密に言えば、そもそもガスではない――空気に舞い散った粉末だ。

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image credit:Exploded tear gas canister on the fly in Greece

疼痛受容体を直接刺激

 ヨルト氏によれば、催涙ガスが苦痛をもたらすのは、痛覚の受容体を直接活性化させるからだそうだ。

 サリンガスのような兵器は筋肉を麻痺させて、窒息させるようにできている。人を殺すよう設計されたものだ。

 一方、催涙ガスの目的は、最大限ひどい目に遭わせて、群衆を追い払うことである。

 そのために、どの催涙ガスも「TRPA1」と「TRPV1」という疼痛受容体のどちらかを活性化させるように設計されており、どちらの受容体を活性化させるかで大きく2種に分けられる。

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催涙ガスを使用するフランス国家憲兵隊 image credit:wikipedia commons

TRPA1活性剤タイプ

 TRPA1を活性化させるタイプのものは、クロロベンザルマロノニトリルという化合物が含まれており、開発者ベン・コーソンとロジャー・ストーンにちなみ「CSガス」と呼ばれる。

 これは塩素含有化合物で、燃えることで微細な粒子として空気に拡散し、皮膚や衣服に付着。人体の生分子やタンパク質と化学反応し、はげしく焼けるような感覚を与える。

 致命傷を与えることは滅多にないが、催涙ガスの缶が人に命中したり、逃げ場のないような閉所で使用されたりすると、死者が出ることもある。

 特に子供に対する危険は高い。それは子供の体や肺が小さいことはさりながら、ガスが低いところに溜まりやすく、背の低い彼らはより高濃度のガスに巻かれる傾向にあるからだ。

アラブの春で使用され大きな被害

 TRPA1活性化剤としてはCSガスがもっとも一般的だが、最近では新しいものの採用も増えている、とカリフォルニア大学バークレー校のロヒニ・ハール氏は説明する。

 それは「CS2」や「CX」と呼ばれるもので、シリコンを含んでいるために、分解されにくく、数日は効果が持続するという、一層危険なものとなっている。

 TRPA1活性化剤には、ほかにも「CRガス(ジベンゾ-1,4-オキサゼピン)」や「CNガス(クロロアセトフェノン)」があり、どちらもCSガスより強力だ。

 2010~2012年にアラブ諸国で起きた民主化運動、いわゆる「アラブの春」で民衆に対して繰り替えし使用され、大勢の妊婦が流産(化学物質だけでなく、ショックやストレスの影響も考えられる)するなど、大きな被害をもたらした。

唐辛子スプレータイプ

 別のタイプの催涙ガスが唐辛子スプレーで、TRPV1疼痛受容体を活性化させるものだ。

 ほとんどは唐辛子の辛さの源であるカプサイシンを配合したもので、天然のカプサイシンを濃縮した溶液「OCガス」と合成カプサイシンを利用した「PAVA」が代表的だ。

 ハール氏によると、これらは化学反応やアレルギー反応は少ないが、油なので落とすことが難しく、効果の持続時間は長い。

 また直接目に入ってしまうと、角膜剥離が起きる危険もある。

移民の移動に使用された催涙ガス Is Tear Gas A Nacho Topping

催涙ガスはそれほど安全ではない

 催涙ガスの長期的な影響は、その種類が何であれよく分かっていない。

 しかしハール氏がパレスチナ自治区のアイーダ難民キャンプやドハイシャ難民キャンプで行なった調査では、毎週のように催涙ガスに暴露した住人に、慢性的な呼吸困難、発心、疼痛といった症状が出ていることが明らかになっている。

 さらに心にトラウマを植え付けるという証拠もあるという。

 こうした被害の大きさを考えると、群衆統制の手段として催涙ガスの使用が正当化されることはない、とハール氏は主張する。

 催涙ガスの使用が大惨事につながった事例として、たとえば2015年のエジプトがある。

 サッカースタジアムで興奮したサポーターを鎮圧するために、警察が催涙ガスを使用し、窒息や踏みつけられたりしたことで、25人が犠牲となった。

 また1980~90年代のドイツでは、警官に催涙ガスを使用された抗議者が火炎瓶で応じるようになるなど、かえって事態がエスカレートしたという事例もある。

 催涙ガスは悲劇や混乱をもたらし、さらに攻撃性まで煽ることがある。「思っているほど安全ではない」とヨルト氏は話す。

References:How Tear Gas Works: A Rundown of the Chemicals Used on Crowds – Scientific American/ written by hiroching / edited by parumo

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この記事へのコメント 37件

コメントを書く

  1. とりあえず「催涙ガス」という名称は間違いなく変えた方がいいですね。「涙を催す」なんて生易しいものではないから。「拷問一歩手前ガス」くらいがいいのではあるまいか。

    • +21
    1. ※1
      催涙って書くとそれほど凶悪な兵器に感じないから使いやすいんだろ
      もっとどんな被害が出るか世の中に知らしめるべきだな

      • +6
      1. ※10
        知らしめるべきは、次いでこん棒、実弾による水平射撃とフルコースが待っている事。

        • -1
      2. ※10
        要するに名称の時点でトリックを仕掛けられているわけだ。
        「催涙ガスでデモを鎮圧」なんて報道が出たら、大多数の人は「穏便に済んでよかった」と思うだろう。「皆で泣いて大団円じゃんw」なんて(かなり悪質な)冗談すら出るかもしれないね。

        • +8
        1. ※28
          >穏便に済んでよかった

          最近はあんまりないけど、ちょっと昔の世界は「軍によってデモ隊射殺」とか「デモ隊を戦車で轢殺」とかザラだったからな。「催涙ガスでデモを鎮圧」なんて、十分に”穏便”だったんだよ。

          • 評価
  2. 悲しい話を大音量で流して泣かせるとかどうかしら

    • 評価
  3. 争いを止められない人類の愚かさが悲しくて涙がとまらなくなるのさ…

    • +7
  4. この前のパリ暴動でも催涙ガスを投げられたおばあちゃんが死んでたよね…
    そこまで危険なものにする必要があるんだろうか
    催眠とかじゃだめなのか

    • +10
    1. ※5
      ごく短時間で人を昏倒させる方が、たぶん薬剤としての有害性やリスクが高くなるんだと思うよ。だから麻酔には専門医が必要なわけだし。あと、パリ暴動のおばあさんの件(厳密には同じ抗議運動のマルセイユでのデモで、おばあさんは被害を避けようとした地元住民)は催涙弾のキャニスターに当たったことが原因らしい。ガスの直接的な効果ではなく。なので、おそらく麻酔ガスだったとしても同じことが起きる可能性はあるんじゃないかな。

      • +8
  5. え?カプサイシンって、この前アマゾンのロボットが発射したクマスプレーと同じなの?!
    催涙弾ってもっとマイルドなものだと思ってた。

    • +13
  6. 受ける被害が酷いから改名は必要だろうけど、他に大規模&暴徒に対して比較的安全に無力化する方法がなければ使われ続けるだろうなあ

    • +8
  7. よくわかんないけど「わさびガス」とか作れば天然素材のみでそれなりの効果をあげそう

    • +1
  8. 抗議者が火炎瓶で応じるから安全ではないというのなら
    銃で即死させるのが一番被害が少なく済む事になる

    • -6
  9. 暴徒鎮圧用のパラボラアンテナ型電波照射機みたいなのを何年か前に海外で開発してたが実用化されたのかな。照射すると体表だけ痛みをあたえる電子レンジみたいなの。

    • 評価
  10. ロックンロールのアヤトラだな!

    よく意味がわかんないケド

    • 評価
  11. CSガスは実験で食らったことあるけどヤバイねー
    想像より超強力

    長時間浴びると死ぬのも納得の威力がある

    • +4
  12. 良く考えれば、興奮して暴れてる大の男らが苦痛のあまり動けなくなるような、そんな薬剤だもんな。
    そらヤバいよ。

    • +8
  13. ギリシャのわんこも催涙ガスのせいで亡くなったしな

    • +4
  14. ゴム弾、放水、電気銃、音響攻撃とかもいろいろあるけど
    完璧な非殺傷は難しいよね

    • +4
  15. 暴力を振るわずに集団を無力化する兵器って発明されてんのかな
    キック・アスの架空のゲリ・ゲロマシンみたいな

    • 評価
    1. ※21
      あるよ。

      低周波を浴びせてヤル気をなくさせる物。
      ただし、猛烈な鬱状態を引き起こし、嘔吐、ショック症状に長期間苛まれる場合がある。

      指向性の大音響を浴びせる物もある。
      ただし、平衡感覚の喪失、聴覚以上、嘔吐、ショック症状に長期間苛まれる場合がある。

      まあ、外から本人が望まない衝撃を加えるって点では暴力と然程変わらないが、見栄えがいいし、それを暴徒や海賊に云々言われる筋合いもない。

      • -2
      1. ※23
        暴徒や海賊じゃなく知識人や研究者から言われれば納得する
        かと言うとそうでもないんでしょ

        • +4
  16. ドリアンや
    シュールストレミングはどうだろう
    クッサイと皆やる気無くして
    家に帰りそう

    • -2
  17. 涙って字面が弱々しさを感じる
    鎮圧弾とか催苦弾とか制圧弾とか撃退弾とか

    • +2
  18. バスガスバクハツ ガスガスバクハツ バスバクバッカス

    • 評価
  19. 催涙ガス だと 涙が止まらないし
    C-C-B だと ロマンティックが アレだ

    • +2
  20. こんな強力で後々まで影響残るかもしれないもんだったとは。
    今年のツール・ド・フランスで農家の?人たちがコース上を塞いだことがあって(こういう抗議活動自体はよくあることらしい)、それを排除するために警察が催涙弾使ったんだけど、そこへ選手たちが来て、レースは一時中断、みんなペットボトルの水で顔を洗ったりしてたけど、その日は実力発揮できなくなっちゃった選手もいたかもしれないな。

    非殺傷武器って言っても、結局は鎮圧が目的なんだから、何かしら強力な効果を持たざるを得ないんだろうな。

    • +3
  21. 警察が催涙ガスを使用することに、どの様な合法性があるのだろう。デモを鎮圧することの合法性も気になる。権力の側が市民に向けて暴力を行なうことの合理的な理由を明確にしてほしい。民主主義の法治国家で催涙ガスの使用を許可するにはそれなりの手続きがあるだろう。催涙ガスの使用は本当に合法なのかな、再検討してもいいと思う。

    • -1
  22. とはいえ暴徒と化した集団鎮圧すんのに
    人体に無害でトラウマになる事なく平和的に鎮圧するのは無理だ
    ハロウィンのお祭りですら高揚した集団が渋谷でバカやらかした
    それを対話で鎮圧できたら苦労しない
    なすがままにしとくわけにもいかない
    そもそも催涙弾必要になる場面に老人、子供連れてくやつがおかしい

    • -2
  23. ぶっちゃけ名前なんてどうでもいい
    催涙ガス撒かれるようなアホ共をどうやって減らすか考える方が有意義

    • -1
  24. 催涙ガスなんて使われる側に問題あるだろ
    デモと称して暴徒化したり、群衆の暴徒なんて催涙ガス使われなくても死者でるし
    鎮圧として銃殺されないだけマシ

    • -1
  25. 発心ではなく発疹?
    いきなり殺されるよりマシだけど(流産もあるようだけど)、結構厳しい化学物質だったんですね。
    カプサイシンの方もそんなに危険なものだったとは知らんかった。

    • 評価
  26. 日本でも左翼学生運動の組織化暴徒(あれはもはやデモとは呼べない。)が暴れ回ってたことがあるけど、投石なんて普通に死人も出るから銃で反撃されても文句言えないレベル。
    放水とか無力化ガスとかは対処としてはまだ穏当なほうなんだよね、これでも。

    • 評価

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