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心停止患者の血液を抜き、冷却液を注入して低体温下で治療する試みが始まる (ピッツバーグ大学)

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(著)

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 米ペンシルベニア州の名門、ピッツバーグ大学の提携病院で、外傷性心停止になった患者の血液を抜き、代わりに血管を冷たい生理食塩水で満たして10度に冷やした状態で治療する試みが始まったそうだ。

 映画、スターウォーズでは、ハン・ソロが輸送のため冷凍にされ仮死状態にされた。そんなSF映画のような医療措置が実際に開始されるのだ。

 アメリカの医師たちは、本来なら致命傷となる銃創や刺し傷のある患者を助けるため、未来的なアプローチを試そうとしている。

 ピッツバーグ大学医学部集中治療医学科教授で執刀医を担当するサミュエル・ティッシャーマンによると、患者を冷やして、患者の血液細胞が酸素をあまり必要としない状態にし、刺し傷なり銃創なりの構造的な問題の修復に当たるそうだ。

 この技術は「緊急保存と蘇生」(Emergency Preservation and Resuscitation)、略してEPRと呼ばれ、患者の体温を急速に10℃まで下げることで細胞の活動を極限まで抑制し、蘇生までの時間的猶予を人工的に引き延ばすものだ。

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 この技術の理論的な背景には、すでに医療現場で使われている「深部低体温循環停止」(Deep Hypothermic Circulatory Arrest: DHCA)がある。心臓手術などで用いられてきたこの方法では、体温を20℃程度まで下げ、心臓の拍動(ポンプの動き)を止めることで安全な手術を可能にしている。

 EPRではこれをさらに押し進め、心停止状態の患者の血液をすべて抜いて、冷たい生理食塩水を体内に流し込み、わずか15分ほどで全身を10℃にまで冷却する。血液を抜くことで代謝は極端に低下し、酸素をほとんど必要としない状態に変化するのだ。

 常温下での人間の体は、細胞が多量の酸素を必要とする。つまり、体中に酸素を供給する血液を運ぶ心臓が止まったら、その人はすぐに死んでしまうわけだ。

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深低体温状態の時の細胞。人間の細胞を損傷を与えることなく仮死状態にするという挑戦が始まる。

 今までに行われてきた手術中における人体の冷却方法とは、血液を冷却装置の中を通過させて血液を冷やし、それにより体を冷やすというものだった。ただしこの方法は緊急医療には適していない。なぜなら体を冷やすのに時間がかかるからだ。

 この処置を受けた患者は、呼吸も心拍もなく、脳活動も停止し、医学的には一時的に死亡した状態になる。しかし、損傷した臓器や血管の修復が完了したあと、体温をゆっくりと元に戻すことで、心臓の拍動が自然と再開することが動物実験でで確認されている。

 この冷却した生理食塩水で血管を満たす方法は、2002年、ミシガン大学の研究者たちがブタを使った実験で開発した。鎮痛剤を投与した豚の血を抜き、代わりに冷たい生理食塩水を満した。豚の体温が10℃になったところで、豚の外傷を手術したところ、手術が終わるとそのまま体温が上昇していった。その後生理食塩水を抜いて、元の豚の血液を体内に戻したところ、ほとんどの豚の心臓が自発的に鼓動を取り戻し、長引く後遺症等もなかったということだ。

 また2008年にはピッツバーグ大学で行われた犬を使った実験行われている。

 そしてついに人間でこの技術を試す時がやってきた。しかし、これを試すには、条件にピタリと当てはまる患者が必要だ。怪我により心臓が止まったばかりで、なおかつ、従来の方法では蘇生が不可能な患者でなければいけないのだ。銃で撃たれた直後の患者などがこれにあたるだろう。

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 ニュー・サイエンティスト誌によれば、ピッツバーグ大学の提携先であるUPMCプレスビテリアン病院で、既に2014年3月下旬に手術の準備は整っており、あとはこの手術に適した患者の到着を待つのみだそうだ。

 執刀医のサミュエル・テッシャーマンはニュー・サイエンティスト誌にこう語った。

確かに一旦患者の命を止めることになるのですが、これをSFなどで出てくる”冷凍睡眠”という言葉で表したくはないです。我々は生命を「保留」にしているだけです。

 アリゾナ大学の研究者ピーター・リーはこう付け加えた。

死後2時間経った患者が到着しても我々は命を救うことはできません。しかし、今まさに死ぬところであるという場合なら、いったん低温の仮死状態にしてから構造的な内部の手術を終えれば、あるいはもしかしたらその命を救うことができるかもしれないのです。

 術後は自然に息を吹き返すことが期待されるが、もしもそうならなければ従来の蘇生術を行う。いずれにせよ、一度はさじを投げられた患者である。何もしなければ死んでいってしまうのだ。試さない手はないだろう。

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映画『エイリアン』(1979)で宇宙船の長距離航行の間、代謝を大幅に低下させて眠り続ける装置「ハイパースリープチャンバー」から目覚める乗員たち

References: Dailymail.co.uk / Newscientist

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この記事へのコメント 51件

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  1. 該当患者がでたらキター!ってなっちゃいそう

    • +14
  2. アメリカのドラマ「ドクターハウス」で似たようなことやってたな

    • 評価
  3. 体温下げて手術ならもうアルネ。
    以前やったことがある。

    • -3
  4. こういう治療でも臨死体験はするんだろうか?

    • 評価
  5. 脳障害が残る結果にならなければいいけど

    • +16
  6. 炭素冷凍から解除されたハン・ソロが冷凍されてたにしては
    ちょっと老けてたのは悲しかった
    ばたっと倒れこんだ時にお腹の肉がタプタプと・・・

    • 評価
  7. 医療目的という名目でコールドスリープの人体実験のサンプルが欲しいだけだったりして。

    • -7
  8. エボラ出血熱で回復の見込みが薄い患者にも過去に全血交換が試みられたことがある、というのをどこかで見た気がする。そのケースでも確か全身の血液を生理食塩水で一時的に置き換えて、新しい血液を輸血したと説明されてたように思うんだが、成功したという文面を読んだ記憶がないのでたぶん失敗したんだろうな…。

    • +4
    1. ※9
      エボラ出血熱でそんなんやったの?恐いな
      てか今ギニアでのエボラ出血熱の感染拡大がヤバイ首都でも感染者出始めてる…

      • 評価
  9. 血圧を気にしたり心臓が止まりそうになるたびにいちいち蘇生に追われる必要がなくなるから
    普通の難しい手術などでも行われるようになるんだろうな

    • 評価
  10. そして金のある者のみが生き残る時代到来

    • +2
  11. 手塚治虫の漫画読んでると、ほんとそんな感じになりつつあるなと思う時がある。

    • +2
  12. このような最先端医療が日本で普及するのは30年後です
    最初の10年は厚生労働省と医師会の飲み会になります
    そうやって認可されてない最先端医療が山ほどあるんだよ
    健康に心配がある人はアメリカかドイツかブルネイにいけ
    お金をたっくさんたっくさん持ってね

    • +5
  13. 一生働かなくてもいいようなお金貰えるなら、その手術受けるよ
    死んだときは、その10倍家族に払ってくれれば文句ない

    • 評価
  14. つまり、ドラクエのあの棺は冷凍庫だったのだぁッ!!

    • +7
  15. 冷やす時は脳から、戻す時は脳が最後、とすれば
    脳がダメージを受けずにすむのかな。

    • 評価
  16. これ凍らせるのとは違うから長期間そのままにはできない代わりに細胞が傷つくこともないんだろうな。
    それにしても血を全部抜いて別の液体入れて、また戻しても大丈夫って…生き物ってすごいな

    • +1
  17. 昭和天皇がどんどん若い血を輸血して命を長らえさせたのは有名な都市伝説
    ありえない話ではないな

    • -11
  18. 起きたら脳が部分的に死滅していて性格が変わってそう・・・。

    • +1
  19. 最後の写真のせいでこの方法で手術を受けると後で体内からチェストバースターが出てくる感がただよう。

    • 評価
  20. 後で手術するから、保存処置しといてー
    500年後
    あれ?こんなところに保存体が寝てるぞ、誰だ?

    • +6
  21. おじさんはワンダービートスクランブルを思い出したよ

    • 評価
  22. 数年くらい前にNHKで未来の医学予想でやっていたけど
    これら以外にも細胞を重ねて臓器を作るとか、
    実現されていることもあるから医学の進歩はすごい。

    • 評価
  23. 1000年後、人間はホログラムの身体を手に入れて宇宙を飛び回っているはず。

    • +1
  24. そのうち不老になる薬とか本当に作られそうな科学の進歩だな

    • 評価
  25. 5コメで脳障害を言及してたが、昔読んだ記事では猫の脳波が(低体温か、凍結からの解凍のどっちなのかは、とにかく)「(猫の?)新生児の脳波になっていた」という例を載せていたな。

    • +2
  26. コメの後半削ったよ・・・パルモ先生~、侮蔑・差別その他使ったつもりがないのに、NGワードに判定される基準が奇奇怪怪ッスよぉ~

    • 評価
  27. 倫理的な問題とかハードルはあるんだろうけど
    こういう技術は発展していってほしいね。できれば健全に。

    • +3
  28. っていうか、昔流行った冷凍保存された人たちは
    いつか復活できる日はくるのだろうか?

    • +5
  29. 東洋医学は再生に力を入れるけど西洋は生のための破壊を取り入れてるね

    • +1
    1. ※34
      そんなん現代でも一緒だろ。
      安価なワクチンを投与すれば治る病人が貧乏故にワクチンを買えずに死ぬなんて日常茶飯事

      • +2
  30. エイプリルフールネタ?
    ところでシューマッハはどうなったの?

    • 評価
  31. これってさ、仮に助かったとしても、その後の治療費請求書見たら心臓止まるんじゃね?

    • +6
  32. 早く人体実験したくてうずうずしている医者たち
    運ばれて来た緊急患者のサジを早めに投げちゃうなんてことは・・・?!

    • 評価
  33. 低体温療法は聞いたことあるけど
    (脳がむくまないように体温を35℃だか34℃だかに下げる治療)
    血液を置き換えるってのが凄いな。

    • +1
  34. せっかく蘇生してその人が後遺症もなく生きていけたとして、
    治療費を理由に自殺なんてならないといいけど・・・

    • 評価
  35. フォーエバーヤングだっけ?メルギブソンの。浦島太郎になったりしてw。

    • 評価
  36. より効果的な液体を探すうちに、人工血液の完成に行き着くフラグ

    • 評価
  37. 脳における血液の重要な役割が「冷やす」こと。
    脳に酸素が行かない以上に、熱くなることにより脳は破壊される。
    今回の手技はもしかすると技術革新(パラダイムシフト)になるかも知れない…。

    • 評価
  38. シューマッハの「人工的な昏睡状態」にちょいとひっかかりを感じたが、金があればこういう最先端治療(上手く行くかどうかの実験込みな)も実施されるのだなー。オレには無縁なハナシ。

    • 評価
  39. そのお医者さんがどの様に言おうと、
    どう考えてもクライオニクスです。
    本当にありがとうございました。

    • 評価
  40. 輸血利権があるから日本では無理だけど生理食塩水のみを使用した手術を行う病院はアメリカに存在するらしい。

    • 評価
  41. ある程度冷たい物と入れ換えるとはいえ本当に血液を全部抜いて脳含めた細胞が酸欠でダメージを負うのを防げるのか?細胞は血が抜けたら細胞死までの時間なんて即時に近いのに

    • 評価

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