この画像を大きなサイズで見るカナダの閉鎖された海洋公園から救出され、新天地での生活を始めたばかりだったシロイルカたちに、悲しい出来事が相次いでいる。
2026年8月25日、アメリカ・シカゴのシェッド水族館は、メスのシロイルカ「ピーカチュ」が死亡したことを発表した。
さらに9月2日、ピーカチュと同じ便でシカゴにやって来たメス「レイン」と、もともとシェッド水族館で飼育されていたオスの「ベートーベン」の死亡も発表された。
ピーカチュとレインは、カナダ・オンタリオ州のナイアガラフォールズにあった「マリンランド・オブ・カナダ」から、8月13日に移送されてきたばかりだった。
わずか8日ほどの間に3頭が相次いで死亡する事態となったが、現時点で3頭の死に関連があるのかどうかはわかっていない。
参考文献:
- Sharing in the Loss of Beethoven and Rain | Shedd Aquarium
- Remembering Peekachu, a Rescued Beluga Whale | Shedd Aquarium
閉鎖されたマリンランドから30頭のシロイルカを救出
2026年7月29日付のカラパイアで伝えたのは、4頭のシロイルカ(ベルーガ)がシェッド水族館へ移送されたことまでだ。まず、当時の状況をざっくりとおさらいしてみよう。
マリンランドは2024年夏を最後に一般営業を行っておらず、施設の売却を進めていたが、そこにはまだ多数の動物たちが残されていた。
2025年には30頭のシロイルカと4頭のイルカを、中国の長隆海洋王国へ移す計画が持ち上がったが、カナダ政府は中国への移送を認めなかった。
八方塞がりとなったマリンランド側は、移送先が見つからなければシロイルカやイルカを安楽死させざるを得なくなる可能性があると政府に訴えた。
そこでアメリカのシェッド水族館やジョージア水族館、シーワールド、スペインのオセアノグラフィックなどが参加する大規模な国際救出活動が始まったのである。
シェッド水族館へやって来た10頭
その中で、シカゴにあるシェッド水族館は、最大で10頭のシロイルカを受け入れることになった。
7月21日、第1陣としてアーケイディア、オサイリス、シエラ、リルエットのメス4頭が到着した。これが前回カラパイアで紹介した4頭である。
そして8月13日、第2陣としてカスピアン、ピーカチュ、セコード、レインのメス4頭がシェッド水族館に到着した。
ピーカチュは23歳。右目が見えず、比較的小柄な個体だったが、シェッドに到着すると新しい水槽を泳ぎ回り、仲間との交流にも大きな問題は見られなかった。
イカやニシン、カラフトシシャモを飼育スタッフの手から食べ、ガラス越しにスタッフの様子を興味深そうに眺めることもあったという。
また、レインは20歳で、セコードやリルエットと過ごすことを好んだが、ほかの個体とも仲良く過ごしていたそうだ。
到着から12日、ピーカチュが突然死亡
新しい環境にも順応し始めているように見えたシロイルカたちだが、飼育スタッフは24時間体制でその健康状態を見守っていた。
そうした中、ピーカチュは餌が与えられても、十分な量を食べていないことが確認された。
8月25日に血液を採取して検査したところ、脱水の兆候が確認され、輸液などの治療が必要と判断された。
その日の夜、スタッフが薬と輸液による処置を行っていた最中、ピーカチュは突然死亡した。シェッドに到着してから、わずか12日後のことだった。
翌日、シェッド水族館は公式Instagramでピーカチュの死を公表した。
私たちは当初から、これほど大規模な救出には、不確実な要素が伴うことは承知していました。
それぞれのシロイルカには個別の健康上の問題があり、その全体像は時間をかけなければ明らかにならないものでした。
命を失う可能性があるとわかっていたからといって、悲しみが軽くなるわけではありません。
私たちは心から、ピーカチュともっと長い時間を過ごせることを切に願っていたのです
ピーカチュの剖検はすでに行われているが、最終報告には数週間かかる見込みで、9月4日現在、死因は確定していない。
死亡前に脱水が確認されたことは事実だが、「脱水が死因だった」と判断することはまだできていないのだ。
保護団体からは抗議の声も
ピーカチュの死を受け、カナダの動物保護団体Animal Justiceなどからは、残る6頭のシロイルカの移送を、一時停止するよう要望が出されている。
ピーカチュが死亡した翌日の8月27日、Animal Justiceの法務・権利擁護部門のディレクター、ケイトリン・ミッチェル氏は次のような声明を発表した。
政府は、すべてのクジラとイルカについて移送前に徹底した独立の健康評価を行うと公に約束していました。
それだけに、ピーカチュがカナダから移送された時点ですでに健康状態に問題を抱えていた可能性が高いことは、非常に憂慮すべきことです
Animal Justiceはこの時点で、ピーカチュの移送前の診療記録、輸送中の記録、シェッド到着後の健康状態、剖検記録を第三者が検証し、その結果を公表することをカナダのジョアン・トンプソン漁業相に求めている。
もちろん、シロイルカたちは健康診断を受けずに移送されたわけではない。
カナダ政府は輸出許可の条件として、各個体をカナダで登録された獣医師が診察し、輸送に適した状態であることを確認するよう求めていたからだ。
最後の2頭がシカゴに到着
それでもシロイルカたちの移送作戦は続けられた。9月1日には、7歳のオス「ギムリ」と8歳のオス「ユーコン」が無事シェッド水族館に到着した。
これで約6週間にわたって3回に分けて行われた、シェッド水族館へのシロイルカ10頭の移送はすべて完了した。公式Instagramにはこう記されている。
移送は、この取り組みの一部にすぎません。その後には、一頭一頭の健康状態やこれまでの経歴、必要としているものをより詳しく把握していく作業が続きます
カナダから到着したシロイルカたちは、これから新しい飼育スタッフたちとの信頼関係を築いていかなければならない。
シェッド水族館で長年暮らしてきたシロイルカなら、採血や超音波検査などを安全に行えるよう、飼育スタッフの指示に応じて自発的に体勢を変えるといった行動を身につけている。
だが、新たに移送されてきたシロイルカたちとの間には、まだそうした信頼関係は構築されていない。
そのためスタッフは24時間体制で、食欲や水分補給の状態、行動、仲間との関係などを観察しながら、それぞれに必要なケアを判断している段階なのだ。
その直後、さらに2頭のシロイルカが死亡
だが、悲劇はまだ終わらなかった。ギムリとユーコンが到着した翌日の9月2日の午後、シェッド水族館ではさらに2頭のシロイルカが相次いで死亡した。
マリンランドからピーカチュと同じ8月13日にやって来た20歳のレインと、30年以上シェッド水族館で暮らしてきた34歳のオス、ベートーベンである。
1992年生まれのベートーベンは、シェッドで最年長の成体オスだった。体長約4.3m、体重約860kgで、同水族館では2番目に大きなシロイルカでもあった。
一方のレインは、まだ新天地での生活を始めたばかりだった。シェッド水族館は公式Instagramで次のように説明している。
ピーカチュが亡くなってから間もない中、さらにこの2頭を失ったことは、彼らを知り、愛してきた多くの人々にとって、言葉では言い表せないほどつらい出来事です。
一刻も早く答えを知り、この出来事を受け止めたいという皆さんの気持ちはよくわかります。私たちも同じ思いです。
しかし、動物たちに責任をもって向き合うためには、早急に結論を出すのではなく、得られた証拠をもとに何が起きたのかを見極める必要があります
この画像を大きなサイズで見る3頭の死はつながっているのか?
ここで当然気になるのは、ピーカチュ、レイン、ベートーベンの死に何らかの共通原因があるのかということだ。
現在、動物ケア・獣医療チームは剖検のほか、感染症の兆候などを確認する血液検査などを進めている。
だが現在のところ、3頭の死亡が関連していることを示す結果はまだ公表されていない。シェッド水族館は公式Instagramで、次のように述べている。
現時点では、相次いだ死に関連があるのかどうかはわかっていません。新たにわかったことについては、状況が明らかになり次第、皆さんにお伝えしていきます
相次ぐシロイルカの死亡を受けて、Animal Justiceのミッチェル氏はさらに厳しい声明を発表した。
この性急に進められた大量輸出は、大失敗でした。30頭もの繊細で非常に知能の高い動物が、わずか数週間のうちにマリンランドから移送されました。
その日程は、動物たちの福祉よりも、マリンランドの不動産売却を進める事情によって決められた可能性が高いと考えています。
カナダは移送を急ぐのではなく、十分な確認を行い、本当に輸送に耐えられる健康状態なのか、そして輸送に向けた準備や訓練が適切に行われているのかを確認すべきでした。このような結末になる必要はなかったのです
この画像を大きなサイズで見る救出は終わった。だが問題はまだ残されている。
カナダのマリンランドでは、以前から飼育環境や動物福祉をめぐる問題がたびたび指摘されてきた。
2021年には水質問題を理由に、州当局から海洋哺乳類が苦痛を受けている状態にあると判断され、改善命令を受けている。
また2019年以降、多くの海洋哺乳類が死亡していたことも問題視されてきた。
ただし、施設そのものが抱えていた動物福祉上の問題と、最後まで現場で動物たちを世話し、移送に協力したスタッフは分けて考える必要があるだろう。
シェッド水族館は、今回の国際救出活動を振り返ったInstagramへの投稿で、マリンランドの現場スタッフにも感謝を伝えている。
マリンランドのスタッフの皆さん。長年にわたって動物たちを世話してきたこと、何か月もかけて私たちのチームとともに準備を進め、すべての移送を支えてくださったことに感謝します
マリンランドに残されていた30頭のシロイルカの移送そのものは、9月1日までにすべて完了したことになる。
10頭をシェッド水族館、16頭をシーワールドのサンアントニオとサンディエゴ、2頭をジョージア水族館、2頭をスペインのオセアノグラフィックが受け入れた。
マリンランドに残っていた4頭のイルカたちも、すでにオセアノグラフィックへの引っ越しが完了したそうだ。
下の動画は、スペインのオセアノグラフィックで順調に順応している、19歳のジェリービーンと23歳(推定)のクレオパトラ。
このうち死亡が確認されたのは、シェッド水族館に移されたピーカチュとレインの2頭で、残る28頭は各施設で新しい環境への順応を進めている。
最新の報道では、ジョージア水族館の2頭は順調に環境へ慣れつつあり、シーワールドでも大半の個体は安定しているとのことだ。
下はジョージア水族館に移送された、10歳のバロールと7歳のゼファー。
大規模な移送作戦は終わったが、新しい環境に移ったシロイルカたちの生活は始まったばかりだ。
シェッド水族館は「救出は本当の意味では始まりにすぎない」としている。
ピーカチュ、レイン、そしてベートーベンはなぜ相次いで命を落としたのか。彼らの剖検や検査の結果が出るまでには、もう少し時間が必要である。
ようやく安住の地にたどり着いたシロイルカたちが末永く幸せに暮らせるよう、結論を急がず見守り続ける必要がありそうだ。
References: 2 Beluga Whales Die at Shedd Aquarium One Week After Rescued Whale Peekachu’s Death / 2 more beluga whales die at Chicago aquarium, including 1 recently rescued from Canada - ABC News











