この画像を大きなサイズで見る2020年にお伝えしたアメリカの「脳を食べるアメーバ」、フォーラーネグレリアは、今もその勢力を拡大させており、世界33カ国以上ですでに約500件の感染例が報告されている。
中国・中山大学などの研究チームが国際誌に発表した最新の報告によると、この殺人アメーバによる感染症の致死率は98%を超える。
さらに研究チームは、アメーバの仲間の中に水道の消毒に使われる塩素にも高い耐性を持つ種が存在し、他の細菌やウイルスを体内に取り込んで守る「宿主」にもなりうることを明らかにした。
『Biocontaminant』誌(2025年12月5日付)に掲載された本研究成果は、2026年6月にも複数の海外科学メディアが取り上げている。
参考文献:
- Scientists sound the alarm as dangerous amoebas spread globally
脳をむしばむ「殺人アメーバ」とは
フォーラーネグレリア(Naegleria fowleri)は、湖や川、温泉といった温かい淡水に生息する単細胞生物だ。
カラパイアでは2020年、この「殺人アメーバ」がアメリカ南部で勢力を拡大している件をお伝えした。あれから5年で被害より拡大し、もはや北米だけの話ではなくなっている。
今回発表された報告書によると、すでに世界33カ国以上で約500件もの感染例が確認されている。
アジア、アフリカ、ヨーロッパ、オセアニアなど、各地で報告が相次ぎ、2025年にはインド南西部のケーララ州で集団感染が起き、確定症例69件のうち19人が死亡した。
フォーラーネグレリアは、汚染された水が鼻に入り込むことで感染する。鼻の粘膜や鼻腔の組織を通り抜け、嗅神経をたどって脳に到達すると、原発性アメーバ性髄膜脳炎という、重い脳の炎症を引き起こす。
研究チームによると、この感染症の致死率は98%を超え、発症するとほとんどの人が命を落とす。
主な感染経路は、水泳や水上でのレクリエーション活動とされている。地域によっては沐浴の儀式や、鼻洗浄(鼻うがい)器具の使用も感染経路になりうるという。
この画像を大きなサイズで見る塩素に耐え、ろ過処理を通過するアメーバも
水道水やプールの消毒に使われる塩素は、多くの微生物を死滅させる。ところが一部のアメーバは、この塩素にも高い耐性を持つことが報告書で示された。
研究チームによると、アカントアメーバ属(Acanthamoeba)は100mg/Lという高濃度の塩素に10分間さらされても生き延びる場合があるという。
水回りに潜みやすいVermamoeba vermiformis という種も、通常の消毒で使う濃度の塩素ではほぼ死滅しないことが分かっている。少量の塩素にさらされると、かえって病原性を高める遺伝子の働きが活発になる可能性も報告されている。
いずれもフォーラーネグレリアとは別の種だが、脅威が軽いわけではない。
アカントアメーバ属はコンタクトレンズ使用者に多いアメーバ性角膜炎の原因となり、重症化すると失明のおそれがある。免疫力が低下した人には、致死率の高い肉芽腫性アメーバ性脳炎を引き起こすこともある。
Vermamoeba vermiformis 自体が人に病気を起こす例はほとんど報告されていないが、レジオネラ菌を体内に取り込んで増やす存在として知られている。
アメーバは、乾燥や低温、栄養不足といった過酷な環境に置かれると、殻に包まれたシスト(cyst/嚢子:のうし)という休眠状態に変わる。
この仕組みはフォーラーネグレリアを含むアメーバに共通するもので、塩素や紫外線に対する高い耐性の土台になっている。
また塩素に強いアメーバは、水道管の中にできる生物膜(バイオフィルム)に潜み込み、ろ過処理をすり抜けてしまうこともある。紫外線による消毒も、耐性の高いシストの状態にある個体には効果が限られるという。
アメーバが他の病原菌をかくまう宿主にも
今回の報告書がもうひとつ警鐘を鳴らしているのが、アメーバが持つ「宿主」としての役割だ。
アメーバは本来、細菌やウイルスを捕食して生きるが、一部の細菌はアメーバに食べられても消化されず、アメーバの体内で生き延びて増殖する。研究チームはこの現象を「トロイの木馬効果」と呼んでいる。
アメーバの体内に隠れた細菌は、消毒剤や水処理の影響を受けにくくなり、水道水の中でより長く生き延びる。
そうした細菌のなかには、レジオネラ菌のように人に病気を引き起こす細菌も含まれている。研究チームは、この仕組みが抗生物質に効きにくい耐性菌の拡散にも関わっている可能性があると指摘する。
別の調査では、水道水から採取された24種のアメーバが、細菌やウイルスに加えて抗生物質の耐性遺伝子の運び手にもなっていたことが確認された。
つまりアメーバ1つが、複数の脅威を同時に運ぶ存在になりうることがわかってきたのだ。
気候変動でさらに広がるおそれ
研究チームは、地球規模の気温上昇がこの問題をさらに悪化させる可能性があると警告する。
フォーラーネグレリアのように高温を好むアメーバが、従来より暖かくなった他の地域にまで生息範囲を広げ、人に感染する機会が増えると見られている。
この画像を大きなサイズで見る世界保健機関(WHO)は2025年、飲料水システムにおけるフォーラーネグレリア対策に特化したガイドラインを新たに発表した。
研究チームは、人間の健康、環境科学、水管理を統合する「ワンヘルス」という枠組みでの対策を求めている。優れた監視体制や迅速な診断技術、高度な水処理技術を組み合わせれば、感染が起きる前にリスクを減らせるとしている。
論文の責任著者で中山大学(広東省広州市)に所属するシュー氏は、このアメーバは医療だけの問題でも環境だけの問題でもなく、両方が交わる場所にある存在だ、と述べる。
公衆衛生を発生源から守るには、分野をまたいだ統合的な解決策が求められる。
感染防止の具体的な行動
なお米疾病予防管理センター(CDC)は、フォーラーネグレリアが引き起こす農感染症を防ぐ具体的な行動として、温かい淡水に飛び込んだり潜ったりする際は鼻をつまむか鼻栓を使うこと、湖や川、池の底にたまった堆積物を掘り返さないことなどを挙げている。
鼻の中を洗浄する際は、水道水ではなく滅菌済みの水や煮沸済みの水を使うことも呼びかけてるが、単に水を飲んだだけでは感染せず、人から人へうつることもないという。
■まとめ
この研究でわかったこと
- フォーラーネグレリアによる脳感染症の致死率は98%を超え、発症するとほとんどの人が命を落とす
- 世界33カ国以上で約500件の感染例が報告されており、被害は北米だけでなくアジアやアフリカなど各地に広がっている
- 一部のアメーバは高濃度の塩素に10分間さらされても生き延びるなど、水道水の消毒に高い耐性を持つ
- アメーバは細菌やウイルスを体内に取り込み、消毒から守る「宿主」として機能し、抗生物質耐性の拡散にも関わっている可能性がある
- 気候変動により、フォーラーネグレリアのような高温を好むアメーバが、未生息の地域に広がるおそれがある
■対策(出典:米疾病予防管理センター(CDC))
- 温かい淡水(湖・川・池・温泉など)に飛び込んだり潜ったりする際は、鼻をつまむか鼻栓を使う
- 湖や川、池の底の堆積物を足で掘り返したり、かき乱さない
- 鼻の中を洗浄する際は、水道水ではなく滅菌済みの水や煮沸して冷ました水を使う
- 温泉など加熱された天然の水に入る際は、頭を水中に沈めない
- 水温が高く、水位が低い夏場は、感染のリスクが高まりやすいことを意識する
- 水を飲んだだけでは感染しないため、過度に恐れる必要はない
References: Eurekalert / CDC / CDC / CDC













