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ドイツのエニグマ暗号を解読した数学者が極秘で開発していた携帯型音声暗号装置「デリラ」

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(著)

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Image by Istock / Alphotographic
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 第二次世界大戦中、ナチス・ドイツ軍が誇るエニグマ暗号の解読機器を開発したイギリスの数学者アラン・チューリングは、その裏で自ら暗号を作る装置も極秘で開発していた。

 英国の研究者ジャック・コープランド氏が2023年に公開した直筆ノートから明らかになったのは、チューリングが戦時中に独自開発した携帯型の音声暗号装置「デリラ」だ。

 靴箱3個分に凝縮されたデリラは、チャーチル首相の演説で実証実験にも成功したが、完成直後に戦争が終わり歴史の闇に消えた。

エニグマ暗号解読機ボンベを設計した数学者

 アラン・チューリングは1912年、ロンドン生まれのイギリスの数学者だ。

 第二次世界大戦が始まると、英国の暗号解読施設に集められた数学の天才たちの一人として招集され、ナチス・ドイツが誇る暗号機「エニグマ」の解読に挑んだ。

 エニグマはキーボードで文字を打つたびに内部の電気回路が複雑に切り替わり、元の文字をまったく別の文字へと置き換える暗号機だ。

 しかも暗号の設定は毎日変わるため、1日分の通信をようやく解読できても翌朝にはまた振り出しに戻される仕組みだった。

 チューリングは数学者のゴードン・ウェルチマン氏とともに、ポーランドが開発した暗号解読機ボンバ(bomba)をもとに大幅に改良した「ボンベ(Bombe)」を設計した。

 ボンベはその日の暗号設定として考えられる膨大な組み合わせを高速で電気的に絞り込み、エニグマの解読を可能にした。専門家はボンベによる解読作業が戦争を最大2年縮めた可能性があると評価している。

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ナチスドイツのエニグマ暗号解読機ボンベは、ポーランドのボンバを改良しイギリスで作られた public domain / Wikimedia

解読と並行して極秘で進めた会話の暗号機開発

 しかしチューリングが極秘で取り組んでいたのは、敵の暗号を「解く」装置だけではなかった。

 戦時中、文書による通信の暗号化は各国が整えていたが、口頭での会話を暗号化する技術は大きく立ち遅れていた。

 米国のベル研究所が開発した極秘の設置型音声暗号化システム「SIGSALY(シグサリー)」はチャーチル首相やルーズベルト大統領ら首脳陣が使用した高性能なものだったが、端末1台が30以上のラックで構成され重量は約55トンにも達する超巨大装置で、実戦の前線に持ち込める代物ではなかった。

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ベル研究所の極秘設置型音声暗号化システム「SIGSALY」は、部屋ほどの大きさで、重量は約55トンに達した。Image credit:National Security Agency

 チューリングは1943年、暗号解読施設から約16km離れた別の秘密施設に第2の作業場を設けた。

 昼は暗号の解読に当たりながら、夜はその施設でSIGSALYの弱点を補う携帯型の音声暗号装置の開発を密かに進めた。

 翌1944年、電気工学の新卒者だったドナルド・ベイリーが助手として加わり、チューリングとともに2年間にわたってこの極秘プロジェクトを推し進めた。

携帯型音声暗号装置「デリラ」の開発に成功

 チューリングが完成させた装置は、旧約聖書に登場する「男を惑わす女」の名から「デリラ(Delilah)」と名付けられた。

 55トンのSIGSALYに対し、デリラは靴箱ほどの大きさのユニット3個に収まり、電源を含めた総重量は39kgだった。

 これならトラックの荷台にも塹壕の中にも持ち込める、まさに前線向けの音声暗号装置だった。

 デリラの開発にあたってチューリングが参考にしたのは、ボンベで解読したドイツ軍が使用した最高機密通信用の暗号機、ローレンツSZ42(Lorenz SZ42)だ。

 SZ42は現代のデジタル文字コードの先祖にあたる5ビット電信符号を使い、送信側と受信側が同一の鍵を持つことで暗号化と復号を実現する仕組みだった。

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英ブレッチリー・パークにある国立コンピューティング博物館に展示されているローレンツSZ42暗号機 Image credit: commons.wikimedia / CC BY-SA 4.0

 文字でできるなら音声でもできるはずだとチューリングは考え、同じ原理を音声暗号に応用した。

 デリラの試作機はウィンストン・チャーチル首相の演説を録音した音声で実証実験が行われ、音声の暗号化・送信・復号のすべてに成功した。

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アラン・チューリングと助手のドナルド・ベイリーが試作した携帯型音声暗号装置「デリラ」 Image credit:The National Archives, London

完成直後に戦争が終わり歴史に消える

 しかしデリラが日の目を見ることはなかった。

 実証実験に成功したころには、すでに戦争が終結していたのだ。

 平和な時代に携帯型音声暗号装置は必要ないと判断した英国政府はプロジェクトへの資金を打ち切り、チューリングの2年間にわたる開発は幕を下ろした。

 デリラの存在は長らく歴史の片隅に埋もれたままだったが、2023年にある文書がロンドンのオークションに登場したことで状況が一変した。

 チューリングの助手だったベイリーが2020年に亡くなるまで自宅で大切に保管し続けた直筆ノートや実験記録、通称「ベイリー・ペーパーズ」だ。

 英国政府はこれらの文書を「国家の重要な遺産」として国外持ち出しを即座に禁止し、現在はケンブリッジ大学キングス・カレッジに永久保存されている。

References: Alan Turing’s Secret “Delilah” Project - IEEE Spectrum / Alan Turing’s Private Papers Revealed A Secret Communication Project

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この記事へのコメント 10件

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  1. 携帯型音声暗号装置「デリラ」を発明したとき、チューリングはこう言いました
    「デリラができた」

    • -9
  2. 関係ないけどDelilahって綴りで、日本語字幕ではデリラって表記されるとあるゲームのキャラクター
    英語の会話だと「デライラ」って呼ばれてるけど、どっちがあってるんだろうと気になってる

    • 評価
    1. ヘブライ語読みではデリラだけど、英語読みではデライラになるのよ

      Mozartがドイツ語読みだとモーツァルトだけど英語読みだとモザートになるみたいなこと

      • +4
  3. 情報戦での優位を目指して国家レベルでしのぎを削ってきた暗号化技術。かつては限られた人間しか扱えなかったものが、今は秘匿性の高い某アプリなんかも出てきて一般人でも犯罪組織でも使い放題の世の中だねえ・・・

    • +2
  4. 当時の日本は、カゴンマ弁なら敵に判るまい、なんてやってたけどダメだったんだっけ

    • +1
    1. 現地でたまたま聞いていた鹿児島系の人がいたからバレたけど、アメリカも真似て少数民族の話者を採用したりしたくらいなので発想は良かったんだわ
      ウインドトーカーとかコードトーカーで検索すれば出てくるので是非ご一読。

      • +1
  5. 天才チューリングは
    エニグマの発明により
    戦況を、歴史を変えた大人物です。

    しかし、歴史的な大天才たちが挑み、跳ね返された
    数学の最高難度の証明、リーマン予想に
    チューリングも挑み
    彼も敗北した。

    天才たちの人生を狂わすリーマン予想について
    昔NHKで特番が組まれて観たのを
    思い出しました。

    • 評価
  6. >>2023年にある文書がロンドンのオークションに登場したことで状況が一変した。

    この時点では、「国家の重要な遺産」ではなかったんだね。

    • 評価

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