この画像を大きなサイズで見る魚の腸の中に、海の環境を左右する細菌が潜んでいるかもしれない。
アメリカ・マイアミ大学の研究チームが、魚の腸内に共生するビブリオ科の細菌が、魚とともに炭酸カルシウムを産生している可能性を示した。
炭酸カルシウムは海水中の二酸化炭素を固定する重要な物質で、先行研究では海洋全体の炭酸カルシウム生産のうち、魚類が3〜15%を占めるという推定もある。
これまで魚単独のプロセスと考えられてきたこの現象が、実は細菌との共同作業だったとすれば、地球規模の炭素循環の理解そのものが塗り替えられることになる。
この研究成果は「PLOS Biology」誌(2026年5月18日付)に掲載された。
海の水を飲み続ける海水魚
海に住む魚の体は、海水よりも塩分が低い。そのため、皮膚やえらから体の水分が外へ流れ出てしまう。海水魚はこの水分不足を補うため、常に海水を飲み続けている。
飲み込んだ海水に含まれる塩分は、主にえらから体外へ排出される。
一方、腸では、水分を吸収する過程で、カルシウムやマグネシウムなどのミネラルが炭酸イオンと結びつき、炭酸カルシウムの固体になる。
この炭酸カルシウムは便とともに腸から排出される。魚由来の炭酸塩とも呼ばれている。
魚が作る炭酸カルシウムの量
このプロセスは、海全体で見るとかなり大きな規模になる。
海全体で作られる炭酸カルシウムのうち、魚が作る割合は、推定およそ3〜15%と推定されている。
一方、海全体の魚が腸内で作る炭酸カルシウムの量そのものは、年間0.33〜9.03ペタグラム(1ペタグラムは10億トン)と推定され、今回の研究を含めた最新の推定では、最大約90億トンに達する可能性が示されている。
炭酸カルシウムは、サンゴの骨格や貝殻の材料など、海の生態系を支える重要な物質だ。
海水のアルカリ度の保持に欠かせない物質でもある。アルカリ度が保たれることで、二酸化炭素が海水に溶け込んでも、酸性化が進みすぎるのを防ぐ働きがある。
長年、魚由来の炭酸カルシウムが形成されるプロセスは、単純に魚の体内で起こるものだと考えられてきた。しかし今回の研究は、その常識に新たな視点を投げかけている。
この画像を大きなサイズで見る塩分濃度を変えて魚の腸内を調査
今回研究チームは、硬骨魚類に分類されるガマアンコウ目ガマアンコウ科のガルフトードフィッシュ(英名: Gulf toadfish 学名: Opsanus beta)という魚で実験を行った。
ガルフトードフィッシュは、北大西洋西部フロリダ半島沿岸やメキシコ湾周辺の浅い海に生息し、ヒキガエルのような見た目をしている。体長30cmほどで、海底でじっとしていることが多い底生魚だ。
研究チームは、塩分濃度が異なる3種類の水で、この魚を飼育した。
3種の水の1つ目は、塩分濃度9ppt(1kgの水に9gの塩分が溶けている状態)の汽水で、河口付近のような薄い塩水にあたる。
2つ目は塩分濃度35pptの通常の海水。3つ目は塩分濃度60pptの高塩分の水で、通常の海水よりもかなり濃い状態だ。
それぞれの水で飼育した後、魚の腸の中身を取り出し、炭酸カルシウムの量や、そこに含まれる細菌の種類を詳しく調べた。
この画像を大きなサイズで見る塩分が高いほど炭酸カルシウムが増加
実験の結果、塩分濃度9pptで飼育された魚の腸からは、炭酸カルシウムはほとんど見つからなかった。
一方、塩分濃度35pptと60pptで飼育された魚の腸からは炭酸カルシウムが確認され、塩分が濃くなるほどその量も増えていた。これは、塩分の濃い海水を飲むほど、排出すべきミネラルの量も増えるためだと考えられる。
さらに研究チームを驚かせたのは、炭酸カルシウムの粒の周りに、特定の細菌が集まっていたことだった。
塩分濃度35pptの魚では、フォトバクテリウム・ダムセラエ(Photobacterium damselae)という細菌が、炭酸カルシウムの粒の周りで最も多く見つかった。塩分濃度60pptの魚では、ビブリオ属の別の細菌が最も多く見つかった。
この画像を大きなサイズで見る魚由来の炭酸塩に群がる細菌
フォトバクテリウム・ダムセラエは、ビブリオ科に分類される細菌の一種だ。ビブリオ科の細菌は海水中や魚の体内に広く存在しており、近縁の種の中には、これまで魚や貝などの病原体として報告された例もある。
ただし、今回研究で使われたガルフトードフィッシュに、病気の様子は見られなかった。
研究チームは、ガルフトードフィッシュの腸内細菌が持つ遺伝子の働きを、遺伝子発現解析という手法で調べた。
その結果、フォトバクテリウム・ダムセラエから「ureR(ウレアール)」という遺伝子の発現が確認された。ureRとは、細菌の体内で尿素を分解する酵素の働きを調整する役割を持つ遺伝子だ。
尿素が分解されると、アンモニアと炭酸が作られる。この反応によって周囲のpHが上昇し、アルカリ性に近づく。
アルカリ性の環境では、カルシウムイオンと炭酸イオンが結びつきやすくなり、炭酸カルシウムの結晶ができやすくなる。
ureR以外にも、脂肪酸の代謝に関わる遺伝子や、硝酸塩を分解する遺伝子が、魚の腸内の細菌で発現していることもわかった。これらの反応も、炭酸カルシウムが作られやすい環境づくりに関わっている可能性がある。
細菌が炭酸カルシウムを作るしくみ
魚の腸内に住む細菌は、自分自身の代謝活動を通じて、炭酸カルシウムが作られやすい環境を作り出していた。
魚が排出するミネラルだけでなく、細菌が引き起こす化学反応も、炭酸カルシウムの形成に関わっていたことになる。
これまで、炭酸カルシウムの形成は魚の体内で起こる物理的・化学的な反応の結果だと考えられてきた。しかし今回の発見によって、魚の腸内に住む細菌が、その反応を後押しする役割を担っている可能性が浮上した。
魚と細菌は「機能的共生」関係の可能性
ガルフトードフィッシュは腸内に細菌が住みやすい環境を提供し、フォトバクテリウム・ダムセラエは代謝活動によって炭酸カルシウムの形成を助けているのかもしれない。
今回の研究で見つかった両者の関係は、論文内で「機能的共生」と呼ばれている。 両者の協力によって炭酸カルシウムが作られているとすれば、海の炭素循環を理解する上で見過ごされてきた要素が見つかったことになる。
研究を率いたマイアミ大学のマーティン・グロッセル教授は、腸内細菌が魚の体だけでなく、地球規模の物質循環にも関わっている可能性があると述べている。
今後の検証と気候変動への影響
今回の研究は、ガルフトードフィッシュという1種類の魚を対象にした実験結果であり、ほかの魚でも同じ現象が起きているかどうかは、まだわかっていない。
研究チームは今後、ほかの種類の魚でも同様の細菌が見つかるかどうかを調べる予定だ。
また、炭酸カルシウムの形成に細菌が関わっているとすれば、海水温の上昇や海洋酸性化といった気候変動が、細菌の働きにどのような影響を与えるのかも気になるところだ。
気候変動によって細菌の活動が変化すれば、魚が作る炭酸カルシウムの量にも影響が及び、海の炭素循環全体に波及する可能性もある。
研究チームは、この発見が海の健康を守るための新たな視点になると期待している。
まとめ
この研究でわかったこと
- 海水魚は海水を飲み、余分なミネラルを腸内で固形炭酸カルシウムにして便と共に排出している
- 魚が作る炭酸カルシウムの割合は、海全体の生産量のうち推定3〜15%で、塩分濃度が高いほど、腸内で作られる炭酸カルシウムの量が増えた
- 炭酸カルシウムの粒の周りに、フォトバクテリウム・ダムセラエという細菌が多く集まっていた
- この細菌は「ureR」という遺伝子を発現させ、尿素を分解してアルカリ性の環境を作り出していた
- 魚と細菌が協力して炭酸カルシウムを作っている可能性が示された
まだわかっていないこと・今後の課題
- 別種の魚でも、同様の関係が見られるかどうか
- この細菌が、炭酸カルシウムの形成にどの程度の影響を与えているのか、正確な割合
- 海水温の上昇や海洋酸性化が、この細菌の働きにどのような影響を与えるのか
- 魚と細菌の関係が、海全体の炭素循環にどの程度の影響を与えているか
References: Sciencedaily / PHYS
















人間にはビブリオとくると腸炎を起こしてポンポンペインの原因になる菌ですが、意外と面白い動きというか働きをしているのですね。 石灰岩は造礁サンゴがもとになっていそうですけど魚糞がそういった石灰風の石のもとになったりしないかな。
本題からはちょっと外れて気になったのは「海水を飲む」という表現かな。 飲むというと消化管の方へ海水がいくイメージです。 エラから抜けるのは呼吸も兼ねていて「海水を口から吸う」は不自然だけど飲むよりはマシかなと思いました。 こういう表現って確かに難しいなと記事とは別のところで学びになりました
腸内細菌有能すぎ。地球の生態系支えてる。
話は少しずれますけれど、この話は
「日本からアメリカに渡ったミミズが、アメリカの土地を日本風に作り変えている」
問題に似ていますね。ミミズの問題は大問題ですが、
これは海の環境保護に役立っているの違いがあるけれど
炭カルって、雪降ったら撒いとけっていうイメージ
それは塩カル
海中炭素固定装置 ハニーーーーフィシュ!💖
地球自体が生き物なんだなあ、というか、宇宙自体そうなのかも