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横断歩道の上で停車してはいけない理由。飼い主を渡らせなかった盲導犬

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(著) (編集)

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Image by Istock sssss1gmel
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 盲導犬を連れた視覚障がい者が、横断歩道を渡ろうとする。飼い主は「進め」と指示するのだが、盲導犬は舗道から動かない。

 なぜなら目の前の横断歩道を塞ぐように、車が停まっていたからだ。

 やがて車が動き出すと、盲導犬も飼い主を先導して横断歩道を渡り始める。飼い主の安全を第一に守る盲導犬と、盲導犬の判断に全幅の信頼を寄せる飼い主。

 深い信頼ときずなに結ばれたふたりの関係がSNSに投稿されると、多くの視聴者の心を動かした。

盲導犬は待った!車が塞いでいて渡れない横断歩道

 盲目の元医師アミット・パタルさんは、2026年5月、1本の動画を投稿した。

 彼は横断歩道を渡ろうとして、盲導犬のクォークに「進め(forward)」と指示するのだが、なぜかクォークは動こうとしない。

 横断歩道を塞ぐように黒いバンが停車していて、安全に渡れないと判断したクォークは、アミットさんの指示にも拘わらず道を渡らずに待っていたのだ。

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Instagram@blinddad_uk

 この一部始終は、アミットさんが身につけたGoProの映像で撮影されていた。

 彼は1人で外を歩く際、こうして映像や写真を撮影し、困ったことがあると奥さんに見てもらい判断を仰いでいるという。

 塞がれている横断歩道も、目が見える通行人は車を避けて渡って行く。

 だが目の見えないアミットさんにとって、このまま渡るのは非常に危険なことなのだ。

 やがて1人の女性が声をかけてくれたため、アミットさんもようやく状況を把握できた。

 車が目の前を塞いでいるので、クォークは動かないのだということを。

 アミットさんは女性にお礼を言ったが、手を貸そうという申し出は丁重に断った。なぜなら、この状況で道路を渡ってしまうと、クォークが混乱するからだ。

クォークは正しい判断をしたからです。そして今後、進路に障害物がある時でも渡っていいんだと学習してほしくなかったのです

 黒いバンがようやく動いて、クォークが道を渡り始めた途端、今度は対向車が横断歩道に入ってきた。

 クォークはすぐに止まってもう一度歩道に戻る。そして再度車が移動し、横断歩道がクリアになったとき、アミットさんはようやく道路を渡ることができたのだ。

視覚障がい者には困難なことも多いロンドンの街歩き

 だが、大都会ロンドンでは、ひとつの横断歩道を渡ってもまたすぐ次が現れる。

 その度に、クォークはきちんと横断歩道の手前で止まり、飼い主を守り続けるのである。

 この映像を見た視聴者からは、クォークを賞賛するコメントがたくさん寄せられている。

  • クォークは本当にいい子だね! 横断歩道を渡る時の判断力も誘導技術も完璧だ。なんて賢い犬なんだろう
  • どうしてもっと多くの人が声をかけないのか不思議でならない。断られるとしても、理由がわからず立ち尽くしている人をそのままにするよりはずっといい。クォーク大好きだよ。本当にヒーローだね
    • 丁寧に何かできるか聞くのはとても良いことだけど、障害物がある場合などは利用者が断るケースもある。盲導犬の訓練を妨げたくないからね。危険があるのに進んでもいいって犬に学習させたくないんだよ
  • クォークのような盲導犬は、その体重と同じだけのダイヤモンドに値する存在だよ! こんなに交通量の多いロンドンの道路を渡るのは大変だろうね。クォークはまさに最高レベルの盲導犬だ
  • 質問なんだけど、こういう時、盲導犬がなぜ渡らないのかを飼い主に伝えた方がいいのかしら。仕事中の盲導犬を邪魔することになる? お互いに緊張している状況だから混乱させてしまうでしょうか
    • いつでも「何かお手伝いしましょうか?」と声をかけて大丈夫。ただし、犬ではなく利用者本人に話しかけてください。必要かどうかは本人が教えてくれますから
  • いろいろな感情が込み上げてくるよ。本当にいい子だね。こんな状況なのに、立ち止まって助けようとする人が少ないことにはがっかりした。運転手たちもひどい! それでも君とクォークの素敵な絆には救われる
  • 多くの人は周囲で何が起きているのか気付いていないよね。昨日、車いすの母と出かけた時も、スマホ画面をじっと見ながら歩いていた女性が危うくぶつかりそうになった
  • この動画は、横断歩道を塞がないことがいかに安全に関わる問題なのかを、改めて思い出させてくれた
  • 他の人たちは普通に渡っていたじゃん。車は止まってるんだからさ。犬は単に訓練どおりに行動しただけ。犬に人間レベルの抽象的な思考なんてできないだろ
    • この男性は目が見えないんだということを理解しないと。この盲導犬は訓練どおりに働いているの。ほかの人たちは目が見えるから車を避けて通れた。でもこの犬は彼の目なんだよ。目隠しをして暗闇を体験してみればわかるよ
    • 利用者が視覚障がい者だということをわかってる? 彼には障害物が見えないんだよ! 犬は彼を守っているんだ。もし訓練を無視して、安全が確認できていないのに進んでしまったら危険でしょ
  • 声をかけてくれた、たった1人の通行人に拍手を送りたい
  • 何人かの運転手は道路交通法をもう一度勉強した方がいいな。本当に賢い犬だよ、クォークは。運転手たちとは大違いだ
  • 横断歩道を塞がないなんて難しいことじゃないのにね
  • 私たちが盲導犬候補の子犬を育てていた時、「賢い不服従(インテリジェント・ディスオビディエンス)」がとても重要だと教えられました。この動画は見ていてつらいけれど、なぜ訓練途中で盲導犬を引退する犬がいるのかも理解できます
  • 白杖を使う者として言うけれど、ロンドンの道路は本当に不安を感じる場所だよ。クォークは素晴らしい仕事をしているし、あなたもそうだ。正直、道路を利用している多くの人の方が再教育を受けるべきだと思う。私も安全に移動するために、見知らぬ人の助けを借りたことが何度もあるからね

 なお、後半で横断歩道に入って来た「Veolia UK」とロゴの入ったトラックで、市内のゴミ収集を行う会社のものだった。

 同社はコメント欄でアミットさんに謝罪するとともに、社内調査を行うと約束したが、視聴者からは「SNSで広まったから謝罪しただけ」との批判を浴びていた。 

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Instagram@blinddad_uk

視力を失った救急医

 アミット・パテルさんは、もともと救急医療の現場で働く医師だった。だが20代の頃に円錐角膜と診断された。

 円錐角膜とは、角膜が薄くなって円錐状に変形する病気で、進行すると視力が大きく低下する。

 その後、両眼の角膜移植を受けたものの、拒絶反応や合併症を繰り返し、2013年にとうとう視力を完全に失ってしまった。

ある朝目を覚ますと、まるで汚れたガラス越しに世界を見ているようだったんです

 この時、彼は40歳という働き盛りだった。だが視力を失ったことで、医師として働き続けることが困難になり、キャリアを断念せざるを得なくなった。

 現在、アミットさんは講演活動や執筆活動を行いながら、視覚障がい者を取り巻く環境やアクセシビリティの問題について発信を続けている。 

人生を変えた2匹の相棒たち

 アミットさんの人生を大きく変えた最初の盲導犬は、イエロー・ラブラドールの「キカ」だった。

 視力を失ったあと、外出することにも不安を抱えていたアミットさんにとって、キカは再び街へ出る勇気を与え、家族と社会へつなぎ直してくれた存在となった。

 キカとの日々は後に回想録『Kika & Me』として出版され、パテルさんが視覚障害や盲導犬への理解を広める活動を始めるきっかけにもなった。

 そのキカは現在はすでに盲導犬を引退しており、アミットさんの現在の相棒が、今回の動画に登場している黒ラブの「クォーク」なのだ。

 盲導犬は利用者の「前へ」という指示を受けても、危険があると判断した場合にはあえて従わず、立ち止まることがある。

 これは「インテリジェント・ディスオビディエンス(賢い不服従)」と呼ばれる行動で、利用者を危険から守るための重要な判断なのだ。

私は通りの音を聞いて状況を判断しようとするのですが、現代の道路は肝心な音が聞き取りにくいんです。

電気自動車はほとんど音がしないし、エンジン音も途切れがちです。風の音や人の声、車の走行音が混ざり合い、すべてが曖昧になってしまいます。

時には、自分の前に何があるのかまったくわからないことも。そんな時、私はクォークを全面的に信頼しています

 アミットさんは、ロンドンで毎週何百もの道路を横断しているという。だが街中で、視覚障害者が耳だけで状況を判断するのは簡単ではない。

 だからこそ、クォークが「安全ではない」と判断して止まる時、アミットさんはその判断を信じるのだ。

 キカが彼を外の世界へ連れ戻した相棒なら、クォークは今、その日常を一緒に歩き続けている相棒なのである。

愛する家族に囲まれて

 現在、アミットさんはシーマさんという奥さんと、可愛い息子と娘に囲まれて、家族4人で暮らしている。

 彼は、失明後の生活を支えてくれた家族への感謝をSNSで語っている。

「良い時も悪い時も、豊かな時も貧しい時も。病める時も健やかな時も……」

結婚の誓いでそう口にした直後に、こんなにも早くその言葉が試されることになるなんて、誰が想像したでしょうか。

私にとって、妻は今でも、9年前に最後に見たあの日のままの美しい。そして彼女は、これからも決して歳を取ることはないのです

 SNSに投稿される写真の彼は、どれも満面の笑みを浮かべている。突然視力を失ったにもかかわらず、彼は笑顔を発信し続けているのだ。

 アミットさんは視力を失ってから、辛い経験も何度かしてきたそうだ。

 例えばエスカレーターに乗っていた時、どけと言われたこと。嫌がらせを受けたこと。お店で入店を拒否されたこと。

 その度にアミットさんはその体験をSNSで発信し、当事者と話し合い、視覚障がい者や盲導犬への理解を促す姿勢をやめなかった。 

 そして今もアミットさんは、講演活動や執筆活動を行いながら、視覚障害者や盲導犬への理解を広げる活動を続けている。

 リタイアするまでの盲導犬の生活はハードである。飼い主の中には、それまで犬を飼った経験のない人も多く、高齢者も少なくない。

 犬として必要な運動量を確保できなかったり、飼い主と思い切り遊んだりコミュニケーションをとったりが難しいケースもあるようだ。

 近年はロボット盲導犬なるものも開発されており、今後は盲導犬の立ち位置も変わっていく可能性がある。

 とはいえ、飼い主との間に信頼のきずなが結ばれたとき、盲導犬の存在はかけがえのないものになっていくのだ。

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この記事へのコメント 14件

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  1. 盲導犬さんはかしこいなあえらいなあ尊いなあ(心といっしょに存在が浄化されつつあるおじさん)

    横断歩道に止まるドライバー一生横断歩道渡るときに自動的に手が挙がるのろいにかかれ(悪意と共にまた出てきたおじさん)

    • +12
  2. 電気自動車って後ろから接近してもわからないほど静かだったな

    • +10
    1. 二代目プリウスの時EVモードでおばあちゃんの後をついて行ったら100m程気づかなく付いて行けた
      静すぎる車は進行方向にエンジン音をスピーカーで鳴らす方が安全だね

      • +6
  3. 海外の横断歩道の中には、日本のものに比べて極端に早く赤に変わってしまうところが多いと思う。盲導犬も飼い主も大変だと思う。

    • +4
  4. あの2台の感覚が全く分からん過ぎてはぁ?が先行して何も入ってこない
    日本でもたまにいるが何で無意味に空いてない前に行こうとして横断歩道や交差点で立ち往生するんだか理解ができない
    普通に自分が入れるスペースが出来てから進めばいいだけなのが分からないなら運転能力無いと思う

    • +9
  5. 使役犬は、働いている時の忠実さや責任感、表情が良いね。

    • +9
  6. AIだと判断つくかな? 全AIができるかな?
    そろそろクリアしそうな課題だけど

    • -3
  7. 横断歩道の上に車入っちゃいかんでしょう…。
    そこは歩道なのですから。

    • +2
  8. 正しく仕事をした盲導犬には是非ご褒美を
    そして横断歩道を塞いだドライバーにはペナルティーを希望

    • +4
  9. 賢い不服従 だったっけ?

    • +6
  10. 横断歩道の上に平然と自動車が停まってることのほうが気になったな
    渋滞だろうと日本では普通はありえないことだろ
    それに、横断歩道の塗装が剥げてほとんど見えなくなってるのも気になる
    なんで塗り直さないんだ?
    英国人が旅行動画でやたら日本を褒めるので大げさだなぁと思っていたが
    なんとなく理由が分かった気がしたよ

    • +4
  11. 障害者だけの問題じゃないよね。横断歩道の駐車。

    • +4
  12. 道交法を教習所で教えるときに単にルールを教えるだけでなく、どうしてそのようなルールがあるのかを説明するべきだと思う。その点でこのケースは最適な例の一つだと思う

    • +1
  13. >私にとって、妻は今でも、9年前に最後に見たあの日のままの美しい。そして彼女は、これからも決して歳を取ることはないのです

    イギリス人の彼が谷崎潤一郎を読んだことはないだろうけど
    春琴抄好きにはついグッときた

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