この画像を大きなサイズで見る100億年以上前に天の川銀河に飲み込まれた古代銀河の痕跡が、天の川内部に隠されていたことが明らかになった。
英国・カナダ・チリなどの国際研究チームが、天の川銀河の円盤面付近を漂う20個の極めて古い星を分析したところ、失われた矮小銀河の残骸である可能性が浮上し、暫定的に「ロキ(Loki)」と命名された。
天の川銀河の星々とは明らかに異なる均一な化学組成を持つことが、失われた銀河、ロキに由来する根拠となっている。
この研究成果は『Monthly Notices of the Royal Astronomical Society』誌(2026年3月23日付)に掲載された。
参考文献:
- A lost galaxy called 'Loki' may be hiding inside the Milky Way
- Astronomers Discover Loki, an Ancient Stellar System Hidden in the Milky Way
天の川銀河は他の銀河を飲み込んで成長していた
今から100億年以上前、宇宙はまだ若く、銀河同士が衝突と合体を繰り返しながら成長していた。
天の川銀河も例外ではなく、周囲の小さな銀河を次々と飲み込みながら現在の姿へと育ってきた。
飲み込まれた銀河の星々は、天の川銀河の中に散らばって今も存在している。
では、どうやってそれを見分けるのか。
宇宙で最初に誕生した星は水素とヘリウムだけでできており、鉄などの重い元素をほとんど含まない。
天文学者はこうした星を「金属量が少ない星」と呼ぶ。
ここでいう「金属」とは、天文学の世界では水素とヘリウム以外のすべての元素を指す言葉だ。
金属量が少ないほど、その星は宇宙の初期に生まれた古い星だということになる。
こうした古い星の集まりを調べることで、天の川銀河がかつてどんな銀河を吸収してきたのかを推測することができる。
いわば星が語る「銀河の歴史書」だ。
この画像を大きなサイズで見る天の川の円盤付近に潜む20個の謎めいた古代星
天の川銀河は横から見ると薄い円盤状の形をしており、太陽系もその円盤の中に位置している。
英国ハートフォードシャー大学やカナダ・ビクトリア大学などの研究者で構成される国際チームが注目したのは、その円盤の平面付近を漂う20個の非常に古い星だ。
通常、金属量の少ない古い星の多くは、銀河を球状に取り巻く外縁部「ハロー」に存在する。
今回注目した20個の星はすべて太陽から約6,500光年以内という比較的近い場所にあり、円盤面から大きく外れることなく軌道を描き続けているという点で、すでに異例だった。
20個のうち11個は天の川銀河の大多数の星と同じ方向に公転する「順行軌道」、残る9個は反対方向に回る「逆行軌道」をとっており、いずれも細長い楕円形の軌道だった。
軌道の細長さを表す「離心率」の値は0.5〜0.9の範囲で、0が真円、1が直線に相当するため、これらの星がいかに引き伸ばされた軌道を描いているかがわかる。
研究チームはカナダ・フランス・ハワイ望遠鏡に搭載された高精度の分光器「ESPaDOnS」を使い、星の光を虹のように細かく分解して化学組成を詳しく調べた。
すると、この20個の星が互いに非常によく似た化学組成を持つことが判明した。
天の川銀河のハローに存在する星々は化学組成がバラバラなのに対し、この20個は驚くほど均一だったのだ。
さらに詳しく調べると、これらの星には高エネルギーの超新星爆発や、通常の超新星よりもはるかに強力な「極超新星」そして2つの中性子星が衝突・合体する「中性子星合体」によって作られた元素の痕跡が見られた。
一方で、燃え尽きた星の残骸である白色矮星が爆発する際に生じる元素の痕跡は検出されなかった。
これらの化学的な特徴は、短命で活発な小さな銀河の中で星が生まれた場合に典型的に見られるパターンと一致している。
この画像を大きなサイズで見る太陽の約14億倍、失われた銀河「ロキ」の正体
化学組成が均一であることは、これらの星が同じ「閉じたシステム」で外部からのガスの流入や流出がほとんどない単一の環境で生まれたことを意味する。
研究チームはこの失われた銀河を、北欧神話に登場するいたずら好きの神にちなんで「ロキ(Loki)」と暫定的に命名した。
著者たちはロキについて、善でも悪でもない存在だと説明している。
順行軌道と逆行軌道という正反対の動きをする星が同じ起源を持つというのは、一見すると矛盾しているように思える。
しかし「NIHAO-UHD」と呼ばれる高解像度の宇宙シミュレーションを使った検証では、天の川銀河の円盤が形成される以前の非常に初期の段階で、単一の銀河が約40度の角度で原始天の川銀河に衝突した場合、星々が順行・逆行の両方の軌道に散らばることが十分にあり得ると示された。
衝突当時はまだ銀河全体の回転が安定していなかったため、飛び散った星が逆方向の軌道に乗ることも起きやすかったとみられる。
では「ロキ」はどのくらいの大きさだったのか。
研究チームが銀河の化学進化モデルを用いて推定したところ、ロキの全バリオン質量(ダークマターを除く、星とガスからなる通常の物質の質量)は太陽の約14億倍に相当するという結果が得られた。
これは天の川銀河の伴銀河として知られる大マゼラン雲や小マゼラン雲のバリオン質量と同程度の規模であり、ロキが矮小銀河に匹敵する大きさを持っていたことを示している。
なお近年、シヴァやシャクティなど同様に天の川銀河の円盤面付近に軌道を持つ古代の恒星構造も発見されているが、化学組成や軌道の分布を詳しく比較すると、ロキはこれらとは異なる独立した構造であることが確認されている。
この画像を大きなサイズで見るロキの生い立ちを解く鍵は次世代望遠鏡が握る
研究チームはまだ未解決の問題を持っている。
これらの星が天の川銀河の外から飛び込んできた星なのか、それとも天の川銀河の内側でもともと形成された星なのかを、現時点では化学的な分析だけで完全に判別できないのだ。
宇宙の初期はまだ銀河の化学組成が多様化していなかったため、天の川銀河の内側で生まれた最古の星と外から飛び込んできた星が、非常によく似た化学組成を持つ可能性があるからだ。
この問いに答えるべく、研究者たちが期待を寄せるのが次世代の大規模分光観測装置だ。
分光観測とは、天体の光を波長ごとに分けて化学組成や運動を調べる手法のことだ。スペイン・カナリア諸島のラ・パルマ島にあるウィリアム・ハーシェル望遠鏡に搭載されるWEAVEと、チリのパラナル天文台に設置される4MOSTは、今回をはるかに上回る数の金属量の少ない星を均質なデータで観測することができる。
これらの装置が稼働すれば、ロキの存在が確認されるか否定されるかが明らかになるだろう。
100億年以上もの間、天の川銀河に隠されてきた20個の星。それぞれが持つ均一な化学組成は、失われた銀河「ロキ」がかつて確かに存在したことを示す、宇宙からの無言のメッセージかもしれない。
この研究で分かったこと
- 天の川銀河の円盤面付近に、100億年以上前に合体した古代銀河の残骸とみられる20個の星が存在する
- これらの星は互いに非常によく似た化学組成を持ち、「ロキ」と暫定命名された単一の矮小銀河に由来する可能性が高い
- ロキの質量は太陽の約14億倍と推定され、マゼラン雲に匹敵する規模だった
まだわかっていないこと
- これらの星が天の川銀河の外から来たのか、内側で生まれたのかが化学分析だけでは判別できない
- サンプルが20個と少なく、ロキの存在を確定するには次世代観測装置による大規模調査が必要
References: Academic.oup.com












