メインコンテンツにスキップ

目には見えない架空の犬を訓練するドイツの人々の映像が話題に。その実態は?

記事の本文にスキップ

5件のコメントを見る

(著) (編集)

公開:

この画像を大きなサイズで見る
Advertisement

 リードを手にした人々が公園の中を歩き回り、指示を出し、障害物の前で立ち止まっている。 だが、リードの先にいるはずの犬の姿はどこにも見えない。

 この様子を撮影した映像は、やがて「ホビードッグ(趣味犬)」という言葉とともに拡散され話題となった。

 心のきれいな人には見える?いわゆる「イマジナリーフレンド」の犬版とかなのか?

 実はその映像には、まったく別の背景が存在していた。

 本当の犬のトレーニングを始める前に、まず人間のハンドラーを訓練する様子を写した映像だったのだ。

「見えない犬」を散歩させるドイツの人々

 実際には存在しない犬にリードをつけて、まるで透明な犬がそこにいるみたいに扱う、最近ドイツで話題の「ホビードッグ」。

 文字で説明するだけではイメージしにくいと思うので、まずはこの動画を見てもらおう。

 リードを手にした「飼い主」が、見えない犬と一緒に歩きながら声をかけ、指示を出し、頭を撫でるようなしぐさをする。

 これは、実際な存在しない「イマジナリードッグ」を相手に、しつけやアジリティのトレーニングを行っているのだ。

 リードの扱いや体の向き、声をかけるタイミング、アジリティ用の器具との距離感などを、実在しない犬を相手に反復して練習する。

 姿が見えないだけで、まるでそこに本当に犬がいるかのような真剣さで行われているのが、ちょっと不思議な雰囲気に見えるかもしれない。

実は初心者ハンドラー向けのトレーニングだった

 トレーニング目的の「ホビードッグ」の発祥は、ドイツのドッグトレーナー、バーバラ・ゲリンガーさんが行っているトレーニング講座だとされている。

 彼女は犬の行動学やトレーニングを教える立場として、初心者向けの講座の中で「本物の犬を伴わない練習」を取り入れていた。

 参加者はバーバラさん考案の、まるで本当に犬がいるように見えるリードを手に、実際の犬のトレーニングを模した動きを繰り返し実践する。

 足元を指さしたり、ポケットから見えないおやつを出して与える仕草をしたりと、その世界に完全に没入する参加者たち。

この画像を大きなサイズで見る

 犬の訓練に慣れていない初心者が、いきなり本物の犬を連れてアジリティ用の器具に向かうと、どうしても指示が曖昧になり、犬にも人にも負担がかかる。

 そこで実際の犬との訓練を始める前に、まず人間の側が自分の立ち位置や体の向き、声をかけるタイミングを学ぶ。

 架空の犬を相手に、これを何度も繰り返し実践することで、指示の遅れや混乱を減らす狙いがあるのだそうだ。

 トレーニング中は、どのハンドラーも大真面目だ。そこに実際の犬はいないが、参加者たちは真剣にバーバラさんの指示を実践している。

 ホビードッグは、「見えない犬」をペットの代わりするものではない。ハンドラー初心者が実際の犬に触れる前に、訓練法をトレーニングするための手法なのである。

この画像を大きなサイズで見る

誤解を生む「切り抜き」が拡散されてしまう

 ところがそういった背景を説明することなく、トレーニングの様子の一部を切り取った映像がSNSで拡散されてしまった。例えば、下の投稿もその一例だ。

 ここではトレーニングの映像を紹介しながらも、テロップは次のような、まったく内容とは関係のないものになっている。

みんなリードを握って散歩に出かけますが、そこに実際の犬はいません。これは動物好きの人向けの代替案として紹介されたものです。

ペットの医療費を払ったり、家の中に抜け毛が散らばったり、吠える声がうるさかったり、排泄物を片付けたりすることもありません

 また、最初に紹介した動画の説明欄も、「ドイツで流行りのホビードッグだけど、私には理解できない」と書かれている。

 こうした動画が拡散されたことで、ホビードッグは本来の意図とは異なる形で、ネットの注目を集めることになってしまった。

 単に「見えない犬を散歩させて喜んでいる奇妙な趣味」ととらえられ、コメント欄にも否定的な声が殺到した。

  • これが本気だなんて信じられないよ
  • 理解できない。どうしてシェルターにいる犬を散歩させてやろうと思わないんだ?
  • 笑い話ならよかったけど、正直言ってかなり悲しいし、不安になるよ
  • 本物の犬を子供の代わりにするだけでもばかげているのに、もっとひどいものが出てくるとは思わなかった。今度は幽霊犬かよ
  • 実在しない犬と同じように現実の犬が振る舞ってくれると思って犬を飼い、結果として犬が苦しむくらいなら、最初から飼わない方がいいよ
  • 誰も傷つけずに本人が楽しめる趣味ならいいと思うよ。時間もエネルギーも割けないのに、本物の犬を飼うよりはよほどいい。ホビーホースと同じで、全然アリだと思う
  • 誰の迷惑にもならず、悪影響もない趣味を、なぜ批判する必要があるのか。理解できなくてもいいから、他人のやることを放っておけばいい
  • 自分はアジリティトレーナーだけど、見た目はバカみたいでも、これは初心者に「どこに立つか」「手や体をどう使うか」を教える最初のステップとしてはとても良いんじゃないかな。もし最初から犬を使うつもりがないなら、まあ笑うけど、これはトレーナーがクラスの一環として、まず「見えない犬」で感覚をつかませているように見える
  • 唯一の問題はこれだ。本物の犬がいないなら、どうやって抱きしめればいいんだ?
  • 次は「想像上の車」のオーナーたちが高速道路を走る光景を想像してみてくれ

実際の犬を訓練する前に人間側の集中力を養う

 上のコメントの中に出てきた「ホビーホース」とは、棒の先に馬の頭がついたホビーホース(棒馬)にまたがって、障害物などの競技を行うものである。

 これに対し、ホビードッグは実際に競技を行うものではないし、生きている犬をペットとして飼う代替として行われているものでもない。

 あくまでも飼い主やハンドラー初心者が、自分自身で犬のトレーニングを行う前の、いわば予行演習のような役割を果たすものである。

この画像を大きなサイズで見る

 バーバラさんによると、訓練中に起こる問題は犬ではなく、リードを持つ人間の側にある。重要なのはメンタルや集中力、そして意識の向け方だという。

 想像上の犬を相手にしていると、ハンドラーは余計なことに気を取られにくくなり、自分自身の姿勢や声の出し方、体の緊張により意識を向けられる。

 言ってみれば、これは自己トレーニングの一形態でもある。バーバラさんは、ホビードッグについて次のように語っている。

「存在しないもの」に20分間集中し続けるのは、実はかなり疲れるんですよ

 ネットでありがちな思わぬ誤解は生まれたものの、バーバラさんたちは過剰に反応することなく、一貫してこのトレーニングを続ける姿勢を崩していない。

「見えないペット」の飼い主体験を楽しむ人も

 ちなみに、「見えない犬」を散歩させるムーブ自体は、今回のドイツのホビードッグとは関係なく、既にアメリカで20年ほど前には行われていたものらしい。

 ホビードッグには集中力を高めるほか、ストレスや運動不足を解消したり、姿勢を良くしたり、ペットロスを癒したりといった効果も期待できる。

 今回話題になった映像はトレーニング風景のものだったが、実際にはセラピー的な面を強調したワークショップなども、各地で開催されているそうだ。

 中には見えない愛犬同士を遊ばせて、バーチャルな「飼い主」体験を満喫する人たちも出現しているという。

 それぞれの愛犬たちに「遊び好き」「引っ込み思案」といった性格づけをし、「うちの子可愛い!」とやっているわけだ。

 いろいろな事情で本物のペットを飼えない人も、飼い主気分を味わって、仲間と交流できるのが魅力なんだとか。

 リード1本あれば実践できるアクティビティだが、周囲の注目も集めてしまうことは間違いない。

 日本でも「Invisible Dog Leash」などで検索すると、このリードが通販で買えたりするので、興味のある人は探してみるといいかもしれない。

Hobby Dogging is the new Hobby Horsing

References: Germany's Bizarre Trend Of Training Imaginary Dogs Has The Internet Doing A Facepalm: "World's Getting Crazier"

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中

この記事へのコメント 5件

コメントを書く

  1. いっぬ「良く訓練された飼い主だな」

    • +6
  2. 何かのコントで見たような・・

    • 評価
  3. 記事としてコメントを紹介するならば、切り抜きで誤解した否定的な意見よりも、正しい背景を知った人の意見のほうがいいと思います。

    • +3
  4. エアギターは、演奏できる人。
    空の手、動き。

    • 評価
  5. 人+犬セットで訓練付けるときに、動物は動いてしまうし飼い主・ハンドラーはその様子を見てしまうしで指導の言葉への集中が欠ける、双方につけたい指導が犬の存在によってままならぬ時もでるであろうというのは言われてみればそれはそう。
    酒場での思いつきとはいえ、だったらヒトだけ参加で訓練つけるのもアリなのでは?てのは慧眼なのかもしれぬ。絵柄かなりおもしろいけども。invisible dog sketchなネタみたい。

    hobby_dogging_heilbronnてのがインスタのようですけれど、ネタにまとめられてヤジや批判の声がでようがご本人は平気なご様子でよろしいですね。日本語訳で反応の物量や雰囲気が記事にまとめられているのもよろしゅうございました。
    この透明犬訓練を経て次のステップであろう完成系(?)の犬参加バージョンもいつか見てみたいですね。

    • 評価

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

動物・鳥類

動物・鳥類についての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

動画

動画についての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

最新記事

最新記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。