メインコンテンツにスキップ

ホッキョクグマは温暖な気候に適応するため、自らのDNAを書き換えている可能性

記事の本文にスキップ

9件のコメントを見る

(著)

公開:

この画像を大きなサイズで見る
Image by Istock Rixipix
Advertisement

 気候変動による地球温暖化は、北極圏のホッキョクグマを絶滅の危機に追い込んでいる。彼らが狩りの足場とする海氷は年々減少し、このままでは21世紀末には地球上から姿を消してしまうとさえ予測されている。

 だが、生命の底力は計り知れない。新たな研究によって、ホッキョクグマが気温の上昇に合わせて、自らのDNAを書き換えている可能性が明らかになった。

 イースト・アングリア大学の研究チームによると、特定の地域のホッキョクグマは、自身の設計図である遺伝情報を変化させ、過酷な環境でも生き残れるよう、急速に適応しようとしているという。

 ホッキョクグマは、氷が溶けゆく新たな世界で、遺伝子レベルで必死の生存戦略を行っているのかもしれない。

 この研究成果は『Mobile DNA』誌(2025年12月12日付)に掲載された。

気温の上昇に合わせて、体内の遺伝子が変化

 アラブ首長国連邦、イースト・アングリア大学生物科学部のアリス・ゴッデン博士率いる研究チームは、ホッキョクグマの血液サンプルを分析し、気温の上昇とDNAの変化に関連性があることを突き止めた。

 研究チームは、グリーンランドの北東部と南東部という、環境の異なる2つの地域に生息するホッキョクグマを調査した。

 北東部は比較的寒冷で気温も安定しているが、南東部は気温が高く変動も激しいうえ、海氷が少ないという厳しい環境だ。

 調査の結果、南東部のクマたちの体内では、熱ストレスや老化、エネルギー代謝に関連する遺伝子が、北部のクマとは異なる働きをしていることが判明した。

これは、彼らが温暖化する生息環境に適応しようとしている兆候だと考えられる。

この画像を大きなサイズで見る
Image by unsplash Hans-Jurgen Mager

変化のカギは、設計図を書き換える「ジャンピング遺伝子」

 では、一体どうやって遺伝子の働きを変えているのだろうか? そこで注目されたのが「ジャンピング遺伝子(トランスポゾン)」と呼ばれる特殊なDNA配列だ。

 DNAは、遺伝情報が記録された「物質(生命の設計図全体のファイル)」のことだ。遺伝子とは、そのファイルの中の一部のページ(情報)のことで、このページをもとに、体を作るタンパク質が合成され、生命活動が行われている。

 通常、ファイルに収められたページの順番が勝手に変わることはない。しかし、この「ジャンピング遺伝子」は例外だ。

 ジャンピング遺伝子は、その名の通りDNA(ファイル)の中を移動(ジャンプ)することができる。自分のページを切り取って、別の場所に差し込んだり、コピーして割り込んだりして、物理的にファイルの構成を変えてしまうのだ。

 こうしてファイルのページ構成が変われば、当然そこから読み取られる情報も変わってくる。

 研究チームが、ホッキョクグマの遺伝子活動と地域の気候データを照らし合わせたところ、グリーンランドの最も暖かい地域に住むクマたちは、気温上昇に伴ってこのジャンピング遺伝子を劇的に活性化させ、環境に適応するために自らのDNAを書き換えている可能性が高いことが判明した。

 これは溶けゆく海氷に対抗するための、生存メカニズムである可能性がある。

この画像を大きなサイズで見る
Image by Istock nicholas_dale

20番目の亜集団に見られた遺伝子レベルの変化

 今回調査対象となったグリーンランド南東部のホッキョクグマは、以前カラパイアでも紹介した「20番目の亜集団」と呼ばれるグループだ。

 この研究は、2022年に発表されたワシントン大学などの研究チームによる発見に基づいている。当時、本来ならホッキョクグマが生息できないはずの氷の少ない環境で、約200年前に他のグループから分離した独自の集団(20番目の亜集団)が確認された。

 彼らは海氷の代わりに、フィヨルドから崩れ落ちた氷河の淡水の氷(メランジュ)を利用して狩りを行っていた。

 そして今回の研究で、彼らは行動だけでなく遺伝子レベルでも別次元の適応をしていることが裏付けられたのだ。

この画像を大きなサイズで見る
20番目のホッキョクグマ亜集団  image credit: Kristin Laidre/University of Washington

食性を左右する遺伝子の働きも変化

 興味深いことに、南東部のクマには「脂肪の処理」に関連する遺伝子の働きにも変化が見られた。

 通常、ホッキョクグマは脂肪分が豊富なアザラシを主食としている。しかし、アザラシ狩りが難しい南東部の温暖な地域では、食料が不足しがちだ。

 今回のデータは、南東部のクマたちが、より暖かい地域で見られる植物ベースの粗食にゆっくりと適応しようとしている可能性を示唆している。

 彼らは狩りの方法だけでなく、体内の代謝システム自体を変えることで、エネルギー源の乏しい環境を生き抜こうとしているのかもしれない。

この画像を大きなサイズで見る
Image by unsplash Sergio Pérez Mateo

気候変動のスピードの速さに適応が追い付かない可能性

 ゴッデン博士は、この発見がホッキョクグマにとってある種の「希望」ではあるものの、決して楽観視できるものではないと釘を刺す。

 彼らの遺伝情報は、今後の保全活動において極めて重要な意味を持つが、DNAを書き換えるスピードよりも、温暖化による環境破壊のスピードの方が早いため、すべてのクマが適応できる保証はないのだ。

 ゴッデン博士は「私たちは現状に満足してはいけません。依然として、世界の二酸化炭素排出量を削減し、気温上昇を遅らせるためにできる限りのことをする必要があります」と語る。

 根本的な原因である地球温暖化をこれ以上速く進めないようにしなければ、ホッキョクグマたちの努力も徒労に終わってしまうのだ。

 時間の経過とともにDNAは変化し進化するものだが、温暖化という環境ストレスはそのプロセスを加速させる。野生の哺乳類において、気温上昇とDNA変化の間に統計的に明確な関連性が見つかったのは、今回の研究が初めてだという。

 ゴッデン博士は、今後は他のホッキョクグマの集団についても調査を進めたいとし、「手遅れになる前に、この貴重で謎めいた種のゲノムを分析する緊急性を、この研究が伝えてくれることを願っています」と結んでいる。

References: Springer.com / Polar bears may be adapting to survive warmer climates, says study

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中

この記事へのコメント 9件

コメントを書く

  1. 竹食になったパンダもいるくらいだから熊は食の適応力が割と高いのかな

    • +10
    1. ヒグマも地域によってかなり食性が違うからね
      ホッキョクグマも系統的には
      ヒグマの一亜種と言えるような位置だし

      • +3
  2. ポーカーで言うと、普通なら1~2枚カードを取り替えるだけなのに環境によって全取っ替えをやたらとするような感じかな?

    • +2
  3.  先日の「クマは進化の掟を2度破っていた」という記事からすると、三度目になるかも?

    • +8
  4. 寒冷地に適応した種とはいえ、過去にあっただろう温暖な気候も乗り越えてる訳だから、何らかの適応力はもともと備えてるでしょうね。でなけりゃ日本で飼育なんて出来ないわけで。むしろ日本の動物園の個体を調べた方が色々わかりそう。

    • +2
  5. でも当然しんでしまった個体もあったわけよな
    その遺伝情報の変化があったシロクマがより生き残りつつある、みたいな

    • +4
  6. ニンゲンさんも🤔
    ジャンプの時か?
    最近ちきゅうの磁場も弱まってるとか色々激変の気配アリ。

    • -1
  7. わりと南国の動物園でも飼育できるんだからそれなりの暑さ体性があるのでは

    • +1
  8. 同一個体で調査してないのになぜこんなことが言える?

    ただ単に暑さに強い遺伝子の熊が生き残っているだけでは?

    • -6

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

自然・廃墟・宇宙

自然・廃墟・宇宙についての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

動物・鳥類

動物・鳥類についての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

最新記事

最新記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。