この画像を大きなサイズで見る家族を離れ、それぞれの道をひとりで歩いてきた2頭のオオカミが、運命に導かれ、偶然に出会った。
2011年、スロベニアから旅立った若いオスのオオカミ、スラヴツは、アルプス山脈を越え、1,600kmに及ぶ過酷な旅を経てイタリア北部の地にたどり着いた。
ジュリエットというメスのオオカミもまた、運命に導かれるかのように、イタリア中部を南北に貫くアペニン山脈から単独で旅し、この地に着いたところだった。
出会うはずのなかった2頭が、同じ場所にたどり着き、その出会いが奇跡を生んだ。100年もの間、野生のオオカミが姿を消していた土地に、家族が誕生したのだ。
これは、科学者すら予測できなかった、野生のオオカミたちが見せた奇跡の記録である。
群れ離れた若きオスのオオカミ、1,600kmの旅へ
スラヴツ(Slavc)はスロベニアで生まれたヨーロッパオオカミのオスで、バルカン半島の山岳地帯に暮らすオオカミの群れの1つに属していた。
野生動物の行動を追跡していたスロベニア、リュブリャナ大学の研究チームは、彼にGPS発信機を装着し、日々の動きを記録していた。
2011年夏、スラヴツは生後約18か月になると、ひとり旅に出た。成熟した若い個体が親元を離れ、自らの群れを作るために旅立つのはよくあることで「分散(dispersal)」と呼ばれている。
この行動は、近親交配を避け、遺伝子の多様性を保つうえで重要な役割を持っている。
しかし、スラヴツの旅は尋常ではなかった。彼は2本の高速道路を渡り、川を越え、農地や人里を避けながら、アルプス山脈をたった一頭で越えていった。
雪に覆われた山々、変化する天候、そして食糧不足という過酷な環境の中、彼はただ本能に突き動かされるように歩き続けた。
1,600kmもの距離を歩き、2012年春頃、ついにイタリア北部のレスィニア州立自然公園へとたどり着いた。
この画像を大きなサイズで見るたどり着いた先に待っていた若きメスのオオカミ
長くつらく、厳しい旅をしてきたスラヴツだが、ここで運命の転機が訪れる。
そこには、アルペン山脈から同様に旅してやってきた、メスのヨーロッパオオカミ、ジュリエットがいたのだ。
アペニン山脈はイタリア中部を南北に走る山岳地帯で、そこに暮らすオオカミの集団は長らく他地域と交わることなく孤立していた。
しかし、20世紀後半から保護政策によって個体数が回復すると、一部の若い個体が北方へ分散し始めた。ジュリエットも、そうした動きの中で旅をしてきた個体の一頭だった。
彼女も一頭で山を越え、ヴェローナ北部のレスィニアにたどり着いたのだ。
スラヴツよりもわずかに早くこの地に現れていたことが、トレイルカメラ(野生動物監視カメラ)によって記録されていた。
そして、遠く離れた場所から、それぞれ単独で旅してきた2頭のオオカミは、奇跡の出会いを果たした。
2頭が仲睦まじく一緒に歩く様子は2019年、トレイルカメラにとらえられた。
このような運命的な巡り合わせから、彼女には「ジュリエット」という名が与えられたのだ。
まるでロミオのように遠くから旅してきたスラヴツとの出会いは、多くの人々の心を動かした。
この画像を大きなサイズで見るオオカミがいなくなった地域で100年ぶりに復活
2頭は結ばれ、やがて子をもうけた。この子どもたちは、科学者たちにとって大きな発見だった。
というのも、スラヴツは、バルカン半島の山岳地帯に暮らすオオカミの群れの1つに属しており、一方、ジュリエットは、イタリア中部のアペニン山脈出身で、他の地域のオオカミとは交わることなく暮らしてきた孤立系統だったからだ。
地元から離れた場所でその2頭が結ばれ、子孫を育んだという事実は、地理的に分断されたヨーロッパのオオカミ個体群が、再びつながりを取り戻し始めたことを示しており、生態学的にも極めて重要な出来事だ。
スラヴツとジュリエットが出会ったレスィニア州立自然公園周辺では、20世紀初頭から野生のオオカミの姿が完全に消えていた。
だが、スラヴツとジュリエット、その子どもたちによって、この地域に新たなオオカミの家族が誕生した。
やがて、バルカン半島やアペニン山脈から別のオオカミたちも分散してこの地にたどり着き、交配・定着していったことで、群れは定着し、数を増やしていった。
この画像を大きなサイズで見る現在では、この地域一帯に100頭を超えるオオカミが暮らしていると推定されている。
それぞれの道を一頭で歩き、そして運命の出会いを果たしたスラヴツとジュリエット。その奇跡の出会いと、育んだ子供たちが、100年ぶりにレスィニアで命の輪をつなぎ直したのだ。
この旅と出会いを追ったのが、イギリスの作家アダム・ウェイマス(Adam Weymouth)だ。
彼は著書『Lone Wolf』のなかで、スラヴツの足取りを実際に歩いて追体験し、GPSで記録された軌跡のみならず、山並みや人里、気圧の変化、地形の険しさなど、オオカミが感じただろう風景の重みを言葉で再現している。
ヨーロッパオオカミの寿命は野生下で6〜8年、条件が良ければ13年生きるという。
ジュリエットは2022年1月中旬にライバルの群れのメンバーに殺されたと考えられている。
一方スラヴツは、ジュリエットの死後、別のメスとつがいとなったが、2022年から2023年の冬に死亡したことが確認されている。
2頭はこの世を去ったが、彼らがつないだ命とその物語は、今もレスィニアの森の中で息づいている。
編集長パルモのコメント

もし日本でも、ニホンオオカミが絶滅していなかったら今の生態系はどうなっていたのだろう?クマによる被害は抑えられたのだろうか?オオカミとクマは棲み分けしているので、オオカミがクマを直接追い払うようなことはあまり考えにくいが、シカやイノシシなど草食動物を抑制することで、森の植生や食物連鎖のバランスが保たれ、結果としてクマの行動パターンにも変化が生まれていた可能性はある。
イエローストーンの例にもあるように、捕食者の存在は生態系全体を整える力を持っている。オオカミの声が森に響いていたら、人間と野生動物の距離はもう少し違っていたかもしれない。
References: In 2011, Slavc The Wolf Journeyed 1,000 Miles To Begin Verona’s First Wolf Pack In 100 Years / Penguin.co.uk
















数年前に『地球ドラマチック』でやっていたのが
このオオカミだったのかも…
一匹で旅に出て
途中で一匹のオスと仲間になり
二匹で行動してたけど
高速道路で仲間が車に轢かれて死んでしまってた。
その後、メスのオオカミと出会い家族となってたけど
本当にすごい距離をずっと移動していた。
それを思い出したけどそのオオカミはルーマニアから3000キロの旅だからスペイン辺りだったはず
見てたけど、あれはスペインのピレネー山脈にたどり着いたからこの記事とは違うはず。
人間で言うと太平洋に漕ぎ出したポリネシア人なんかもそうだけど、ほとんどは失敗して死ぬんだけど、ごく一部は新天地を見つけて定着して種を残すって生物の本能なのかな。
俺も1600kmの旅をすれば…?
毎日5キロ歩けば1年で達成できる。
おじさんも1600km旅をしていたらわんちゃんあったのかもしれない(めんどう
歩いてするんだぞ
ちょっと感動的 長い旅の果てに出会ったなんて 人間の物語のようで
二匹とも十歳以上だったから、野生としては長生きして連れ添えたのは良かったなあ
日本よりよほど環境が良さそうなアルプス周辺でもオオカミによる家畜襲撃は所により年数百件発生していて、酪農家や専門家は電気柵や音響威嚇装置、犬、あるいはリスクの高い放牧時期と場所の回避、妊娠中や育児中の個体の常時監視、更には反復的に問題を起こす個体の強制移動、牛の自衛力を高めるために角を切らないなどの可能な限り非殺傷的な防御策で応じている。こういう努力があってこその個体群復活なのは忘れちゃいけない。
日本よりよほど環境がいいって何?
意味わからんわ
野生動物にとって住み良い、っことだと思うよ。
ヨーロッパで電車に乗るとわかるけど、大都市周辺でも沿線に森とか平原とか結構広がってるんだよ。逆に日本はずっと街が続いてる。たまにまばらになったり路線や地域によっては人家がない場所もあるけど、街と街の境目みたいなのがないのがほとんど。大型の野生動物は生息しにくいし移動しにくいと思うよ。
ヨーロッパと違って日本は都市部が帯状に集中してるだけじゃん。逆に山も東北から山口まで途切れない。琵琶湖でかなり縊れるけど。だから東京都も沢山クマが住んでいる。
どこの日本を言ってるんだ?
その分捕食者がいなくて崩れた生態系が修復され、増えた草食動物によって森や山の植生が荒れるのを防ぎ、それらは巡り巡って山崩れや洪水を防ぐことにもつながるし、同様に農作物への被害も抑えられるから全体としては良い影響の方が大きい
それに畜産業者への補償も検討されてるよ
うわぁ本読みてぇと思って検索したけど翻訳版なかったぁ!どっか翻訳してくれぇ!!
カラパイアさんならきっと・・・(チラッチラッ
新たな一族がこの地に芽生えたという事で研究者が興奮してるんだろうな