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宇宙から来た不思議な鉱物、熱伝導の法則を打ち破る

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(著)

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 18世紀にドイツに落下した隕石、さらには火星でも発見された不思議な鉱物が、科学者たちを驚かせている。

 この物質は、結晶でもガラスでもない、その中間の性質を持つ特別な構造をしており、温度が変化しても熱伝導率がほとんど一定のままという驚異的な特徴を示したのだ。

 この研究は『PNAS』誌(2025年7月11日付)に掲載された。

熱の伝わり方にはルールがある

 日常の中でも、熱がどのように移動しているかを感じる場面は多い。熱したフライパンの持ち手が熱くなったり、冬にストーブの近くが暖かくなったりするのは、熱が物体の中を移動しているからだ。この現象は「熱伝導(ねつでんどう)」と呼ばれ、物質によってその伝わり方にははっきりとした特徴がある。

 たとえば、金属のように原子が整然と並んでいる「結晶」では、熱はよく伝わるが、温度が上がると伝わりにくくなる傾向がある。

 逆に、ガラスのように原子が不規則に並んでいる「非晶質(アモルファス)」では、温度が高くなるほど熱が伝わりやすくなる。

 つまり、熱の伝わり方は「その物質がどんな構造をしているか」と「そのときの温度」の影響を受ける。これが、長年の物理学で知られてきた基本的なルールだ。

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Photo by:iStock

熱伝導のルールを無視した鉱物を発見

 アメリカ・コロンビア大学のミケーレ・シモンチェッリ助教は、スイス連邦工科大学ローザンヌ校のニコラ・マルザリ博士、ローマ・サピエンツァ大学のフランチェスコ・マウリ博士と共同で、量子力学とAI(人工知能の技術)を使い、熱の伝わり方における異常なふるまいをする物質の存在を理論的に予測した。

 それが「鱗珪石(トリディマイト)」と呼ばれる鉱物である。

 鱗珪石は、二酸化ケイ素(SiO₂)を主成分とする鉱物で、砂や石英と同じ材料からできている。ただし、その構造はふつうの結晶でもガラスでもなく、その中間のような曖昧なものだった。

 この中間構造が、鱗珪石に非常に特別な性質をもたらしていた。温度が変化しても、熱の伝わり方がほとんど変わらなかったのだ。

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鱗珪石 Didier Descouens / WIKI commons CC BY-SA 3.0

隕石のかけらがその性質を実証

 研究チームはこの予測を実証するため、フランス・ソルボンヌ大学のエティエンヌ・バラン博士、ダニエル・フルニエ博士、マッシミリアーノ・マランゴロ博士らのグループと協力。

 フランス国立自然史博物館の協力を得て、実際に1724年にドイツ・シュタインバッハに落下した隕石から鱗珪石の試料を採取した。

 この試料を使って、80ケルビン(−193度)から380ケルビン(約107度)という幅広い温度帯で熱伝導率を測定したところ、予測通り、その数値はほとんど変化しなかった。

 これは、かつてノーベル物理学賞の対象にもなった「インバー効果」(温度に関係なく一定の熱膨張率を示す現象)にも通じる非常に珍しい現象である。

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物質の原子構造における無秩序の増加は、熱の伝導という巨視的な性質に影響を与える。これは、熱管理技術にとって重要な特性である。今回研究対象となったのは、結晶構造を持つ隕石由来の鱗珪石(左)、結晶のような結合秩序とガラス状の結合形状をあわせ持つ鱗珪石の一相(中央)、そして完全に非晶質のシリカガラス(右)である。図中の赤は酸素原子(O)、青はケイ素原子(Si)を示し、一般的なSiO₄四面体構造は青い影で強調されている / Image credit:Simoncelli Lab

火星にも鱗珪石が存在

 鱗珪石は、火星の表面からも検出されている。NASAの火星探査機が収集したデータの分析により、火星の岩石中にもこの鉱物が含まれていたことが明らかになったのだ。

 これは、鱗珪石のような特殊な構造が、地球だけでなく他の惑星でも自然に形成されることを意味している。

 火星における鉱物の生成環境や、惑星の熱の履歴を知る手がかりとしても、重要な発見となっている。

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火星の地表 / Image credit:NASA/JPL-Caltech/University of Arizona/Texas A&M University

耐火レンガにも似た構造が形成されていた

 さらに研究チームは、鱗珪石に似た構造が、製鉄炉などで使われる耐火レンガの内部でも自然に生じている可能性があることを突き止めた。

 高温にさらされながら長期間使用されたレンガの中で、鱗珪石のような構造が年月をかけて形成されるという。

 これは偶然の産物だが、産業の現場でも似たような材料がすでに存在していたことになる。

 鉄の製造には大量のエネルギーが使われ、1kgの鉄を作るたびに約1.3kgの二酸化炭素が排出される。もしこの鉱物の性質をうまく応用できれば、製鉄炉の熱効率を高め、CO₂排出の削減にもつながるかもしれない。

AIと量子力学が素材研究を変える

 この研究では、量子力学の理論をもとに、AIの力で原子レベルの熱の動きを高精度にシミュレーションする手法が用いられた。

 その結果、物質の構造と熱伝導の関係を従来よりも深く理解できるようになった。さらにこの手法は、電子の流れや磁気的な性質(スピン)など、他の物理現象の解明にも応用が広がっている。

 鱗珪石が持つ、温度に影響されない熱の伝わり方は、身のまわりの熱管理から次世代の省エネ技術まで、さまざまな分野に新しい可能性をもたらすかもしれない。

References: Scientists Baffled by "Alien Mineral" That Acts in a Weird Way When Heated Up / Scientists Stunned by Alien Mineral That Breaks the Rules of Heat

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この記事へのコメント 12件

コメントを書く

  1. 鉄が結晶化したり天然の耐熱レンガが生まれたり
    やっぱり隕石って面白いな さすが宇宙

    • +10
  2. 大切なことなので2回と言わず3回言いました……。
    とふざけてコメントしてみるけど、最近の翻訳記事誤植多くない?

    内容が興味深いだけに誤植部分が気になって頭に入ってくるまでちょっと時間かかる。

    • -2
    1. 「なるほど… なるほど? なるほど‼︎」
      ってなったから良し

      • 評価
  3. 「この物質は、結晶でもガラスでもない、その中間の性質を持つ特別な構造をしており、温度が変化しても熱伝導率がほとんど一定のままという驚異的な特徴を示した

     温度が変化しても熱伝導率がほとんど一定のままという驚異的な特徴を示した。温度が変化しても熱の伝え方が変わらないという極めて異例の性質を持つことが明らかになった。」
    連続して3回、ほぼ同じ事を書いてるね

    • 評価
  4. 世の中はまだ知らない不思議なことだらけ!
    流体力学なんかも、実生活で扱うには困らない程度までは研究が進んでるけど、それ以上となると未解明の部分も多いんだっけね

    • +3
  5. “鱗珪石”自体の存在自体は昔から知られていた物質だけど、
    求める性質に一番近い構造をAIで予想させた結果
    AIが予想した構造に一番近い物質が”鱗珪石”だったという事か

    発見のされ方が新しい技術の新しい使いかたって感じでなんか面白ね
    これから同じような手法でのアプローチで、既存物質の新しい性質が発見できたり、
    はたまた新しい合金を作り上げたりする時代がきそう

    • +3
  6. まだまだ明らかになっていない事象が世の中には沢山あるのだろうなぁ

    • +4
  7. …つまり、ものすごい高温でも溶けたり割れたりしないで熱に耐えるということ??

    • -2
    1. 相転移すると流石に無理だろう・・・
      元記事によると80K(約-190℃)~380K(約106℃)まで一定だそうです

      • +1
  8. 温度に応じて結晶構造が変化することで熱伝導性が保たれているのかな

    • +1

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