機密解除されたCIAスパイ衛星画像から古代ローマの砦を発見
  機密解除された米中央情報局「CIA」のスパイ衛星の画像から、古代ローマ帝国の国境を塗り替えるような巨大砦が発見されたそうだ。

 発見された砦の数は約400か所もあった。その高解像度画像は、冷戦期にソ連や中国の偵察を主な目的として打ち上げられたコロナ衛星(1960〜1972年)とヘキサゴン衛星(1971〜1986年)によって撮影されたものだ。

 秘密解除された写真は、「肥沃な三日月地帯」と知られる重要な地域の覇権をめぐって、古代ローマ帝国がアラブの遊牧民やペルシアの軍隊と争い、その国境が常に変化してきただろうことを明らかにしている。

肥沃な三日月地帯とは?

 東のペルシア湾から チグリス川・ユーフラテス川をたどり、西のエジプトへいたる半円形の地域を「肥沃な三日月地帯」という。これは古代オリエント史の文脈において多用される歴史地理的な概念だ。

 ここは古代エジプトやメソポタミア文明など、様々な古代文明が繁栄してきた歴史的に重要な地域で、広大な領土を誇った古代ローマにとっても要所だった。(ちなみに猫が生まれた場所だとも考えられている)。
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シリアとイラクにある砦の分布を比較した地図。上は1934年の航空調査によるもので砦の数は116。下は機密解除された CIAスパイ衛星の画像に基づいた2023年新たな調査によるもので396の砦が発見された / image credit:Antiquity/Jesse Casana、David D. Goodman、Carolin Ferwerda

古代ローマの砦は防衛線ではなく交易の安全を守るためのもの?

 1934年、フランスの考古学者アントワーヌ・ポワドバールは、シリア・イラク・ヨルダンに数百も点在する古代ローマの砦の跡を調査し、それらはパルティア(古代イランの王朝:紀元前247〜後224年)やササン朝ペルシア(226〜651年)に対する防衛線として設置されたものであると発表した。

 米国ダートマス大学のジェシー・カサナ氏らは、コロナ衛星とヘキサゴン衛星の画像から、新たな巨大砦を発見し、100年前の仮説が間違っているらしいことを明らかにしている。

 もしも砦が東方の敵に対する守りならば、南北に配置されているはずだ。ところが、その砦はそうした配置にはなっておらず、地域全体に点在しているのだ。

 『Antiquity Journal』(2023年10月26日付)に掲載された論文では、次のように説明されている。

 「これらの砦は内陸砂漠の縁に沿っておおよそ東西に連なっており、東にあるチグリス川沿いのモースルとシリア西部のアレッポを結んでいる」

 こうしたことから、砦は国境を守るためというよりも、むしろ交易のために行き交うキャラバンの安全を守るものだと考えられるのだ。それは戦いではなく、コミュニケーションや異文化交流をうながしていた可能性が高い。
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砦の配置からはそれが防衛線ではなく、交易を行うキャラバンを守るためのものだろうことがうかがえる / image credit:CASANA, GOODMAN, FERWERDA

長年にわたり利用されてきた砦

 驚いたことに砦の多くからは、数百年にわたって人が使っていた形跡が見つかっている。

 その多くは2世紀から6世紀にかけてのもの、ちょうど古代ローマ帝国が衰退し、東ローマ帝国へと覇権が移った時代のことだ。

 「証拠の比較からも、紀元後6世紀までに砦が広範囲で放棄された一方、大きな砦の多くがその後中世にいたるまで長い間占有されていた歴史がうかがえる」
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こうした画像は冷戦期に中東の空から撮影されたものだ/ image credit:CASANA, GOODMAN, FERWERDA

 新たに発見された砦の中には驚くほど大きなものもあり、それらは1辺の長さが200メートルにも及んでいる。

 「大型の遺跡の多くには、砦を取り囲むものや、その中に作られたものなど、複数の要塞化された建物や大型の城塞のような建築物が広範囲にわたって残されている」

 残念なことに、現在のこの地域は戦争や紛争などに見舞われており、地上での発掘時調査を難しくしている。それでも今回のような新しい資料を使えば、歴史の断片をつなぎ合わせることができるとのことだ。

 近年、冷戦時代のスパイ衛星が撮影した映像は、考古学者にとって貴重な資料となっている。

 コロナ衛星が撮影した画像は1995年に機密解除され、とりわけ中東のような植物が少ない地域における考古学的な理解を助けてきた。

 その後継計画で打ち上げられたヘキサゴン衛星の画像は、2020年に機密解除され、コロナ衛星のものと同様、研究者に貴重なヒントを与えている。

References:A wall or a road? A remote sensing-based investigation of fortifications on Rome's eastern frontier | Antiquity | Cambridge Core / Declassified spy satellite images reveal 400 Roman Empire forts in the Middle East / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント

1

1.

  • 2023年10月29日 20:22
  • ID:HScq54Xe0 #
2

2. 匿名処理班

  • 2023年10月29日 21:36
  • ID:LKfAaDGv0 #

正方形は敵に攻められたときに守りにくい形だともいわれる。
軍事施設ではなく貿易商の宿場町だと考察されたのはそのためだろうか

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3. 匿名処理班

  • 2023年10月29日 21:47
  • ID:3l2Yv0Jv0 #

ヘビースモーカーズフォレスト!

4

4. 匿名処理班

  • 2023年10月29日 23:02
  • ID:fcwQe7bT0 #

そりゃあ、偵察衛星だから軍事的な意味合いがあるものは全て撮影して検証してるだろうね。

こういう遺構はほぼ全て古代ローマ帝国時代の「軍事的」な遺構だから現代においてもいつ軍事的な基地や駐屯地になるかわからないわけで、監視対象になってたんだろうな。

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5. 匿名処理班

  • 2023年10月30日 07:06
  • ID:cUBtbEXl0 #

>>4
考古学者からすれば「もっと早く公開してようお」なんだが

>>現代においてもいつ軍事的な基地や駐屯地になるかわからない

そりゃそうだわな。
考古学は平和でないと進められんのよ。

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6. 匿名処理班

  • 2023年10月30日 09:25
  • ID:M8FIK82a0 #

400か所以上……長年にわたってそれを維持して兵士を配してたローマの国力がすごい。しかもどの砦もかっちり四角形に仕上げている。砦とする土地の選定が上手いだけじゃなくて、現場の土木作業も技術の規格化や工程が確立されていたんだろうな。

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7. 匿名処理班

  • 2023年10月30日 12:26
  • ID:j84sxpRD0 #

NNN「早く平和になって、聖地巡礼に気軽に行ける世の中になって欲しいのニャ」>猫誕生の地

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8. じょん・すみす

  • 2023年10月30日 17:14
  • ID:BXwWOBmt0 #

コロナとかヘキサゴン衛星はフィルムで撮影して地球で現像だからな。
意外と高解像度な写真が入手できる、って話。

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9. 匿名処理班

  • 2023年10月31日 23:58
  • ID:G1QW7K0L0 #

>>2
古代ローマの砦は正方形が典型

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10. 匿名処理班

  • 2023年11月01日 13:17
  • ID:v8at4SD60 #

>>2
ローマ軍はファランクスの戦陣形で重装歩兵を敵陣へぶつけて擦り潰す戦法が有名だよね。

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