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触れるだけで破壊。セミの翅が持つ驚異的な殺菌効果と洗浄効果。そのメカニズムの一部を解明

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 セミは夏の風物詩と言われるほど身近な生き物だ。約7年土の中で幼虫として暮らし、成虫として羽ばたけるのは約7日~数週間と、その儚い生き方も知られている。

 そして今、科学者たちは別の意味でこの昆虫に大注目している。セミの翅(ハネ)には強力な殺菌効果とその残骸を洗浄する効果があるのだ。

 セミの翅がこの能力を発揮するメカニズムはこれまで不明だったが、スーパーコンピューターによりその秘密が明かされつつある。

 『ACS Applied Materials & Interfaces』(2023年1月4日付)に掲載された研究によれば、その秘密は翅の表面の極小サイズの柱上の構造体「ナノピラー」にあるらしい。

セミの翅に触れただけで細菌が破壊される殺菌効果

 セミの翅が細菌を殺すばかりか、死んだ細菌のカスを自動的に洗浄してしまうことは、以前から知られていた。

 その殺菌パワーはきわめて強力で、細菌はセミの翅に触れただけで死んでしまう。

 しかも、そのせいで翅が汚れてしまうこともない。細菌のカスや死骸が表面にたまると、そのせいでよりいっそう細菌がくっつきやすくなる。

 ところが、セミの翅からはそうした汚れが綺麗さっぱり落ちてしまうのだ。

 このスーパーパワーの秘密を探るため、翅の化学や物理的な特徴が研究されてきたが、なぜそんなすごいことができるのか、詳しいメカニズムはわからないままだ。

 だが、どうやらその力は、翅の表面にある微細な柱状の構造体で、ナノメートルサイズの突起物「ナノピラー(ピラーとは柱のこと)」が関係しているらしい。

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細菌を殺し、残骸も洗浄するセミの翅の驚くべき能力 / image credit:Salatto et al., ACS Appl. Mater. Interfaces, 2023

セミの翅の殺菌効果と自己洗浄効果を再現

 米ニューヨーク州立大学ストーニーブルック校の古賀忠典氏と遠藤まや氏らは、この翅のスーパーパワーを再現できないものかと、包装によく使われるポリスチレンとアクリル樹脂を使ったポリマー(重合体)でナノピラーを作ってみた。

 すると、それだけで強力な殺菌効果と自己洗浄効果が発揮されたのだ。

 セミの天然ナノピラーは、高さ150ナノメートルで、各ピラー同士の距離も大体そのくらいだ。当初、研究チームはこのナノピラーの高さこそが殺菌効果の鍵であると考えていた。

 それがちょうど針のように細菌に突き刺さって、殺してしまうと思われたからだ。

 ところが、どうもそうではないようなのだ。たとえば高さ10ナノメートルの超小型ナノピラーであっても、セミの翅に負けない強力な殺菌力があったからだ。しかも相変わらず洗浄までされる。

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再現シミュレーションを上から見た様子。ナノピラーは強力な吸着力で細菌の外膜とくっつく / image credit:an-Michael Carrillo/ORNL

ナノピラーによる張力が細菌を引き裂く

 では、セミの翅にはどんな秘密が隠されているのだろう? その驚異のメカニズムの一端は、特別なシミュレーションによって明らかにされている。

 コンピューターで約100万個の粒子(大腸菌を単純化したもの)を作り、それがナノピラーに触れたときの様子を観察してみたところ、ナノピラーは脂質でできた細菌の外膜にピッタリくっつくことが判明したのだ。

 それは強力な吸着力で、外膜がナノピラーの形に沿うようにくっつく。すると外膜はナノピラーとナノピラーの間でぴんと引っ張られ、その張力に耐えきれずに裂けてしまう。

 これがセミの翅の殺菌効果の秘密だ。ならば、なぜ細菌の死骸が翅に残らないのか?

 それは外膜が裂けた後も引っ張られ続け、やがてナノピラーから外れてしまうくらい張力が高まるからだ。

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再現シミュレーションを横からみた様子。細菌の外膜はナノピラーにピッタリとくっつき、その張力で引き裂かれる/ image credit:Jan-Michael Carrillo/ORNL

 これが正しいのだとすれば、もう1つ不思議なことがあった。

 それは大腸菌よりも硬いリステリア(やはり食中毒の原因になるグラム陽性菌)には、あまり効かないことだ。

 体が硬いなら、それだけ裂けやすいのではないかと思われたが、それはリステリアがナノピラーにくっつきにくいことが原因であるようだ。

 試しにナノピラーを酸化チタンでコーティングしてみたところ、リステリアにもうまくくっついて、高い殺菌力が発揮されるようになったそうだ。

メカニズムの完全解明で、医療器具への応用を目指す

 今回明らかになったのセミの翅のスーパーパワーのすべてではなく、そのメカニズムはまだ完全に解明されていない。

 研究チームは今後さらにシミュレーションでセミの翅の秘密を探っていき、将来的には、薬剤が効かない「薬物耐性菌(スーパーバグ)」が医療機器の表面で繁殖することを防ぐ殺菌コーティング剤の開発を目指すという。

References:Structure-Based Design of Dual Bactericidal and Bacteria-Releasing Nanosurfaces | ACS Applied Materials & Interfaces / Cicada Wings Kill Superbugs on Contact, And We May Finally Know How : ScienceAlert / written by hiroching / edited by / parumo

追記(2023/08/09)セミの成虫の寿命を約1週間と記述しましたが1週間から数週間に変更して再送します。

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この記事へのコメント 54件

コメントを書く

  1. ハゲタカの小便にも強力な殺菌効果があるそうだな

    • 評価
  2. つまり、テフロン入り撥水スプレーを振ったときの表面に近い感じ(ロータス効果)かな?
    ナチュラルにそうした構造なのがスゲェや。

    • +2
  3. 細胞膜のミセルを化学的ではなく物理的に破壊するってこと…?

    • +10
  4. ナノテクノロジーすごい!
    しかし何故セミの翅にその能力が?たとえばゴキブリの方が普段使いで役に立つような気がするけれど

    • +6
  5. 化学的反応とかではなく、物理的に細菌を破壊する仕組みなのね。

    • +14
  6. 畳一畳分の蝉の羽を再現したら人も死んでしまうん?
    空気清浄機に応用できそう

    • -2
  7. ???『これが俺の能力…、“ナノピラー(細菌破壊支柱)”だ…。』

    • 評価
  8. 物理的な構造のみで殺菌作用が作り出せるのか。
    医療器具の表面加工とかに利用できそうだね。
    しかし何故セミは翅にこんな性質を持たせたのか、、
    実は翅を振るわせた時に鳴る音にも良い効果が出るんじゃないかな?

    • 評価
    1. >>8
      多くのメスが手術室で同時にみーんと定期的に鳴いたり
      空港の航空機の羽も同じくみーんと震えるようになると
      いくら有効性あってもうるせーと騒ぎたくなるかもな

      • -5
      1. >>12
        蝉は翅で泣いてるわけじゃなくて、空洞の腹部を伸縮させて鳴いているんだよ。飛行機の羽が鳴ることはないから安心してほしい。
        しかしこのナノピラーは人が指で触れたら無くなるんかな?

        • +3
  9. ナノピラー実装した空調機器がダイキンやシャープから出るといいな

    • +2
    1. >>9
      結局触れたとこだけしか効果ないからマイナスイオン並みの詐欺商品になりそう

      • +1
    2. >>9
      これ良い
      最近エアコンの吹出口を掃除して黒カビ地獄だったので、プラスチックの部分全部をナノピラー構造で覆ってほしい
      でもカビには効かなさそうだな……ピラーのサイズなどをうまく調整して大きめの真菌にも適用できたりしないだろうか…

      • +1
      1. >>47
        エアコンの中をこの仕組みの部品で作ったらカビ生えなくて助かる!?

        • +1
  10. スレタイ見て翅(ハネ)が読めなかったのは僕だけじゃないはず…だよね?
    漢字力なくてかなしい

    • -7
    1. >>10
      モンハンのランゴスタの翅で覚えた自分もいるから大丈夫だ!

      • +2
  11. だから翅だけ落ちてる時あるのか?
    流石に関係ないか、蟻すら残す程マズイのかと思ってた

    • +8
    1. >>11
      掃除するのは蟻だけじゃないからな。腐食する菌すらも分解してるかもしれないから関係ないとは言いきれんよ。

      • +12
  12. この形になったセミが細菌に負けずに生き延びて子孫残し続けたって事か
    自然て紆余曲折な様でいて長期的にはメッチャ合理的よな
    こう言う技術は積極的に真似て行きたいね

    • +8
  13. セミの機構も凄いけど、再現できそうな人類の技術力も凄いな

    • +18
  14. そのセミを菌糸で殺して栄養にしてしまう
    冬虫夏草もすごいな。そりゃ高価だわ。

    • 評価
    1. >>18
      冬虫夏草が寄生するのは幼虫だから、翅ができる前だね

      • +4
  15. 地中に居る時はセミタケとかに食われるから神様が不憫に思い地上に出たら無敵にしてくれた?。

    • 評価
  16. ハスの葉の凸凹は水を弾くけどこの柱は逆に細菌を吸着するのは不思議
    いずれ除菌○○みたいな商品になるのかな

    • +5
  17. セミ専属の寄生虫、いるよな
    あれには効かないのか

    • +2
  18. ラジオの「夏休み子供電話相談」で虫に詳しい先生が言ってた。

    この世界には2種類の生き物しか居ない。
    一つは人間の役に立っている生き物で、もう一つは
    人間がその役立たせ方にまだ気付いていない生き物だと。

    ごくごく身近な生き物でも
    調べれば調べるだけ有用な発見があるんだろうね。

    • +8
  19. 病室をこの構造の壁にできんもんかね?
    あと洗濯機や風呂釜の裏側とかヌメヌメするカビ生えてもなかなか掃除できない所とか

    • +12
  20. 凡人が考えつかないような事に着眼してを研究してる人達がいるんだなー。
    そりゃ予算を得るのも大変だろう。
    そこからすごい技術が生まれ、人々が恩恵を得る事もあるんだな。

    • +11
  21. こんな優秀な日本人研究者2人の所属がNY州立大とは
    物性物理は日本のお家芸だったけど、それも昔の話となるのか

    • +14
    1. >>33
      ノーベル賞受賞者を含めて大勢の研究者が窮状を訴えてるよね
      予算が減らされて事務員も雇えないので、研究者本人がお役所書類の作成に忙殺されて本業の研究ができないとか、
      「役に立つ」大学にだけ予算を与えて他所には与えない格差方針とか(「当たり馬券だけ買えば大儲け」と同じ発想だと酷評の嵐)

      今の日本は科学政策がひどすぎて研究者を虐めて追い出してるレベル

      • +1
  22. ちょっとでも触れると血が出るまで吸いつくエグい足ツボマッサージ

    • +1
  23. よくセミにオシッコかけられますねんけれど、ばい菌は無いんでしょうかねぇ

    • 評価
    1. >>35
      羽の殺菌効果なんで、残念ながらそれ以外への効果はないのでつまりは…

      • +3
  24. サムネがアブラゼミじゃなく良かった

    • 評価
  25. 蝉の抜け殻(空蝉)結構長く残るよね、(2~3年)物も 

    • +1
  26. 庭で沢山羽化するんだけど、今年羽のない個体を見つけた。生まれつきらしく一生懸命木を登ろうとしていて切なかったわ…。アリとかにやられなかったらいいんだけど…。

    • +4
  27. 読む前「細い針で串刺しにして細胞膜を破壊するのかなあ、えぐいなあ」

    読んだ後「一度触ると死ぬまで剥がれない粘着テープで思い切り引っ張って身体を引き裂くが如き…!っぱ大自然パイセンは俺らじゃ思いも付かないような残虐性を秘めてるんッスね!」

    • +5
  28. ちっちゃいロビンマスクが
    細菌相手にタワーブリッジを掛けまくって
    文字通り千切っては投げしてるってことかな

    • +1
  29. 細かい突起ってことは除菌が出来ても汚れがこびりつきやすいということ、天井にはピッタリだけどドアノブには不向きやも?

    • -2
  30. 今日偶然捕まえたトンボもまた同じ羽だよね!!
    もしかしたら同じ構造なのかもね・・・

    • 評価
  31. 血管や気管支、人工腎臓に埋め込んでも良さそうだ
    浄水器にも良いね

    • 評価
  32. どうせナノの突起で細菌を突き刺すんやろ(ドヤ
    …という人間には表面張力などたどり着きようもなかった

    • 評価

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