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スーパーバグ(抗生物質耐性菌)を倒す「毒の矢」が開発される(米研究)

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スーパーバグを退治する毒の矢 image by:Matilda Luk, Office of Communications
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 抗生物質に対する耐性を獲得するにいたった耐性菌、スーパーバグの登場は、世界の医療者が直面している厄介な問題である。

 耐性菌への有効な対処法が考案されなかった場合、2050年までには年間100万人の人間が命を落とすことになるという試算もあるほどだ。

 だがもしかしたら、プリンストン大学(アメリカ)の研究チームが開発した”毒の矢”が打開策になるかも知れない。

 その分子は耐性菌の保護層を矢のように貫通し、内部から破壊する、まさに毒矢である。

この研究は『Cell』(6月3日付)に掲載されている。

A Dual-Mechanism Antibiotic Kills Gram-Negative Bacteria and Avoids Drug Resistance: Cellhttps://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)30567-5

細菌の外膜を貫通し、内部の葉酸を破壊する毒矢分子

 細菌にとっては恐怖以外の何者でもないその分子の名を「SCH-79797」という。そのユニークな性質は、新旧さまざまな撮像技術と分析法によって数年がかりで明らかにされたものだ。

 細菌は、大きく「グラム陰性菌」と「グラム陽性菌」の2種に分けることができる。厄介なのは頑丈な外膜を持っている「グラム陰性菌」だ。

 グラム陰性菌に効く新しいタイプの薬剤が登場して30年になるというのに、この外膜のおかげで、ほとんどの抗生物質が最終的には退けられてきた。

 だがSCH-79797はこの外膜を貫き、さらに細胞内の葉酸を破壊するという2段階の作用で、効果的に細菌を駆逐することができる。

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Ca-ssis/iStock

抵抗不能な毒矢の破壊力

 いくら強力な破壊力があるとはいえ、細菌のもっとも厄介な点は、世代を重ねるうちにすぐに新しい耐性を身につけてしまうことだ。いかに優れた抗生物質であっても、近い将来SCH-79797を騙すことができる細菌が登場したとしてもおかしくはない。

 そこで研究チームは、毒矢に対して耐性を持つ細菌が発生する可能性について調査してみた。

 大腸菌、メチシリン耐性黄色ブドウ球菌、淋菌といった、あっという間に薬剤耐性を獲得してしまうことで知られる細菌たちにSCH-79797を繰り返し使ってみる。

 素晴らしいことに、こうした実験にもかかわらず、SCH-79797への耐性を持つものは発見されなかったそうだ。

 こうした特徴から、SCH-79797の”誘導体”は、抵抗不能を意味する「イレジスチン(Irresistin)」と命名された。

誘導体である理由

 なお「誘導体」とは、元々の化合物の構造や性質が大幅に変わらない程度に、その一部を変化させたもののことをいう。

 なぜそのものずばりではなく誘導体が開発されたのか?それはSCH-79797の破壊力の強さにある。

 確かにSCH-79797は細菌をきわめて効果的に駆逐してくれる。しかし、それと同等の破壊力を人間の細胞にまで発揮してしまうのだ。それでは人体に投与することなどできない。

 そこで開発されたイレジスチン-16誘導体は、細菌に対する強力な破壊力を誇りながら、ヒト細胞に対する威力は1000分の1に抑えられている。これなら人体に危険な副作用を与えることなく、細菌を殺すことができる。

 淋菌に感染したマウスに投与したところ、きちんと感染症を治療することができたそうだ。

新しいタイプの抗生物質開発の基礎

 イレジスチン-16は、ただ単に耐性菌に有効な新兵器であるだけでなく、新しいタイプの薬剤開発の基礎としても有望であるという。

グラム陽性菌にもグラム陰性菌にも薬剤耐性を生じさせることのない初めての抗生物質です。その有効性は肝心な点ですが、科学者として特に興奮しているのは、この抗生物質の作用らしきものを解明できたことです。

1つの分子が2つのメカニズムで攻撃します。これを一般化して、いずれはもっと優れた抗生物質や新しいタイプの抗生物質を開発できたらと思います(Zemer Gitai氏)

References:Princeton team develops ‘poisoned arrow’ to defeat antibiotic-resistant bacteria/ written by hiroching / edited by parumo

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この記事へのコメント 20件

コメントを書く

  1. アビガンもRNAによる複製阻害だし、ゆくゆくは対象のウィルス増殖その物を抑える事がメインで、あとはそれにより弱る器官の再生になるのかな。

    • +2
  2. SC❚-79797
    それは耐性菌を滅するための抗生物質として開発されました。

    • +2
  3. この時はまだ誰も、とんでもない耐性菌が出現するとは、
    夢にも思っていなかったのであった…

    • +8
    1. ※3
      永遠のシーソーゲームが生存競争だ。
      ぼんやりと立ち止まった者から絶滅する。

      • +1
  4. 物理ダメージで倒す
    セミの羽のナノ突起と同じ作戦だね

    • +7
  5. 耐性獲得不能と謳うけれど、いつも通り時間の問題な気がする

    • +5
    1. ※5
      うん、例えば新しい Windows も出る度に…
      『今度の物は、セキュリティー性が高められています』
      『今の所は、対応しているウィルスも出現していません』
      とか言っていても、数ヶ月もしない内に出て来るものね?

      • 評価
  6. いくら耐性ある奴でも中身から直接攻撃されたり、ハンマーのような
    道具で木っ端みじんされたら、いくら強くなろうがもうおしまい
    多分もっと単純で耐性作ろうにも無理な対処方法出てくるのだろうな

    • +1
  7. 病を鍛え続けた結果、人体を破壊するレベルの薬剤じゃないと対処出来なくなりつつ有る訳か
    その内人間の進化も薬に対する抵抗力の方に発揮される事になりそうだ

    • +7
  8. ここでで話題になってる、病気の原因菌やそこから派生する耐性「菌」ってのと、ウイルスとはまったく別物だからね?
    んで、人体へは1000分の1とあるが、まあかなり強い薬ではあるよう。それと実験では耐性を持たなかったとはいえ自然界での試行回数は桁が違うからな。

    • +5
    1. ※8
      ウイルスの話してる人はいるけれど、誰もスーパーバグ=ウイルスとは言っていない。
      ここのコメ欄の人達すんごい優秀。

      • 評価
  9. スーパーフグだと思って開いたら違った…

    • +1
  10. 個人的にあんまり手放しでは喜べない話題。腸内細菌を筆頭に、常在菌が人間の免疫の維持や神経の発達に大きく関わっている事が解明されているし、人体そのものには無害でも有益な細菌まで駆逐しかねないんじゃなかろうか。

    • +3
    1. ※10
      そもそも抗生剤なのだからそういった懸念はいまにはじまったことではないですよね
      望ましくない効果を持たない薬はありませんし駆逐云々は処方を守って飲めばいいだけです

      • +7
  11. ア〇トマン「…あーびっくりした…シぬかと思った…!!」

    • +1
  12. SCH-79797はスキを突かれた!
    ブドウ球菌の先制攻撃!!
    SCH-79797は倒れた・・・

    テッテテ~ン♪
    ブドウ球菌がレベルアップ
    ブドウ球菌が「毒の矢」のスキルを獲得した
     

    • +1
    1. >>15SCH-79797が起きあがり仲間になりたそうにこちらを見ている。
      仲間にしますか?

      はい←
      いいえ

      • +1
  13. SCH79797って新しい化合物という訳ではないみたいだね。普通に売ってる。誘導体irresistinは新規みたいだけど。

    SCH79797は、細胞膜にもともと貫通してる受容体タンパクに結合する物質で、本来結合すべき生体物質の邪魔をする奴。拮抗剤じゃないかな。

    グラム陰性細菌の外膜でも受容体に勝手にくっついて膜表面のいろんな生化学反応を邪魔して、膜のコンディションを下げる。

    物理的に膜を破る訳じゃなくて、家に例えるなら窓枠や換気扇の排気口なんかに勝手に取り付いて窓を開かなくしたり換気を出来なくして酸欠にさせたり、さらには排水口の出口にまで取り付いて家の中から生ゴミやし尿を出せないようにしちゃうような、そんなイメージだと思ったよ。

    • +2
  14. 第一段階では物理的に破壊するのだからそれに耐性を持つと言うことは、つまり今の細菌(グラム陰性菌とグラム陽性菌)である事をやめて別の生物になるくらい大幅に進化をしなければならないって話かな?だから事実上不可能と。
    この考えは将来のもっと強力で賢い医療用ナノマシン開発に通じる。

    • +2
  15. 抗がん剤でもマーキングして腫瘍を攻撃と言うのが
    新しいスタンダードになっているよね
    いわゆる分子標的薬だけど
    それを抗生剤に応用したって印象がある

    • +1

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