
ドイツ、ハイデルベルク理論研究所の研究チームがその特殊な波形を調べたところ、ブラックホールの歌声は「2つの普遍的な周波数」で音を出している可能性が明らかになったという。
それが意味するのは、ブラックホールに普遍的な2つの質量があるだろうということだ。
この事実はブラックホールの形成プロセスを解き明かすヒントになるほか、超新星爆発のメカニズムを理解し、宇宙の膨張スピードを計測する新たな方法になるなど、天文学者にとってすばらしい福音となるという。
ブラックホールの歌声の正体は重力波
ただ黙々と物質を飲み込んでいるだけに思えるブラックホールだが、じつはブラックホール同士でダンスを踊りながら、歌を歌うことがある。その歌声は地球まで聞こえてくる。
100年前にアインシュタインが予言し、2015年になってようやく検出された「重力波」のことだ。その発生源がブラックホール同士の合体なのだ。
ブラックホールの合体は、もともと連星だった2つの星がブラックホールになり、やがて接近することで起きる。この時、時空に波紋のように広がるのが重力波だ。
この重力波は、だんだんと周波数と振幅が増加する「チャープ波形」という特徴的な形をしている。
チャープとは鳥のさえずりのこと。つまりブラックホールのペアは、踊りながらだんだんと相手に近づき、鳥がさえずりように囁きながら1つになるのだ。
なんてロマンチックなのだろう。絶対吸い込まれたくはないけれど。
だが地球の天文学者にとって、ブラックホールの歌声はそのロマンスにうっとりするためのものではなく、その質量を知るためものだ。
その周波数の変化を調べることで、合体するブラックホールの質量がわかるのだ。これを「チャープ質量」という。要は、歌声の大きさから体の大きさや重さを推測するようなものだ。

合体するブラックホールの質量には普遍性がある?
これまで合体するブラックホールは、どんな質量でもかまわないと考えられてきた。ところが、そのチャープ質量を分析した今回の研究によれば、そうではないかもしれないという。太陽より何倍も大きな星は、その一生を終えると自らの重力で崩壊し、ブラックホールか中性子星になる。これらを総称して「星の墓場(stellar graveyard)」という。
以前よりも重力波検出器の性能がアップしていることもあり、この星の墓場はどんどん大きくなっているが、そこから1つ面白いことが明らかになっている。
それはブラックホールの質量には、偏りがあるということだ。一番多いのは太陽8個分のものと14個分のもので、その中間がない。
そして今回のチャープ質量からも、そのことが裏付けられている。合体するブラックホールの質量は、太陽9個分より小さいか、16個分より大きいかのどちらか。その中間はないのだ。

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そして、このことは天の川銀河に限らず、宇宙で普遍的なことであるようだ。遠くの宇宙では、天の川銀河のものよりずっと大質量のブラックホールが見つかっているが、これはブラックホールの元になる星の化学組成が違うことが原因だ。
こうした化学組成の違いにもかかわらずチャープ質量の偏りは、どの場所でも同じだったのだ。
ブラックホールの合体はまだそれほど多く観測されていないので、これが本当に普遍的なことなのか、ただの偶然なのかどうか、はっきりしたことは不明だ。
だが一つ確かなことがあるとすれば、ブラックホールの歌声は今後も天文学者が宇宙の神秘を解き明かす重要なヒントになるだろうということだ。
この研究は『The Astrophysical Journal Letters』(2023年6月15日付)に掲載された。
References:Study predicts black hole chirps occur in two universal frequency ranges / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
この神秘的な現象
ロマンスの神様ってことね!
2. 匿名処理班
ブラックホールってなにかとクジラに似ている気がする
歌うし潮吹くし 黒くてでかいし
3. 匿名処理班
その「歌」が聞きたかった!
4. 匿名処理班
聞いてみたい
5. 匿名処理班
どんな音なんだろう
6. 匿名処理班
果てしなき大宇宙を旅する
荒くれ達が恐れる
歌があると言う
7. 匿名処理班
イメージ図の空間の歪みがまるで鳥の嘴みたいだ
宇宙には空間を揺らす囀りをする鳥がいるんだな