
これまで5回あった地球の大量絶滅のうちの、初めの2回(オルドビス紀とデボン紀)を生き延びたほどタフな節足動物であり、数々の不思議な特徴がある。
その1つが目だ。その目は現代の昆虫のような複眼でありながら、素材は「方解石」というクリスタルだったようなのだ。
それどころか、複眼の下に複眼があったり、第三の目まで発見されていたりと、未だ様々な発見がなされている。
古生代の海で繁栄した三葉虫の特徴的な目
三葉虫はカンブリア紀に誕生し、ペルム紀に絶滅した節足動物だ。その間、2回の大量絶滅を生き延びている。古生代(約5億4000万〜2億5000万年前)と呼ばれる時代の海では代表的な生物で、その化石もたくさん発見されている。
大昔の生物ではあるが、その目は「方解石」という結晶でできていたために、今もなお化石として残っている。彼らの目が古生物学者を魅了するのは、そのおかげでもある。

方解石とは主に石灰岩でできた鉱物で、不純物が混ざっていないものは透明か白(じつは大理石も方解石の1種)だ。
だから理論上は目のレンズとして使うことができる。そんなクリスタルの目を持つ三葉虫は、おそらくそれほど詳細な映像は見えなかっただろうが、動きには敏感だったと考えられている。

三葉虫の3種類の目
これまでの研究で、三葉虫には3種類の目があったことがわかっている(ちなみに3つ目があったこともわかっている)。一番古く、かつ一番一般的なのが「ホロクローアル眼(holochroal eye)」と呼ばれるものだ。これは小さなレンズがびっしりと並んだ複眼が、1枚の角膜でおおわれている。
「アベーソクローアル眼(abathochroal eye)」は、エオディスクスの仲間にだけ見られるもので、小さなレンズそれぞれが薄い角膜でおおわれている。
3つ目が、ファコピナ亜目だけにある「スキソクローアル眼(schizochroal eye)」。角膜におおわれた大きなレンズが間隔を開けて並んでいる。

この中で現代の昆虫や甲殻類のものに一番よく似ていたのがホロクローアル眼だ。
おそらくは機能も同じようなもので、個々のレンズが働き、それらを組み合わせたモザイクのような映像を作り出していたと考えられる。

二重に見える「複屈折」がある方解石
じつは方解石には、目の素材としては不向きではないかと思わせる特徴がある。それはこの石には自然界でもっとも強い「複屈折」があることだ。屈折率が2つあるのだ。水に入った光が、屈折するのは知っているだろう。そのせいで水の中の指が曲がって見えたりする。
方解石の場合、そこに入った光は2種類の屈折率のせいで2つに分かれ、それぞれ違うスピードで進む。だから二重の像ができる。
ホロクローアル眼のような小さなレンズの場合、これはあまり問題にならない。光のズレは小さく、ほとんど感知されないからだ。
だがスキソクローアル眼のような大きなレンズでは、困ったことになるかもしれない。
そもそも方解石にしなやかさはない。だから目の焦点を合わせて、光のズレの影響を和らげることもできない。
だが自然とはよくできたもので、三葉虫はそれを補うまた別の仕組みを備えている。
スキソクローアル眼は、いわゆる「ダブレット(2枚構造)レンズ」なのだ。つまり、屈折率が異なるレンズを2枚合わせて、複屈折を補正できたらしい。

まだまだ謎に包まれた三葉虫の目
とはいえ、スキソクローアル眼が具体的にどのように機能していたのかよくわかっていない。じつは最近の研究で、スキソクローアル眼が想像以上に複雑であることがわかっている。それを構成している個々のレンズの下には、小さな複眼が隠されていたのだ。
三葉虫の視覚については完全に誤解されている可能性すらある。クリスタルの目は、もともとあったものではなく、長い年月のうちに形成されたものではないかという仮説もあるのだ。
本当のところはどうなのか? 三葉虫の目はまだまだ古生物学者たちを惹きつけて離さないようだ。
追記(2023/07/16)ホロクローラル眼の表記をホロクローアル眼に変更して再送します。
(2023/07/17)本文を一部訂正して再送します。
References:Ancient Trilobites Had Crystal Eyes, And They're Still a Mystery / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
ほーかい
2. 匿名処理班
気配と向きが分かるだけでも段違いだよな
3. 匿名処理班
「クリスタル」という単語は、水晶、結晶、透明度の高い高級ガラス(クリスタルガラス)などの意味があって、英語では結晶がイメージされるが、日本では水晶やクリスタルガラスをイメージする方が多く、「クリスタルでできていた」とか書くと、まるで水晶でできていたかの様な印象になってしまうよ。
あと、「方解石とは主に石灰岩でできた鉱物」は、逆。石灰岩の主要成分が方解石(あるいは組成が同じだが結晶構造が異なる霰石)。
4. 匿名処理班
>方解石とは主に石灰岩でできた鉱物で
逆 石灰岩の主成分が方解石
5. 匿名処理班
どの写真の個体も丁寧にクリーニングされていて素晴らしい
6. 匿名処理班
三葉虫は体の殻が炭酸カルシウムでできていて、
この炭酸カルシウムがカルサイト、方解石の成分
貝類の殻が炭酸カルシウムで、三葉虫の殻も非常に硬かったと言われています
国立科学博物館の三葉虫のコーナーは毎回じっくり、舐めるように見ていました
7. 匿名処理班
もし絶滅していなかったら、人気のペットになっていただろうなぁ、、、
ディクラヌルス・モンストローサスとかカッコイイからねぇ。
8. 匿名処理班
方解石の複屈折といえば、昔バイキングが曇りの日に太陽の位置を知るのに利用したんじゃないかって話もあるし、三葉虫も何かに役立てていたら面白い。
9. 匿名処理班
化石になる間に浸透して成分が入れ替わったりした可能性は?
10. 匿名処理班
三葉虫が化石になるまでに目が方解石になった説はないのかな。
長い年月で方解石化した…みたいな。
11. 匿名処理班
試行錯誤の跡が感じられるなあ スパゲッティの神様、がんばってる
12. 匿名処理班
進化論にはやはり疑問点が出て来るな
やっぱり神的なものがいて、生物はそいつ(そいつら)がそれぞれ作ったんじゃないのかな
全く進化(退化)しないというわけではなく、細かい進化とかはするだろうけど
13. アユラ
件の眼の話は、化石になる前の話ですよね?
14. 匿名処理班
あぁ〜〜〜〜 あぁ〜〜 果てしない〜〜〜〜〜〜♪
15. 匿名処理班
まずカルサイトはカルサイト、クリスタルはクリスタル。方解石になったのは化石になった後の話では?
16. 匿名処理班
>>10
化石になる過程で他の鉱物に置き換わる場合、
発掘場所によって化石を構成する鉱物の種類が変わるけど
三葉虫はどこで発掘されるものでも方解石で構成されてるから
生前から方解石で出来てると考えられてるのでは。
17. 匿名処理班
専門家の考えは元々方解石であって後から化石になる過程でなった訳じゃない、ってのが通説らしい。
素人考えだと目も化石化したんじゃないの?って思うけど目だけが上手く方解石になったと考えるより元々方解石だった、って考える方が現実的なのかな?
18.
19. 匿名処理班
目が石でできてる生き物なんで、他にいるんだろうか!
20. 匿名処理班
石ならそのまま残るんでない?
21. 匿名処理班
>>19
ダイアモンドアイ!
22. 匿名処理班
と言うと、総統ですか
23. 匿名処理班
んな石くらいで騒いじゃって
俺の尿管にも石くらいできますわ
24. 匿名処理班
なにが上手くいくか進化の大実験時代だったんだなあ
25. 匿名処理班
>>23
痛そう・・・
26.
27. 匿名処理班
>ホロクローラル
Holochroalだからクロー「ラ」ルではなくてクロー「ア」ルだと思うのですが
28. 匿名処理班
>>9
オパール的なヤツですね!
それはそれでワクワクするなぁ
29. 匿名処理班
見た目はポケモンのカブトっぽいのにヤミラミみたいな身体的特徴だった可能性があるのな…
30.
31.
32. 匿名処理班
日本の化石研究会などの資料でも クローラル(ホロクローラル、スキソクローラル)で書かれているので、そのままでいいのではないでしょうか?
chroal も コーラル ですし、違和感はありません
33.
34. 匿名処理班
>>12
まあその神的なものには意思や命はないんですけどね
35. 匿名処理班
>>34
どうなんだろうな?確証は持てないね
少なくとも命はないだろうか
36. 匿名処理班
生物とはいい加減なくらい多様であり
淘汰が選り分けた結果進化といわれる
現在人類も多様性を尊重しようと言っていることに
ついて自分は興味深いと考えている
37.
38. 匿名処理班
すごい
ファンタジー作品に出てくるモンスターみたいだ
39. 匿名処理班
>>28
オーストラリアの炭鉱には確か全部の骨がオパール化した恐竜の化石があるよね。
40. 匿名処理班
ロマンありスギィ(≧Д≦)
41. ユパさま!
さては、ナウシカの王蟲のモデルだな?
byウマシカ
42. 匿名処理班
>>7
乱獲されまくって20世紀前には絶滅してると思う
43. 匿名処理班
きれいな目だ…。