
走磁性細菌とは、磁力を感知する能力を持つ細菌のことで、発見されたのは、グアムから140キロの沖合にある、太平洋プレートがフィリピン海プレートに沈み込むことで形成された「南部マリアナトラフ」の熱水噴出孔の中だ。
これまで走磁性細菌は、深海底の熱水噴出孔の中にはいないだろうと考えられていた。ところが意外にもいたのである。しかもそこは35億年前の原始的な地球に似た環境だ。
このことから今回の発見は、地球で誕生したごく初期の生命や地球外生命について知るヒントになるだろうと考えられている。
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磁気を感知して運動する細菌「走磁性細菌」
「走磁性細菌」は、磁気を感知して磁力線の方向に運動する細菌のことだ。その小さな体の中に「マグネトソーム」という秘密の器官を持っており、磁鉄鉱のナノ結晶を合成する。これがまるでコンパスの針のように働くために、体の向きが地球の地磁気の方向にピタッとそうのだ。
だが、これにいったいどのような意味があるのか?
東京大学大学院理学系研究科の鈴木康平准教授らのチームによると、これは速やかに移動するための進化であるという。
地磁気にそって体が傾くことで、”縦"に楽に移動できるようになる。これは縦方向に化学物質(酸素や鉄など)の濃度が異なる環境で彼らが生きるには、大切なことなのだ。

いるはずがないと考えられていた深海底の熱水噴出孔内で発見
ただし東京スカイツリー4.5本分(水深2787メートル)の深海から煙突のように伸びる熱水噴出孔内は、そうした縦の化学物質濃度の差がほとんどない。そのため、ここに走磁性細菌はいないだろうと考えられていた。ところが、意外なことにそれは、「南部マリアナトラフ」の熱水噴出孔の中いたのである。磁力を感知する力が有利と思えないところなのに。
また走磁性細菌の遺伝子からは、それが「Nitrospinae門」の仲間であることも判明。この門に走磁性細菌がいることも、今回初めて明らかになったことだ。

初期の生命や地球外生命を解き明かすヒントに
この走磁性細菌のマグネトソームは、まるで”弾丸”のような形をしている。研究チームによると、これは非常に原始的な形なのだという。実際、この細菌が生息している環境もまた、約35億年前の原始的な地球のものによく似ていると考えられている。
深海の熱水噴出孔は、私たちにとっては故郷であるかもしれない場所だ。
地球の生命が誕生した場所の有力な候補地なのである。それどころか、地球以外の惑星で生命が見つかるかもしれない場所としても有力視されている。

鈴木准教授によると、走磁性細菌が見つかったところは、「約30億年前、地表にまだ水が流れていた頃の火星」に似ているのだとか。
そのように原始的な、しかも走磁性があまり関係なさそうな場所(縦の化学物質濃度の差があまりないところ)で、原始的な生き物が発見された。
それは地球で誕生したごく初期の生命や、地球外生命について知る重要な手がかりかもしれない。
たとえば1996年、36億年前の火星の隕石「アラン・ヒルズ84001」の中から細菌らしきものが発見され、世界的なセンセーションを巻き起こしたことがある。
そのとき、それが生命の痕跡であるという説の根拠の1つとされたのが、磁性の粒子がバクテリア由来だったことだ。
この仮説に対しては、その後いくつもの反論が投げかけられたが、鈴木准教授は将来的に新たな発見があるのではと希望を抱いている。
磁気を帯びた細菌は、初期の細菌で起きた多様化を知る手がかりです。私たちはそれらが地球の外、もしかしたら火星や氷の衛星で発見されるのではと期待しています。この研究は『Frontiers in Microbiology』(2023年6月27日付)に掲載された。
当面は、これまで細菌がいるとは考えられていなかった種類や年代の岩石などで、証拠探しを続けるつもりです
References:- 東京大学 大学院理学系研究科・理学部 / Magnetic bacteria point the way | EurekAlert! / Magnetic bacteria provide clues for the early diversification of bacteria / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
人間が羅針盤を発明したのがだいたい1000年くらい前だから 細菌の方が若干偉い
2. 匿名処理班
大昔派遣のバイトで名古屋港水族館の
建設現場に行った。そのバイトの出入り口が
熱水噴出孔のジオラマの裏側だった。
20年行ってないからそのジオラマがまだ
有るかは不明、、
3. 匿名処理班
こんにちは、やな磁場敏郎です