
驚くべきことに、このバッタの集団行動は、生き延びるために仲間と協力しているわけではなく、「共食い」が原動力になっていることがわかっている。
『Science』(2023年5月4日付)に掲載された研究では、バッタの群れで重要な役割を果たす、「共食いから身を守るためのフェロモン」を発見したと報告されている。
この発見により、農作物を荒らし、食の安全を脅かすバッタの大群を制御する新たな可能性が開かれるかもしれない。
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バッタの大群の脅威
通常のバッタ(トノサマバッタなど)は、単独で生きる比較的少食な昆虫だ。この形態を「孤独相」と呼ぶ。ところが、なにかの拍子で数が増えすぎてしまうと、「群生相」という形態に変化し、大群をなして手当たり次第に植物という植物を食い尽くしながら移動する。
こうして農作物に多大な被害が出るのが「蝗害(こうがい)」で、聖書の時代から、現代のアフリカなどでも度々発生している厄介な問題だ。蝗害を起こすバッタは「トビバッタ」や「ワタリバッタ」と呼ばれる。
「群生相」状態になったバッタや見た目も変わる。体が大きくなり、色が鮮やかで、飛ぶことが多くなり、攻撃的になる。
そのため昔は、単独のバッタと群れるバッタでは種類が違うと考えられていたこともあった。

バッタの大量の群れに共食いが関係
じつはこうしたバッタの群れは、仲間同士が協力しているわけではなく、「共食い」が関係していることがわかっている。どうもバッタは仲間から食われないよう逃げることで、エサがないところからあるところへと一斉に移動しているようなのだ。
ドイツ、マックス・プランク化学生態研究所のビル・ハンソン氏は、「バッタは背後からお互いを喰い合います」と説明する。
つまり移動するのをやめると仲間に食べられてしまうのだ。だとするなら、バッタは共食いから身を守るための方法も身につけているのではないだろうか?
こう考えたハンソン氏らは、それを確かめてみることにしたのだ。

仲間を攻撃を制御するフェロモンを発見
まずハンソン氏は、虫かごのバッタを増やして、実際に共食いが起きることを確認した。ここからは、虫かごのバッタが50匹を超えると、共食いのスイッチが入るらしいことが明らかになっている。
その上で、群れるバッタ(群生相)と群れないバッタ(孤独相)のニオイを比べてみたのだ。すると、群れるバッタだけが発する17種類のニオイが見つかった。
それらのニオイ(化学物質)の効果を調べてみると、仲間を撃退して、遠ざけるものがあることがわかったのだ。それが「シアン化ベンジル」だ。
シアン化ベンジルは群れるバッタが作る強力な毒素(シアン化水素)に関係するものだ。「近づくな」というサインとしてうってつけなのだ。

遺伝子編集で共食いを抑制するフェロモンの効果を確認
さらに遺伝子をいじり、バッタがシアン化ベンジルを作れないようにすると、共食いの犠牲になりやすくなることもわかったという。また、バッタがシアン化ベンジルを感じられないようにすると、そのバッタは仲間をよく食べるようになった。
このことからもシアン化ベンジルには、共食いを防ぐ効果があることがよくわかる。
2020年の研究で、バッタを惹きつけ大群化させるフェロモンが特定されたが、今度はバッタを遠ざけ、攻撃を制御するフェロモンが特定されたのだ。
アフリカで大量発生したバッタの映像
共食い抑制フェロモンを利用してバッタの被害を防げる可能性
かつてバッタの群れと共食いの関係を明らかにしたイアン・カズン氏らは、この発見について、群れるバッタの背後にあるで集団行動メカニズムと競争メカニズムの「複雑なバランス」に光を当てたものと評している。このバランスをうまく利用することで、将来的にはバッタの被害を防ぐこともできるかもしれない。
だがハンソン氏が願うのは、バッタを絶滅させることではない。
「バッタを根絶やしにしたくはありません」と、ハンソン氏。「バッタの群れを小さくし、農作物がない地域に移動させられれば、十分成果が上がるでしょう」とのことだ。
References:Scientists find chemical that stops locust cannibalism / A chemical defense deters cannibalism in migratory locusts | Science / written by hiroching / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
エクソシスト2ですでに映画化されてる話だ
半世紀近く前にはわかっていることなのに、なぜ今更?
2. 匿名処理班
あいつら自身も仲間に食われないよう逃げ惑ってただなんて怖い話だわ…
3. 匿名処理班
アヒル軍団は要らなくなりそうだね ちょっとさみしい
4. 匿名処理班
植物という植物を食べ尽くしてしまう。
驚くべきことに、このイナゴの集団行動は、生き延びるために仲間と協力しているわけではなく、「共食い」が原動力になっていることがわかっている。
↑さらに被害増えるんだろ?(笑)
5. 匿名処理班
そして生き抜くために共食いから人食いに‥‥
6. 匿名処理班
「バッタを倒しにアフリカへ」
7.
8. 匿名処理班
増える原因の特定は出来てないんだな
増えたくて増えてるんじゃないって判ったのは良かったけど遺伝子操作は上手く行った話、余り聞かないよね…
原因の排除の方が効果は高そうに思えるけど…まぁ難しいんだろうな
9. 匿名処理班
蝗害を抑制できるなら相当な発見だなあ
期待したい
10. 匿名処理班
これはバッタの天敵のカビの出番だな
11. 匿名処理班
>>2
バッタ版督戦隊かよw
12.
13. 匿名処理班
昆虫食
14.
15. 匿名処理班
こう言っちゃなんだけど、共食いを防ぐフェロモンじゃあ共食いを防げないから結局逃げ回ってるんだろ?
護身術身につけてるから数人の暴漢は相手にできます!数十人の暴徒にはどうしようもありません……って結果にしかならなくない?
なんとなく嫌だなって思わせることは出来るだろうけど何万って大群で押し寄せてきた時は普通にやられるだけだと思うよ
16. 匿名処理班
これが仮面ライダーですか
17. 匿名処理班
大量発生型バッタオーグ
18. 匿名処理班
そして草食から肉食へと進化し巨大化
人間が絶滅した100万年後には生態系の頂点へ立つのだった
19. 匿名処理班
ゾンビ映画みたいな感じ
20. 匿名処理班
バッタの中に少数の「餌がないなら仲間食えばいいじゃん」ってヤバい奴が居て、
他の連中はそれから必死に逃げ回ってるだけと考えると、脅威にしか思えなかった蝗害も多少哀れに見えてくるかも。
21. 匿名処理班
>>10
滅ぼすとまた別の害が発生しそうw
22. 匿名処理班
>>6
前野ウルドさんだっけ? 地道な研究の現場が見えて面白い本だった記憶が。今も研究員しているんだろうか。
23. 匿名処理班
>>1
フィクションと現実の区別がつかない人?
イナゴの羽音が狂暴化の原因とか、羽音に耐える良いイナゴを開発したとか、そんなのフィクションの設定だよ。
24. 匿名処理班
>>16
孤独相=1号、第2号
共生相=量産型ライダー
と、それぞれの立ち位置に応じて
本物のバッタに準じた意味合いを設定した庵野監督は素晴らしい
25. 匿名処理班
ヤツらは孤独相とは違う群生相。相変異を起こした黒いバッタは群れるもの。そしてより凶暴な性質を持つ
26. 匿名処理班
夜は飛ばないので捕まえて
油で揚げておやつにするらしいよw
27. 匿名処理班
「共食いを許す遺伝子」は広めにくいのでは?
「羽根を失う(短くなる)」辺りで攻めるほうがよいかも
28.
29. 匿名処理班
どうでもいい知識「蝗害」と書くけど、別に「イナゴ」さんが悪さするわけではない
日本だとを蝗害起こす体型に変身するのはトノサマバッタさん
関西空港建設時に飛蝗状態になる寸前だったのを駆除されたのは記憶にあた・・・らしくない
>>26
飛蝗になったバッタは美味しくないというけど、実際どうなんだろう?
30. 匿名処理班
>>13
シアン化合物とかいってますけど…
31. 匿名処理班
食料に成ると分かれば食い尽くす人間の方が怖いよ
32. 匿名処理班
でどうやって撒くんだ?
もう群生になってりゃどうしようもないだろ
33. 匿名処理班
共食いできなくなったら別の農業益虫を集団で襲って被害起こす危険性は?
34. 匿名処理班
>>33
仮に共食いが完了した後に益虫を食ったとしても蝗害よりは随分マシでしょうね
35. 匿名処理班
蝗害って悪夢みたいな現象だけど、
もしトノサマバッタが絶滅したら
より悲惨なことが起きたりするんかな。
バッタが食べることで抑えられていた植物の病気が
一気に広がる・・・・とか?
36. 匿名処理班
バッタ「バッタうめえ」
37. 匿名処理班
>>35
植物よりもバッタを餌にする鳥とかの小動物が減っちゃうな
ゴミを漁る都市型の鳥がますます有利に
38. 匿名処理班
>>22
現在進行系で研究中だよ。
まだまだバッタとの戦いには終わりが見えない様だね。
やはり自然は手強い。
39. 匿名処理班
群がるバッタを
バッタバッタとなぎ倒し〜
40. 匿名処理班
孤独が一番
41. 匿名処理班
とりあえず今の段階では抑制は無理と言うのが分かった
弄った個体群が優勢になればと思わなくもないけど共食いする個体の方が強いだろうから駆逐されて現状のままになるだろうなぁ
42. 匿名処理班
>>35
カエルつぼカビの前例にならうならカビが同類の虫類に寄生して絶滅を加速させるとか
ま、日本ならカビとの付き合いは長いから多少は問題ないだろうが