文字らしきものが刻まれた約3700年前の象牙の櫛が発見された。この文字は、アルファベットの原型となっている原カナン文字を使って書かれた最初の例だ。
細かな歯をもつこの櫛は、数年前にイスラエル中央部の丘陵地帯にあるカナン人の都市、テル・ラキシュで発掘された。
ところが、最近になるまで重要なことが見落とされていた。この道具に17の小さな文字が刻まれていたのだ。
象牙の櫛に刻まれていたのは「アタマジラミの根絶」
象牙の櫛に刻まれた印の中で、かろうじて判別できる文字は、7つの個別の単語"「ytšḥṭḏlqmlśʿ[rw]zqt」"と記されていて、その意味は「この象牙が、髪や髭からシラミを根絶してくれますように」だという。
櫛に刻まれた文字を再構成すると、アルファベットのように見えるものがあるのがわかる。また、猫の絵ものようなものも示されている / image credit:Daniel Vainstub
読み取れて意味の分かるアルファベットの最古の例
紀元前1700年頃に書かれたとされるこのメッセージは、カナン特有の文字として見つかった、初めての確かな文章だと考えられる。原カナン文字は、世界じゅうの文化で使われるようになったアルファベットの原型として知られている。
現代のアルファベットのほとんどは、アラビア語、ギリシャ語、ヘブライ語、ラテン語、ロシア語などの古代文字から派生している。
現代の中国語の書法の基礎になっている絵文字は、5000年ほど前にさかのぼるものだが、漢字の部首と記号のシステムは、必ずしも同じように単語の音韻の基礎に起因するものではない。
初期のカナン語を表す独立した文字の例はほかにもたくさんあるが、読みとれて意味がわかる文字としてつなぎ合わされたものはなにもない。
カナン文字が刻まれた象牙の櫛。所々歯が折れている / image credit:Dafna Gazit, Israel Antiquities Authority
「これは、イスラエルで見つかったカナン語の初の文章です」エルサレム・ヘブライ大学の考古学者ヨセフ・ガルフィンケルは言う。
カナン人はシリアのウガリットに住んでいますが、彼らは今日使われているアルファベットではなく、違う文字を書いています。象牙でできているこの櫛は、長さ3.66センチ、幅2.51センチとかなり小さなものだ。
この櫛に刻まれている文字は、3700年前の日常生活の中でアルファベットが使われていた直接の証拠です。人間の書く能力の歴史におけるランドマークといえましょう
そこに刻まれた文字は、さらに小さく、1ミリ以下のものもある。判読できないほど、薄れてしまっている文字もあり、隣にある文脈を考えないと、解読することは困難だ。
櫛の右端にある原カナン文字を拡大したもの / image credit:Dafna Gazit, Israel Antiquities Authority
裕福なカナン人でさえアタマジラミに苦しんでいた
櫛の片側には、髪を梳かすための大きな歯の名残が6本あり、反対側には細かい歯が14本ある。シラミやその卵を取り除くためのものだったのだろう。この細かい歯の部分には、遥か昔のアタマジラミの硬い外皮が残っていた。
櫛の歯の間にあったアタマジラミの幼虫の残骸 / image credit::Dafna Gazit, Israel Antiquities Authority
これは、最古のアタマジラミの証拠ではなく、人間の毛髪から見つかったものの中には少なくとも1万年前のものも見つかっている。
しかし、裕福なカナン人でさえ、この害虫に悩まされていたことがよくわかる。
櫛の材料である象牙は、エジプトから輸入されたものである可能性が一番高い。つまりこうした外国製の贅沢品を買う余裕のある富裕層のための櫛だったことがうかがえる。
この特別な櫛は、古代エルサレムの富裕層のシラミ対策のために作られたものだろう。
カナン文字で書かれた呪いや呪文のその他の例は、紀元前1400年から紀元前1200年の間にさかのぼる少し新しい遺物からも見つかっている。
シラミのことが櫛に書かれ始めたのは、ほかの遺物より数世紀前のことだ。
この櫛の正確な放射性炭素年代測定は、最終的には失敗したが、以前に同じ場所で発見されたほかの遺物の例に基づくと、これは今からおよそ3700年前の青銅器時代に刻まれたものと推測された。
古代の文字のスタイルから判断すると、アルファベット発展の非常に初期の段階で書かれたものと、専門家は考えている。
人類が文字言語をもつようになってすぐ、自分たちが悩まされていることについて、あれこれ文句を書き記すようになったというわけだ。
この研究は『Jerusalem Journal of Archaeology』に発表された。
References:This Ancient Inscription Is The Oldest Sentence in The World's First Alphabet : ScienceAlert / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
『悪魔よ!去れ!!』くらいの感じでしょ。
2. 匿名処理班
アタマジラミは人の頭髪にしか寄生しないというくらい
人に特化した虫だから、そらもう古い付き合いなんだろう。
3. 匿名処理班
虱は本当に迷惑だからな
3500年前から悩まされていたのか
4. 匿名処理班
中世の中古かつら屋でも運悪いと虱付きでえらいことなる
話は残ってるくらい、虱はマジで邪魔だ
5. 匿名処理班
スキンヘッドにすれば解決できるんじゃないの?
6. 匿名処理班
フェニキア文字より古いん?
7. 匿名処理班
物凄い事書いてるのかと思ったら当時の悩みでワロタw
8. 匿名処理班
ヒゲをあたらない中東でも
砂漠地帯ではシラミが付かないように
下の毛は剃る習慣があるそうだ。
9. 匿名処理班
アタマジラミはホンマ、かなんわ
10. 匿名処理班
掻きすぎて頭蓋骨に窪みが出来た事例もあるらしい
ソースはシャルリエ
11. 匿名処理班
ペパーミントのオイルを塗りたくったら自分の頭にはいなくなりそうだけど、環境中にいたんだろうし、枕にも布団にも子供の頭にもパートナーの頭にもいて…
現代は一斉にみんなシャンプーするようになったからいなくなったのかなぁ。
12. 匿名処理班
「早く、蚊、がいなくなります
ように」
2022
13. 匿名処理班
※6
ちょっと調べてみたけど、フェニキア文字はカナン文字からの派生だって
14. 匿名処理班
虱と蚊と蚤とGは地球上からいなくなって欲しい。
15. 匿名処理班
DDTで地球上から根絶しなかったのか
16. 匿名処理班
>>2
海に頻繁に潜ってたらその都度死滅するのかな?
17. 匿名処理班
※16
海水浴もそうだけど、顔や頭髪の下に住む子達は洗髪や洗顔すらもほとんど効果ないと聞いたことがある…
清潔さを維持することで、増殖を抑えるしかできないそうです
18. 匿名処理班
そう言えば日本の弥生時代の遺物に「文字のようなもの」が刻まれていて、ちょっとした話題になったことがあったな。定説では、卑弥呼がいた時代以前には文字がなかったとする説が有力だったけど、発見されていないだけで、もしかして既に弥生時代に文字が使われていた可能性もあるわけだ。
19. 匿名処理班
今だって顕微鏡で見れば毛穴の中にダニとかうじゃうじゃいるんだろ
20. 匿名処理班
※18
それ、なんか、成分分析の結果「油性ペンのインク」と判明し、
「出土品の仕分け整理の過程で誤って転写付着したもの」
というオチだったやつじゃない?
21. 匿名処理班
>>5
それで解決できないから問題なんじゃない
22. 匿名処理班
>>18
既に魏志倭人伝に記載のあるように、文字は存在している
記録媒体が有機物(竹とか木とか)なので金属にでも彫らないと後世に残らない
23. 匿名処理班
痛いの痛いの飛んでいけーみたいなおまじないか
24. 匿名処理班
セールス用のフレーズかもしれない。
「おはようからおやすみまでシラミを遠ざけます」みたいな。
25. 匿名処理班
※12
蚊はあんなんでも捕食動物の餌として残ってないと生態系を破壊するらしいから…
ヒトに寄ってくるヤツだけ居なくなるって方法があるのなら賛同したい
26. 匿名処理班
これ書いた人もまさか3500年後に話題になるなんて思わんかっただろうね
27. 匿名処理班
※24
虫コナーズを「虫よ来るな」と解読しているようなものかも
28. 匿名処理班
※27
1000年後、小林製薬はどの様に解読されるかしら
29. 匿名処理班
もしかして:商品名
30. 匿名処理班
>>17
子達…
虱への愛を感じる