
毛づくろいしておめかしし、雄叫びをあげて気を引こうとする幾多のオスたちを無視して、先シーズンからねんごろになっているダーリンのいる場所目指して、わき目も振らずにまっしぐらに進む。
オスはメスたちよりも先に繁殖地に着いていて、ふたりの愛の巣を整える。
こうしたペンギンの姿は、長きにわたって一夫一婦制を貫く生き物の手本とされているのだが、果たして全てのペンギンが、本当に一生同じパートナーと連れ添うのだろうか?
ペンギンの愛はちょっと複雑
実は、生涯1羽だけの相手を愛し続けるペンギンのカップルというのは、例外的で、通常はそうではないのかもしれない。ほとんどのペンギンは、その繁殖シーズンは、1羽の相手だけとペアを組むが、巣を作る前は、繁
殖地の中で不特定多数の相手と関係している可能性があるという。
パートナーへの貞淑度は、生き物によってそれぞれ違うが、ペンギンの愛は、どうやら込み入っているらしい。
ニュージーランド、オークランド大学の行動生態学者エマ・マークスは、巨大な集団繁殖地で巣作りをして子孫を増やす、動物の繁殖活動や相手を選ぶ方法について研究しているが、本当の意味ではペンギンは一夫一婦制ではないと言う。
ペンギンのように、集団で子育てする動物は、一夫一婦制である可能性はあります。シーズンごとに巣作りをして、ヒナを育てる相手が必要だからです。
でも、だからといって、必ずしも"課外活動(浮気)"がゼロだということにはなりません

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性的な意味では一夫一婦制ではない。昼メロみたいな展開も
ペンギンは、性的な意味では一夫一婦制ではないと言っていい。多くのペンギンは、繁殖シーズンに本気で子育てに励む前は、多くの相手と遊びまわっている。
コロニーの中のすでに決まった相手のいる別の"人妻"と交尾することもあり、まるでドロドロの昼メロドラマのような展開になることも少なくない。
例えば、愛を誓いあったオスが死んでしまったりして繁殖地に戻らなかった場合、残されたメスがべつのオスに言い寄ることがある。
そのオスの先シーズンからの正妻が、巣に戻ってきて、浮気の現場を見つけた場合、戦いが勃発する。たいていは、正妻が勝つらしいが。
こうした三角関係の修羅場の結果、メスが卵を産むころには、一緒に過ごしているオスが育てているヒナが本当にそのオスの子どもなのかどうか、必ずしもはっきりしなくなってしまうのだ。

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乱交の結果、別のオスの子を育てるオスも
2018年に『Zoo Biology』誌に発表された研究では、ユタ州の水族館で飼育されていた1羽のジェンツーペンギンのオスの例がある。この研究では、愛を誓いあったはずのパートナーが乱交したことにより、観察対象となったペンギンが別のオスの子どもである2羽のヒナを育てるはめになったと報告されている。
とはいえ、水族館では追跡装置やその他の技術によって、交尾行動やペアの絆を確認することはできる。
だが、野生では、ヒナの親子鑑定を確認する取り組みは行われていないため、こういうことが、自然界でどれほどの頻度で起こっているのかは、はっきりしていない。
確かに程度の差こそあれ、ペンギンは社会的には一夫一婦制の生き物だ。
南極のような過酷な環境では、互いに献身的に協力しあって子育てする必要があるし、がっちりタッグを組んで巣の維持や卵の孵化、エサの獲得を効率的に分担する責任があるからだ。
「一夫一婦制は、不可欠な条件です」マークスは言う。
「子育てには、夫婦の間で調整しなくてはいけないことがたくさんあります。それが破綻すると、そのシーズンの子育ては失敗ということになってしまうからです」

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ペンギンの種によっても異なる
こうした社会的調整は、長期間にわたって続く可能性があり、年が変わっても繁殖期ごとにまた同じつがいが巣に戻ってくる。こうしたことがどれくらいの頻度で起こっているかは、種によって多少は違う。
2013年に『 Comptes Rendus Biologies』誌に発表された論文によると、ガラパゴスペンギンの89%が繁殖の相手を変えないことがわかっている。
ただし、1999年の研究では、コウテイペンギンの場合は、15%しか同じパートナーを選ばないという結果も出ている。とはいえ、2013年の調査では、ほとんどは相変わらず少なくとも同じパートナーのもとへ帰り、その貞淑度は59%〜89%だという。
前シーズンの子育ての成功率とカップルの離婚に関係性
ペンギンのカップルが長く連れ添うかどうかは、前シーズンの子育ての成功も関係しているという。ヒナがちゃんと大人になるまで2羽で育てることができれば、メスがこれまでと同じオスのところに戻る割合は概して高くなる。
そうでないと、メスが新たな相手を求めて、緑の草原をよちよち歩く傾向が高くなる。
「集団繁殖地で子育てをする動物にとって、選択肢はたくさんあります」マークスは言う。「もし、前シーズンの子育てが失敗したら、次のシーズンには"離婚"がより多く見られることが予想されます」

様々な要因が複雑に絡み合い、ペンギンの夫婦関係が破綻してしまう
新たな相手を探すために、これまでの相手を袖にする"離婚"が、実際にどれくらい起こっているのかを割り出すのは困難だ。すべてのペンギンがシーズンごとに繁殖地に戻ってくるわけではないからだ。新たなカップルの誕生は、それがそのペンギン個人の原因なのか、例えば、シャチやアザラシに食べられてしまって、伴侶が永遠に戻って来ないという不可抗力のせいなのかを判断するのは難しい場合がある。
ペンギンのラブライフに影響を及ぼす脅威は、捕食だけではない。
エサとなるオキアミが減ってしまったために、ペンギンの数も減っていることがわかっている。オキアミの減少は、気候変動や人間の漁業活動がおもな要因だ。
気候が原因の海氷の変化も、ペンギンたちをべつの繁殖地に追いやることになり、長期の夫婦関係を分裂させ、彼らの移動に影響を及ぼしている。
変化する海や氷の状態に対応した結果、へとへとに疲れ切った状態で繁殖地にたどり着き、メスに言い寄ったり、卵を適切に温めたりできないオスもいるという。
こうした要因が複雑に作用した結果、よく知られている南極、ハレー湾での失敗の原因になったと考えられている。
ここはかつて、2万5000組のコウテイペンギンが集団で子育てをしていた場所だが、2016年以降、彼らはすっかりいなくなってしまっている。

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「気候変動が集団繁殖地での繁殖の成功率を引き下げているのでしょう」マークスは言う。「失敗率が高いほど、繁殖相手が入れ替わる回転も早くなることが予想されます」References:Are penguins really monogamous? / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
水族館のペンギンさん達の対ペン相関図
かなり複雑でドロドロだし
2. 匿名処理班
まあ人間だって一途な人もいれば浮気する人もいるし、個体差はあるよねー
3.
4. 匿名処理班
すみだ水族館のペンギン相関図を見るとペンギン社会も結構大変そうだよねw
5. 匿名処理班
身も蓋もない記事をありがとう!
6. 匿名処理班
基本的には一夫一妻だけど生涯つれあえるわけじゃなくて上手くいかなかったら乗り換えられることもあります、か
集団行動を上手く営んで社会を作ってる動物って本能的な刷り込みでなんとかしてんのかなって思いこみがちだけど、意外と個々の判断の積み重ねの結果でそういう社会が出来上がってるのかもしれないね
7. 匿名処理班
動物園とか個体数が限られているので、
彼らの恋愛事情は昼ドラ並みのドロドロ劇らしい。
8. 匿名処理班
オキアミが減ったのはクジラが大量に食うからではないのか
9. 匿名処理班
何かの本で、鳥類で雌雄で見分けがつかないほど似ているのは一夫一婦制が多く、
雌雄で全然見た目が違う場合、一夫多妻制が多いと読んだ気がする。
オシドリなど雌雄で見た目が全然違うのに、一夫一婦制の種類の鳥は
意外と浮気してたりするとも書いてあったかな。
あと人間が一夫一婦制となった理由なんかも書いてあったりして、とても面白かったんだけども、人にあげてしまった。
もう一度読みたいけども、タイトルが全然わからない。
10. 匿名処理班
種とは無関係に同族個体を増やす合理的な方法なのかもね
11. 匿名処理班
( ゜□゚)<せいぞん、せんりゃくうううううううう!!
12. 匿名処理班
この泥棒鳥!
13. 匿名処理班
※1
同じ事思ったw 飼育員さん暇じゃ無いハズなのにめっちゃ詳しく観察してるの草生えたw
14. 匿名処理班
オシドリが一発やったらすぐ別れる おしどり夫婦って言葉なんなの?ていう事実を知った時の衝撃よ・・(ヽ''ω`)
15. 匿名処理班
グレープ君の境遇が特殊じゃなかったことにむしろ安心した。
16. 匿名処理班
「ふ、不潔よ!」
17. 匿名処理班
動物のカップルが一緒にいるのはラブラブだからじゃなくて 他のオスに盗られないように見張ってるんだと聞いたわ。
18. 匿名処理班
そうよね…
冷静に考えたら、
育児下手なオスと、いつまでもツガイでいるなんて悪効率は大自然ではあり得んはずだわな。