青酸カリに代表される「シアン化物」は人体にとっては猛毒で、ごく少量で死に至る。
だが意外にも、この猛毒は生命を終わらせる一方で、40億年前の初期の地球において、生命の進化を助けていた可能性があるという。
『Nature』(2022年2月3日付)に掲載された研究によると、これまで再現が難しかった生命に不可欠な生化学的プロセスが、シアン化物なら簡単に作り出せるのだそうだ。
原始の海で、生命はどのようにして誕生したのか?
地球にようやく海が誕生した頃、それはさまざまな分子が混ざった「原始のスープ」というべきものだった。そうした分子は相互に作用して、やがて複雑な化合物となり、それがさらに混ざり合うことで、ついには最初の生命が誕生した。これが生命の起源に関する有力な仮説の1つだ。
この仮説において、「還元的クエン酸回路(一部の細菌が二酸化炭素と水から有機化合物を作るのに用いている一連の化学反応)」と呼ばれる生化学的プロセスが重要な役割を担っている。
このプロセスでは、タンパク質から生命を維持するために必要な化合物が作り出される。つまり、現代の生命にとっては必要不可欠なプロセスなのだ。
ならば、原始のスープの中で生命が誕生したときも、やはりこれが絶対に必要だったろうと考えられている。
photo by Pixabay
初期の地球でどのように有機化合物が作られたのか?
だが、1つ問題がある。それは初期の地球が「還元的クエン酸回路」にとって適切な環境とは言い難いことだ。当時の地球に酸素はなかったし、このプロセスを機能させるタンパク質もなかった。そこで初期の地球では、金属が介在することで、このプロセスがうながされたのだろうと推測される。
ところが困ったことに、金属が介在するには超高温のような極限状態が必要となる。そのような状態など、初期の地球に存在しなかった可能性が高い。
それだけでなくこの条件のおかげで、研究者が1つ1つ手順を踏みながら、還元的クエン酸回路を再現することも難しかった。化学者にできるのは、必要な素材をまとめて、極限状態にさらし、見守りながら待つことだけなのだ。
仮にこのようなやり方で生命に必要な化合物が観察されたとしても、それが本当に「還元的クエン酸回路」によって生成されたのかどうか証明することは難しい。そもそも40億年前にこのプロセスが本当に起きたのかどうかもはっきりしない。
image credit:NASA's Goddard Space Flight Center Conceptual Image Lab
シアン化物が生命誕生の鍵を握っていた?
はたして別のプロセスで、生命の誕生のきっかけになった化合物が作り出されることはないのだろうか?それを調べるため、アメリカ、スクリプス研究所のラマナラヤン・クリシュナムルティ氏は、厄介な金属のかわりに猛毒の「シアン化物」を使ってみたのだという。
するとずっと穏やか条件なのに、還元的クエン酸回路と同じプロセスを経て、求める分子が作られることがわかったのである。
クリシュナムルティ氏によると、それは地球の生命誕生の物語を、ずっと平易に伝えているように思えたという。
しかし、この話は少々割り引いて受け止めなければならない。シアン化物は初期の地球に存在したとされているが、よく反応するためにとっくに消費されているとも考えられるからだ。
とは言え、もし原始の海に本当に十分なシアン化物があったのだとすれば、今では猛毒とされる物質の力を借りて生命が進化した可能性はある。
さらに言うならば、地球以外の惑星でも同じようなプロセスで生命が進化しているかもしれない。
今私たちが呼吸している酸素は、かつて生命にとって猛毒だったという。ならば今猛毒と悪名高いシアン化物が大昔に生命を助けていたとしても、それほど不思議なことではないのかもしれない。
References:Cyanide as a primordial reductant enables a protometabolic reductive glyoxylate pathway | Nature Chemistry / Scientists suggest life on Earth could've begun with a dose of poison - CNET / written by hiroching / edited by parumo
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コメント
1. 匿名処理班
最初の大絶滅はシアノバクテリアが酸素を作り出したことで当時生物の大部分を占めていた嫌気性生物が壊滅したことが原因だし、シアン化物も胃酸やミトコンドリアを持たない生物からすればそこまで危険でもないんだよな
人間にとっては猛毒なシアン化物が太古の地球では生物の誕生に関わっていたり、人間にとっては必須な酸素が作られた当時は猛毒だったりやはり歴史は面白い
2. 匿名処理班
尤もらしいが、そこが思案のし処だ
3. 匿名処理班
>これまで再現が難しかった生命に不可欠な生化学的プロセスが、シアン化物なら簡単に作り出せるのだそうだ。
じゃあ作ってみろよ
簡単なんでしょ?
4. 匿名処理班
記事を読みながら、頭の中で国生みの神話のぐるぐるかき回すシーンがが再生された
5. 匿名処理班
※2
評価する
6. 匿名処理班
※3
生物学的な話は最近という言葉がここ数百万年の間の話だったりするし、簡単というのも君の考えてるスケールの話ではないぞ
7. 匿名処理班
>>4
古事記好きだ♪
8. 匿名処理班
我々が始終摂取し続けてる「酸素」が実は結構な毒でしてね。
9. 匿名処理班
>>3
まずは記事を理解するところからスタートしよう
科学記事で納得できない場合、9割は君の理解不足でしょう
10. 匿名処理班
>>8
酸素を取らないと〇んでしまうが、取り続けていると活性酸素で細胞が傷む。
どうしたもんじゃろかい?( ̄ω ̄)
11. 匿名処理班
※3
「本文内容を理解していないコメント」に該当するのでは。
12. 匿名処理班
毒って刺激物な訳だしな
劇的な変化には必要不可欠って事なのかも
13. 匿名処理班
※6
それぐらい分かるだろう?
実際に、簡単に作れるって表現は合ってないと思うよ
14. 匿名処理班
シアン化物は原始惑星系のチリやガスで出来た円盤から発見されたりしてるから、この学説は事実に近いのかも。
15. 匿名処理班
※13
理解ができてないのがわかったぞ
他の物質を用いた生命誕生の条件が100あるなら、シアン化合物を使えばその条件が50に減るといえば簡単と表現できるだろう?比較なんだよその話は。そして君が※3であるなら魚にとって水中で呼吸することが容易である理由を理解できていないな
水中での呼吸はエラという前提があって成り立つように、太古の地球環境という条件があって成り立つ簡単だね
その手の認識能力を鍛えたいなら遊戯王あたりをプレイすることをお勧めするぞ
16. 匿名処理班
環境が変わってその時生きてた生物が駆逐されれば、別の特性を持つ生物にとっては生息域を奪うチャンス
哺乳類だって恐竜が滅んだからこそ台頭できた
人間が住めない環境になれば別の生き物が代わりに地球上に広がっていくだろうが、それを地球環境の危機として語るのはなんか違うんじゃね?って思う
人間にとって都合の良い環境が破壊されたら人間にとってデメリットがでかいって話のはずなのに、人間じゃなくて地球さんを主語にもってくるの、ちょっと傲慢な気がする
17. 匿名処理班
>かつて生命にとって猛毒だったという
今でも猛毒だけどね。
現世生物は、ありとあらゆる方法で酸化から防御するすべを構築してるから大丈夫だけど。
ひとたびその防御がなくなれば、即座に死ぬのは変わらない。