乾いた土地に井戸を掘り、野生生物に水を供給していたのはロバだった
photo by Pixabay
 西オーストラリア州のキンバリーに広がる砂漠の上空をヘリコプターで飛行すると、乾燥した大地にあいた奇妙な穴が見えることがある。

 1970年代末には、ほとんど見られなくなってしまったが、現在その穴は、キンバリー地区のカチャナ・ステーションだけで見ることができる。

 ここでは、かつて害獣とみなされ駆除の対象だった野生化したロバが保護されている。そう、この穴はロバによって掘られていたのだ。

 『Science』(4月30日付)に掲載されたオーストラリア・シドニー工科大学のエリック・ラングレン氏らの研究によると、この穴は砂漠の井戸であり、ロバが穴から水を出すことで、さまざまな野生動物の喉を潤しているのだそうだ。
スポンサードリンク

野生のロバや馬が掘った井戸が野生生物に恵みをもたらしていた

 調査では鳥、ミュールジカ、ピューマをはじめ、57種もの野生動物がその水を利用していることが判明した。

 それだけでなく、井戸が干上がった後は、そこから湿地に生息する植物が発芽することまで観察されている。

 こうした井戸を掘るのはロバだけではない。たとえばクイーンズランド州では、野生化した馬が自分の背丈もある穴を掘ることが確認されている。

 同じくウマ属の仲間では、ヤマシマウマグレビーシマウマクーランなども掘るし、アフリカゾウやアジアゾウも掘る。そしてオーストラリアと同様に、ほかの地域でも彼らの掘る井戸が周辺で暮らす動物たちに貴重な水をもたらしている。
Footage shows holes dug by wild donkeys being used by other species

絶滅した大型動物も井戸を掘っていた可能性

 およそ10万年前に人間がアフリカ大陸を出発してからというもの、大型動物が絶滅するというパターンが繰り返されてきた。

 人間が新しい土地に到着すると、それまでそこで生息していたもっとも大きな動物が消えてしまうのだ。最大の原因と考えられるのは人間による狩猟で、そこに気候変動の影響もくわわった。

 ラングレン氏によれば、現生のロバや馬の近縁種が井戸を掘るのならば、人間のせいで絶滅した大型動物もまた掘っていた可能性があるという。

 たとえばオーストラリアでは最近、ウォンバットが4メートルの深さの穴を掘ることが確認されている。そしてやはりワラビー、エミュー、ゴアナ(スナオオトカゲ)、各種鳥類など、さまざまな動物が干ばつの間にそれを利用していることが観察されている。

 このことは絶滅した巨大ウォンバット(ファスコロナス:Phascolonus)もまた井戸を掘っていた可能性を示唆している。

 それと同様に、世界各地に生息していた長鼻類もまた井戸を掘り、周辺の動物たちの喉を潤していたのかもしれない。

 実際、北アメリカでは1万3500年前の謎めいた痕跡が発見されているが、これは当時起きた干ばつの時期にマンモスが掘ったものだと推測されている。
4
photo by Pixabay

絶滅した大型動物とロバや馬の共通点

 人間が各地に持ち込んだロバや馬には、大昔の大型動物との共通点があるのは明らかだとラングレン氏は説明する。

 昨年『PNAS』に掲載された同氏の研究では、人間が動物を絶滅させたことで失われた土地の機能が、同じく人間がオーストラリアに導入した動物のおかげで戻ってきたことを明らかにしている。

 たとえば野生化したロバと馬のエサ・体重・消化器系は、巨大ウォンバットとそっくりだ。このことは、ロバと馬も同じような影響を土地に与えている可能性を示唆している。
3_e2
credit:E.J. Lundgren el al., Science

野生化した動物にも保全する価値がある

 水は限りある資源だが、農業・鉱業といった人間の活動や、気候変動(温暖化)の影響でさらに少なくなっている。

 そのために世界の砂漠は拡大するだろうと予測されているが、もしかしたら一部の野生動物は、乾燥した土地で暮らす生命に恵みの水をもたらしてくれるかもしれない。

 にもかかわらず、人間の手を逃れ野生化した動物たちはよそ者、厄介者として駆除されるばかりで、保護されることはなかったとラングレン氏は語る。

 だが今、「人道的自然保全」 や「マルチスピーシーズ・ジャスティス(複数種の正義)」といった研究分野の登場により、それが変わる兆しが見えはじめたところであるそうだ。

References:Feral desert donkeys are digging wells, giving water to parched wildlife / Wild donkeys and horses dig wells in the desert, help life thrive/ written by hiroching / edited by parumo
あわせて読みたい
オーストラリアのウォンバット、過去の山火事で行き場をなくした動物たちに巣穴を貸してあげていた!?

ウォンバットよ、お前もか! 体が光る有袋類はまだまだたくさんいることが判明(オーストラリア)

巨大フクロウから巨大サソリまで、かつて地球上に存在していた7種の驚くべき巨大生物たち

こいつはとんだ大所帯。ロバが羊の大群を引き連れて歩くブレーメンな光景

オオカミを導入してから25年。イエローストーン公園の生態系が安定したことを確認(アメリカ)

馬は信頼している人間の顔を認識し、写真からでも見分けることができる(フランス研究)

この記事に関連するキーワード

キーワードから記事を探す

この記事が気に入ったら
いいね!しよう
カラパイアの最新記事をお届けします
この記事をシェア :    

人気記事

最新週間ランキング

1位
7944 points
「私を召喚したのは貴様か?」っていう感じでソファの隙間から登場した猫

「私を召喚したのは貴様か?」っていう感じでソファの隙間から登場した猫

2021年4月26日
2位
5485 points
猫のいる職場はいかが?こんなスタッフがいたら絶対に通っちゃう!働く猫たち総集編

猫のいる職場はいかが?こんなスタッフがいたら絶対に通っちゃう!働く猫たち総集編

2021年4月29日
3位
5047 points
ホームレスを減らしたいスイス、片道のヨーロッパ行き切符を無料で提供し国から出て行ってもらう政策を実施

ホームレスを減らしたいスイス、片道のヨーロッパ行き切符を無料で提供し国から出て行ってもらう政策を実施

2021年5月3日
4位
4835 points
母親を亡くしたホッキョクグマの子、炭鉱作業員に救助され、子犬のようになつく(ロシア)

母親を亡くしたホッキョクグマの子、炭鉱作業員に救助され、子犬のようになつく(ロシア)

2021年5月1日
2684516546
5位
4005 points
小さくても大きな生きる意志があった。栄養失調で被毛を食べて生き延びていた子猫が美しい三毛猫になるまでの物語

小さくても大きな生きる意志があった。栄養失調で被毛を食べて生き延びていた子猫が美しい三毛猫になるまでの物語

2021年4月29日
2693711322
もっと読む
スポンサードリンク

Facebook

コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 11:43
  • ID:L.5yO.Wn0 #

ロバのような役割を果たす生物が消えてロバが来るまでの間、他の生物たちは何らかの方法で生き延びてきたんだからそっちの方が自然なのでは、と思ってしまう。
役割はどうあれ外来種だし、駆除されてるということはデメリットもあるのでは

2

2. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 12:10
  • ID:w9nQkWnZ0 #

ゾウも井戸を掘るよね。「ゾウの井戸」は有名。
見た目が似たような4つ足動物でも
地下水脈を探り当てる能力があるモノと
ないモノにわかれているのがとても面白い。
全ての生き物に同じ能力を持たせないことで
生態系のバランスがうまく調整されてるんだな。

3

3. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 12:10
  • ID:5Q8z.LIU0 #

地面の深い所に水がある事に
動物達は本能で気づいてる。
大型種の動物が自力で掘る体力があり
その残った穴からのおこぼれの水を
他の動物が飲んでるだけ。
恣意的にやってる訳でなく、そんな
ドラマチックな話しでもない。

4

4. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 12:30
  • ID:WSvosJ7P0 #

日本でも外来種のアメリカザリガニがサギなどの水鳥の貴重な餌となっているので全て駆除されたらそれに頼ってる在来種も影響を受けることになる

5

5. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 12:44
  • ID:Gufpw4Lr0 #

謎にBGMが怖いんだけど

6

6. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 13:06
  • ID:1QG9x5nk0 #

ロバくんのおかげで、ガマ親分が助かってたのか。

7

7. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 13:22
  • ID:xDGYxt2T0 #

人間が移動してくると、そこにいた大型動物が絶滅する……

いちばんの害獣は人間じゃんねー

8

8. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 13:38
  • ID:kaD8.5fo0 #

私もBGM怖かった! 合ってないよね??

「自分のために掘った結果〜やさしい世界」なのにミステリー風?

ロバを友人のように感じるのはマルコのせいかな?ロバ愛おしい

9

9. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 13:50
  • ID:kaD8.5fo0 #

害獣・害虫・有毒・雑草…とか、この件も人間のくくり

人間の過ちで崩れた生態系維持は良いと思う

だけど、崩れたなりのバランスもあるもので…
揺れ続けるヤジロベエみたいね


人間は賢く愚かで、生物の支配者ではない…と強く思う
何でもできちゃう人間は、深く考えないとね

10

10. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 13:58
  • ID:FlJmcOQ50 #

蛾の幼虫が木から樹液を掘るからカブトムシとかが助かってるみたいな話?

11

11. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 13:59
  • ID:zMWpnc8s0 #

>>7
弓矢があった地域は、何万年の原始人の狩りをくぐり抜けて適応し、動物も俊敏に進化するけど、

弓矢がなかった地域は、いきなり登場した弓矢に適応出来ずに滅ぶ。

12

12. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 14:08
  • ID:O9In7b1x0 #

※4
アメリカザリガニが居なくなったニッチに在来種が住めるんじゃない?

13

13. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 14:25
  • ID:vmvZWMgP0 #

深さ1m未満の穴で地下水が見つかるんだろうか?

14

14. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 15:31
  • ID:.3qiOWv30 #

ホント、自然って絶妙なバランスの上に成り立ってるんだな…

15

15. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 15:37
  • ID:siQ9bhEe0 #

>>1
その考えがエゴかも

16

16.

  • 2021年05月05日 15:39
  • ID:.OCV6PyN0 #
17

17. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 16:58
  • ID:Mi.qY.PG0 #

>>13
無知の憶測で申し訳ないですが、雨季の時に出来た川が干上がって地下浅くに残っているのかも?
ロバは知りませんが、草食動物が雨の降る方へ集団移動するように水のある場所を嗅ぎ分けて掘り当てるのかと

18

18. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 17:01
  • ID:6paFXD9G0 #

ローバー・ジャパン
「うちとは関係ありませんから」

19

19. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 17:16
  • ID:.OCV6PyN0 #

※6
こどもの日で、昭和枯れすすき

20

20. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 17:53
  • ID:5.n0zTCi0 #

ロバって可愛いのに今一つ人気ないよね

21

21. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 19:34
  • ID:Xi9R52QM0 #

もうドンキーとは言わせない。

22

22. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 19:58
  • ID:YAQXyXVu0 #

これが本当のびっくりドンキー

23

23. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 20:08
  • ID:kac694kD0 #

こんな浅い穴でも水が出てくるなんて、砂漠の方が地下水源豊かなのかな

24

24. 匿名処理班

  • 2021年05月05日 23:30
  • ID:emN8tmCb0 #

害獣は駆除すべきという考え方だが、所詮は人間の浅知恵なのかも知れないね。ロバが井戸を掘るなんて知らなかった。ゾウはたびたび水中毒(低ナトリウム血症)で死ぬらしい、その屍を養分にしてまた餌となる草木が生えてくるという話を聞いたことがある。自然の摂理には人智がまだまだ及ばぬものだ。

25

25.

  • 2021年05月05日 23:31
  • ID:BZdQK7GH0 #
26

26. 匿名処理班

  • 2021年05月06日 01:12
  • ID:USZ0YioW0 #

なんで心霊動画風BGMなんだよ

27

27. 匿名処理班

  • 2021年05月06日 02:10
  • ID:Mvv6ng990 #

※15
駆除したほうがいいというエゴを否定するのは
駆除してはいけないというのもエゴなんじゃないかなと思う
結局エゴを否定して人間は生きてはいけないので
実利(公共の福祉を含めて)を目安に行動するしかないのではないかな

28

28.

  • 2021年05月06日 06:55
  • ID:fHBsVTJR0 #
29

29. 匿名処理班

  • 2021年05月06日 07:31
  • ID:xLaxn6y80 #

※2
※3
ゾウの足裏は凄く敏感で、振動を感知できる。ロバは耳もいいし、どちらも鼻が利く。なので地上に漏れる水の音や臭いを感知できるらしい。

そして地中深くまで掘り進められる大きな体がでないと費用対効果が得られない。多くの水を必要とする大型動物だからこその特技だわな。

30

30. 匿名処理班

  • 2021年05月06日 18:33
  • ID:SjT9HmIR0 #

※8
ロバさん、けなげで可愛いよね

31

31. 匿名処理班

  • 2021年05月06日 21:08
  • ID:71ECK.f20 #

※20
外国でロバ車ひいてるのを見かけた程度なんだけどさ
あの大きい鳴き声が独特で
飼い主と歪み合ってるのかなぁ感あったよ^^:w

32

32. 匿名処理班

  • 2021年05月07日 03:53
  • ID:j24jgERV0 #

※30

そうそうそうなのよね。
だから過酷な労働は勘弁してあげてほしい

頭でっかち尻でっかちなところもさらに良い。
ロバをセクシィ~にするとシマウマ?

33

33. 匿名処理班

  • 2021年05月07日 15:00
  • ID:bCoIu7su0 #

もしかしたら人間が井戸を掘るのは 井戸を掘る野生動物を観て真似たのかもしれない

34

34. 匿名処理班

  • 2021年05月07日 16:18
  • ID:BPsyxrQ90 #

※12
その在来種が殆どいなくなったから単純に外来種だけ駆逐すれば済むって話でもないのが難しい所

お名前
スポンサードリンク
記事検索
月別アーカイブ
スマートフォン版
スマートフォン版QRコード
「カラパイア」で検索!!
スポンサードリンク