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事実、ヨーロッパとアメリカの医学界には、単なる音楽鑑賞を心の病や情緒不安定と結び付けて考えてきた長い歴史がある。音楽は一般的には認められた芸術であり、文化の不可分の要素でもあったが、あまり好意的ではない見方もあったのだ。
数百年にもわたって、医師たちは音楽が与える健康への悪影響について記してきた。神経への過剰な刺激から洗脳まで、様々な医学的な説が唱えられ、長時間の音楽鑑賞や不適切なジャンルの音楽を聴くことで精神が侵される機序が説明されてきた。
病的な音楽というコンセプトを発展させるための学説のほとんどはナンセンスであった、とイギリス、ニューカッスル大学の歴史家ジェームズ・ケナウェイ氏は、科学誌『プログレス・イン・ブレイン・リサーチ』の中で論じている。「本質的に性、ジェンダー、社会秩序、自制に関連する音楽への道徳的反対が医学用語の皮をかぶったものであることは明らかだ」と。
医師の大きな勘違いの歴史を知ると胸がざわつく。だが病的な音楽の歴史からは、科学の”非”実践についていくつか教訓を得ることもできる。「医学の権威がさらに社会的課題となったとんでもない例である…科学的証拠の解釈について批判的思考を行う重要性に関する警告となるはずだ」とケナウェイ氏は論じる。

16世紀や17世紀の解剖学者は、耳と聴覚神経の理解を深めた。これが調和と健康の源としての音楽という考えから、神経に影響を与える力という考えへの変化を促した。19世紀後半までには、音楽が神経学的な刺激剤であるという見解は大きな支持を得るようになる。過剰に音楽を聴けば、頭痛、恐怖、失神、さらには死すら引き起こすと考えられた(神経が繊細と考えられていた女性は特にである)。
19世紀の間、人々は音楽の危険性は、淑女個々人の繊細な感覚だけでなく、一般に対しても当てはまると考えるようになった。アメリカ人医師のジョージ・ベアードは神経衰弱症を提唱する。これは教育からのストレスに加えて、音楽学習のストレスが女性をヒステリックで、神経症的にするというものだ。 また音楽は自制心を失わせるとも考えられた。一部の婦人科医は、「音楽は感覚的快楽であり、早熟あるいは過剰な月経や性欲化行動につながる」ことを懸念した。また中には、その反対に、音楽から生理が止まるほどのストレスを受ければ、不妊になると唱える者もいた。
音楽による被害が出ると考えられたのは、女性だけではない。音楽の才能は同性愛や情緒不安定と結びつけて考えられ、堕落したと人々がみなした様々な作曲家のその原因について、あれこれと憶測された。1894年、イタリアの精神科医であり犯罪学の父と称されるチェーザレ・ロンブローゾが、作曲家リヒャルト・ワーグナーが「サディズム、放心、誇大妄想狂、優柔不断で、巨頭症」にかかっていると断言したのはそうした一例である。

20世紀になっても、多くの国家が、マイノリティや不適切とする集団の精神的劣等の印として音楽をみなした。ジャズ、ラグタイム、ユダヤ人作曲家の作品、モダニスト音楽のどれに対しても疑惑の眼差しが向けられた。フィラデルフィアにあった女子校の校医は、ジャズにさらされると「社会機構全体が粉々になる」と宣言した。
冷戦の最中、人々は音楽による洗脳と催眠を恐れた。1980年代、若者が魂をヘビメタに売り渡し、人生を台無しにしていると大勢の大人が嘆いた。今となっては杞憂だったことが判明している。
そして今現在でも、ケナウェイ氏が言う「音楽についての基本的に嘘っぱちの医学的な懸念」は捨て去られていない。2010年、デイリーメールなどのメディアは、音楽鑑賞が一種の”デジタル麻薬”であり、酩酊状態に似た効果を与えると報じた。
ユーチューブなどで20億回も視聴される人気の”江南スタイル”でさえも、一部の精神科医をして、現世代の心への影響を懸念させるのだ。
via:braindecoder・translated hiroching
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コメント
1. 匿名処理班
幼い頃から音楽とか映画とか漫画とかの娯楽にふれてこなかった人間は、大人になってからそれらを否定しにかかる傾向にある。これもその延長だろう。
2. 匿名処理班
音楽って不思議な物で、聴く分には問題ないが聴かされると途端に不快な気分になる
3. 匿名処理班
マクロスで見た
4. 匿名処理班
所謂宗教的体験とかも割りとこんな感じのザワツキな気がするんだが
寧ろ音楽ってそのザワツキから逆に宗教的な儀式に利用されてきたよなぁ
ザワツキを危険視したら娯楽は全滅してしまいそうだ
5. 匿名処理班
今何故か頭の中で「にこにこぷん」がエンドレスでながれている俺にとってはタイムリーな話だ
6. 匿名処理班
今ゲームが言われてることと一緒だね
7. 匿名処理班
※1
否定じゃないけど歌詞がついてる音楽とかは仕事中は気が散るからかけない時はある。
同じ部屋にいる人の音楽がそういうのだとツライ時がある。オレだけかな。
8. 匿名処理班
※1
それらというより人間は自分のわからないものはだいたい否定するよね
実際にそれが社会的に善か悪かってのは別にして
9. 匿名処理班
その昔、ビートルズを聴くとロン毛のヒッピーになる、と
本気で信じていた人々が居ました…(笑)
10. 匿名処理班
その昔の銃乱射事件の犯人がデューダス・プリーストのファンだっただけで、歌が原因だって言った学者が居ましたっけ。
しかも、普通に聴いた音楽ではなく、BPMを上げ、逆回転させると「Do it!Do it!Shot your guns」って聞こえるっていう理由だった
11. 匿名処理班
英語の歌🎵を聞かされると、イラッとするんですけど、、、やめてくれ✋
12. 匿名処理班
私には聴覚の偏りがあり、世間一般で受け入れられている音楽のほとんどを享受することができない。皆が楽しそうに聴いている音楽によって、体調が容易にかき乱されてしまう。他人に不愉快に思われてもこれが現実なのだから仕方がない、と割り切って生活している。
そんな私が思うに、音楽になんらかの精神的作用があるとしたら、その半分くらいは自分の好みが受容されている、という感覚から来る、社会心理学的なものに由来するのではないだろうか。
13. 匿名処理班
有害ロックでも聞こうかね
14. 匿名処理班
自分が気分が悪くなると感じる類の音楽が人にとってはどうなのかを知りたい
好きなアーティストの曲でも長いこと聞いてられないのがあるんだ
15. 匿名処理班
ラジオでクラシック音楽を聴いていると、いきなり金切り声が入ってうわっとなることがある。
そういえば、女性の悲鳴が毎日聞こえると通報があり、警察で踏み込んだらオペラ歌手が練習してたという話があったな。
16. 匿名処理班
毒にも薬にもなる
17. 匿名処理班
逆にダメ出ししてる方々の方が何かに冒されていたり、何らかの先天的/後天的な欠陥があるのでは?という疑問も出てくる。
18. 匿名処理班
これわかるわ〜ドラクエの記録消えた音楽とか怖すぎるもん
19. 匿名処理班
※11
耳栓でもしとけ
20. 匿名処理班
芸術とは全てが現代に伝わり表の社会に残った魔術のなれの果てだからね。
21. 匿名処理班
イングリッシュに気を付けろ
22. 匿名処理班
私も分かる。音楽ってのは人の意思を流れに従わさせる。顔面パンチされ嘲笑われた後にアメイジング・グレイスを聞かされて自分の憎しみが無理やり消されていく感覚は認めがたい経験だった。だから憎しみとか怒りを煽る曲は少ないのかな。
23. 匿名処理班
マーズアタックの世界かな?
24. 匿名処理班
日本だって戦前戦後のジャズや最近の韓流が流行った時は「文化侵略される!」なんて大真面目に騒いでる人がいたが、今はどっちもマニアしか聴かないよな(笑)
25. 匿名処理班
音楽に感情をコントロールする力があるのは事実なんだな。
26. 匿名処理班
「かつて」と言うか、100年前から現在進行中の話だな。
27. 匿名処理班
芸術的評価も、医学的評価もどちらも聞き手の解釈でしか無いのね。
音楽を発信する側の意見と食い違うのは当たり前だし、気に入るか
気に入らないかがすべてだと思うんですけど。
気分が悪くなったりするのは、周波数が関係してるはずです。苦手な領域は
人それぞれだと思いますよ。年齢でも。モスキート音とか若者は敏感。
28. 匿名処理班
性格がクズなやつの方がいい曲書きますよね。
言語に関わらずダイレクトに影響を及ぼすものだから、それを操るミュージシャンは宗教家のように心酔され崇められる。たとえしょうもない歌詞でも神の言葉みたいに暗記され暗唱され…。そりゃ熱狂的な人気を集めたら、危険だと思われても仕方ない。
でも恋みたいなもんだからね。似た病だと思いますよ。
29. ジョン・メイトリクス
パパが子供の頃に、西ドイツにロックが入ってきたけど、『破壊的だ』って評判悪かったぞ。
30. 匿名処理班
※6
デカルチャー!
31. 匿名処理班
ここ2,3年、手持ち無沙汰になると「いぬのおまわりさん」が頭の中でループしてるときがある。にゃん、にゃん、にゃにゃーん♪
32. 匿名処理班
オリバーサックスのミュージコフィリア読もうぜ
急に音楽の才能に目覚めた人、聴覚がほとんどないのに幻聴の音楽が大音量で聞こえる人、ある日音程の感覚が変化してどんな音楽もただの不協和音にしか聞こえなくなった人…脳の働きと音楽について色々書いてあるよ
33. 匿名処理班
日本ではしばしば音楽がおおきな争いの原因になっている
34. 匿名処理班
酔っ払うと英語の歌🎵を歌ったり、泣いたりするのは脳の神経が侵されていたからなんだ‼((( ;゚Д゚)))ガクガクブルブル
35. 匿名処理班
良い影響があるなら悪い影響もあっておかしくないと思う
特定のジャンルというよりも個人の好みやその時々の精神状態によって
36. 匿名処理班
あながちハズレでも無いな。
どのように作用するかはその意図によって良くも悪くもなる。
意図しないで作ったものは大抵有害であることが多い。
37. 匿名処理班
音楽は恐怖を生み出すこともあります
ガチャピンの音楽で「イタズラっ子を食べちゃうぞ」
という音楽があり子供の頃1週間ぐらいしか聞いて無いのに
いまでもその音楽は自分の中に残ってます
38. 匿名処理班
最後の江南スタイルだけよくわからなかったんで誰か丁寧に解説してくれますかね
まずあれって流行ったんでしたっけね…流行らそうとしてたのは見たけど
39. 匿名処理班
酔っ払って、歌ったり、泣いたりするのは、病原体のせいかなァ~(笑)…特に、英語の歌🎵エヘ🎵
40. 匿名処理班
音楽が精神に影響を及ぼすって点はその通りだと思うがね
人によっては悪い方に
41. 匿名処理班
酩酊状態と聞くと、音楽→お酒🍶と同じ!楽しければ👍ホドホドにネ🎵
42. 匿名処理班
「音楽が神経を侵す病原体」のタイトルを見てヒエロニムス・ボッシュの快楽の園を想起した。
そういう説が昔はあったのだとしたら、あの謎の絵も少し理解できそう
43. 匿名処理班
この手の話を聞くとトルストイの『クロイツェル・ソナタ』を思い出す。
44. 匿名処理班
ついでに文学なんかも読んでて毒性を感じることはある。あらゆるメディアは耐性を持たない者にとっては過剰に作用してしまうのはよくあることで、問題はそれに触れ始めた初期状態にいかにして過剰反応を乗り越えるかだ。とはいっても、それも別に難しいことではない。精神的にある程度の健全さを持ち、きちんとした自己を確立していれば良いだけなのである。そのような健全さを保ちにくい社会において、メディアはその有害性を発揮してしまう。
45. 匿名処理班
ここまでバッハが死んでから誰も作曲してこなかった説がゼロ だとぅ
そう イングヴェイ・マルムスティーンあるのみだよ
46. 匿名処理班
※1の言ってることはカラパイア1的を射ているよ。
47. 匿名処理班
音楽でなんか感じたりできるように憎悪を煽るのは可能だと思うけどなぁ・・・
48. 匿名処理班
音楽だけでなく表現者は神経が繊細なんだよ
だから病むことがあるだけ
49. 匿名処理班
※44
まあそうなんだろうね
それゆえに在る以上は耐性を持つように触れるのも大切ではあろうと思う
でないと、たった一曲のマーチに触れただけで国中が踊らされるハメになってしまいかねない