メインコンテンツにスキップ

小麦は干ばつのときに助けを求める、化学信号で有益な細菌を呼び寄せていたことが判明

記事の本文にスキップ

9件のコメントを見る

(著)

公開:

小麦畑の画像この画像を大きなサイズで見る
image credit:Pixabay
Advertisement

干ばつで水分不足に苦しむ小麦が、自らの根から「助けを呼ぶ」化学物質を放出し、土壌中の有益な細菌を呼び寄せていることが、オーストラリアの西シドニー大学の研究で明らかになった。

この化学物質に反応した細菌たちは次々と集まり、小麦の細胞の水分バランスを保つ物質や、栄養素を吸収しやすくする酵素を分泌していた。

そのおかげで、小麦は干ばつの中でも成長を続け、生きのびることができるという。さらにこの効果は、次の世代の作物にも受け継がれていた。

植物と細菌が協力して過酷な環境を乗り越えるこのしくみは、気候変動の時代における自然で持続可能な農業の手がかりとして注目されている。

この研究は『Cell Host & Microbe』誌(2025年5月29日)に発表された。

小麦はピンチになると援軍を呼ぶために化学信号を発する

 西シドニー大学の研究チームは、小麦が干ばつストレスを受けたときに、4-オキソプロリン(4-oxoproline)という化合物を根から分泌していることを突き止めた。

 この物質は、グルタミン酸というアミノ酸が体内で代謝される過程で生じるもので、植物が通常の状態では多くは放出しない。

 ところが干ばつになると、小麦はこの4-オキソプロリン分泌量を増やし、土壌中に放出する。これが土壌中の一部の細菌にとって「ここに来て手助けしてほしい」というメッセージのように働くことがわかった。

この画像を大きなサイズで見る
image credit:unsplash

小麦を助けてくれる2種類の細菌

  この「呼びかけ」に応えて集まってくるのが、ストレプトマイセス・セリュレオルビダス(Streptomyces coeruleorubidus)と、レイフソニア・シンシュエンシス(Leifsonia shinshuensis)という2種類の細菌である。

 どちらも土壌に広く存在するが、通常は特に目立った動きを見せない。

 だが、4-オキソプロリンに誘導されて小麦の根の周囲に集まり、定着すると、植物にとって有益な物質を分泌し始める。

 細胞内の水分バランスを保つオスモライトや、栄養を吸収しやすくする酵素などを分泌する。さらに、植物ホルモンやそれに似た化合物(ホルモン様物質)を産生する。

 こうした細菌の出す物質の働きによって、小麦は干ばつ下でも細胞の水分を保ち、成長と光合成を続けられるようになるという。

 そしてこの関係は、植物側だけでなく細菌側にも利益がある。

 小麦の根からは糖やアミノ酸などの栄養分が分泌されており、細菌はそれをエネルギー源として利用している。

 こうしたお互いに得をする関係は「相利共生」と呼ばれ、自然界に広く見られる生き残り戦略だ。

この画像を大きなサイズで見る
4-オキソプロリンがストレプトマイセス・セリュレオルビダス(S. coeruleorubidus)を豊富にし、小麦の干ばつ耐性を高めるしくみを示した図  image credit:Li et al 2025

細菌による援軍支援は次の世代にも引き継がれる

 研究チームはこれらの細菌を、乾燥した土壌に育てた小麦にあらためて与え、その効果を観察した。

 すると、細菌と共に育てた小麦は、そうでないものに比べて明らかに大きく成長し、健康状態も良好で、収穫できた穀物の量も多かった。

 さらに興味深いことに、この効果は次の世代の作物にも受け継がれていた。

 細菌が土の中に残した影響が、あとから育てられた小麦の干ばつへの耐性を高めていたのである。

この画像を大きなサイズで見る
image credit:unsplash

小麦の中で起きていた変化

 細菌によって引き出された小麦側の反応も、研究によって詳しく調べられている。とくに援軍細菌、ストレプトマイセス・セリュレオルビダスの存在は、次のような変化を小麦にもたらしていた:

  • 葉の中の過酸化水素(H₂O₂)濃度の上昇(これは細胞がストレスに対処するための信号として働く)
  • 葉の気孔密度の増加(気孔は水分の出入りを調整するため、数が増えることで乾燥への適応力が上がる)
  • 干ばつ耐性に関わる遺伝子の働きの活性化

 これらの働きが組み合わさることで、小麦は水分不足に強い体質を獲得し、干ばつ下でも力強く育つことができたのだ。

自然の力で農業を支える新しい方法

 この研究の上級著者であるブラジェシュ・シン教授は、「気候変動によって干ばつの頻度と深刻さが増している今、このような植物と微生物の協力関係は、農業の持続可能性を高める重要な手段になる」と述べている。

 また筆頭著者のジアユ・リー博士も、「植物が土の中の細菌とチームを組んでストレスを乗り越えるこの仕組みは、気候変動の影響に強い、持続可能な農業を支える新しい方法になり得る」と話す。

 化学肥料や農薬に頼るのではなく、自然の中にあるしくみを活かして作物を守る方法が、これからの農業には求められている。小麦と細菌による「助け合い」の戦略は、そのヒントになるかもしれない。

編集長パルモのコメント

パルモの表情、普通

小麦と細菌がお互いに協力しあい、干ばつなどの気候変動から身を守っているところを想像すると、人間が関与しなくても彼らは一生懸命生きようと試行錯誤している様子がうかがえる。擬人化したアニメ作品が見てみたくなってきた。この世にあるすべての生き物に感情移入せずにはいられなくなる。

References: Drought-induced plant microbiome and metabolic enrichments improve drought resistance / Wheat ‘cries for help’ when it experiences drought

📌 広告の下にスタッフ厳選「あわせて読みたい」を掲載中

この記事へのコメント 9件

コメントを書く

  1. もやしもんの細菌神様説、結構当たってるんじゃないかな。

    • +5
  2. 土の中を消防士さんや救命士さんのように懸命に駆けつける姿を想像してしまった

    • +6
  3. 人類が小麦を見つけたというのも思い込みで、実は小麦に呼ばれたのかもね

    • +3
  4. 人間も体調や栄養状態が悪い時に腸内細菌にシグナルを送ったりしてるのかな

    • +6
  5. 人類の科学が解明できているのは、おそらく全ての自然の機構のうち1%以下だろう。このようなドラマティックなメカニズムが生物学・物理学など多岐にわたって存在するに違いない。

    • +2
  6. この話のままだと乾燥が続くと糖やアミノ酸が大量に分泌されることになるから
    痩せて収穫量が減ったり、味が落ちる結果になりそうだし、実際そうなるから農作物としての穀物には水が大事

    • +5
  7. 上橋菜穂子先生の香君はこういった研究成果を元にして創作されたんだなぁ

    • +1
  8. オレダー 「ほらな、仮説の通りだったろ」
    スカチー 「オレダー、あなた疲れているのよ」
                    ・・・Xファイル51話に続く

    • 評価

コメントを書く

0/400文字

書き込む前にコメントポリシーをご一読ください。

リニューアルについてのご意見はこちらのページで募集中!

知る

知るについての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

植物・菌類・微生物

植物・菌類・微生物についての記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。

最新記事

最新記事をすべて見る

  1. 記事一覧を読込中です。