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捕食者を追い払うため、体に致死量の有毒金属を蓄えている海綿動物

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(著) (編集)

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紅海に生息する海綿テオネラ。その体に有害な金属を蓄えている image credit:Shani Shoham
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 自然界は厳しい。生き延びるためには敵から身を守る術を身につけねばならない。人間から見れば、それはときにとても興味深いものだ。

 「テオネラ(Theonella conica)」という海綿動物だ。紅海やインド洋に生息するこの生物は、海水を濾過して養分をすするだけの無力な存在で、動物だが動くことができない。

 それでも生き抜かねばならないテオネラが身につけたユニークな生存戦略は、体内に有害な重金属をたっぷりと蓄積するという方法だった。

致死量の重金属を宿す海綿動物

 今から20、30年前のこと、 「テオネラ(Theonella conica)」を調べていた研究者は驚愕の事実を発見した。

 その体内に蓄積されている「モリブデン」という重金属の濃度が、ほかの生き物なら致命的になるほど高かったのだ。

 はたして、そのテオネラは、例外的に重金属への耐性を備えていたごく稀な個体だったのか? それともテオネラはすべて重金属を蓄えているのか?

 今回テルアビブ大学の海洋生物学者シャニ・ショハム氏らは、その疑問を追求してみることにした。

 紅海の北側にあるアカバ湾でテオネラを探し、その重金属レベルを分析してみたところ、その結果は驚きのものだったのだ。

 湾内のテオネラすべてが、乾燥重量1gあたり46,793μgものモリブデンを含んでいたのだ。

 これは地球上のほかのどの生物よりも濃厚なモリブデンを体内に溜めているということだ。

 クロム族元素の1つ,銀白色のモリブテン image credit:Alchemist-hp WIKI commons

なぜテオネラは致死量の重金属を蓄えていても死なないのか?

 少量のモリブデンなら私たちにも必要だ。これは人体にとって必須微量元素で、薬物・毒素・硫化物を分解するために必要となる。だが過剰なモリブデンは毒性を発揮し、有害なものとなる。

 ではテオネラは致死量のモリブデンを蓄積しておきながら、なぜケロッとしていられるのだろう?

 その秘密は体内の共生菌であるという。

 テオネラはシンプルな海綿動物だ。内臓や神経といったものはなく、生きるために細菌や藻類、ウイルスといったものと協力し合っている。

 その体重の4割が共生生物たちのものであることもあるくらい、テオネラは他者に依存しているのである。

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紅海北部のアカバ湾の水深30m地点で採取したテオネラ image credit:Shani Shoham

共生生物が解毒してくれていた

 今回ショハム氏らは、そうした中でもひときわ目立つ細菌が、テオネラの体内でモリブデンを解毒していることに気がついた。

 「エントセオネラ(Entotheonella)」と呼ばれるその細菌は、さまざまな生物活性化合物を生成することで知られているが、その内部から高濃度のモリブデンを含む塊が発見されたのである。

 モリブデンは水に溶けないくらい濃くなると毒性を発揮するようになる。

 だがテオネラの体内ではこの細菌がモリブデンを集め、安全なモリブデン化合物(モリブデン酸カルシウムやモリブデン酸ナトリウム)に変換しているようだ。

 そのおかげでテオネラは外敵から食べられずに済む。

 そしてその安全保障サービスの見返りとして、消化吸収するかわりにエントセオネラに棲家を提供する。どちらもウィンウィンの共生関係だ。

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サンプル採取後のテオネラ。外側のレンガ色の部分がエクトソーム、青色部分はエンドソーム image credit:Shani Shoham

海綿の共生関係は海の汚染の除去に役立つ可能性

 人間にしてみれば、こうした共生関係を利用することで、モリブデンを抽出したり、汚染を除去したりできるようになるかもしれない。

 じつは数年前には、また別のテオネラ(Theonella swinhoei)がエントセオネラを利用してバリウムやヒ素を体内に蓄積していることが明らかになっているという。

 ヒ素による水源汚染は200万人に影響を与えているとされるが、海に生息する海綿と共生菌がその解決に一役買ってくれるかもしれないそうだ。

 この研究は『Science Advances』(2024年7月19日付)に発表された。

References: The sponge's precious metal glitters: Watch o | EurekAlert! / Rare Sea Creature Hoards Toxic Metals as a Fascinating Survival Strategy : ScienceAlert

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この記事へのコメント 13件

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  1. この海綿もしくは細菌、あるいは両方でモリブデン回収ができるんじゃないかな?
    汚染地区から、鉱山廃水から集めたり、海綿そのものを鉱山として利用したりと可能性はある
    研究してほしい

    • +8
    1. そして乱獲の上絶滅するんですね分かります。
      家畜化できればいいんだけど、Theonella属は培養の難しい微生物を多数抱えていることで知られている。新薬の材料になるのでは?と多数の薬学・化学者が群がってるけど、分離して培養するのがものすごく大変。海綿自体も成長がゆっくり過ぎて収穫できるまで育てるのに何年かかるかわからない。

      研究も「なんか微生物が有用な成分を生んでる……みたい?」という初期段階なんで先は長そう。

      • -3
      1. 培養の難しさとか教えてくれたありがとう
        時間がかかりそうのなのも同意だ

        でもね
        1行目、それはあまりにも人間を馬鹿にし過ぎでしょ
        たしかに今まで自然から搾取しすぎたのは事実
        だからといって新しいことをしてはいけないわけではない
        私は科学者にも反省とか敬意とか感謝とか愛情があるのを知ってる

        • +12
  2. 生物が一つ進化すればそれにあわせて共生する生き物(細菌)が出てくるのか
    やっぱすげぇなあ自然

    • +7
  3. 生物でモリブデンと言えば、根粒菌が空気中の窒素からアンモニアを生成する時に利用する酵素に含まれているよね。

    • +1
  4. モリブデンは鉄に添加したり固体潤滑剤として現代社会に非常に需要がある
    海綿から効率よく抽出できれば低コストで採集できるんだけど問題は量だよなあ・・・
    あとこの海綿が絶滅するのかも

    • +2
  5. ちょっとまってくれ、

    > 安全なモリブデン化合物(モリブデン酸カルシウムやモリブデン酸ナトリウム)に変換

    とあるが、この生物を捕食した生物は、その安全なモリブデン化合物を体内に入れるだけから、問題にならないんじゃないか?
    どういうメカニズムで捕食者への害となるか、知りたかった、

    • +6
    1. そうその通りと考えていました。
      安全だと記事にある
      モリブデン酸カルシウム
      モリブデン酸ナトリウム
      を捕食者にも影響はない
      のではないのか。普通に
      そう考えると思うのだが。

      • +4
  6. この手の話よくわからないんだよね。
    捕食者から逃れるために毒持ったって言われてる生物には実際は捕食者に全然効かない毒持ってるのも多いんよ。毒キノコなんかそうで、人間には猛毒なのにリスとかシカとか普通に食べるし、彼らこそ人間以上の捕食者だよ。

    なんの理由でその毒持ったんだか。

    • +3
    1. きのこや植物は食べられる事がデメリットとは限らないんだよね
      種を運んでもらえるから
      動物には旨い成分がたまたま人間には毒だったのかもしれない

      • 評価
  7. 捕食されないようにって、海綿を食べる生きものは何だろうと調べたらウミウシの類がそうなんだ、へぇ。
    あんなスポンジみたいなもんよく食べるな

    • 評価

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