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脳を持たない海綿動物の幼生、日没を合図に急速変態するしくみを解明

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変態途中の海綿動物の幼生。Image credit: Océane Blard、CC BY
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 脳も神経もない海綿動物の幼生が、周囲の環境変化を読み取り、劇的な姿の変化を成し遂げていることが明らかになった。

 オーストラリアのクイーンズランド大学の研究チームは、海の中を自由に泳ぐ海綿動物の幼生が「日没」を合図に変態の準備を始めていることを発見した。

 幼生は暗くなるのを感知すると、変態に必要なDNAをいつでも読み取れる状態に事前に整えておく。この周到な事前準備により、定着場所を見つけた際にわずか30分で固着し、そこから体の作り替えを始められるのである。

 この研究成果は『eLife』誌(2026年5月11日付)に掲載された。

参考文献:

海綿動物の幼生が遂げる劇的な変態

  海綿動物は、脳も神経も持たない、体のつくりがきわめて単純な動物である。

 熱帯の海を中心に世界中のあらゆる海に生息し、淡水にすむ種もいる。

 大きさは数mmのものから、南極海にすむ樽のような形の種のように1mを超えるものまで多種多様だ。

 特殊な細胞が集まってできているだけの非常に単純な生き物でありながら、成長の過程で非常に複雑なプロセスを遂げる。

 生まれたばかりの幼生は海の中を自由に泳ぎ回るが、成体になると、岩や貝殻などに張り付いたままの固着して動かないスポンジ状の姿へと変えるのだ。

 これは毛虫が空を飛ぶ蝶になる変態とは逆のパターンのようなものである。

 クイーンズランド大学の研究チームは何年にもわたり海綿動物の一種、ホソエダカニノテ(Amphiroa fragilissima)の劇的な変態について調査を続けてきた。

 その結果、定着して永遠の住み家とする場所を選ぶ際、環境からの手がかりが重要な役割を果たしていることを発見した。

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海綿動物の一種、ホソエダカニノテの胚。ここから幼生となって海に泳ぎ出す。Image credit:Adamska et al. / PLoS ONE / CC BY 3.0

日没を合図にDNAを事前準備する仕組み

 2020年の研究で、海綿動物、ホソエダカニノテの幼生は日没を経験しないと、どんなに条件の良い藻類(サンゴモ)が近くにあっても決して定着しないことが判明していた。

 新たな研究では、日没が海綿動物の幼生に対して変態の「用意」を前もって伝える決定的な合図であることが示された。

 幼生がまだ海中を自由に泳ぎ回っている段階で、日没の暗さを感知するとDNAの一部に変更が加えられる。

 研究チームは、DNAのどの部分が読み取れる状態になっているかを調べる技術を用いて、変態前と変態中の遺伝子の状態を分析した。

 その結果、定着や変態に関わるDNA領域が、実際に遺伝子のスイッチが入るずっと前の段階で「アクセス可能(読み取り可能)」な状態になっていることがわかった。

 これはオーケストラの演奏が始まる前に、楽譜の中の演奏する箇所にあらかじめマーカーで線を引いておくような周到な準備作業である。

 一方、日没を経験させずに光を当て続けた幼生では、読み取れる状態になっていたDNA領域の88%が閉じてしまい、変態に関わる遺伝子の働きも抑え込まれていた。

 日没を逃した幼生が定着できなくなるのは、この事前準備が失われるためである。

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ホソエダカニノテがサンゴモにくっついて変態する過程 Image credit: Océane Blard、CC BY

約30分で固着する素早い変態スピード

 なぜ遺伝子レベルでこのような事前の準備行動をとる必要があるのだろうか。

 それは海の中で無防備な状態のまま、可能な限り素早く変態を終えなければならないからである。

 幼生は事前にDNAを読み取れる状態にしておくことで、条件の合う定着場所を見つけた際に驚くべきスピードで変態を開始できる。

 接着剤が乾くのとほぼ同じ約30分という短時間で、ホソエダカニノテはサンゴモの仲間にしっかりと固着し、幼生の体を分解し始めるのだ。

 サンゴやウニ、カキなど、海綿動物以外の海洋無脊椎動物も成長の過程で変態を行う。

 昆虫の繭のような外敵から身を守る構造を持たないため、変態中に捕食される危険性を下げるためにはスピードが命となる。

 海綿動物に見られるこの予期的なアプローチは、他の多様な海洋生物の急速な変態にも共通して用いられている可能性があると研究チームは考えている。

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ホソエダカニノテの成体 Image credit:commons.wikimedia / CC BY 2.5

人間と共通する遺伝子が制御する7億年前からの進化の神秘

 脳を持たないカイメン動物は、毎日繰り返される日没のタイミングに合わせて複雑な生物学的変化を調整していた。

 実は、海綿動物の変態を制御している遺伝子の多くが、私たち人間の体内でも使用されている。

 海綿動物の変態に関与する「時計遺伝子」は、人間の体内時計(概日リズム)を調整する働きも担っている。

 海綿動物はおよそ7億年前まで遡る古い祖先を持ち、現在も地球上で生きている最も古い動物グループの1つである。

 単純な生物を研究することは、初期の動物が地球の自然なリズムを利用してどのように未来を予測するようになったのかを知るための重要な手がかりとなる。

References: doi.org/10.7554/eLife.111060.1

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