この画像を大きなサイズで見る火星を回るジャガイモ型の小さな衛星ダイモスの表面が滑らかなのは、過去に起きた小惑星の衝突で大量のレゴリスが、化粧のフェイスパウダーのように表面で覆ったことによることが判明した。
スイスにあるベルン大学の研究チームが高度なシミュレーションを行った結果、過去に起きた激しい衝突が星全体を覆う厚いレゴリス(塵や砂の堆積層)を作り出したのだという。
さらに、欧州宇宙機関の探査機ヘラによる最新の観測データから、レゴリスの下には古いクレーターが残っており、ダイモスの内部は硬い岩ではなく、隙間だらけの瓦礫の寄せ集めである可能性が高いことも明らかになっている。
この研究成果は『Nature Astronomy』誌(2026年8月18日付)に掲載された。
参考文献:
火星の衛星ダイモスの表面が滑らかな謎
火星にはフォボスとダイモスという2つの小さな衛星があり、どちらもジャガイモのようにいびつな形をしている。
長い間、天文学者たちはこれらの衛星を火星の重力に捕らえられた小惑星だと考えてきた。
しかし近年では、火星の表面に別の天体が衝突し、その破片が集まってできたという説が有力になりつつある。
内側を回る直径22kmのフォボスは、クレーターだらけでゴツゴツしている。
一方、伊豆大島とほぼ同じ大きさの、外側を回る直径12kmのダイモスは、フォボスとは対照的に、レゴリスと呼ばれる細かい塵や砂の層に厚く覆われており、表面が驚くほど滑らかだ。
さらにダイモスの南極には、幅が10kmにもなる巨大な窪みが存在する。
衛星自体の直径が12kmしかないのに、これほど巨大なクレーターがあることは大きな謎であった。
スイス・ベルン大学のサビナ・ラドゥカン氏らの研究チームは、この巨大なクレーターを作った単一の小惑星衝突と、ダイモスの表面を滑らかさに関連性があるとみて分析を行った。
この画像を大きなサイズで見る小惑星衝突を再現。レゴリスがダイモスの全体を覆い隠した
研究チームは、ベルン大学の高性能スーパーコンピューターを使用して、物質を無数の粒子として計算する「SPHコード」と呼ばれる高度な流体力学シミュレーションを行った。
ダイモスの詳細な形状モデルを作り、衝突する小惑星の質量や角度を変えながら、1回の計算に約1週間かかるシミュレーションを約100回も実行した。
その結果、もっとも現実のダイモスに近い結果が出たのは、幅320mの小さな小惑星が、約45度の角度から斜めに高速で衝突した場合だった。
この衝突は衛星を完全に粉砕することはなかったが、南極に巨大な窪みを掘り起こした。
衝突によって吹き飛ばされた大量の物質は、やがて星の引力に引かれて表面に降り積もった。
このレゴリスは深い場所で厚さ200mを超え、ダイモスの表面にあった古いクレーターの多くをすっぽりと覆い隠した。
ダイモスの表面が滑らかな理由は、まさに南極に巨大なくぼみをつくった小惑星衝突によるもので、現在の滑らかな表面が形成されたことが示された。
この画像を大きなサイズで見る探査機「ヘラ」の観測データで裏付けられる
このシミュレーション結果は、欧州宇宙機関(ESA)の探査機「ヘラ」がもたらした最新の観測データからも裏付けられた。
ヘラは小惑星ディモルフォスを目指して飛行中の探査機で、2025年3月、火星の重力を利用して軌道を変えるスイングバイを行った際に、ダイモスに接近して表面を観測した。
ヘラの研究チームには、天体物理学の博士号を持つイギリスのロックバンド「クイーン」のギタリスト、ブライアン・メイ氏も参加している。
レゴリスの下に埋もれた古いクレーターは肉眼では見分けられなかったが、メイ氏がヘラの画像から作成した分光画像によって、その輪郭が浮かび上がった。
ラドゥカン氏は、これが必要だった最後のパズルのピースだったと語っている。
この画像を大きなサイズで見るダイモスはスカスカな瓦礫の寄せ集め天体
この隠された古いクレーターの存在は、ダイモスの内部構造に関する重要な事実を明らかにした。
もしダイモスの内部が地球の月のように硬い岩の塊であったなら、南極に巨大な衝突が起きた際、その強烈な衝撃波が星全体に伝わり、古いクレーターは完全に崩れて消え去っていたはずだ。
古いクレーターが残っていたということは、ダイモスの内部が衝撃波を吸収してしまうほどスカスカであることを意味している。
研究チームは、ダイモスが日本の探査機「はやぶさ2」が探査した小惑星リュウグウなどと同じように、砕けた岩や瓦礫が緩く集まってできた「ラブルパイル」と呼ばれる隙間だらけの天体の可能性があるという。
日本の探査機MMXがさらなる謎の解明に挑む
今回の研究は、小惑星の衝突がダイモスの地形を形成したという説を強力に後押しするものだ。
しかし、科学者たちの中には、何十億年にもわたって微小な隕石が降り注ぎ続けたことでレゴリスの層ができたとする別の説を支持する声もある。
これらの謎を完全に解き明かすためには、さらなる詳細な観測データが必要だ。
その役割を担うと期待されているのが、日本の宇宙航空研究開発機構(JAXA)が計画している火星衛星探査ミッション「MMX」である。
MMXは2026年10月20日、H3ロケット10号機によって種子島宇宙センターから打ち上げられる予定だ。
MMXの主な目的はフォボスからのサンプルリターンだが、飛行計画の途中でダイモスの観測も予定している。
ダイモスに着陸して直接内部を調べることはできないものの、探査機に搭載されたレーザーや特殊なセンサーを使えば、表面のレゴリスの成分や衛星の密度を今まで以上に正確に測ることができる。
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References: Nature

















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