この画像を大きなサイズで見る石炭、石油、天然ガスなどを燃やし続けると、二酸化炭素が大量に発生する。その一部は海に溶け込み、海水を少しずつ酸性へと傾けていく。
今のままの状態で化石燃料を使用すると、海の酸性化がどんどん進んでいく。
カナダと台湾の研究チームが2100年の酸性化した海を再現してイカを育ててみたところ、なんと脳がほぼ半分にまで縮んでしまった。
しかも縮み方には偏りがあり、獲物を捉えるのに欠かせない部分ほど大きく縮んでいたのだ。
この研究成果は『Society for Experimental Biology Annual Conference』(2026年7月)に発表され、関連する論文は『Communications Biology』誌(2026年1月8日付)に掲載された。
参考文献:
- Ocean acidification may be shrinking the brains of the world’s most intelligent invertebrates | EurekAlert!
化石燃料使用による二酸化炭素が海を酸性化
石炭、石油、天然ガスなどの化石燃料を燃やすと、炭素と酸素が結びついて大量の二酸化炭素が発生し、温室効果ガスの最大の原因となっている。
大気中に増えた二酸化炭素は、およそ30%が海に吸収されると推測されているが、そのぶん海の水質は変わってしまう。
二酸化炭素が海水に溶けると、水は少しずつ酸性へと傾いていくのだ。
この現象は「海洋酸性化」と呼ばれている。
もともと海はごくわずかにアルカリ性なので、酸性化という呼び名が正確かどうかは専門家のあいだで議論もあるが、水質が酸性の方向へ動いているのは確かだ。
酸性化した海では、生き物が体をつくるためのカルシウムを取り込みにくくなる。傷ついたサンゴ礁が回復しづらくなるのもそのためだ。
他にも様々な海洋生物に影響を及ぼす。
海には、無脊椎動物のなかでもとびぬけて賢い、イカやタコ、コウイカなどの頭足類が生息しているが、海洋酸性化が進むと、脳にダメージを与えてしまうことが明らかとなったのだ。
この画像を大きなサイズで見る酸性化した海水で育てたイカの脳が半分に縮んでいた
カナダのアカディア大学と、台湾の中央研究院の研究チームは、アオリイカと呼ばれるイカを使って実験を行った。
アオリイカはインド洋から西太平洋にかけての水深100mより浅い海に広く分布するイカで、 胴の長さは大きなもので38cmほど、重さは最大1.8kgに達する。
夜になると活発に動き、エビなどの甲殻類や小魚を追いかけて捕まえる。
成長が速くわずか4か月で600gまで育つが、寿命は300日ほどと短い。
日本では食用や釣りの対象として親しまれているイカでもある。
研究チームは孵化したばかりのアオリイカを2つの水槽に分けて育てた。
一方の水槽は、今の海と同じ水質にした。もう一方の水槽は、今のペースで二酸化炭素の排出が続いた場合に予測される、酸性化が進んだ2100年の海を再現した水質にしたものだ。
排出が減らないまま進めば、海はさらに酸性へ傾き、野生のイカも100年後にはこの水質に直面すると見込まれている。
海水の酸性やアルカリ性の度合いはpHという数値で表され、今の海のpH8.2に対し、2100年の海はpH7.8まで下がると予測されている。
90日間育てたあと、イカの脳をMRIという装置で撮影して比べてみた。
すると、酸性化した水槽で育ったイカの脳は、今の海で育ったイカより49%も小さくなっていた。
アカディア大学のギャレット・アレン博士は、想像をはるかに超える数値に驚き、ソフトウェアの診断結果の不具合を疑ったほどだ。
だが結果は正確だった。イカの脳は半分近くまで縮んでいたのだ。
海の酸性化がイカの神経に影響することは、以前から知られていた。
10年ほど前には、火山活動で二酸化炭素が自然に濃くなった海域で、イカの行動が変わったと報告されている。
それでも今回の変化は、これまでにないほど大きなものだった。
この画像を大きなサイズで見る視覚をつかさどる部分ほど強く縮んでいた
脳が小さくても、それに見合って体も小さくなれば問題ないかもしれない。
だが酸性化した海で育ったイカは、脳だけが縮み、体の大きさそのものは変わらなかった。
しかも縮み方には、はっきりとした偏りがあった。
脳のなかでも視覚の情報を処理する部分、視葉と視神経路と呼ばれる領域が、それぞれ52%、62%も小さくなっていた。
獲物を見つけて捕まえるのに欠かせない部分ほど、大きく縮んでいたことになる。
この画像を大きなサイズで見る獲物が見えず狩りができなくなる恐れ
脳の縮小はイカの生存に直接かかわる。
アオリイカは獲物を追いかけて捕まえるとき、視力を強く頼りにしているからだ。
研究チームは以前から、酸性化した海水で育ったイカが、狩りをあまりしなくなることに気づいていた。
孵化から酸性の海水で育てたイカは狩りの回数が42%減り、途中で酸性の海水に移されたイカでは65%も減っていた。
狩りをしなくなる理由について、アレン博士は視力の低下と関係しているのではないかと考えている。
目の奥にある網膜そのものは変わらないように見えるので、原因は視葉が縮んでいることにあるのではないかという。
イカは獲物を見つけることができなくなっているか、見つけても目からの情報をもとに行動できないのかもしれない。
酸性化でイカの脳が縮む原因は調査中
海の酸性化によりイカの脳が縮む原因はまだ調査中だ。
アレン博士は、イカの脳のなかでエネルギーが足りなくなっているか、酸化によるダメージを受けている可能性を挙げている。
どちらの場合も、脳がうまく情報を伝えられなくなり、狩りの異変につながると考えられる。
今回の脳が49%縮んだという結果は、イタリアのフィレンツェで開かれた実験生物学会の会議で発表されたもので、まだ検証の途中にある予備的なデータだ。
一方で、狩りの回数が減ることや、その背景にある視葉の変化については、すでに科学誌Communications Biologyに掲載された論文で報告されている。
アレン博士たちは現在、30日目と60日目のイカの脳も調べ、成長とともに縮みがどう進むのかを確かめようとしている。
100年後の海に暮らす生き物たちのために、今の私たちにできることは何か。あらためて考えさせられる報告だ。
イカやタコは生き物として大好きだし、食べるのも好きだが、その存在が消えてしまうという悲しい未来だけは来てほしくない。
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References: Ocean acidification may be shrinking the brains of the world's most intelligent invertebrates
















