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中国で生成AIドラマが人気となり「顔」売買市場が広がる。

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(著) (編集)

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 スマホを開いたら最後、延々とスクロールし続けて、気づけば何十分も経ってしまっている。

 そんな「時間泥棒」なショート動画は、中国では数十秒から数分で1話が進む「微短劇(ショートドラマ)」というジャンルを生み、巨大な市場を作り出している。

 その勢いは今、AIの導入によってさらに加速している。だが、急成長する業界はいま意外な問題に直面しているという。

 それは深刻な「顔不足」という問題だ。AIドラマを作るための、「顔」が足りなくなっているというのである。

「あなたの顔を1年間使わせてほしい」という依頼が来たら?

 微短劇(ショートドラマ)の人気の波は、生成AIによってさらに加速している。

 AIを使えば、これまで大人数のスタッフと撮影現場が必要だった短編ドラマを、少人数かつ短期間で量産できるのだ。

 だがその裏側で、中国ではなんとも不穏なビジネスが広がり始めている。中国の俳優はもちろん、一般人のもとにもこんな依頼が届きはじめたのだ。

500元であなたの顔を1年間使わせてほしい

 500人民元は、日本円に換算すると約1万2,000円。1日あたり30円あまりで、自分の顔の使用権をAI微短劇の制作会社に渡すことになる。

 女優の林敏さん(仮名)のもとにも、知り合いの微短劇の監督から同じようなメッセージが届いた。

今、AIで微短劇を作っているんだけど、登場人物のビジュアルが足りないんだ。500元で1年間の使用権を契約したいんだが、どうだろう?

 最近は撮影の仕事が減っていて、一時的に失業状態だったという林さんだが、それでもこの話は断った。自分の顔には500元の価値しかないのか?と思ったという。

 林さんはまた、こうも話している

あとで微短劇を見た時に、自分自身でも、自分が誰だかわからなくなってしまいそうで怖かったんです

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中国で広がる「顔」の売買市場

 実は中国の俳優たちの間では、自分の「顔を売る」ことは、すでに珍しい話ではなくなっている。

 仕事募集用のチャットグループでは、「AI微短劇向けに顔を提供してくれる人を募集」といった投稿が数多く見られ、SNS上にも同様の募集が並んでいる。

 契約の内容はさまざまだ。ある募集では、本人が半身写真や全身写真を2~3枚提供し、特定の短編ドラマでのみ使用する条件で報酬は100元(約2400円)だった。

 また、「永久買い取り」の場合は500~1,500元(約1万2,000~3万6,000円)だが、そうした契約を選ぶ人は少なく、作品ごとに提供する方式を選ぶ人が多いという。

 なぜAI微短劇業界はそこまで「顔」を欲しがるのだろうか。

 その理由は制作現場で深刻な「顔不足」が起きているからだ。

 AIだけで人物の顔を作る方法には、指示文つまりプロンプトから生成する方法と、実在する人物の写真をもとにする方法がある。

 だがAIが作る顔は、どうしても似たり寄ったりになりやすい。完璧に整った美男美女ばかりが並ぶと、かえって人物の見分けがつかず、視聴者に飽きられてしまうのだ。

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 通常はどんなドラマや映画でも、主要な登場人物以外に、脇役やエキストラも数十人単位で必要になる。

 そこで制作会社では、実在する人間の顔をAIキャラクターの土台として使おうとし始めているのだ。

インフルエンサーの「顔」が無断で使われたことも

 かつての中国では、著名人や一般人の顔を無断でモデル化し、少し加工して使うケースもあったという。

 2026年3月には、AI微短劇『桃花簪』という作品の中で、漢服インフルエンサー「白菜」とモデルの「七海」の顔が、本人の同意なく悪役キャラクターの顔として使われていたことが発覚し、作品は配信停止となった。

 下の画像はそれぞれ向かって右が「白菜」と「七海」本人の写真、向かって左は『桃花簪』に登場した「コピー」である。

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「白菜」image credit: 潮新聞
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「白菜」image credit: 潮新聞

 ウイグル人女優のディリラバも、自身の顔がAIの顔交換技術で微短劇に無断使用されたとして企業を提訴し、勝訴している。

 こうした肖像権トラブルが相次いだことで、制作会社側も無断利用ではなく、正式に肖像使用契約を結んで「顔を買う」方向へ動き始めた。

爆発的に広がる中国のショートドラマ「微短劇」

 最近のAI微短劇市場の拡大はすさまじい。中国の調査会社DataEyeのデータでは、2026年1月の人気微短劇上位100作品のうち、AI作品の割合は38%に達した。

 前年同月は7%だったというから、驚異的なスピードでAI作品のシェアが広がっていることがわかるだろう。

 また、中国の微短劇市場は2026年に1,200億元(約2兆9,000億円)を超え、中国本土の映画興行全体の収入を上回る見通しとされている。

 別の業界データでは、2026年第1四半期に中国国内で公開されたショートドラマは約12万8,000本、そのうちAIショートドラマは95%超を占めたという。

 これを1日あたりに換算すると、毎日1,300本以上の新作AI微短劇が投入されている計算になる。

 さらにAIの導入によって、制作コストも大きく下がった。AI微短劇の制作コストは実写ショートドラマの10分の1程度になったとされる。

 従来の実写作品では平均150万元(約3,600万円)ほどかかっていたものが、AIを使った高品質な仮想実写作品では20万元(約480万円)以内に抑えられる例もあると説明している。

 つまり、AIによって微短劇は安く、速く、量産ができるようになった。その一方で、大量生産に必要な「人間らしい顔」が不足し、一般人や無名俳優の肖像が安価に買い集められているのである。

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俳優の間にも「顔の独り歩き」を懸念する声が

 この動きに対し、生身の俳優たちの警戒も強まっているという。

 2026年4月2日には、中国広播電視社会組織連合会の俳優委員会が、AIによる顔交換、声紋の複製、映像素材の無断改変、俳優の映像や音声を無断でAI学習に使う行為を強く非難する声明を発表している。

 この声明では、俳優は肖像権のほか、声の権利や芸術的イメージに関する人格的権利を持ち、本人の正式な書面による許諾なしに、映像や声紋を収集・使用・合成・拡散してはならないとしている。

 また、特定の俳優を連想させるAI生成の顔や、声の模倣、顔を交換しただけのキャラクターなどは、「非商用」や「個人の二次創作」と表示しても責任を免れないとしている。

 2026年4月20日、動画配信大手のiQIYIが「AI俳優ライブラリー」構想を発表し、100人を超える俳優が参加に同意したと明らかにした。

 これを受けて、「#愛奇藝瘋了(iQIYIは狂った)」という言葉がハッシュタグとなり、中国SNSでトレンド入りする事態となった。

 イベントでは、同社CEOの龔宇氏が、将来的には実写撮影が無形文化遺産のような存在になる可能性もあると発言し、大きな議論を呼んだ。

 その後、ライブラリーへの参加がうわさされた俳優たちが相次いで「AI関連の許諾書には署名していない」と否定。

 iQIYI側は、俳優ライブラリーへの登録は、AI映像プロジェクトに接触する意向を示すもので、具体的な参加には個別の協議と許諾が必要だと説明した。

徐々に進むデジタルヒューマンへの法整備

 法律の専門家は、こういった「AI俳優」生成のための肖像使用契約には、注意が必要だと指摘している。

 広東知恒法律事務所の張暁梅弁護士は、「独占」「永久使用」といった曖昧で包括的な条項には安易に署名しないことが重要だと説明する。

 使用期間や使える作品の範囲、二次利用時に再度許諾が必要か、収益分配があるか、役柄や内容を本人が確認できるかといった点を、契約前に細かく確認すべきだという。

 特に一般人や駆け出しの無名の俳優の場合、短期的な報酬や宣伝効果を期待して、不利な契約を結んでしまう危険がある。

 制作側は、極端に安い利用料や長すぎる契約期間、永久的な利用可、「役柄やストーリーの確認なし」といった条件を提示してくることがある。

 これをいったん受け入れてしまったら、自分の顔が長期間、あるいは永久に想定外の作品や広告、場合によっては違法な用途に使われるリスクもあるのだ。

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 急成長する市場に対し、中国当局も規制整備を急いでいる。中国国家インターネット情報弁公室は4月3日、『デジタルバーチャルヒューマン情報サービス管理弁法(意見募集案)』を公表。

 本人の同意なく、特定の個人を識別できる「デジタルヒューマン」を作成してはならないなどの規定を盛り込んだ。

 さらに6月24日には、中国国家広播電視総局が『微短劇管理弁法(意見募集案)』を公表。微短劇の制作・配信・AI利用を含む、業界全体の管理体制を整備する方針を示している。

 では、日本の状況はどうだろう。今のところ、中国のように「顔」を買い取ってAI俳優として利用する市場は確認されていないようだ。

 だが、俳優や声優などの顔や声をAIで再現する技術は急速に広がっており、無断利用によるディープフェイクへの懸念は高まっている。

 現在は肖像権やパブリシティ権など、既存の法制度による保護や、新たなルール作りの議論が進められているところである。

 AIの進歩により、簡単に自分の「顔」が映像作品に出演し、なんなら人気が出てしまう時代が近づいているのかもしれない。

 だがそれは同時に、自分の顔が自分の知らない場所で、自分の知らないキャラクターを演じ続ける世界でもある。

 もし「自分の顔が…」と考えたら、みんなはどこまで受け入れられるだろうか。

AI Revolutionizes Short Drama Production in China

References: Popularity of AI-Generated Short Dramas Sparks “Face Buying” Trend

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