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探査機あかつきが発見した金星を覆う巨大雲の謎を東京大学が解明

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(著)

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Image by Istock IncrediVFX
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 日本の金星探査機「あかつき」が2016年に発見した、幅6,000kmもの巨大な雲の帯が金星の空を5日かけて一周し続けるという不思議な現象の謎が、ついに解明された。

 東京大学の研究チームが数値シミュレーションで明らかにしたのは、大気の流れが急激に変化することで強烈な上昇気流が生まれ、硫酸の雲を一気に押し上げるという仕組みだ。

 太陽系最大規模のこの現象は、金星の気象そのものを動かす力を持っていたのだ。

 この研究成果は『Journal of Geophysical Research: Planets』誌(2026年4月24日付)に掲載された。

参考文献:

金星の空に現れた謎の巨大な雲の帯

 地球から見ると、金星は夜明け前や日没後に空で最も明るく輝く星だ。

 しかしその美しい外見とは裏腹に、金星の表面は雲に覆われ、厚い大気の温室効果により、昼夜・場所を問わず表面温度が約467℃に保たれている灼熱の世界だ。

 金星に、さらに不思議な現象があることを日本の金星探査機「あかつき」が2016年に発見した。

 南北6,000kmにも及ぶ巨大な雲の帯が、はっきりとした境界線を持ちながら金星の大気を5日かけて一周し続けていたのだ。

 6,000kmといえば南アメリカ大陸の南北の長さに匹敵する。

 これほどの規模の雲の構造が、背景の風よりも速く移動しながら長期間にわたって安定して存在し続けるという事実は、研究者たちを長年にわたって悩ませてきた。

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金星探査機あかつきに搭載された近赤外線カメラIR2によって撮影された、2016年8月18日(左)と8月27日(右)に撮影された夜側の雲。高温の大気から発せられる赤外線を光源として上空の雲が影絵として映し出されている。暗く見えるところほど雲が濃い。不連続線の位置は黄色い矢印で記されている。Image credit:ournal of Geophysical Research: Planets (2026)

金星の大気が自転の60倍の速さで回るしくみ

 その謎を理解するには、まず金星の大気がいかに特異な環境であるかを知る必要がある。

 金星の大気は二酸化炭素が主成分で、強烈な温室効果によって表面温度が鉛も溶けるほどの高温になっている。

 その大気の中に、高度50〜70kmにかけて3層構造の雲が存在する。

 これらの雲は硫酸の粒子でできており、降り注ぐ太陽光の約80%を宇宙空間へ反射することで金星の気候に大きな影響を与えている。

 金星の雲には「超回転」と呼ばれる現象も起きている。

 金星自体が1回自転するのに約243日かかるのに対し、大気はわずか4〜5日で惑星を一周する。自転速度の約60倍という猛烈なスピードだ。

 超回転は金星だけの現象ではなく、火星や土星の衛星タイタン、さらには地球の上層大気でも確認されているが、金星ではその規模が際立って大きい。

 あかつきが発見した巨大な雲の帯は、この超回転する大気の中を動いていた。

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数値シミュレーションと観測の比較 Image credit:ournal of Geophysical Research: Planets (2026)

大気の流れが急変して巨大な上昇気流が生まれるしくみ

 東京大学大学院新領域創成科学研究科の今村剛教授らの研究チームは、地球の気象シミュレーションに使われる数値モデル「CReSS(クレス)」を金星用に改変し、この現象の再現を試みた。

 シミュレーションが示したのは、「ハイドロリック・ジャンプ」と呼ばれる流体現象だった。

 ハイドロリック・ジャンプは台所の流しで日常的に観察できる。

 蛇口から流し台に水を当てると、着地点から外側へ向かって薄く速く広がる流れが、ある地点で突然厚みを増して遅くなる。

 この急激な変化がハイドロリック・ジャンプだ。

 金星では、下層から中層の雲の中を東向きに伝わる「ケルビン波」という大気の波が引き金になる。

 ケルビン波とは赤道に沿って伝わる大規模な大気の波で、地球でもエルニーニョ現象に関連して発生することが知られている。

 金星ではケルビン波が不安定になり、大気の流れが急激に遅くなる地点で強烈な上昇気流が発生する。

 すると雲の下層に濃く集まっていた硫酸蒸気が上空へ押し上げられ、冷えて凝結することで雲の帯が形成される。

 シミュレーションでは、前線付近で空気が3kmも上昇することが確認された。

「金星には3つの明確な雲の層があり、下層と中層の力学はまだよく理解されていませんでした」と今村教授は述べている。

 「水平方向の大規模なプロセスと局所的な鉛直方向の波が結びついているという発見は、流体力学では通常これらが切り離されて考えられるだけに、予想外のことでした。」

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台所の流しで観察されるハイドロリック・ジャンプ(撮影:今村剛)
外向きに広がる速く薄い流れが、不連続的に遅く厚い流れに遷移する。このような遷移に伴う上昇流が、金星では不連続的な雲の生成をもたらす。 東京大学プレスリリース

太陽系の惑星探査や気象学に役立つ可能性

 シミュレーションではさらに、ハイドロリック・ジャンプが金星特有の「超回転」を維持する力にもなっていることを示唆した。

 これまで超回転の主な原因として「熱潮汐波(ねつちょうせきは)」という別の大気波動が注目されてきたが、ケルビン波がハイドロリック・ジャンプを介して大気を西向きに押す力も重要な役割を担っている可能性が浮上した。

 「これまで使ってきた金星の大気大循環モデルには、今回発見したハイドロリック・ジャンプが含まれていませんでした」と今村教授は説明する。

 次のステップとして、より多くの大気プロセスを組み込んだ包括的な気候モデルの構築が必要だが、膨大な計算処理が必要なため、現代のスーパーコンピュータを使っても容易ではないという。

 これほど大規模なハイドロリック・ジャンプが惑星大気で確認されたのは今回が初めてだ。

 研究チームは、条件が整えば火星の大気でも同様の現象が起きる可能性があると指摘しており、将来の火星探査や惑星気象学の精度向上にもつながると期待されている。

まとめ

この研究でわかったこと

  • 日本の探査機あかつきが2016年に発見した金星の巨大な雲の帯は、大気の流れが急激に変化する「ハイドロリック・ジャンプ」という現象が原因だった
  • ハイドロリック・ジャンプが起きると強烈な上昇気流が発生し、硫酸蒸気が上空へ押し上げられて幅6,000kmの雲の帯が作られていた
  • ハイドロリック・ジャンプが、金星の大気が自転の60倍の速さで回り続ける「超回転」の維持にも関わっている可能性がある

身近な例に例えるなら?

台所の流しに蛇口から水を当てると、広がった水が突然盛り上がって遅くなる場所がある。これがハイドロリック・ジャンプだ。金星では同じ現象が大気の中で惑星規模で起き、幅6,000kmの巨大な雲の帯が作られていた。

今後の課題

  • ハイドロリック・ジャンプを組み込んだ新しい金星の気候モデルの構築が必要だが、現代のスーパーコンピュータでも計算処理が容易ではない
  • 条件が整えば火星でも同様の現象が起きている可能性があり、今後の検証が必要だ

References: DOI: 10.1029/2026je009672

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