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半世紀前に金星へ送られた米ソ7機の探査機の残骸が今も残っている可能性

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(著)

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Image credit:NASA
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地球の隣、太陽側に位置する灼熱の惑星・金星に送り込まれた冷戦時代のアメリカとソビエト連邦(現在のロシア)の探査機7機は、変形・破損しながらも金属残骸が今も金星表面に残存している可能性があることが新たな研究で明らかになった。

 表面温度467℃、地球の92倍もの大気圧という極限環境がとっくに残骸を消滅させたと考えられてきたが、宇宙考古学者のルカ・フォラッシエピ氏らの研究チームは約半世紀を経た今もその痕跡が残っている可能性を示している。

この研究成果は『Geoarchaeology』誌(2026年4月28日付)に掲載された

冷戦時代におけるアメリカとソ連の宇宙戦争

 1957年、ソビエト連邦(現在のロシア)が人類初の人工衛星「スプートニク1号」の打ち上げに成功したことで、アメリカとソ連の宇宙開発競争は一気に加熱した。

 月だけでなく、地球に最も近い惑星である金星もその舞台となった。

 金星は地球から見て太陽側に位置し、大きさや質量が地球とよく似ていることから「地球の双子星」とも呼ばれる。

 1960年代当時、科学者たちは金星の表面に海が存在する可能性さえ考えており、生命が宿る惑星かもしれないという期待もあった。

 その未知の星に最初に探査機を送り込んだ方が、宇宙開発の覇者として世界に名を刻む。そんな思惑のもと、米ソ両国は競うように金星へ探査機を送り続けた。

 ソ連は1961年から1984年にかけて「ベネラ計画」と「ベガ計画」のもと、合計18機の探査機を金星に向けて打ち上げた。

 「ベネラ」はロシア語で金星を意味する。そのうち10機が金星表面への着陸に成功し、人類に初めて別の惑星の表面写真をもたらした。

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ベネラ14号の背面カメラで撮影された金星の表面 Image credit: Russian Academy of Sciences

 一方アメリカは1978年、NASAの「パイオニア・ヴィーナス計画」のもと、金星を周回して観測する1号機と、大気に突入して観測する2号機を打ち上げた。

 2号機には大気観測用の探査機が4機搭載されており、大型探査機1機と昼側・夜側・北側の小型探査機3機が1978年12月9日に金星大気圏へ投入された。

 2号機本体も大気圏に突入したが、熱シールドもパラシュートも持たないため高度約110kmで燃え尽きた。

 4機の探査機はいずれも着陸を目的とした設計ではなく、大気を降下しながらデータを収集するためのものだったが、衝突後も約67分間信号を送り続けたのは昼側探査機だけで、夜側探査機もわずか2秒間だけ信号を送り続けた。

 冷戦時代の緊張を背景に、アメリカとソ連は、競うように金星へと何度も探査機を送り込んでいった。

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アメリカがパイオニア・ヴィーナス計画で送り込んだ探査機 public domain / Wikimedia NASA / Paul Hudson

金星に送り込まれた探査機を待ち受けた地獄の環境

 ところが金星は、科学者たちが想像していたような穏やかな星ではまったくなかった。

 探査機が次々と送り返してきたデータが明らかにしたのは、想像をはるかに超えた過酷な環境だった。

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金星 Image by Istock 3quarks

 金星の表面温度は約467℃に達する。これは鉛が溶け始める温度(約327℃)をはるかに上回る高さだ。

 金星にはこれほどの熱を閉じ込める厚い大気があり、太陽から受け取った熱を逃がさない「温室効果」が地球とは比べものにならないほど強く働いている。

 水星は大気がほとんどないため昼側で最高約430℃に達するが、夜側では約−180℃まで下がる。

 一方金星は厚い大気の温室効果により表面全体が常に約467℃に保たれており、平均温度では太陽に近い水星を大きく上回っている。

 大気圧も凄まじい。

 金星の表面では地球の海面気圧の約92倍もの圧力がかかる。パラシュートで降下した探査機には1平方インチ(約6.5平方cm)あたり約612kgもの力が押しつけてくる計算になる。

 さらに大気の成分も問題だ。

 金星の大気はほぼ二酸化炭素で占められ、硫酸の雨が降り注ぐ。

 表面から約12km上空では、二酸化炭素が「超臨界流体」と呼ばれる特殊な状態になる。超臨界流体とは気体と液体の区別がつかなくなった状態で、液体のように物質の微細な隙間に染み込みながら気体のように広がる性質を持つ。

 探査機の小さな隙間にまで入り込み、金属や素材を内側から腐食させていく。

 これほどの環境に放り込まれた探査機が長く持つはずもなかった。

 金星表面で最も長く機能し続けたソ連のベネラ13号でさえ、着陸からわずか127分で通信が途絶えた。

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ソ連(現ロシア)ベネラ計画の探査機の着陸位置 public domain / Wikimedia

 大半の探査機は数十分から2時間以内に機能を失った。

 その後は高温・高圧・腐食性ガスによって残骸すら跡形もなく消滅していくだろうと、長年にわたって考えられてきた。

 加えて金星の表面では火山活動や地震、地滑りといった地質活動も起きており、探査機の残骸がたとえ残っていたとしてもすぐに地中に埋もれてしまうだろうという見方が、研究者の間では常識となっていた。

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Youtube

探査機の残骸が金星の上に残っている可能性

 しかし2026年4月、その常識をくつがえす研究結果が発表された。

 宇宙考古学者のルカ・フォラッシエピ氏らの研究チームは、金星に送り込まれた20機の探査機・着陸機・気球について、それぞれの着陸地点における地質条件・大気条件を定性的に分析した。

 定性的分析とは数値による測定ではなく、条件・性質・状況を論理的に評価する手法だ。現地調査が不可能な金星では、既存の環境データと地質情報をもとにした判断が頼りとなる。

 その結果、少なくともアメリカとソ連の7機について、変形・破損しながらも金属残骸が今も金星表面に残存している可能性が高いと結論付けた。

 研究チームはNASAのグレン極限環境試験施設(GEER)が実施した実験データも活用した。

 GEERとは金星の表面環境を地球上で再現できる特殊な試験装置で、高温・高圧・腐食性ガスにさらされた素材がどのように変化するかを調べられる。

 記録へのアクセスが困難なソ連製探査機の代わりに、データが揃っているアメリカのパイオニア・ヴィーナス昼側探査機をケーススタディの対象として詳細分析を行った。

 この探査機の機体は主にチタン製で、内部にはベリリウム製の棚やアルミニウム製の機器ボックスが収められていた。

 GEER試験の結果、チタンは金星の表面環境に対して優れた耐性を示すことが判明し、アルミニウム部品も高い耐久性を見せた。

 一方で機体内部の気圧を保つためのOリングやガスケットといったゴム製部品は、大気突入時に硫酸の雨にさらされて劣化し機能を失っているとみられる。

 また金星の雲を構成する高濃度の硫酸が大気突入中に機体を変形・破裂させた可能性が高い。

 それでも金属部分は完全に消滅してはおらず、将来の探査機が強力な撮影装置を持てば着陸地点で変形した残骸を確認できるかもしれないと研究チームは述べている。

 研究チームが「残骸の残存可能性が高い」と判断した7機は、ソ連のベネラ5号・6号・7号・10号、ベガ1号・2号、そしてアメリカのパイオニア・ヴィーナス夜側探査機だ。

 なおベネラ5号・6号は大気圏内で機能を停止しており金星表面への軟着陸には成功していないが、金星の濃密な大気が強力なブレーキとして働くため衝突速度が抑えられ、金属製の残骸が表面に残っているとみられている。

 これらの7機はいずれも金星の広大な低地平原に位置しており、火山活動や地震活動が比較的少ない安定した地域に着地している。

 金星では液体の水が存在せず風も穏やかなため地表に積もる堆積物がほとんどなく、残骸が地中に埋没するリスクは低い。

 フォラッシエピ氏らは、金星の極端な環境が人工物を急速に消去するという従来の前提とは異なり、残骸が長期間にわたって表面で識別可能な状態で保存される可能性が十分にあると結論付けている。

探査機の残骸が確認できれば今後の研究に役立つ可能性

 もし将来の探査ミッションが金星表面で残骸を実際に確認できれば、それはどのような意味を持つのだろうか。

 まず、これらの残骸は「人類が初めて別の惑星に残した考古学的遺産」として歴史的・文化的に重要な価値を持つ。

 月面に残されたアポロ計画の着陸船や宇宙飛行士の足跡が歴史的遺産として語り継がれているように、金星の探査機残骸もまた冷戦という時代に人類が宇宙へ踏み出した証として、後世に伝えるべき存在だ。

 科学的な活用価値も大きい。

 半世紀にわたって金星の過酷な環境にさらされてきた残骸は、金星表面における金属や素材の長期的な風化・腐食の実物サンプルとして機能する。

 将来の探査機が残骸を撮影・分析できれば、金星環境が素材に与える長期的な影響を知る貴重なデータが得られ、今後の探査機設計にも直結する情報となる。

 金星への探査計画は実際に動き出している。

 NASAは「DAVINCI(ダビンチ)ミッション」を計画しており、2030年代前半の打ち上げを目指している。

 大気を降下しながらデータを収集し表面の画像を撮影する探査機を送り込む予定で、金星大気への探査機投入は1985年のソ連ベガ2号以来、実に40年ぶりとなる。

 半世紀以上の時を経てなお、冷戦時代の探査機残骸が金星の大地に眠っているかもしれない。

 それが確認される日が来れば、宇宙開発の歴史に新たな1ページが加わることになるだろう。

まとめ

この研究でわかったこと

  • 金星は堆積速度が極めて遅く、冷戦時代に米ソが送り込んだ探査機の金属残骸が地表に残されやすい環境であることがわかった
  • チタンやアルミニウムは金星の高温・高圧・腐食性ガスに対して比較的高い耐性を持つことが、NASAの地球上での再現実験で確認された
  • 地質的に安定した金星の低地平原に着地した米ソの探査機7機については、変形・破損しながらも金属残骸が今も地表に残存している可能性が高いと判断された

まだわかっていないこと(今後の課題)

  • 残骸が実際に残存しているかどうかは、将来の探査ミッションによる現地確認が必要だ
  • 残骸が地中に埋没している可能性は、現時点では完全には排除できていない

References: Planetary Geoarchaeology of Venus: Assessing the Preservation Conditions of the Venus Space Probes / We May Have Called Time Of Death On The Venus Probes Too Early. 7 Of Them Might Have Survived

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この記事へのコメント 7件

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  1. 金星人「ウチにゴミを捨てて行かないでくれるかな?」

    • +6
  2. 問題は予算を出す側がどんな注文を着けてくるかだろうな。
    探査機を送り込んでデータを取って終わりじゃないの当然だからデータを取って何をするつもりなのかが重要になってくる。

    • 評価
  3. 想像を絶する金星の環境、いかに地球の環境が尊いのか実感するわ…(⁠。⁠•́⁠︿⁠•̀⁠。⁠)

    • +3
    1. 大事にしないといけないよね……地球……

      • +1
  4. なにをもって「完全消滅」と定義するのか
    部品の痕跡ぐらい残るだろうし、
    それこそ分子レベルまで完全に消滅なんて
    そっちの方がむずかしい気がする

    • +1
  5. なるほどチタンやアルミニウムは割と腐食性ガスに強いんだ
    錆は大抵どんな金属にも起きて、金星の酸性環境下ではすぐボロボロになるもんだと思っちまってたよ
    金星の環境が過酷ってのには、地質活動も含まれてるのも学びだった

    • +1

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