人類の先祖が大陸移動した最古の痕跡を発見
 考古学の研究チームが、東南アジアの国、ラオス北部の洞窟で、新たな2つの骨片を発掘した。

 『Nature Communications』(2023年6月13日付)に掲載された研究結果によれば、これらの骨片は現生人類の先祖が86,000年前にはすでに東南アジアの本土を経由してオーストラリアへ移動した、最古の証拠になるという。

 この発見により、従来考えられていた初期人類の移動年表を1万年以上も前倒しする可能性があるという。

初期人類が大陸移動した最古の痕跡

 発掘に関わった国際際研究チームは、ラオス北部にあるこのカルスト地形にある洞窟を、これまでよりもさらに深く掘り下げ、華奢な特徴をもつ頭蓋骨の断片と、足の骨の一部を発掘した。

 見つかったふたつの化石化した骨片は、5つの異なる年代測定技術を使って、8万6000年から6万8000年前に生きていた我々の現生人類の祖先、ホモ・サピエンスのものであると推定された。

 これにより、ホモ・サピエンスがアフリカから、アジアを経由し、オーストラリアへと南下する旅の途中で住み着いたと思われる洞窟跡の年表を再構築した。

 骨が見つかったタムパリン(Tam Pa Ling)洞窟は、議論はあるものの、人間が居住していた歴史が古くからある。

 これまで、浅い堆積層から、ふたつの顎骨を含むいくつかの人骨の化石が見つかっていて、これらは研究のため米国へ送られてから、ラオスへ戻され、7万年から4万6000年前のものと特定された。
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タムパリン洞窟発掘調査の様子 / image credit:Fabrice Demeter

人類の先祖の大陸移動の時期が1万年近くはやまる

 しかし、現場は世界遺産地区で、化石はラオスの法律によって保護されているため、研究者たちは、直接年代測定することはできない。

 さらに、堆積物の中には、洞窟内に流れ込んだ木炭が含まれていたが、それはそこで燃やされたものではなかったため、通常の年代測定技術に頼ることもできなかった。

 そこで、セントラルフロリダ大学の生物人類学者、サラ・フリードライン氏率いる研究チームは、ルミネッセンス年代測定やその他の技術に着目し、新たに見つかった化石周辺の、これまでで一番深い7メートル近くの深さのところの堆積物の年代を見積もった。

 その結果は、タムパリン洞窟でこれまで発見されている化石の年代推定を裏付け、この遺跡の年代を、1万年近くもさかのぼることになった。
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これら脛骨は、タムパリン洞窟の深さ6.97メートル地点から見つかった / image credit:

人類の先祖は、大陸の自然回廊を横断していた可能性

 さらに、この洞窟は海から300キロ以上離れているため、私たちの祖先はアフリカを出発して世界へ散らばっていくのに、海岸線や島々をたどったわけではなく、森林地帯や川や渓谷、つまり大陸の自然の回廊を横断していたことを示しているといえる。

 「ルミネッセンス年代測定法がなければ、この決定的な証拠をもってしても、いまだに人類の移動の年表を確立することはできず、祖先たちがここを通過するのにとったさまざまなルートの中で、この場所は見落とされてしまったことでしょう」オーストラリア、マッコーリー大学の地質年代学者、キーラ・ウェスタウェイ氏は言う。

「タムパリン洞窟は、現代人のアジアにおける移動の歴史の中で、重要な役割を果たしていますが、その重要性と価値は、やっと認識され始めたばかりです」コペンハーゲン大学の古人類学者ファブリス・デメター氏は言う。

 何千年もの間、日の目を見ることのなかった堆積物をふるいにかけ、顕微鏡で詳しく識別したところ、この堆積層は、8万6000年をかけてゆっくりと堆積し、およそ5万6000年にわたる洞窟での人間の存在の記録を封じ込めたことがわかった。

 ふたつの人間の骨化石については、年代の推定をなるべく正確にするために、、近くで発見されたふたつのウシの歯の年代を特定した。

 その結果、欠けた頭蓋骨のかけらは、7万3000年から6万5000年前のもので、脛骨は7万7000年前のものであることが判明した。
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タムパリン洞窟で発見された頭蓋骨の破片 / image credit:Freidline et al., Nature Communications , 2023

移動に成功した一部の人類の祖先が今の文化を築き上げた

 現在の遺伝学的証拠によると、これら初期人類の移動者たちは、現代の私たちに遺伝物質をほとんど引き継いでいない。

 その代わりこの頭蓋骨は、中国南部と中部から発見された、かなり物議をかもしている化石の範疇に加えられることになる、とフリードラインらは書いている。

 この中国の化石は、アフリカから東南アジアへと人類が拡散したときの初期の失敗を示しているのだという。

 論文の中で、研究チームは、見つかった頭蓋骨の断片が極めて華奢であることを指摘していて、その繊細な特徴は、日本やラオスの隣国ベトナムで見つかった、わりと最近のホモ・サピエンスの骨化石の特徴と似ているという。

 このことは、彼らはこの地域を通って移動していった人たちの子孫で、この地域にいた頑丈な体格のデニソワ人のような旧人類の子孫ではないことを示しているという。

 初期人類の探検家たちは、南東アジアを渡り、海を越えてオーストラリアに至り、その荒涼とした内陸部をを進んだ可能性は十分にあるかもしれない。

 だがその道のりで、一部のグループは絶えてしまい、移動に成功し、生き延びた他のグループが、やがて、地球上でもっとも古い文化を生み出し、連綿とそれを継承していったのだ。
これはまさに、タムパリン洞窟の証拠を決定的にする論文です。ついに、いつホモ・サピエンスが最初にこの地にたどりついたのか、どれくらいここにいたのか、どんなルートをとって移動したのか、といったことを自信をもって言えるのに十分な年代測定の証拠が得られたということです(キーラ・ウェスタウェイ氏)
References:A rare glimpse of our first ancestors in main | EurekAlert! / Early presence of Homo sapiens in Southeast Asia by 86–68 kyr at Tam Pa Ling, Northern Laos | Nature Communications / Oldest Signs of Human Ancestors' Trek to Australia Found in Laotian Cave : ScienceAlert / written by konohazuku / edited by / parumo

追記(2023/06/24)本文中の誤字を訂正して再送します。
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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2023年06月24日 21:49
  • ID:3bTOT.Bs0 #

×「洞窟窟」→〇「洞窟」
×「推定年齢をなるべく正確に特定するために、」→〇「年代の推定をなるべく正確にするために、」(この段落に続く段落で「その結果、欠けた頭蓋骨のかけらは、7万3000年から6万5000年前のもので、〜」とあるので、「年齢」はあり得ない。)
他、「かなり物議をかもしている化石」の頭の「か」の部分だけリンク漏れ。

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2. 匿名処理班

  • 2023年06月25日 06:11
  • ID:vYESnHle0 #

たとえ誤字がたくさんあってもカラパイアの魅力は損なわれない
「移動に成功した一部の人類の祖先が今の文化を気づき上げた」
→「築き上げた」でよろしくお願いします

3

3. 匿名処理班

  • 2023年06月25日 08:10
  • ID:LYeq2r2g0 #

>>1
そんなことよりマッコリ大学

4

4. 匿名処理班

  • 2023年06月25日 08:54
  • ID:Ltvwkhtj0 #

ここの部分は少し飛躍していますね。まず第一に当時の海岸線が現代と同じ場所にあったとは思えない事と、内陸で化石を発見したとしても、それ以外のルートを否定する証拠にはなりません。例えば海辺を移動した後に内陸に移る集団もいるでしょうから。

「さらに、この洞窟は海から300キロ以上離れているため、私たちの祖先はアフリカを出発して世界へ散らばっていくのに、海岸線や島々をたどったわけではなく、森林地帯や川や渓谷、つまり大陸の自然の回廊を横断していたことを示しているといえる。」

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5. 匿名処理班

  • 2023年06月27日 04:26
  • ID:CSEn3AyV0 #

遙か遠い大陸めざして夢を見るたびに 人は旅の途中♪

夢を描くのは「人」に生まれたから♪
この二つの歌詞が浮かんだ

6

6. 匿名処理班

  • 2023年06月27日 16:48
  • ID:N0s4dUe90 #

>>4
当時の地形も加味した上の話では?

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