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脳に特殊な方法で電流を流す技術で、11~54%の記憶力改善を確認

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(著) (編集)

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 私たちの脳に新しい情報が入ってきたとき、「海馬」と呼ばれる領域が活性化し、ほかのニューロン)に電気信号を送り出す。

 アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)が助成している「記憶プロテーゼ(memory prosthesis)」という新たな技術は、記憶を形成している最中の海馬に電流を流す。

 すると、あら不思議、脳内の電気活動のパターンが強化され、記憶力がアップしてしまうのだ。

Frontiers in Human Neuroscience』(2022年7月25日付)に掲載された研究によると、実際11~54%の記憶力改善が確認されたそうだ。

記憶はどう作られるのか?

 初めて会った人の名前を聞いたなど、脳に何か新しい情報が入ってきたとき、「海馬」と呼ばれる領域が活性化し、ほかのニューロン(生物の脳を構成する神経細胞)に電気信号が送られる。

 この信号のパターンは脳内に記録されており、後でその情報が必要になると、まったく同じパターンでニューロンが発火する。これが何かを記憶し、それを思い出すということだ。

 ところが病気や怪我で海馬がダメージを受けると、同じパターンでニューロンを発火させられなくなる。つまりせっかく聞いた名前を、もう一度聞き直すハメになる。

 アメリカ、ウェイクフォレスト大学と南カリフォルニア大学の研究グループが開発するのは、このプロセスを人工的に補助して記憶力をアップさせる「記憶プロテーゼ」という方法だ。

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photo by Unsplash

記憶プロテーゼのやり方

 記憶プロテーゼを行うには、脳に電極を移植し、これを介して記憶を作っている最中の海馬に特定パターンの電気を流してやる。

 これによりニューロンの電気活動を補助して、記憶力を改善するのである。

 より具体的には、次の2種類の方法がある。

・記憶解読法(MDM)――記憶が正常に形成されたときの海馬を調べ、その平均的な電気活動パターンを解読する。そのデータに基づき、何かを記憶しようとしている人の脳に適切な電気パターンを流してやる。

・多入力・多出力法(MIMO)――MDM法を発展させたもの。海馬の中で新しい情報を受け取る部分(CA3領域)の電気活動を分析し、別の部分(CA1領域)が出力するべき、記憶形成に最適な電気パターンを予測する。

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記憶プロテーゼで11~54%の記憶力アップを確認

 その効果はすでに人間で確認済みだ。

 てんかん治療のために脳に電極を埋め込んだ人たち(24名/脳に損傷を受け、記憶障害がある人も含まれる)を対象とした実験では、記憶プロテーゼを行いつつ、次のような簡単な記憶テストを受けてもらった。

 まず画面に画像が表示されるので、これを覚えてもらう。30秒すると、その画像と、もう1つ先ほどとは違った画像が同時に表示される。被験者は、前に見た画像がどちらだったか当てなければならない。

 この結果、MDM法とMIMO法のどちらでも、何もしなかった人たちより記憶力が改善していることが確認されたという。

 また一番記憶力の改善がみられたのは、より高度な記憶プロテーゼであるMIMO法を受けた被験者だった。

 研究グループのロバート・ハンプソン氏は、「11%から54%の改善が見られました」とプレスリリースで語っている。

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photo by iStock

克服すべき課題

 記憶プロテーゼによって、記憶力をアップさせられることはすでに実証されている。しかし、認知症や外傷性脳損傷で衰えた記憶力を回復させるまでには、まだ長い道のりがある。

 まず、ハードウェア上の課題がある。記憶プロテーゼを行うには、使用者の脳に電極を移植しなければならないが、現在の電極ではその周りに瘢痕(はんこん)組織ができてしまい、やがて故障の原因となる。これを防ぐような電極が必要なのだ。

 電極自体の性能も高めなければならない。現時点で使われている電極は、せいぜい40~100個のニューロンを刺激するだけだ。

 だが実用レベルにするには、数百から数千のニューロンを刺激できなければならない。

 試験の回数もまだまだ足りない。これまでの実験は、すでに電極が埋め込まれたてんかん患者を対象としたものだ。

 だが、てんかんのない人たちでも記憶プロテーゼが有効かどうか、試してみるまでわからない。

 さらに最大の効果を発揮するために、どのようにシステムを制御するかという課題もある。

 たとえば、私たちは周囲から入ってくるあらゆる情報をすべて記憶しておく必要はないだろう。だが、記憶するべき情報とそうでない情報をどうやってシステムに区別させるのだろうか?

 このように記憶プロテーゼには、克服すべきいくつもの課題がある。

 だがいつか完成した暁には、病気で記憶力を失った人たちだけでなく、すべての人がより良い記憶力を手にできるようになるかもしれない。

References:Brain-zapping can improve memory by more than 50% – Big Think / A memory prosthesis could restore memory in people with damaged brains | MIT Technology Review / written by hiroching / edited by / parumo

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この記事へのコメント 23件

コメントを書く

  1. >病気で記憶力を失った人たちだけでなく、すべての人がより良い記憶力を手にできるようになるかもしれない。

    病気で記憶力を失った人たち・・・過去の記憶を呼び覚ます能力がほしい
    すべての人がより良い記憶力・・・これから記憶する能力力がほしい

    この二つは別物だろう

    • -2
    1. ※1
      病気で「記憶を」失った人たち じゃなくて、
      病気で「記憶力を」失った人たち の話じゃないの?

      • 評価
  2. この技術はドラえもん路線ではなくて喪黒福造だな

    • +2
  3. (゚∀゚)アヒャ化しそうで怖い
    いくら記憶によさそうでも現在のところ俺は嫌だ

    • 評価
  4. あるじゃーのんの おはかに おはなを あげて ください

    • +4
  5. 外科手術が必要なく外部から刺激を与えられるようにならない限り、一般的には使えなさそうな技術

    • +2
  6. 偽の記憶とか植え付けられそうだな
    SF映画的に使われるなら良いが、サスペンス映画の世界だったら恐ろしい

    • +2
  7. 「ヤバイヨヤバイヨ!」
    電気ショックされ過ぎて
    英語能力が覚醒したった。

    • 評価
  8. もうグーグルグラス的なやつに生活のすべてを全録して、音声入力で映像、音、テキストをすぐに目の前に引き出せるようにしたいい。

    • +1
  9. 硬化症っぽいのが既に有るんだね
    実験も良いがてんかんの治療自体はちゃんと出来てるんだろうか

    • 評価
  10. >1
    人々により良い影響を与えるという点で何ら違うものではないと思うけどな

    • 評価
    1. ※12
      過去を思い出させるのは必ずしもいいことではない

      虐めや犯罪の被害者ならなおさらだ

      苦痛が再現するだけ

      • -2
  11. 初恋の女の子の顔を思い出したい
    あの頃の

    • 評価
  12. 数年前にひどいうつ状態を経験してから、記憶力がものすごく低下した
    好きだった読書もスムーズにできなくなったし、仕事も同じ作業に以前より時間がかかるようになった
    安全に回復させられるものならしたい
    同じような人は少なくないはず

    • +5
    1. ※17
      わかる
      ちなみにうつ以前の状態には戻ってない

      • +2

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