
生きた人間が入っても直ちに石化するようなことはないがナトロン湖のはpHは12と、家庭用漂白剤と同じだ。
もし遺体として沈められたら良好な状態で保存されるかもしれない。
ナトロン湖のなにがそんなに致命的なのか?
この湖がこんなに過酷な理由は、世界でも珍しい溶岩、ナトロカーボナタイトという炭酸塩鉱物を噴出する火山、オルドイニョ・レンガイがあるせいだ。長い年月の間に、この塩湖が周辺の丘陵から炭酸ナトリウムやナトロカーボナタイトなどの鉱物を吸収して、水が強アルカリ性になっているのだ。
水のpH(水素イオン指数)12と家庭用漂白剤とほぼ同じだ。
このpHがほとんどの生物の皮膚や目を焼き、死に至らしめるため、ここに長く留まれないようにしてしまった。

岩 / image credit:Thomas Kraft, Kufstein / WIKI commons
ナトロン湖に生物は存在するのか?
2013年、野生動物写真家のニック・ブラント氏が、タンザニア、ナトロン湖で発見した動物の不思議な死骸を撮影した。この湖の強塩水によって、まるで生きたまま"石になった"かのような動物たちのショッキングな写真が世界に旋風を巻き起こした。
これらの中判モノクロフィルムで撮影した写真集「ACROSS THE RAVAGED LAND」は書店、アマゾンなどで購入できる。
では生き物はナトロン湖に一切近寄ることができないのかと思うと、実はそうでもない。ナトロン湖は野生生物が生息しており、フラミンゴの群れがいる。
ニック・ブラント氏が撮影したフラミンゴは石化した状態になってしまっているが、通常ならフラミンゴは、鱗状の丈夫な皮膚をもっていて、それが強アルカリ性の水から身を守ってくれている。
フラミンゴがこの湖を生息地として好むのは、ここでは彼らの外敵が長く生きられず、狩猟禁止区域なっていることも理由のひとつだ。

photo by iStock
人間がナトロン湖に飛び込んだらどうなる?
だが人間の皮膚はフラミンゴと違い柔らかく水分も多いため、とてもここで暮らすことはできない。しかも、ナトロン湖の水温は60℃になることもあり非常に熱い。さらに、剃刀のように鋭い塩の塊が点在する。このソーダ湖の極端な塩分が、メドゥーサのように見る者をたちまち石にしてしまうようなことはないが、皮膚になんらかの切り傷があったらも死ぬほど痛い。
かすり傷を負ったまま海に入ることを想像して欲しい。最悪以外のなにものでもない。
それに、漂白剤のようなアルカリ水に皮膚が長くさらされると、火傷のようになってしまう。降る雨の量によってpHは変わるが、最悪の場合、腐食性の火傷を負うことになる。

photo by iStock
ナトロン湖に沈んだままの状態なら、人間の体はどうなる?
ブラント氏の写真の動物たちがどのような死に方をしたのかはわからないが、自然死あるいは湖水に落ちたのかもしれない。ほかにも、鏡のような湖面のせいで、飛んでいる動物が方向感覚を狂わされ、水中に墜落したという説もある。
もし、人間がナトロン湖にはまって死んだら、塩分濃度の高い水が遺体の腐敗を止め、ピクルスのようにそのまま保存されることだろう。
水分が蒸発して、体が露出・乾燥すれば、ブラント氏の写真のようなカリカリの姿になれる可能性はある。
ブラント氏はこう語った。
ナトロン湖の沿岸に打ち上げられたこれらの動物を見つけたとき、なんという驚異だと感じた。
コウモリの舌の先から、顔の細かい毛ひとつに至るまで、見事に完璧に保存されていたのだから。苛性ソーダと塩で生き物は石化し、完璧に保存されていた
石化保存されたくなかったら、別の水域に遊びに行ったほうがいいかもしれない

物にとって都合がいいわけではない。 / image credit:iStock
ナトロン湖に落ちたその他の生き物
ナトロン湖では、これまでにもヘリコプターの墜落事故が何度か起きている。多くの渡り鳥が、最期を遂げたのと同じ理由なのかもしれない。2007年には、野生動物写真家の撮影グループのヘリが湖に突っ込んだ事故が起きている。
「乗っていたヘリのスキッド(着陸のためのソリ)が、水面にぶつかって墜落した」シドニーのカメラマン、ベン・ハーバートソン氏は語っている。「次の瞬間、僕は水の中にいて、目が焼けるようだった」
ハーバートソンたちは、地元のマサイ族の助けで生還することができたが、なんともひどい目にあった。
「三十分で脱水症状になるほどのうだるような暑さだった。額から汗が流れ落ち、硫黄が目に入ってきて、とても開いていられない」
アドバイスがあるとするなら、安全な距離を保って湖を眺めるべし、ということだろう。
References:What Would Happen If You Jumped Into Lake Natron? You Won't Turn To Stone, But It Wouldn't Be Fun | IFLScience / written by konohazuku / edited by / parumo
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コメント
1. 匿名処理班
世界って広いんだなぁ
2. 匿名処理班
遥か昔にメドゥーサの神話を考えた人はどこかでこの湖の事を伝え聞いたのかなあとか考えるとロマンだなあって思っちゃう
3. 匿名処理班
血のような赤い水の色が、怖さを倍増させる
4. 匿名処理班
鳥が枝に止まったままということは有毒ガスなどがあるのかな
そのまま倒れずに朽ちていくのか
5. 匿名処理班
なにげにフラミンゴが凄いと思うけど、ここにエサになる生物がいる訳ではないのかな
6. 匿名処理班
強アルカリは失明の危険があるから、短時間入ったとしても、すぐに中性の水谷で目を洗って身体も洗わないとダメですからね
7. 匿名処理班
墜落事故、無事なのかすごいな
8. 匿名処理班
フラミンゴはここに来て何するんだろう。
水飲めるわけでもなく食べるものもなさそうだけど……。
9. 匿名処理班
酸性の湖とつなげて中和してみたい
10. 匿名処理班
>>4
枝にとまってるのは撮影のための演出
落ちてるのを拾って生きてた時みたいに置いただけ
11. 匿名処理班
※10
演出なのか
憶測であれこれ考えてしまった
ありがとう
12. 匿名処理班
多くの生き物には死の地でも数百万のフラミンゴたちにとっては命を次につたえる重要な繁殖拠点のひとつとは。すごい。
鳥たちの食を支える藍藻類とカイアシ類の繁殖っぷりとやらもすごいですね。こんな環境でよくもまあ。
それをクチバシで濾しとって食べるってことは排除しきれぬ湖の液体も体の中に入ると思うのですが塩分の排出などに特別な仕組みがあるのだろうか。
スピルリナ買ってみようかな。
13.
14. 匿名処理班
最後のヘリで墜落した人「硫黄が目に入って」と言っているけどどうしていきなり硫黄が出てくるのか不思議だ
硫黄なら水は酸性になるからアルカリとは真逆のはずだ。たとえばインドネシアのクラカタウ火山は硫黄を吹き出していて火口の湖は空き缶も溶かす強酸になっているというリポートを聞いたことがある。日本も火山が多く箱根、那須、別府など硫黄の酸性温泉はたくさんある
この記事のナトロン湖は強アルカリになっているということだけど、ヘリで墜落しちゃった人は"硫黄"だと間違えて思い込んじゃったのだろうか
もしくはマサイ族に救助してもらってる最中の話だから、もしかするとマサイ族には「あの湖に落ちたら硫黄を体にぶっかけろ」という荒々しい民間治療があるのかもしれないアルカリを中和するためにわざと薬として硫黄を使う方法があるのだろうか?
水の豊富な日本ではナトリウムでも硫黄でもとにかく大量の水で洗い流せと教わるけどマサイ族は水が貴重だからそんな治療法があるんだろうか?
あるいは単なる言い間違い、記者の聞き間違い、もしくは"硫黄のような刺激物"くらいの意味でナトリウムをsulferと言っただけなのか、英語ではビニールでも発泡スチロールでもまとめてplasticと呼んだりすることもあるらしいし
でももしマサイ族が中和薬として硫黄を使っていたのなら真水が手に入らないときの劇薬への対処法として詳しく知っておきたい気がするよ
15. 匿名処理班
>>9
混ぜるな危険
16. 匿名処理班
白馬でph11の温泉に入ったことあるが、ヌルヌルになったな
17. 匿名処理班
脂肪が多い人が落ちたら、石鹸になってしまうのかしら?
18. 匿名処理班
※5
※8
湖が赤いのは微生物が住んでいるからで、それら赤い微生物を食べるからフラミンゴも赤いのです。肉食動物が入ってこれない安全地帯で食事をしているって感じです。
19. 匿名処理班
眼に入らない限りは短時間ならそれほど危険はないと思うのだが
お肌がつるつるになりそうだ
20. 匿名処理班
これマレニアの朱き腐敗じゃないか
21. 匿名処理班
カリカリ梅を
ここで作れそう。
22. 匿名処理班
男塾の闘技場は濃硫酸のプールがあるのが標準的な仕様なので、別に驚かない
23. 匿名処理班
※2
自分はロトの妻の塩柱
24. 匿名処理班
※23
何があっても振り返ってはいけませんw
25. 匿名処理班
現像液だな、皮膚が浮く
26. 匿名処理班
親指を突立てたまま沈んでいきたい
デンデデンデン♪チャララ〜ラ〜ラ〜♪
27. 匿名処理班
陸上型の生物は湖に近づけないけど、別の鳥が赤ちゃんを狙って襲うこともあるので天敵がいないとは言えないです