
そう、あの映画は実話を元にしているのだ。監督のウェス・クレイヴンは『LAタイムズ』誌で、この映画のアイデアを思いついたのは、東南アジアからアメリカに亡命してきたある若い男性についての一連の記事を読んでからだと語っている。
健康になんの問題もなかったその男性は、ある日突然、就寝中に悪夢をみたかのような恐ろしい叫び声をあげて死んだという。
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80年代に急増したアメリカに移民した東南アジア人の謎の突然死
1980年代、東南アジアからアメリカにやってきた人々が、このようにして亡くなるケースが驚くほど増えた。アメリカ政府が1981年からその統計を取り始めてから、10年間で少なくとも117件が確認され、アメリカに住むラオス人の死因のトップ5に入るまでになった。
アメリカでは後に"アジア突然死症候群"、"原因不明の突然死症候群あるいは夜間突然死症候群(SUNDS)"と呼ばれるようになったが、巷ではさまざまな名称が使われた。
「日本ではポックリ病、フィリピンではバングングート(bangungut)、タイではライタイなどと呼ばれています」医師のロバート・キルシュナーは言う。「いずれも、それらはざっくりと悪夢の死という意味です」
当時、この謎めいた死はアメリカじゅうで話題になり、政府も含め専門家など、誰もが困惑した。

死因の究明が行われる
「悪夢で死ぬはずはないのはわかっています」ミネソタ州ラムジー郡の検死官助手マイケル・マクギーは言う。「銃で頭をぶち抜かれたり、心臓を刺されたり、屋根から落ちたり、毒を盛られたりして死んだわけではありません。検死をしても、そのどれにも当てはまらないのです」
「最初はとくに変だとは思いませんでしたが、3人目、4人目とこのような死亡例が次々と続いて発生すると、おかしいと思い始めたのです」
18人の犠牲者を解剖したところ、全員の心臓が肥大していて、17人は心臓の筋収縮を開始したり、調整する伝導システムに異常がみられたという。
解剖を行ったイリノイ大学のフリードリッヒ・エクナーは、まるで心臓がショートしてしまったようだと語った。
1987年、さらに体系的な死因調査が行われ、その結果が『The American Journal of Public Health』誌に発表された。アメリカ国内とタイの難民キャンプでの死亡例を調査したところ、タイのほうがこうした死が多いことが明らかになった。
映画、エルム街の悪夢予告編
睡眠中に死亡したケースに睡眠障害とてんかんの関係性
調査では、睡眠中の死亡にのみに焦点を当て、犠牲者の家族、友人、タイの難民キャンプの仲間たちからそれぞれのケースの聞きとりをした。多くは、以前に睡眠障害を起こしたことがあったことがわかった。ある家族は、娘が異常な呼吸をしているのに気づき、呼びかけたがまったく反応がなかった。
起こそうとすると、数分後に意識を取り戻したが、この異常が現れてから33ヶ月後に、娘はまた同じような状態に陥り、両親の目の前で死んでしまった。
また、25歳の男性は、睡眠中の異常な呼吸から目覚めると、足が麻痺して萎えてしまっていたが、診察しても異常はみられなかった。だが、彼は同じ日の午後2時に昼寝をしている間に突然死んだ。
このような突然死をした人は、てんかん持ちが多いことがわかり、家族もその傾向があった。つまりこれは、SUNDSには遺伝的要素がある可能性を示している。

photo by Pixabay
ストレスとの関連性も
また、アメリカで突然死した東南アジア人は、比較的最近アメリカにやってきた移民に多い傾向があったという。ずっとアメリカに住んでいる東南アジア人に比べて、突然死のリスクがかなり高い可能性があり、ストレスがこの突然死の原因ではないかとも考えられた。カリフォルニア大のシェリー・アドラー教授は、ラオスのモン族の人たちは悪夢の霊を信じているため、それが彼らの突然死につながったのではと主張しているが、この症状は、過度のストレスが原因で心臓に生じた障害である可能性が高いと思われる。

photo by Pixabay
『エルム街の悪夢』制作後に突然死の原因が明らかに
ウェス・クレイヴンがこの謎の突然死をヒントに1984年、『エルム街の悪夢』という映画を作ってからかなりたって、この死の原因と思われるものがやっと判明した。1992年にスペイン人医師ペドロ・ブルガダとその兄弟による研究で、心筋細胞膜のイオンチャンネルを支配するSCN5Aという遺伝子の変異によって、この突然死が引き起こされることがわかったのだ。
この突然死は、発見者の名を取ってブルガダ症候群と名付けられた。
この変異は、心臓の正常なリズムを妨げる疾患を引き起こし、乳幼児の突然死も同じ原因とされている。
References:Nightmare On Elm Street Was Inspired By A Real Life Medical Mystery | IFLScience / written by konohazuku / edited by parumo
追記:2021年8月の記事を再送してお届けします。
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コメント
1. 匿名処理班
記事を読んだ感じ、心室細動の症状に似ているが。
2. 匿名処理班
こういう心臓系の記事はダメだ。読むにつれて自分の心臓に問題があるような気がして動悸がする。
なんか今夜突然死するような気がしてきた、どうしよう。
3. 匿名処理班
この記事見るまでぽっくり病なんて言葉すっかり忘れてた。
最後に聞いたのいつだったろう…
4. 匿名処理班
>ラオスのモン族の人たちは悪夢の霊を信じているため、それが彼らの突然死につながったのではと主張している
元々、血統的に睡眠中に突然死する人が多かったので、モン族の人たちの間で「悪夢の霊」の俗説が定着したという逆パターンも有り得るような気がする。
5. 匿名処理班
『フレディ・クルーガー』は、幼少期のウェス・クレイブンを苛めていた苛めっ子の名前
6.
7. 匿名処理班
>日本ではポックリ病
>いずれも、それらはざっくりと悪夢の死という意味です
…え?
フィリピンやタイは知らんが、
少なくとも日本語では「急死病」「突然死病」程度の意味だろ?
8. 匿名処理班
なるほど。遺伝子疾患だから、難民になった特定の地域出身者に多くみられたわけね
9. 匿名処理班
今年の1月に職場の健康診断受けたら、まさしくブルガダ波形の心電図で引っかかったんだが…
精密検査の為に一日携帯型の心電図着けられて再検査したが、不整脈が少しあったぐらいでブルガダ症候群ではなかった。
でも完全に油断は出来ないとの事で、いつ心室細動起こるか不安ではある…
10. 匿名処理班
やっぱりフレディはロバートイングランド!!
11. 匿名処理班
睡眠時無呼吸症候群の症状が出ていた時に、ひどい悪夢にうなされる事が多かった
今から思うと、「早く目を覚まして呼吸を再開しろ!」という肉体からの有り難いメッセージだったんだと思う
12. 匿名処理班
元祖エルム街の悪夢にはジョニーデップが出演していたらしい。見たはずだけど、覚えてへんがな。
13.
14. 匿名処理班
昔、加藤茶と志村けんがやってた「加トちゃんケンちゃんごぎげんテレビ」という番組で、
映画の宣伝の為に来日してた本物のフレディがゲスト出演して、
加トちゃんと志村と一緒にコントをやってくれたという夢のような回があったなあ。
15. 匿名処理班
※12
わりと早いタイミングでウォーターベッドに沈んでおしまいになられてたんじゃないかと思います。
見たのが随分前なので不確かですが。
16. 匿名処理班
謎の突然死と言いながら心臓だったり、てんかんだったりストレスだったり、ちゃんと理由はあるんだよね
「健康に問題が無かった」と思っていただけで、ちゃんとそれなりの理由があっての死だから、検死をすれば特に不思議でもないんだろうね
17. 匿名処理班
バタリアンも「この映画は事実である」って言ってるしな!(純真)
18. 匿名処理班
>>12
ヒロインのボーイフレンドがデップ
19. 匿名処理班
※16
最終的に遺伝子にまで話が及んでいるので、ガンのように突然芽吹き、体を侵して行きある日トリガーを引くような感じですね。
ただ、その要因として遺伝やストレスなど多岐にわたる病状を助長する副因も結構大事な気がします。
20. 匿名処理班
※10
イングランドはエルム街とほぼ同時期にSF洋ドラ「V」にも出演してたね
そちらでは、地球侵略にきた異星人種族の中で性格が善良過ぎて侵略に加担できないウイリー君を演じてて、エルム街のフレディとのギャップが面白かった
21. 匿名処理班
原因は心臓の病気なんだろうけど、実際めちゃめちゃ怖い夢見てそうだな
睡眠中に外の音が夢の中に入ってくる事とかあるし