
死海文書の謎を探る image by:Creative Commons / Osama Shukir Muhammed Amin FRCP(Glasg)
20世紀最大の考古学的発見とも評される「死海文書」は、1947〜56年にかけて死海北西のクムラン洞窟などで発見された。ヘブライ語聖書(旧約聖書)の世界最古の写本など、972点の写本群で構成されているが、困ったことに長い時間の果てにそれらは朽ち果て、2万5000もの断片になってしまっている。その復元は現在も続けれられているが、きわめて難解な作業だ。
最新のDNA解析技術は、長年学者たちを悩ませてきたこの複雑なジグソーパズルを解くヒントになるかもしれない。
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死海文書の一部は外部から持ち込まれた可能性
死海文書の多くは羊皮紙でできている。そこでテルアビブ大学(イスラエル)とウプサラ大学(スウェーデン)をはじめとする研究チームは、文書の断片から動物のDNAを採取し、その解析を行った。解析の対象となったのは、26の断片のほか、クムラン周辺で入手されたサンダル・衣服・袋といった革製品だ。
ここから明らかになったのは、今回調査された文書のほとんどは羊の皮から作られた羊皮紙だったが、中には牛皮で作られたものもあったということだ。
研究チームによると、これだけでも重要な洞察が得られという。たとえば、これまで同じ「エレミヤ書」のものと考えられてきた3枚の断片が、1枚は牛皮、2枚は羊皮であることが分かった。
テルアビブ大学のNoam Mizrahi氏によれば、牛皮の断片の写本は、クムラン以外の場所から持ち込まれた可能性が高いことを示唆しているという。というのも、砂漠に囲まれたクムランでは、豊富な牧草と水が必要になる牛の飼育は不可能だと考えられているからだ。

巻物4Q72aの断片。ヨルダン川西岸地区第4クムラン洞窟で発見された
image credit:Shai Halevi and Leon Levy Dead Sea Scrolls Digital Library, Israel Antiquities Authority
聖書には複数のバージョンが存在
さらに重要なのは、牛皮に書かれた2枚の断片から、エレミヤ書に異なるバージョンがあることが窺える点だという。Mizrahi氏によれば、このDNA解析の結果は、当時のエッセネ派(紀元前2〜紀元1世紀に存在したユダヤ教のグループ。死海文書を作成したとされる)とユダヤ社会が、文書を改変することについて今日よりも寛容だったことを示す初めての確たる証拠であるそうだ。
現在のユダヤ教徒たちは、実質的に完全に同一のヘブライ語聖書を読んでいる。もし研究チームの主張が正しいとすれば、それとは大きな違いだ。
「もし巻物がよその地域から持ち込まれたのだとすれば、第二神殿時代のユダヤ社会は”正統派”ではなかったということを示しています。預言者が霊感を受けて記した文書に複数のバージョンがあることに寛容だったのでしょう」と、Mizrahi氏は説明する。

物Hev/Se6の断片で、祈りの言葉が書かれている。当初はナハル・ゼリムで発見されたと考えられていたが、ナハル・ヘベルである可能性が高い
image credit:hai Halevi and Leon Levy Dead Sea Scrolls Digital Library, Israel Antiquities Authority
ジグソーパズルを復元するヒント
今回の研究で研究者を喜ばせているのは、そうした学術的な洞察以外にもある。それはバラバラになってしまった死海文書を復元するヒントになるかもしれないことだ。「たくさんの断片をどの位置に置けばいいのか分からない2、30の文書があります。この新しい技術なら、そうした写本の復元へ向けた大きな一歩となる重要な証拠を与えてくれます」と、死海文書の専門家Eibert Tigchelaar氏(研究には不参加)は話す。
大量の断片から得られるDNA指紋のデータベースを作れば、少なくともまだ特定されていない数千の断片を特定できるでしょうパズルが完全に完成したそのとき、一体どんな謎が明らかになるのだろうか。
The Dead Sea Scrolls Online
この研究は『Cell』誌(6月2日)に掲載された
lluminating Genetic Mysteries of the Dead SeaReferences:sci-news / phys / scientificamerican/ written by hiroching / edited by parumo
https://www.cell.com/cell/fulltext/S0092-8674(20)30552-3
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コメント
1. 匿名処理班
現在では物質の放射性同位体を調べる事によって、それがどの地域で育成したのか調べる事が出来るから、案外と遠い地域の皮とか紙を使っていた…なんて事も有るかも知れない。また現在では極微量成分の分析も可能だから、インクに含まれる同位体の分析も可能かも知れない。つまり、どこ産のインクと用紙で作られた文書であるのか、分析可能な時代になって来た…という事。これからも色々と新しい発見が相次ぎそうで面白い研究分野だと思う。
2. 匿名処理班
ああ、予定通りだ。
3. 匿名処理班
贋作じゃないのか?
4. 匿名処理班
実は文書の殆どが外部から持ち込まれてたりして
5. 匿名処理班
不都合な真実は公開されないんじゃないか
6. 匿名処理班
形状から察するに、青森県で製造されたに違いない