
サケが生まれた川に帰ってこられる理由 /iStock
サケは川で生まれ、海で大きくなり、川に戻って子孫を残し、その一生を終える。これは母川回帰(ぼせんかいき)と呼ばれている。ではなぜ、サケは遠くの海から生まれ故郷の川に戻ってくることができるのだろうか?いくつか仮説があるが、その説の1つに、体内の組織に組み込まれている磁気受容体を利用しているというものがある。
最近発表された、オレゴン州立大学(アメリカ)の研究によると、キングサーモン(学名 Oncorhynchus tshawytscha)の研究からそれを裏付ける結果が得られたそうだ。
どうもキングサーモンは、少なくとも海の中では磁気受容体を利用しているが、淡水(川)の中では別の化学システムに切り替えている可能性もあるとのことだ。
動物が磁気受容体を利用し地球の磁場を感知するという説
地球から生じている磁場を感知し、渡りや帰巣、あるいは狩猟のときの地図として利用する能力は、進化によって獲得されたものの中でも特に驚異的であり、同時に謎めいている。この強力かつ不思議な能力は、鳥・コウモリ・魚など、さまざまな動物で知られているが、その具体的なメカニズムはよく分かっていない。
これに関して、体内の組織に組み込まれている磁気受容体を利用しているという仮説がある。
今回の研究はサケが磁気受容体を使って位置情報を確認しているかどうかを調べたものだ。

母なる川に帰ってくるサケの秘密 /iStock
サケが遠くの海から里帰りできる理由
キングサーモンを含め、サケは産卵の時期になると里帰りをすることで知られている。母川回帰(ぼせんかいき)である。自分が生まれた川をきちんと憶えており、どうしたわけか遠く離れた海からそこに戻ることができるのだ。その方法については主に2つの仮説が提唱されている。地球の磁場を化学反応を通じて感知するという説と、体内に「磁気受容体」なるものが備わっており、それを通じて感知するという説だ。あるいは、その両方である可能性もある。
磁気受容体が存在することを示す証拠は増えているのだが、実物はまだ見つかっていない。非常に小さく、体内にまばらにしか散らばっていないと考えられるからだ。そのために、実際にそれがあるという決定的な証拠を発見することは、今もなお課題のままだ。

Pixabay
海を真似た磁場にサケが反応
今回の研究においても実際に磁気受容体が見つかったわけではない。磁場に強烈なパルスを与えたときのサケの反応が観察されただけだ。実験は、2つの異なる条件で行われた。1つは局地的な磁場を用意しただけのもの、もう1つはキングサーモンが生息する海の自然環境を模倣したものだ。
前者の条件では、磁気パルスを与えられた個体も与えられなかった個体も同じように反応した。
しかし後者の条件では、磁気パルスを与えられた個体はみな同じような方向へ頭を向けたという。これは磁気パルスを与えられなかった個体が各々適当な方向に向かったのと対照的だ。
このように、磁気パルスが魚の進行方向に影響を与えることが実証されたのは、初めてのことであるそうだ。

川で産卵するサケ/iStock
磁鉄鉱を利用したコンパス・システム
研究チームのデビッド・ノークス氏によると、サケは地球の磁場に基づいて方角を把握する”磁気コンパス”と海における位置を把握する”磁気地図”を持っていることで知られているという。そのコンパスは、磁鉄鉱の結晶を利用したものだろうと彼らは考えている。
仮説を立証するにはまだまだ研究が必要だとしながらも、「この発見は、磁気受容体が磁鉄鉱の結晶に基づいているという仮説と整合的です」とノークス氏は話す。
大枠としては、サケは自分の位置や目的地を把握しており、そこへの行き方や必要に応じて修正する方法も知っています。
淡水では、水の化学的性質を記憶します。ですが海水に入ると、地磁気から得られる手がかりを利用して、その緯度と経度をマークし、いずれその座標に戻ります。
The Salmon's Life Mission | Destination WILD
増える磁気受容体を示す証拠と発見の難しさ
仮にこの結果が正しいものであれば、キングサーモンもまた磁気パルスの影響を受ける種の仲間入りをすることになる。一方、磁気受容体の存在を示唆する科学的証拠は増えつつありながら、今のところいかなる動物からも決定的な証拠は見つかっていない。
齧歯類・コウモリ・鳥・ウミガメ・ロブスターなど、これまでも磁気パルスがさまざまな陸生・水生動物の方向感覚に影響することが示されてきたが、その結果は渾然としており、はっきりしないのが現状であるそうだ。
この研究は『The Journal of Experimental Biology』に掲載された。
Magnetoreception in fishes: the effect of magnetic pulses on orientation of juvenile Pacific salmon | Journal of Experimental Biologywritten by hiroching / edited by parumo
https://jeb.biologists.org/content/early/2020/04/10/jeb.222091
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コメント
1. 匿名処理班
サケが磁場を感知する可能性は昔から言われているし
この実験が適正であったかもしれない
でも、磁場に強烈な磁気パルスを与えたのだから、その際の振動や音にサケが反応したのかもしれない
この記事だけではサケが磁場を感知したとは確定できないと思う
2. 匿名処理班
渡り鳥もそうらしいって話だし長距離移動が必要な奴等は皆備えてるかもね
3. 匿名処理班
川を遡って産卵して体力を使い果たして死ぬ。本能すげぇって思うけど中には戻らない奴もいるんだろうな。子孫は残せないけど海でのんびり長生きしたりして。
4. 匿名処理班
いつも不思議に思うのは、磁石だけじゃ帰れないよねということ。
方位磁針があっても『自分が今どこにいるのか』がわからなければ、帰り道は決められない。軍隊でもコンパスだけじゃなくて地図か天測が必ずセットで必要だし。
南に川を下ったから北に向かって泳げば帰れる、というほど簡単ではない。潮の流れで相当流されるしその方向もランダムに発生する台風や気圧配置によって時々刻々変わる。
磁石だけでもなんとか海岸線までなら帰れるかもしれないけれど、特定の河口に帰り着くことは難しいと思うんだよな。
実際、汚染した川で遡上が見られなくなった例もあるし、磁石の他に、水の匂いとか、他の生物群の分布とか、そういうのが複合的に、システマチックに、とてもデリケートなナビゲーションでカムバックしているのだと思うよ。
5. 匿名処理班
通勤と帰宅と同じ感覚なんじゃない?
あと周囲の景色と生まれた川の匂いを覚えてるから帰れるとか?
まぁ鮭本人にしか詳細なことはわからないだろう…
6. 匿名処理班
自分の育った川に溶け込んでるアミノ酸の量を覚えてるからとも言われてるね。
7. 匿名処理班
「豊平川に鮭を呼び戻そう」という40年前のキャンペーンが懐かしい