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意識不明の状態でも脳は活発に働き、言葉や音を処理・予測する

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(著)

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Image by Istock / cagkansayin
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 手術のための全身麻酔で、意識を完全に失っている患者に、物語を聞かせてみる。すると脳は、驚くことに言葉をしっかり処理し、名詞や動詞を聞き分け、次にどんな単語が来るのかまで先読みしていた。

 アメリカの研究チームが、意識を失った患者の脳に微小な電極を差し込み、神経細胞の活動を直接記録したところ、無意識の間も脳が活発に働き続けている様子を初めてとらえた。

 意識不明なのに、なぜ脳はこれほど高度に情報を処理できるのか。私たちが「意識」と呼んでいたものの定義を改めて考え直す必要がありそうだ。

 この研究成果は『nature』誌(2026年5月6日付)に掲載された。

参考文献:

全身麻酔で意識のない間、脳は聞いた言葉や音を処理

 全身麻酔をかけられた患者は、意識を完全に失い、呼びかけにも痛みにも反応しない。脳は活動を止めた状態になると長い間考えられてきた。

 ところがアメリカのベイラー医科大学の研究チームが、麻酔で意識を失った患者に音や物語を聞かせながら脳の活動を記録したところ、脳は聞こえてくる言葉や音をしっかり処理していたことがわかった。

 意識不明の状態でも脳は活発に働いていたのだ。

 研究を率いたサミール・シェス博士は、患者が完全に麻酔で意識がない間も、脳はまわりの世界を分析し続けていると語っている。 

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Image by Istock / agsandrew

手術中の脳に電極を刺し、神経細胞の活動を直接記録

 研究チームは、記憶に深く関わる海馬という脳の部位を記録した。海馬は脳の奥深くにあり、ふだんは直接その活動を測ることができない。

 被験者となったのは、てんかんの手術を受ける患者7名だ。

 てんかんの手術では海馬に一時的に触れられるため、研究チームは麻酔で意識のない患者の海馬に、ニューロピクセルズと呼ばれる細い針状の装置を差し込んだ。

 装置には髪の毛ほどの細さの針の表面に、電気を感じ取るセンサーがびっしりと並んでおり、脳の中を通る1本の針だけで、数百個の神経細胞(ニューロン)が出す信号を一つひとつ聞き分けられる。

 ニューロピクセルズが人間の海馬に使われたのは今回が初めてだ。

 研究チームは実際に、7名の患者からあわせて651個の神経細胞の活動をとらえた。

 患者には全員、プロポフォールという点滴麻酔薬が使われ、効き具合は記録のあいだずっと一定に保たれた。

 研究チームは7名の患者からあわせて651個の神経細胞の活動をとらえ、意識のない脳が実際に何をしているのかを、細胞のレベルで直接観察することに成功した。

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Image by Istock / Jacob Wackerhausen

意識のない間も脳は音を聞き分け、次に来る単語まで予測

 最初の実験では、同じ高さの音を繰り返し聞かせる中に、ときどき違う高さの音をまぎれ込ませた。

 すると海馬の神経細胞は、まぎれ込んだ異常な音にはっきりと反応した。

 しかも約10分のあいだに、その反応はどんどん強くなっていった。意識がないはずの脳の中で、音を聞き分ける学習のような働きが起きていたのだ。

 次に研究チームは、より複雑な実験に進んだ。

 意識のない患者に短い物語を聞かせながら、同じ神経細胞の活動を記録したのだ。

 すると海馬は、流れてくる言葉をリアルタイムで処理し、名詞や動詞、形容詞といった言葉の種類を区別していた。

 さらに驚いたことに、脳の活動は、文の中で次に来る単語をあらかじめ予測していた。

 物語の先を読もうとするこの働きは、本来なら目を覚まして集中しているときに見られるものだと、研究チームの一員である脳神経外科教授のベンジャミン・ヘイデン氏は語っている。

 この予測のしかたは、文章を作る生成AIの仕組みとよく似ている。

 大規模言語モデルが次にもっとも来そうな単語を選んで文を生成していくように、麻酔下の海馬も次の言葉を先読みしていた。

 人間の脳とAIが、同じ原理で言葉を処理している可能性が見えてきたのだ。

意識とは何か、その定義が揺らぎ始めている

 言葉を理解し、次を予測する。こうした高度な働きは、意識があってこそのものだと考えられてきた。

 ところが今回の発見は、意識がなくても脳が活動できることを示している。

 研究チームは、意識は海馬のような一つの部位だけで生まれるのではなく、脳の複数の領域が広く連携することで初めて生まれるのではないか、と考えている。

 海馬はその材料となる情報を、意識に先立って黙々と処理しているのかもしれない。

 ただし研究チームは慎重な姿勢も崩していない。

 今回の結果はプロポフォールという一種類の麻酔薬に限ったもので、自然な眠りや昏睡といった別の無意識状態ではまだ確かめられていない。

 調べたのも海馬という一つの部位だけで、脳のほかの領域でも同じことが起きているのかはまだわからない。

 それでもこの研究は、脳の損傷で言葉を失った人のための、会話を助ける技術など、新しい可能性への一歩になるかもしれない。

 シェス博士は、意識とは何かをあらためて問い直させる発見だと述べ、脳にはまだ多くの秘密が隠されている可能性があるという。

References: DOI 10.1038/s41586-026-10448-0

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