米ワシントン・ダレス国際空港ゲートウェイ・ギャラリーで「Life: Magnified」というフォトギャラリーが開かれていたそうだ。このフォトギャラリーではヤモリの足の裏から、私達を蝕むウイルスの姿まで、普段肉眼では見ることのない、生命の息吹をあちこちに感じつつ、その造形の恐ろしさにおもわずドキっとできたりなんかする。
その一部を見てみることにしよう。
1. HIV・AIDSに侵された人間の細胞
写真では、人間の免疫細胞・T細胞(青色)がHIV(黄色)によって攻撃されているのを見ることができる。ご存じの通りHIVによりAIDSは引き起こされるのだ。
通常ウイルスやバクテリア等に対して攻撃を行うT細胞は人の免疫力には欠かせないが、HIV細胞には攻撃されてしまうのだ。(セス・ピンクス、エリザベス・フィッシャー、オスティン・アスマン:アメリカ国立アレルギー・感染症研究:アメリカ国立衛生研究所より)
2. 世界中で年間2億の感染者を出す寄生虫
住血吸虫症を引き起こす寄生虫は水中で孵化し、淡水カタツムリの内部で成長する(写真がそのカタツムリである)。
成虫となった寄生虫は水中に戻り、人間へと感染する。感染した場合の初期症状は皮膚の発疹・かゆみ、風邪に似た症状等だが、本当に恐ろしいのは寄生虫が引き起こす内臓へのダメージである。(ボウ・ワン、フィリップ・A・ニューマーク、イリノイ大学:2013FASEBバイオアート優勝作より)
3. 小脳の「運動」をつかさどる部位
人間の小脳のクローズ・アップ写真(トーマス・デリンク、カリフォルニア大学サンディエゴより)
4. 腺ペスト
これはケオプスネズミノミの消化器系(紫色)の内部に存在するペスト菌(黄色)の写真である。ネズミ目によって運ばれ、ノミによって広がるペストは14世紀に大流行し、ヨーロッパ人口の3分の1が死亡した。
現代でもアフリカ、アジア、アメリカの一部の地域で度々感染爆発を起こしており、年間2000人が亡くなっている。幸いな事にペスト菌は早期発見されれば抗生物質での治療が可能である。(B.ジョセフ・ハイネブッシュ、エリザベス・フィッシャー、オスティン・アスマン:アメリカ国立アレルギー・感染症研究:アメリカ国立衛生研究所より)
5. サラダのように混ざり合う血球
電子顕微鏡によって撮られた血中内物質の写真は、私達の血の半分が赤血球で出来ている事を教えてくれる。のど飴のような形をした赤血球は体中の細胞に酸素を送り届けるという重要な役割を担っている。また、T細胞(オレンジ色)は免疫系で重要な物質の一つである。血小板(緑色)は小さな血中内物質の一つで、多数の血小板がつながりあう事で傷口を覆い、出血を抑える役割がある。(デニス・カンケル、デニス・カンケル顕微鏡より)
6. アルツハイマーに侵された脳
管(赤色)と神経細胞(緑色)が無数に存在するこのマウスの脳はアルツハイマー病に見られる「プラーク(青色)」というたんぱく質の塊によって侵されている。
アルツハイマー病患者のプラークは病状の進行と共に増えていき果記憶障害を引き起こす。マウスは人間に近いゲノムを持っている為、アルツハイマー病の遺伝的要因と環境的要因を調べる為に用いられている。またこう言った理由から、マウスは新薬の動物実験の段階で使用される事も多い。(アルヴィン・ゴギネニ:ジェネンテックより)
7.受精22時間後のゼブラフィッシュ
このゼブラフィッシュの胚は受精後たった22時間しか経っていないにも関わらず、しっかりとした形を作り上げている。36時間後には体中の主要臓器が全て出来上がっているそうだ。ゼブラフィッシュの透明な身体とその急速な成長速度は、動物の器官形成を調べるのに打ってつけなのだ。(フィリップ・ケラー、ビル・レモン、ヴィナ・ワン、クリスティン・ブランソン:ハワード・ヒューズ医学研究所より)
8. 炭疽菌を包み込む免疫細胞
この画像では無数の炭疽菌(緑色)が免疫細胞(紫色)により包み込まれているのが分かる。炭疽菌は土壌環境が悪くなると芽胞を形成し数十年間生き続ける事が可能だ。
動物がこの芽胞を吸い込んだり、食べたりしてしまう事で炭疽菌は再度活性化され爆発的に増える。現代の科学技術やワクチンにより、炭疽菌は稀な存在となった。(カメンゼィンド・G・ロビンソン、サラ・ギルマン、アーサー・フリードランダー:アメリカ軍伝染病研究機関より
9. ヤモリの足の毛
ヤモリの足には約50万近い毛が存在している。この写真で見る事が出来るのはごく一部だが、一本一本が人間の髪の毛の10分の1にも満たない大きさである。
この細い毛の先端からは更に小さく分断されており、ヘラのような形を形成しており、ヤモリが重力に逆らい、壁や天井を上るのに欠かせない構造となっている。ヤモリの足の毛から発想を得た科学者等は、デリケートな肌を持つ人の為の絆創膏等の医療製品を作り出した。(デニス・カンケル、デニス・カンケル顕微鏡より)
10. ガン化した皮膚細胞
マウスのがん細胞を用いた動物実験による新薬開発は数多く行われている。この写真には二つの細胞が映っており、二つの細胞は細胞骨格に存在するたんぱく質・アクチン(緑色)という物で繋がれている。
アクチンは細胞を動かす上で重要な役割を担うが、それと同時にガン細胞の転移を促進してしまう。(キャサリンとジェームズ・ガルブレイス:オレゴン健康科学大学より)
11. エボラによって感染し、包み込まれた細胞
身体の中で十分に増殖したエボラのようなウイルスは、更に多くの子孫を増やそうと他の細胞も攻撃し始める。このウイルスは野生動物を媒介とし人間に感染下と考えられており、最も有力視されている感染源がフルーツコウモリ(果物を好むオオコウモリの一種)である。
また感染者の体液を触れたり、体液が混ざり合ったりする事で伝染する。(ハインズ・フェルドマン、ピーター・ジャーリング、エリザベス・フィッシャー、アニタ・モラ:アメリカ国立アレルギー・感染症研究:アメリカ国立衛生研究所より)
12. Q熱を引き起こすバクテリア
この画像は牛・羊・山羊、そして人間にも感染するQ熱を引き起こすバクテリア(黄色)を映している。早期発見の場合、Q熱は抗生物質による治療で完治するが一部の人々はQ熱に対する耐性が弱い場合があり、そういった場合は長期的な治療が必要となる。(ロバート・ハインゼン、エリザベス・フィッシャー、アニタ・モラ:アメリカ国立アレルギー・感染症研究:アメリカ国立衛生研究所より)
13. 花粉症の原因となるトゲトゲ花粉
春になる度にクシャミが止まらなくなったり、目が痒くなったりする人は身体の何処かに花粉をくっ付けているのかもしれない。この画像はその花粉の一つだ。花粉は雄の生殖細胞が雌の生殖細胞と受粉を行うために作られる。しかし、人間がそれを吸い込んでしまうとアレルギーを引き起こす場合があるのだ。(エドナ、ギルとアミット・カッキーマン:フォックス・チェイス癌センター:フィラデルフィアより)
14. ダニの口の中
ロウン・スター・ダニの口を映している。口の中央(黄色)には無数の返しが付いており、この返しがあるお蔭でダニは振り落とされないで済むのだ。
ロウン・スター・ダニはアメリカ合衆国の中央から東の林が多い地域に生息しており、その生息域にはワシントン・ダレス国際空港も含まれている。数多くの伝染病の媒介となる存在だが、ライム病とは関連性が低いとされている。(イゴー・シワノウィッズ:ハワード・ヒューズ医学研究所より)
15. 年間45万人を死に追いやるロタウイルス
この画像はロタウイルスを5万倍の大きさで3D再現した写真だ。ロタウイルスは人間を含む動物に感染し、幼い子供達に感染した場合深刻な下痢を引き起こす。ワクチンが摂取可能なアメリカ合衆国等の国々での死亡率は低いものの、ワクチンが受けられない人々が年間45万人近く亡くなっている。(National Resource for Automated Molecular Microscopyより)
16. イースト菌の誕生
イースト菌はパン、ビール、ワインを作る。そして私達と同じようにイースト菌も繁殖する。母親と父親になる細胞が一つの巨大な細胞を作り、そこから四つの新たなイースト菌が生まれるのである(この画像のように)。科学でイースト菌は興味深い研究対象であり、現代の微生物学の基礎を作り上げる題材となったのがイースト菌でもあるのだ。(ジャーゲン・バーガー:マックス・プランク発生生物学研究所より)
17. 細胞分裂の様子
この豚由来の細胞は今まさに細胞分裂をしようとしている。染色体(紫色)は既に分裂を終えており、あとは微小管(緑色)という細胞骨格の一つによって細胞分裂を終えるのみである。細胞分裂の研究はガンや発達障害といった病気の解明へと繋がった。(ナサー・ルサン:国立心肺血液研究所:アメリカ国立衛生研究所より)
18. 細胞分裂の様子2
この細胞も今まさに細胞分裂を行おうとしている。それぞれ二つに増えた染色体のコピー(青色)は細胞の真ん中に真っ直ぐ並んでいる。次に微小管(赤色)が染色体のコピー同士を引き離し、二つの娘細胞が出来上がる。この娘細胞は「完全なるコピー」なのだ。(ジェーン・スタウト:インディアナ大学:2012GEヘルス・セル・イメージング大会より)
19. クラゲ
クラゲは胚細胞の研究を行うのにうってつけの存在である。驚くことにクラゲにも神経系があり(緑色)、筋肉もある(赤色)。細胞核は青く染まっている。クラゲの体内の細胞の配置や発達する順番を見る事で、私達生物がどうやって進化してきたかの理解が深まるのだ。(ヘレナ・パラ:ポンペウ・ファブラ大学:スペインより)
20. ヒト肝細胞
肝細胞とは名前の通り、人間の肝臓に最も多く存在する細胞だ。肝細胞は私たちの身体のタンパク質の構成、胆汁の生成、脂肪分解、薬物分解、ホルモン生成、アルコール分解と多岐に渡る重要な役割を担っている。(ドナ・ビール・ストルズ:ピッツバーグ大学より)
via:io9・原文翻訳:riki7119
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コメント
1. 匿名処理班
この極微細な世界でさえも、原子や更には素粒子レベルで見たら
スカスカだと言う・・・この世の摩訶不思議さよ。
2. 匿名処理班
一番下の肝細胞は核2ケ入のやつですね 20%から30%の肝細胞は核が2ケ入になっていてさまざまなダメージにすぐ対応できるようにできています 再生力が強いのもこのためです
またQ熱のバクテリアはリケッチアといいまして、自己増殖ができない(ウィルスのように寄生先がないと増えることができない)微生物です ウィルスよりは大きいが普通の細菌類よりは小さいへんなやつですね
3. 匿名処理班
小宇宙!
4. 匿名処理班
着彩した電顕写真と、蛍光撮影の光顕写真が、巧妙に交ざってるな
前者はphotoshopされた「絵」だから所詮はニセモノ
後者はマジで光ってる細胞だからレンズ越しに直視できる
なんというか、もやもやする
みんな気にならないのかね
5. 匿名処理班
ここを油断して訪れると「閲覧注意」でめげることしばしばorz
6. 匿名処理班
みんな綺麗に見える
死の病もあるのに・・・・
7. 匿名処理班
人間の肝臓の細胞は唯一、完全再生が可能な細胞なんだそうで、
この様にマクロレベルでの更なる細胞の構造研究が進めば、この細胞の性質を利用した
「人体の完全再生」も可能になるかも知れませんね。倫理的な問題も回避出来そう。
8. 匿名処理班
※2
分かりやすい説明有難うございます
9. 匿名処理班
すげー
SFだ・・・
10. 匿名処理班
ダニの口の中とか、アウトサイダーアートみたい!
11. 匿名処理班
やっぱ勾玉って胚を模してるんかね
12. 匿名処理班
気が遠くなる
近いのに…
13. 匿名処理班
赤血球ややもりの足とかは見ようによっては綺麗
とりあえず気持ち悪くは無いのに
アルツハイマーとか花粉は不気味だな
14. 匿名処理班
タモリの足の毛に見えて一瞬考えてしまった
15. 匿名処理班
ホコリかカビみたいで美しくないと思ったのが凶悪な奴らでびっくり
16. 匿名処理班
分裂の原動力たる微細管すげーな、細胞分裂の時こんなに展開するのか