"宇宙から帰還する宇宙船を水平着陸させる"という発想は昔からあり、スペースシャトルが初飛行する1982年より数十年も前から考えられていた。その提案は1954年、ちょうど第二次世界大戦から8年後にNACA(米航空諮問委員会。NASAの前身。)に提出されていた。最終的にはその企画が後のX-15航空機になるのだが、当時は次世代の宇宙輸送システムの検討が極秘プロジェクトとして進行していた。
これらの研究で肝心な事は、年長の軍人や政界の大物、そして一般人も、"未来の宇宙船"を想像できるようなコンセプトアート(開発中の製品などのイメージを伝えるために描かれるイラスト)を生み出すことだった。
当時描かれたコンセプトアートは、細部に若干の不具合はあるものの、それ以上に見事な先見の明をうかがわせるものがある。古き良き時代、コンピューター登場以前に描かれたスペースシャトルのデザイン画の数々は現在、その魅力的な造詣を眺めたり、現在のシャトルと見比べるなどして楽しむこともできる歴史的な記録になっている。
当初、"そのシャトルが完全に再利用できるかどうか"について激しい議論がなされていた。その議論には"分離する前に一定のスピードと高度でオービター(軌道船。宇宙飛行士と貨物が搭載される船体)を運ぶ、翼のついた大きなブースター"についても検討された。
当時の計画”ミッションを遂げた後のオービターのように、ブースターも帰還して水平着陸する”、というものだった。その再利用性は莫大な運営コストをかなり軽減することができると考えられた。
再利用できるというのは素晴らしい目標だったが、その後の調査でブースターは宇宙に向かうのに積む予定のペイロード(船に積載される乗員や計器類など。またはその質量)のせいで巨大になってしまう、という結果が示された。
ブースターとシャトルには、オービターが地球の大気圏内に再突入するときに使うジェットエンジンと同様のロケットエンジンが必要になる。さらにこれにはそれぞれの方式のための別々のコントロールや燃料システムも関わってくる。宇宙旅行には重量が関係すると同時に、コストとも密接に関わりがあったため、"再利用性"のプランは結局ボツになった。
スペースシャトルはペイロードに限りがあるため、一部の人々からは嫌われていた。このコンセプトを巡って出された別のアイデアは、"代わりにサターン垢了箸ぜ里謄蹈吋奪箸鮖藩僂垢"ことだった。このロケットは現在も最も重いペイロードを打ち上げ、また最も重いペイロードを低軌道に送り込む能力を持つ。
また、"少ないペイロードのシャトルを数多く送り込む"代わりに、"かなり大きなペイロードを打ち上げるサターン好蹈吋奪箸髻回数を減らして打ち出す"というアイデアもあった。
宇宙に運ぶつもりでいる資材や機械類の総量を考えると、このアイデアには信憑性があったため、しばらくの間シャトル構想はボツになりそうな感じだった。スペースシャトルで下のイラストにあるような宇宙ステーションを建てるには何回飛べばいいのか想像してみてはどうだろう。
そこでスペースシャトルの支持者は"数字"を持ち出してきた。彼らは”全プログラムの総コストを年間のシャトルの発射回数で割れば、トータルではコスト削減になる”、と主張した。
衛星ビジネスや企業、学術界、そして空軍といった各分野すべてがシャトルを使うとして、年に発射数が55回あればそのコストは使い捨てロケットよりも安く済む。これはシャトルに好意的な立場から予測した数字で、実際には最終設計にその打ち上げ率を実現させるような要素は何も無かった。おまけに外部タンクは年間24個しか製造できなかった。にもかかわらず、シャトル構想はゴーサインが与えられた。そしてそのコンセプトアートの一部はもっと分かりやすくなり始めた。
再利用できるブースターのアイデアがまもなく採用された。外部の燃料タンクが使われ、発射が終わるたびに破棄されるが、そのコストはさほど高くはない。ブースターロケットはオービターと一体化され、定期的に点検を受けては修理をされつつ何度も使用される。
"再突入後の軌道船を操作するためのジェットエンジン"といった、別の設計要素はすぐ外されてしまった。滑空するオービターはより大きなペイロードを運ぶことが可能になるだけでなく、技術的な複雑性も軽減すると判断された。
1972年までには複数の企業共同体が企画を提出し、そのコンペではシャトルを建造する企業が検討された。
1981年に試験飛行が行われ、1982年にはついに初の実用飛行が行われた。現在シャトルは退役し、スペースシャトル計画に対する審判はすでに下されてしまったようだ。
しかし、これらのコンセプトアートには、その時代ならではの魅力的な洞察力が感じられる。また、そこには実際のシャトルのもとになったアートも含まれている。
via:Space Shuttle Concept Art of the 1960s and 1970s 原文翻訳:R
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コメント
1. 空缶
たまにはブランの事も思い出してあげてください
2. 匿名処理班
打ち上げコストのペイが年55回って、少なくとも毎週1回以上は打ち上げしてなきゃならないのか
・・・できる/できない以前に、そんなに頻繁に打ち上げられるだけの需要があったのか、ってのも気になるね
3. 匿名処理班
こういう絵大好き
親が買ってくれた図鑑でずっと見てた
4. 通りすがりの名無しのミリヲタ(37年もの)
最初の方にX−20ダイナソアが混じってない?
5. 匿名処理班
つまりは地球の重力を振り切るために莫大なコストを費やしているということだよね
将来的に大規模な宇宙ステーションを建設して衛星の組立をそこで行うことが出来れば衛星の軌道投入の労力とコストは大幅に減らせそうだね
6. 匿名処理班
ソユーズの事も思い出してあげて。
サイズが違うとはいえ、スペースシャトルと違って人死にを出してない優秀な探査機を。
7. 匿名処理班
軌道エレベーターが実現すれば、宇宙船は宇宙で組み立てて運航できるから、地上から打ち上げる必要性がなくなるな。
8. 匿名処理班
>>6
ソユーズも死人出してますよ。
1号で。
打ち上げ失敗で負傷したり、着陸失敗で負傷したりも。
というか、探査機じゃねぇだろ。
9. おまえら
輸送時のジャンボジェットの上に乗っかったシャトルの格好良さ
10. 匿名処理班
宇宙開発を地上に例えると、まだ家を建てる前の土地の調査段階。
50年前の「はじめてのおつかい」に比べ幾分進歩はあるが、宇宙開拓史は一世代だけではなし得ない大事業だな。
11. 匿名処理班
僕(ちょっとプロ)の考えた未来の乗り物。
12. 匿名処理班
まぁ結果的に使い捨てカプセル型に回帰してしまったとはいえ、人類にとってはいい経験になったんじゃないか?