
世界中に存在するプロジェクトや設備のうち、規模が極端に大きいもの場合は最終的に再利用されたり、進行中の研究のニーズに沿うように改良されたりするが、中には再利用するにはユニーク過ぎたり、壊すにしてもコストがかかりすぎるものもある。それらの設備は、科学の野望への"はかなさ"を表す墓標のように不気味に眠っている。
広告
超伝導超大型粒子加速器 米テキサス州 ワクサハチー

CERN(欧州原子核研究機構)の大型ハドロン粒子加速器が完全に仕上がるより前に、アメリカ合衆国は世界一大きな粒子加速器に取りかかっていた。テキサス州にある超伝導超大型粒子加速器はCRENのプロジェクトの3倍以上ものパワーを生み出すとされていた巨大な地下複合施設だ。
残念なことに、予算を何十億とオーバーしてしまい、建設を開始した1990年代初めにたったの14マイル(約23km)掘り進めたところで議会が中止を決定した。地上の建物はテキサス州の砂漠の中央にからっぽのまま建っていて、オフィスの内装の老朽化を若干遅らせる一方、雑草の成長を加速させている。複数あるトンネルはいつか使用する日のために水で満たされていて、地下に広がるトンネルへと向かう小さな入口も見ることができるが、今のところその水位が高すぎて立ち入りはできない。



HARP計画 スペース・カノン バルバドス シーウェル空港

大気圏を突破するというのは、"ただ宇宙に狙いを定め、巨大な大砲から弾を発射すれば良い"というわけではない。が、過去にはこれを試す計画が確かにあった。
バルバドスにはHARP計画に参加した巨大なスペース・カノンが眠っている。"弾道学を使って投射物を宇宙に送り出す"というアメリカとカナダの奮闘は、1960年代に並外れて大きな16インチ口径の大砲を生み出したが、周回軌道を到達することができなかった。しかし当時は最も高い高度まで打ち上げたことで世界記録を樹立した。この計画ではカナダのハイウォーター村や、米アリゾナ州のユマ市でも似たような大砲を作り出したが、HARP計画が消えた後、これらは破壊された。結局オリジナルの大砲のみが残り、緑豊かなバルバドスの植物達に囲まれつつ錆びるがままになっている。空に向かっていた大きな砲身は横たわってしまったが、海岸から草木の生い茂る小道を行くと実際に見ることができる。


サバイバルタウン(核実験用施設) 米ネバダ州 ユカフラッツ

大量破壊の研究にはそのテーマにつり合うような雄大な方法が求められる。そんな事情からアメリカには市街地における核兵器の有効性のテストが必要だった。とはいえ核爆発の規模を縮小して実験することはできなかった。そこで米軍の技術者達は1950年代、マネキンや電気製品などを完備したシンプルな街をまるごと作り上げた。そうして爆発地点から色々な距離に設置された箱型の建物と笑顔を浮かべる木製の住人達が、核の爆風により定期的に吹き飛ばされることになった。
現在この場所は"サバイバルタウン(別名ドゥームタウン)"と称されていて、ネバダの核実験場が行っている"放射線フリー"のツアーではその広大な砂漠を巡り、執拗な破壊実験の跡地に眠る木製の建築物の残骸を見ることができる。



トイフェルスブルグ ドイツ ベルリン

第2次世界大戦時代のがれきを利用して造られた丘の上に建つ、ベルリンのトイフェルスブルグ・リスニングステーションは世界で最も"オープンな"極秘の諜報用施設だろう。
これは分割されたベルリンの共産主義世界の通信を傍受するために、アメリカが建造したものだ。この複合施設の特徴は中心となるビルの上にある3つのジオデシック(測地線)ドームで、他に小さな建物がいくつか点在している。この施設が特殊とみなされるのは、エシュロン諜報ネットワークに含まれていたという報告があるからだ。エシュロンとは、冷戦時代にアメリカを中心とした国々が、ソ連とその同盟国の情報を得るために使用した極秘の諜報網だ。このシステムは無線、衛星そして電話による通話などをかなり広域に傍受する能力があったといわれている。エシュロンは公式には存在を認められていないが、関係者とされる人々は、トイフェルスブルグのこの施設がその一部だったと認めている。また、エシュロン・プロジェクトの中で、現在放棄されているのはこの施設だけだ。
この建物の内部は空の状態で損壊が進んでいて、最近の話では地元の乱暴なグループが内部を探索したり撮影する人々から入場料を取っているそうだ。



アトラス-1 米ニューメキシコ州 アルバカーキ

核科学は吹き飛ばすためだけの学問ではない。ニューメキシコ州にあるアトラス-1は1970年代、核爆発で生じる"電磁パルス(EMP)"が飛行中の航空機に及ぼす影響をテストするため施設で、空軍の兵器研究所による航空機実験サイトだ。
だが、軍用機を飛ばしてミサイルを投下するのは何百万ドルもの費用がかかるため、別な手段が必要だった。そこで機体を支える台が考え出され、世界最大の総木造りの建築物が出来上がった。アトラスの基本的な構造は、高くそびえる木製の足場が木製のくさびや木組みで固定されたもので、EMPの測定結果の障害になるため金属は使用しなかった。そして金属の留め金すら無い華奢な足場の上に、ずっしりとした爆撃機と貨物機が乗せられた"擬似飛行"の下でEMPが行われた。この大規模な実験は発明と言えるほど素晴らしいものだったが、すぐにコンピュータモデル化が台頭したためアトラスはその座を奪われ、ついには白アリ達へのエサとして放置されることになった。アトラス-1は隔離された軍の基地にあり、ネバダの強い日光の下で乾燥した木材による大規模火災の恐れが増している。


ロシア極秘バイオ兵器研究所 カザフスタン ヴォズロジデニヤ島

カザフスタンに位置する"かつてはその大きさを誇ったものの、今や周囲の文明によって消費されつつある海"を、"アラル海"と呼ぶのはすでに誤りなのかもしれない。ここは現在2つの湖に縮小されてしまった。
かつては世界で4番目に大きな海だったが、その海水も強引なソ連の灌漑によって急激に使い尽くされ、環境への影響はゾッとするほどだった。また、海はどんどん干上がり、恐ろしいことに今まで孤立していたヴォズロジデニヤ島(ロシア語で"再生の島"といった意味がある。現在は半島。)が発見されたりしたが、本当に"怖い"のはこの後だ。
なんとこの島はアラル海が縮小するにつれて本土と地続きになり、かつてのソ連による大規模なバイオ兵器の研究所だったことが判明。そこでは天然痘や炭疽菌といった、"致死性の細菌を兵器化する"という試みがなされていたのだ。この島の隔絶性がその研究を極秘かつ安全に保つと考えられていたが、干上がる海やソ連の崩壊により放棄された。その生物兵器の残りはその容器ごと腐るがままにされた。
清掃活動が行われているという話の割に島の中心街は放棄前とあまり変わりはなく、2005年までには略奪行為が報告されている。


バイオスフィア2 米アリゾナ州 オラクル

火星にコロニーを設置する過程には、単に地球からの距離だけでなく、一度そこに降り立てば、その異界で完全な自給自足の環境を作り上げなくてはならないという課題がある。
1980年代後半、裕福な石油王ジョン・P・アレンはその課題の対処法を試すためバイオスフィア2を建設した。面積3.15エーカー(約1.3ヘクタール)のこの建物は、SFに登場する温室のようなガラス張りで、ジャングルや砂漠、そして小さな海までも含んでいる。まさに人工的な自然環境のミニチュアといったところだろう。彼らは火星に到着した状況を想定し、後戻りは許されないことを承知の上で、自分達をその世界の中に閉じ込めた。最初のチームはその施設の中で酸素レベルの減少、長引く飢え、そして精神的なストレスにより研究者達が思想の違いから相反する2つの党派に別れるまで2年間過ごした。そして別のチームはそのプロジェクトの目的である生物の成長などがうまく進まず中止した。しかしすべての努力は"注目を集めるために行った科学ショー"と、みなされ、造られた小さな世界は放置されてしまう。
時が過ぎ、この施設はアリゾナ大学の所有物になった。そして未だに食物を育てたり、残った動物達を世話をするために使われているが、すべての"閉ざされたシステムの研究"は放棄されてしまった。




コラ半島超深度掘削坑 ロシア ムルマンスク州

最新の科学で高さを追求するということは、深さを追求することと同じかもしれない。そしてロシアのコラ半島超深度掘削坑が最も良い例だ。ロシアがこの地質調査に執着し始めたのは、アメリカが独自の超深層掘削プロジェクトを開始したことに刺激を受けたせいで、米ソの宇宙進出競争で"一歩でも先に出よう"とするのと全く同じ経緯だった。
だがアメリカの掘削計画はすぐ頓挫してしまう。が、コラの施設では掘削が続けられ、その穴は深さ7.5マイル(約12km)という世界最深記録を打ち立てた。この穴の直径は9インチ(約23cm)程度だが、彼らがその足の下にある別世界に向かってより深く掘り進めるにつれ、地球内部の新たな変成作用や、莫大な圧力を受けた岩から文字通り絞り出された地下水など、地質学的な知識を深める発見が次々と明らかになった。掘削は続けられたが、掘って行くうちに温度上昇によって岩を切り通すことが困難になり、その設備は放棄された。
その後コラ掘削坑の最深記録は石油会社によって破られ僅差で2位になり、その掘削機のシャフトは溶接されて好奇心旺盛なロシアの少年達や未来の考古学者達に発見されるように残された。



エルカラコ メキシコ チェチェン・イッツァ

チェチェン・イッツァ(マヤ文明の遺跡)にあるエルカラコ天文台。紀元前906年にはこの建物と裸眼だけを頼りに太陽と月どころか、なんと金星まで観測していたようだ。
ユカタン半島の緑豊かなジャングルにぐるりと囲まれているエルカラコ。その中央にある塔はまさに現代の天文台にそっくりだ。その塔の頂上にある崩れた石のドームには展望用の窓がいくつか残っているが、その窓は特に金星の活動を観測をするために配置されている。当時この星は明滅しながら見え隠れする奇妙な星とみなされていたに違いない。エルカラコには精巧な機械類が無かったが、正確で科学的な手段を使った天体観測をしていたとみられている。
静かにたたずんだまま数千年もの時を経るこの建物には、チェチェン・イッツァの遺跡の一部として訪問することができる。訪れる人々は科学者にとって理想の一つである"真の粘り強さ"を感じることだろう。


ワーデンクリフ研究所とタワー 米ニューヨーク州 ロングアイランド(島)

デンクリフ研究所は"インパクトのある廃墟"としてはいまいちで、特に極秘というわけでもない。しかしロングアイランドのワーデンクリフタワーと研究所は過去の遺物であり、今も可能性の産物として重くのしかかる存在だと言えそうだ。
電気学の偉人、ニコラ・テスラによって1901年に建てられたワーデンクリフの施設は、有力な大金持ちの投資家と、"地球全体に供給できるほどの電力を無線で送る"という密かな計画を兼ね揃えた変人科学者の夢だった。この施設は大きなれんが造りの建物には、当初187フィート(約57m)の送電塔が寄り添っていた。そのタワーはテスラが取り組んだ実験のように巨大な電気アークで夜の空を照らしたことだろう。そしてこの施設を中心として科学的な革命が世界に広がるのは当然の成り行きのように見えた。しかし1915年、テスラがこの施設のローンを支払う為にこの研究所を売却するよう迫られる、という意外にもありきたりな事情で不運に見舞われ、ついには放棄された。現在この建物は比較的良い状態で残っていて、テスラ博物館にしようという運動が起こっている。



via:atlasobscura 原文翻訳:R
▼あわせて読みたい



コメント
1. 匿名処理班
14マイルなら23Kmじゃないか?
2. 匿名処理班
トイフェルスブルグ見てると広島県にあるのうが高原を思い起こされるなぁ。
あっちで廃墟になってるのはリゾート施設で、レーダー施設は現役らしいけど
3. 匿名処理班
廃墟にかんする情報は世にあふれているが
この観点からの記事はなかなか無い。
読みごたえがあった。いやーありがとう。
4. 匿名処理班
サバイバルタウンって007に出てこなかった?
5. 匿名処理班
バイオスフィア、日本のってまだ現役なの?
6. 匿名処理班
ワーデンクリフは行った事ある
遠目では木造だけど、近付くとコンクリート製で何故か偽装されてたり、丘を丸ごと倉庫にしてたり(多分上空からは小高い丘に見える)あったり、気味悪かった。
7. 匿名処理班
こういう場所でサバゲーをしてみたい・・・
8. 匿名処理班
14マイルは23kmだよ。
訂正願う
9. 匿名処理班
ブラッディ・パーティってドイツ産ヴァンパイア映画に格好いい廃墟が出てきた
いつか調べようと思っていたのが記事にあるトイフェルスブルグ
個人的にタイムリーでしたありがとう
映画はニア・ダーク好きにおすすめしてみたい中身でした
10. 匿名処理班
バイオスフィア2!!
11. 匿名処理班
スーパーサイエンス部に不可能の文字はないわ。
12. 匿名処理班
ヴォズロジデニヤ島はCoD:BOの最終ステージだったっけ?今もやばい菌とか残ってそうだな
13. 匿名処理班
放射線フリーってどっちの意味かよくわかんないんだけど
14. 匿名処理班
エルカラコル(El caracol)ね、カラコルはカタツムリ
15. 匿名処理班
バイオスフィア2って小学生のころ科学の本で見た気がする
閉鎖的な空間で体調を崩すのが続出して失敗したとか
それにしても大国は土地が多いことをいいことに好き放題しすぎだな
16. 匿名処理班
テスラはエジソンより天才的なアメリカの発明家だと思うんだが、何故こうも評価されないんだろうか
17. 匿名処理班
ベルリンの奴、ネオアームストロングサイクロンジェットアームストロング砲じゃねーか、完成度高けーな オイ
18. 匿名処理班
スペースカノンいいなあ
どうみてもエースコンバット4のストーンヘンジだわ
19. 匿名処理班
バイオスフィア2って個人の実験だったのか
前進となるバイオスフィアも同じ人なのかな?
この実験で地中の微生物が消費する酸素量が実はすごく多いというのが判明したんだよな